【3行要約】・職場で仕事を抱え込む「有能な働き者」と、トップにふさわしい「有能な怠け者」。その決定的な違いはどこにあるのでしょうか。
・経営学者の中川功一氏は、職場で仕事を背負い込みがちな「有能な人」が見落している点を指摘。
・職場のエースが余裕を持って働き、周囲を活かしながら成果を出すための「上手に手を抜く」セルフマネジメントを考えます。
本記事では、特に反響が多くあった同イベントの3記事目を再掲します。
同じシリーズの記事はこちら 「物事の正しい道理を営んでいく」のが経営
赤坂美保氏(以下、赤坂):中川先生は、経営学者でYouTuberということで、先生から、ここだけでしかお話しできない過去の出来事を簡単にお話しいただければと思います(笑)。
中川功一氏(以下、中川):私はもともとは大阪大学で経営戦略論とかを教えていました。みなさんぜひ今日持ち帰っていただきたいことがあって、それは「経営ってどういう意味か?」なんですね。
仏教の中には「お経」とか「写経」とかあるじゃないですか? 「経」という字は仏教の中でもすごく大切な意味が与えられている言葉なんです。
じゃあ、「経」は何なのか。「経」というのは、物事の正しい道理や筋道が通っていること、みたいな意味なんですね。それで、それを読むのが読経、書くのが写経、書物になっているのが経典で、それを営むのが「経営」なわけですね。
そのように考えると、「物事の正しい道理を営んでいく」というのが経営で、大阪大学で教えるというのは大変有意義な仕事でした。これ自体はもう本当に意味のある仕事だと信じて疑っていませんでした。
私の信ずるところ、この経営学というのは、例えば沖縄の離島で地元のインフラを支える会社さんの経営の存続のために使うべきものだし、襟裳岬の先端で地元の人たちのお仕事を支えるNPOさんが使うべきものだし、能登の人たちが使うべきものだし、岡山の人たち、愛媛の人たちが、みなさんが使ってこそだと思います。
まぁ、受験勉強を勝ち抜いてきた50人に経営を授けていくのではちょっと物足りなくなったというのが一番大きいところです。この経営という概念が、願わくは日本の隅々まで、日本のみならず世界の隅々まで行き渡ればいいなということで、こうしていろいろな場を借りて経営学の普及をしていきたい。
そんなことを思ったら、大学にいられなくなりました。ビジネスを勉強したいと言うと、「ほんなら、200万円か300万円用意してくれる?」「TOEICで800点ぐらい取ってくれたら」「倍率5倍をくぐり抜けてくれる?」と。
そういうもんじゃないでしょうと。学びたい意欲がある人すべてに開かれるべきだと思いまして、今、「やさしいビジネススクール」というオンラインの経営スクールをやっています。
みんなが笑顔になるための一番の起点は「自分の幸せ」
赤坂:いやぁ、お経から始まるのがすごくびっくりしたんですけれども。今日のタイトルもなんですけれども、マネジメントや経営って、なんかすごく高飛車な感じがして。
草の根の人が、すごくがんばって何百万円、何千万円をかけて海外へ行くとかしなくても、ちょっと話す言葉を変えるとか、ちょっと違う行動をすることで、きっと大きな変化が起こるんじゃないかというところに私もすごく共感しました。
中川:おっしゃるとおりだと思います。経営と言っても一番大切なのは、今日の話にも出てくるんですけども、自分が幸せになることですからね。
世の中にとって正しい道理を営んでいく時に、自己犠牲が正しいことじゃないんです。お客さまには最大限の価値を届けて、働き手には最大限の働く喜びを届けて、金融機関さんの約束を違えず、お取引先さまに「一緒に仕事をしていて楽しい」と言ってもらえる。そのステークホルダーの中に自分自身も入っているわけですから。
きちんと笑顔の輪を作っていくというのが経営である時に、まず自分が幸せにならなくちゃということかなと。しかつめらしくやってすべてに厳しくあることが大切なのではなくて、みんなが笑顔になれるように。その一番の起点が自分という意味で言うと、やはりすべての人に知ってもらいたいことだと思います。
マネジメントは「嫌々やるもの」というイメージを覆す
赤坂:いや、もう間違いないですね。今日のタイトルにマネジメントって付けるのに少し悩んだんです。マネジメントって、すごく嫌々やるみたいなイメージがあるかなって思って。
でもマネジメントを(タイトルに)ちょっと付けてみようということで、今日のタイトルは「マネジメント」なんですけど、それは何かといったら、まず自分が幸せになることなんですね。もうこれは間違いないなと思っています。
「自分もみんなも幸せになるために、ちょっと知恵があるといい感じになるんじゃない?」というところで、今日、中川先生にお知恵をいただけるんじゃないかと思っているんですが、バッチリでしょうか?
