問題解決をするためには「順番」が重要
井上:こういうところが、1つに絞るというポイントかなと。中尾さんがよく掲げていらっしゃる制約条件理論に基づいていますという話ですけども、ちょっとホースの絵も出してみたので、よろしければちょっと解説いただけますか。
中尾:これは左の蛇口から水を流して、右から水を出してるんですけれども。①、②、③というところで、なぜか知らないんですけど、ホースを紐で結んでる人がいたわけですね。そうすると、右から流れる水はこんなに勢いよく流れないですよね。実際は、この水の流れる量は一番細い場所に一番影響を受けるという話なんです。
この絵だと、たぶん②のところが一番ホースが細いんですよね。だから、一番最初にこの②の紐を切らないと、水の出が良くならないんですよ。要は①と③を切って広げても、②が残っていると広がらない。水の量は増えないという話ですね。
だから順番で言うと、①と③はどっち側が細くなってるかわかりにくいんですけど、②の紐をほどいて、③をほどいて①をほどくという順番にしないと、水は出ないですよという話ですね。順番がありますよねということです。
井上:そうですよね。先ほどからおっしゃってるように、1つに絞るというのは①、②、③を同時に進めるよりも、まず②のホースを広げて、②が広がったら③にいくということですよね。
中尾:そうです。みなさんの会社の経営資源として、人・物・金がふんだんにあるんだったら、①、②、③を同時にやればいいんですよ。
でも、大きな会社でも事業に分かれていたり、部に分かれていたりするじゃないですか。だから大きな会社でも、同時にできる人がたくさんいる組織ってないと思うんですね。
僕は30年ぐらいいわゆるビジネスパーソンをやっていて、今は自分で会社をやっていますけど。人に雇われている30年間で、人・物・金がふんだんにあって自由にたくさんなんでも使えるなんて状態って、ほとんどなかったんですよね。
いつも人もお金も足りない感じだったんですから、限られた人とお金をどこにフォーカスをしますかということが一番大事なポイントだと思うんですよ。
「やめる・絞る」のが怖い状態から抜け出すには
井上:ありがとうございます。この1つに絞るというところですね。今、理論の話をいただきましたけれども。ドラッカーも言っていますと。「経営の父です」というところです。
中尾:そうですね、マネジメントの父ですね。
井上:一点の強みに集中するということを言っています。けっこう人に関することは多いと思うんですけれども、強みに集中してそこで差別化するようなことがポイントとして挙げられてるかなと思います。

あとは、イノベーションの体現者であるスティーブ・ジョブズ。ジョブズも絞ると言っていて。下のほうでは「1つのことしかできないとしたら、他のことはすべてやめるんだ」と書いてますけれども。
中尾さん、他の書籍でもおっしゃってますけど、このやめるっていうことは「けっこう難しい」「怖い」と思っているマネージャー陣も多いと思うんですけど。やめるポイント、絞るポイントってなんですかね。
中尾:さっきのホースもそうなんですけど、結果的には3つともやらないといけないんですよ。「1つに絞ったら他はやらなくていいなんて無理だよね」とみんなが思ってるからなんですけれども。さっき、井上さんがこの検証サイクルみたいなお話をしたじゃないですか。
ポイントは、僕たちが現場の方と一緒に「何かをやろうよ」と決めて、実行して振り返るまでのサイクルはどれぐらいですかという話なんですね。何を言っているかというと「現場の人に何かやってください」とお願いして、現場がやってくれて、結果が出るまでに1年かかるなら、1年に1個だけしかできませんって話じゃないですか。
井上:はい。
中尾:でも「半年でできるよ」といったら、1年に2個できるわけですよね。「1ヶ月に1個できるよ」という話だったら、12個できるわけじゃないですか。「毎週できるよ」という話だとするならば、50回できるわけですよね。もし50回できるってみなさんが思ったら、絞るのは怖くないでしょ。「1つのことしかできない」と言っているのは、変えられないと思っているからなんですよ。
だから、さっさと短い時間で改良して、次々にホースの結び目をほどいていけばいいわけですよ。それをどれだけ早くできるかということを自分たちでわかっているのがすごく大事ですよという話ですね。
ビジネスは「正しいから成功する」わけではない
井上:なので、絞るとかやめるという選択を誤った場合でも、戻って別のものを絞るとか、別のものを選べばいいわけですよね。