中川:はい。みなさんぜひ、ここまでの内容でもここから先の内容でも、感想、コメント、ご質問など気軽にいただけましたら大変うれしく存じます。
赤坂:はい。ぜひぜひ。もう本当、「わっ、すごい!」とかそんな感想でもいいので(笑)、ぜひコメントなどください。
ではさっそく本題ですが、私たちのこのイベントに来られている人は、ほとんど子育てをしながら仕事をしています。「時間がない」という悩みが一番多いなと思っているんです。
そこで中川先生、自分も人も社会も幸せになるようなマネジメントについての知恵をぜひお願いします。
組織を任せるうえで大切なのは
中川:じゃあ、本日のテーマに入っていきたいと思います。(スライドに)子育て世代と書きましたが、それは象徴的な言い方で、忙しい現代人のために、限られた時間の中で結果を出すためにはどうすればいいのかという話をしていきたいと思います。
みなさんの問題関心も専らここだと思うんですよ。このめちゃくちゃ忙しい中で、まず第一にセルフマネジメントが大切な時代だと私も思うのですが、今日はそのセルフマネジメントの考え方、やり方の一番基本になってくる部分をお話しできたらなと思います。
ドイツの軍人さんにゼークトさんという人がいます。軍人が話に出てくると、ちょっといろいろ考えてしまったり匂ったりするものがあるんですけど。でも言っても、人の生き死にとか社会の責任を非常に重く担った組織体にあって、やはりそこが健全にマネジメントされているのはとても大切なことなんですね。
そのゼークトさんが、2軸あると言っています。「有能である。無能である」「働き者である。怠け者である」と言った時に、ぜひ赤坂さんにうかがいたいんですけれども。
赤坂:はい。
中川:この中で、組織を任せるのに大切なのはどの枠だと思いますか?
赤坂:もうMBA的に答えさせていただきますが(笑)、もちろん働き者で有能な人じゃないかなと思います。
中川:こっちの振りをわかっていたような対応、本当にどうもありがとうございますという話なんですけど(笑)。
赤坂:(笑)。
中川:そう。当然、有能な働き者が大切だと思われると思います。そして、一番良くないのは無能な怠け者かなと思うんですけど、これに対する新しい見解を提案しているのが、このゼークトさんという人なんですね。
赤坂:新しい見解?
組織にとってマイナスなのは、“無能な怠け者”ではない
中川:まぁ、有名な話なので、よく「有能な怠け者が大切なんだ」みたいな表現で知られている概念だったりしますが、これの元ネタがこのゼークトさんです。
会社のトップオブトップは、あるいは組織体のトップオブトップは有能な怠け者こそが大切なんだと。もちろん有能な働き者も大切なんだけども、この人たちは指揮官の下で働く人たちで、サポートする役割が有能な働き者。問題はこの下なんですよ。
赤坂:(笑)、「排除せよ」って書いています。
中川:そうなんです。例えば人の生き死にとか安全とか、組織の命運を担っているような状況で、無能な働き者の働き方が、組織の生産性を下げてしまったりパフォーマンスを下げてしまうことがある。
すごく善人であって一生懸命がんばってくださっているんですけど、これじゃあ、まずいなというのがポイントなんですね。能力がないと思っているなら、逆に考えたり何かするのではなくて、むしろ怠けてくれたほうがいいと。
赤坂:斬新な考え方ですね。
「上手に怠ける」ことが大切なわけ
中川:現代人からすると少しきつい表現なんですけど、ただこれをそのまま組織にズバッとはめろっていうことではなくて、この声に耳を傾けてほしいと思います。ゼークトさんが何が言いたかったのかというと、上手に怠けてくださいということを言っとるわけですね。
これが大切なんですよ。たぶん、今日お集まりいただいた方は、大変有能な方が多いと思うんです。ここはぜんぜん謙遜することはなくて、現代人って基本的には有能なんですよ。
ましてこういう勉強をしようという方は大変有能なんだけど、そうすると、たぶん今日来るような方というのは、だいたい職場においてエースパフォーマーなんですね。トップパフォーマーなんですけども、できない人の分まで自分が汗をかいて物を解決する方が多いんじゃないかなと思います。
それがどういう結果になるかというと、職場に対する恨みつらみになる。働かないおじさん問題みたいなのがありますけど、「みんなが働いてくれない。一生懸命になってくれる人がいない。だから私ががんばらなきゃいけない」というようなかたちで、職場の仲間たちや上司や年上の同僚に対するヘイトを溜めながら、「私が一生懸命だからここの組織は回っているんだ」ってなりがちなんですよ。
赤坂:めっちゃ身に覚えがあります。
中川:えぇ。めちゃくちゃあると思うんです(笑)。
赤坂:(笑)。
マネージャーは「有能な怠け者」でなければならない
中川:あえて今日はそれこそちょっときつい表現を使いますが、無能な怠け者を有能な怠け者が上手に使うようじゃないといけないわけです。
大企業において言えば、「自分なんか何にもできないんだから、目立たんようにひっそりしているんだよ」というような、無能な怠け者さんを上手に組織の中で活用するためには、あなたがその人の分まで仕事をしちゃいかんのですよ。
そうではなくて、あなたが上手にほかの人たちをうまく動かしていって、あなたはなるべく手を抜かなきゃいけないわけなんですよ。ぜひ赤坂さんにも考えてみていただきたいです。
赤坂:はい。
中川:みなさんにも考えていただきたいんですけれども、どうしてあなたが一生懸命になっちゃいけないんだと思います? あなたが余裕を持って働くべき理由ってどういうことだと思います?
何度も繰り返しますが、「有能だ」「無能だ」「働き者だ」「怠け者だ」というのはかなりストレートで抽象的な表現なので、これを実際に現場で適用しましょうとか、あなたの考え方にそのままインストールしましょうということではありません。メッセージをうまく受け取らないといけないんですね。ぜひみなさん、考えてみていただきたい。
「有能」と「無能」の違いはどこにあるか?
赤坂:先生、少し質問が入ったんですけれども。
中川:はい。
赤坂:「無能と有能ってどこが違うのでしょうか? 自分が有能だとは本当に思えないのですが」というコメントがきています。
中川:ここにおいて有能、無能の違いというのは、職務に対する責任を持てるかどうかみたいな感じかなと思います。今日の人間開発において、責任感とエンゲージメントと、職務遂行能力というのは非常に高く相関しているんですね。
やはりできる人はやれることに対して誇りも持つし、やれるということ、物事をこなすことの喜びを覚えているので、ほぼ「やる気がある」=「できる」になりがちなんですね。
これはある種、人間の脳の本質なんです。だからゼークトとは話が違うんですよ。一般的にできる人は働き者になるんです。仕事をするのが楽しいし、仕事をしていてみんなに喜んでもらえるし、評価されるし、お給料も上がるし、社内のポジションもどんどん降ってくるから、基本的には有能な人は一般的な職場の中で働き者になるんです。
なので、「有能と無能の違いはどこにあるか?」は、仕事を楽しむ技術を持っているかどうかなと思います。
赤坂:なるほど。仕事を楽しんでいたら、この仕事って自分ごとみたいにもなりますよね。
中川:そうです、そうです。
赤坂:そうなんですね。「なるほどです。それなら有能だと思えそうです。怠けなければ(笑)」って来ています。怠けなければいけないということですかね。コメント、ありがとうございます。
中川:えぇ。そうです。赤坂さんから、「仕事を自分事にできる」とありましたが、これもやはり現代人のスキルの1つ。仕事を最大限自分事として自発的・自律的にやれるということと、これらのものが全部1つに関連しています。
何度も繰り返しますが、基本的には有能な人は働き者になり、無能な人が怠け者になる。この構造をどうやって、ツイストした状況にするのかがポイントになります。
あなたは基本的に、あるキャリアステージまでは一生懸命やって、そこで頭角を現せばいいです。でも社会的な責任や家庭の責任を重く担うようになったタイミングで、有能な人が怠け者になれるかどうかというのが、キャリアステージの次に上がれるかどうかということなんですね。
赤坂:フェーズごとに違うんですね。
中川:えぇ。そうです。