中尾:実際そうなんですけど、絞る時ってだいたい関係者が集まって「これからやろうぜ」って決めるんですね。だいたい間違ってないんですよ。
井上:(笑)。なるほど。
中尾:ほぼ間違わないし。なんかね、ほとんどの人は勘違いしてるんだけど、正しいことがあるから成功するんじゃなくて、みんなで「これをやろうぜ」って決めたことを正しくするんですよ。
井上:なるほど。
中尾:だから、それで結果を出すんですよ。だいたいなんか答えがあると思ってる人たちがちょっとおかしい。要は、僕たちがやっているのは勉強じゃないので。ビジネスは「正しくすること」が大事なんですよ。
答えを見つけるよりも、ある程度これが正しいだろうと思うことを自分たちで正解にしにいくことのほうが大事なんです。だから、だいたい正解になりますよ。
井上:じゃあもうどちらかというと、決めたことについてどうこう考えるよりも、決めたらもうそこに向かうというか。
中尾:そうです。もちろん、その決め方がみんなが違うと思っているのに、声が大きい人が「これだ!」と言ってることにすると失敗するかもしれないですよ。でも、現場のことがわかっている人たちが集まって、データも定性の話もあるし、「ここからやろうぜ」と決めたらだいたい当たってますっていう。
ジョブスはなぜパソコンを4種類だけに絞ったのか
井上:ありがとうございます。ジョブズは実際にAppleを離れて戻ってきたら、30種類ぐらいのパソコンを作ってたものを、3個か4個に絞ったっていう話があると思うんですけど。
中尾:そうです。だから、当時のAppleは、30種類ぐらいのパソコンを作ってたんですけれども、シェアも数パーセントになってて、もう普通の会社になったんですよね。
ジョブズがやったのは、「我々は誰向けに作るんだ」という話です。1つは僕たちみたいな普通の人と、デザイナーとかエンジニアみたいなプロ向けの2パターンあるよねと。今はもうデスクトップパソコンってどんどんなくなってきていますけど、昔はデスクに置いておくものとノートパソコン、ポータブルがあったので、ツーバイツーで4種類に絞ったんですよ。
30何種類あったものを、Power Mac、PowerBook、iMac、iBookにしてですね。ここに書いてあるiMacは、40代以上の方はご存知かもしれませんけれども、すごくカラフルなパソコンができたんですよね。オレンジとか黄色とかピンクとかブルーのすごくきれいなパソコンを作って。
これが一般消費者向けで「自分の机に置いておいたらかっこいい」っていうパソコンを作って、一気にAppleはシェアを伸ばしたんですよね。
普通で考えたら、30何種類のパソコンがあって、20いくつをやめたわけじゃないですか。やめたのに新商品を作るって言ったら、普通の会社の中で言うと「作ってた人たちの気持ちはどうなるんですか!」みたいな話になるわけです。
井上:(笑)。
中尾:そうじゃなくて、マーケットが必要なものは新たに作るし、不要なものはやめてしまうんだということをスティーブ・ジョブズは同時にしましたと。自分たちの組織やマーケットのことを考えて、4種類に絞ったわけですね。
僕は1つに絞りましょうと言っているのに、ジョブズは4つにしたじゃないですか。どういうことかと言うと、大きな会社だったら、ビジネスをいくつかやってますよね。スティーブ・ジョブズは、パソコンのビジネスは4種類に分かれるというふうに整理したんですよ。だから、ビジネスごとに1個に絞れと言ってるんですよね。

一番大事なのは、みなさんの会社、みなさんの事業を何個に分けるんですかという話なんです。それが、経営が一番やらないといけないことですね。
井上:ありがとうございます。分けた上で、あとはもう一点集中でいくのがKPIの考え方かなと思いました。
中尾:そうです。繰り返しになっちゃうんですけど、「うちの会社は、うちの会社は同時に2個できるんだ!」という人がいるんだったら、2個やればいいんですよ。願望じゃなくてね。「やってほしいんだ!」じゃなくて、やれる組織は同時にやってもいいんですけど、あんまりないですよっていう。
井上:力が分散しませんかというところですよね。
中尾:そうです。
井上:はい、ありがとうございます。KPIの設計フェーズはここまでなんですけれども、この「1つに絞る」というところで、中尾さんからいろんな観点をいただけたかなと思いますので、ぜひみなさんのビジネスでも想定してチャレンジしてみてください。
※「形骸化した目標管理を、現場が自ら考え動く「成長の地図」に変えるKPI 4兄弟とG-POP習慣」の「KPI四兄弟」のパートを記事化しております。