【3行要約】 ・1on1は部下を支援する場と捉えられがちですが、本来の目的は1on1が不要になるほど自立した組織を作ることです。
・教育研修プロデューサーの磯野茂氏は、部下を上司に依存させない「伴走」が重要であるとし、部下の言葉の背後にある構造を見る必要性を指摘します。
・部下の声を組織改善に活かすために、場面や関係性に応じたアプローチの使い分けを提示します。
前回の記事はこちら 対話とコーチングの違いを整理する
磯野茂氏:今、対話とコーチングの違いをお話ししてきました。ちょっと比較してみましょう。対話の目的は認識を共有することです。コーチングの目的は行動を引き出していくことです。対話の焦点は理解です。そしてコーチングの焦点は行動です。コーチングのゴールとは、具体的な行動に導いていくことなんですね。

そして、対話の関係は双方向的ですね。互いに行ったり来たりし合うということですね。コーチングにもそういう要素はあるんですけれども、関係性としては、例えば上司・部下の関係で、上司が部下にコーチング的なアプローチをしようとしたら、これは上司が支援的な関与をしているということですね。主体は部下にある、主体は相手にあるというのがコーチング。
対話というのは、主体はお互いが対等な立場、並列、同じ高さにいるということですね。これが対話とコーチングの違いです。
別の言い方をしてみます。対話とは理解のプロセスであるということ。コーチングとは行動のプロセスであるということ。対話は、まずお互いが理解し合うというプロセスであって、コーチングとは具体的な行動を決めていくプロセスであるということですね。
今、対話とコーチングのお話をしてきましたけれども、つまりお互いが理解し合えていない、いわゆる信頼関係が育っていない中では意外とコーチングって難しいということですね。やはり、お互いに信頼関係があってお互いの違いを理解し合った上でコーチングというプロセスや技法にいかないと、コーチングってつらく苦しいものになります。
私はプロのメンタルコーチとしての活動もやっていますけれども、私にもプロのコーチがついていた時期があります。その時に、本当に信頼関係があったとしても、コーチング的な問いをされるとけっこうつらく感じたり、「なんでそういう質問をするんだろう?」と、ちょっとカチンとくることも実はあったりするんですね。
これが、信頼関係やお互いの理解のプロセスがない中でやったら、コーチングを受ける側、いわゆるクライアントは、「ちょっと相手が支配的になっているな」という印象を持ちかねない。
コーチングはすごく丁寧に扱っていかないといけない側面があります。丁寧に扱うとは、ちゃんと理解のプロセスを踏んでからコーチングに入るのが大事ということですね。1on1でも同じ要素があるということです。
場面や関係性に応じた使い分け
もうちょっと、さまざまな言葉を出して全体像を見ていこうと思います。今、対話とコーチングという2つのお話だけをしましたが、他にもアプローチってありますよね。それはカウンセリングやアドバイス、ティーチングという言葉で表せると思います。
組織マネジメント上では、異なる人たちが同じ方向に向かっていく必要があります。なので、認識や互いの違いを理解した後は、認識の統一を図っていく対話が必要です。そのためのアプローチとして、さまざまな場面や段階、関係性に応じた使い分けが大事になってきます。もちろん、対話とコーチングだけでは成立しません。

そこで他に出てくるのが、ティーチングやアドバイス、カウンセリング的な要素です。(スライドを示して)それぞれの意味と、どんな場面に有効かは、ご覧いただいているとおりです。(スライドの)上から2行目なんですけれども、「場面や段階」と書いてあります。この「場面や段階」は何のことを言っているかというと、その人の「能力」と「意欲」の2つで表すことができます。
つまり、「能力が高くても意欲が低い」「能力が高くて意欲も高い」「あるいは能力は低いけど意欲が高い」「能力も低くて意欲が低い」。これを場面や段階と言っています。つまり、能力と意欲の掛け算で、その場面やその人の段階を捉えてみる考え方です。
ここの資料には書いていませんが、能力と意欲の掛け算で関わり方を変えていくというアプローチをSL理論と呼んでいますね。シチュエーショナル・リーダーシップ(Situational Leadership)です。ここも1つの大きなポイントとなっています。今日はこの話を出しませんが、SL理論、シチュエーショナル・リーダーシップを、今日のこのセミナーが終わったらちょっと検索してみてください。
もちろん、みなさんがご存知な部分もあると思いますが、けっこう関連性が深いところです。つまり、その時の場面や状況、その人の段階に応じて、その人の能力や意欲を測って関わり方を変えていくことがとても大事になっていくということなんです。
伴走者が不要になる「自立した組織」の実現
ここまでお話をしてきて、いよいよ最後に研修プログラムをご紹介するのですが、ここは単なるPRや営業の場ではなくて、これからが本当の本質の話になっていきます。

研修プログラム設計のポイントですね。1on1マネジメントの実践です。いかに1on1を組織マネジメントに展開していくか、組織の成果や進化に結びつけていくかです。
冒頭にお話ししました、「伴走」という言葉を出したいと思います。「1on1において、上司は部下の伴走者である」という考えに立ってみようじゃないかということですね。そして、ここで伴走という言葉の定義をいたします。「伴走とは、相手の理解と行動を支える関わりを続けながら、依存させない関わりである」ということなんですね。
どういうことか。私は(マラソン大会で)障がいのある方の伴走をしています。私はいろいろな方と関わっていますが、将来的にはその方が「私がいなくてもよい状態」になることを目指してやっています。つまり伴走って、永久につきっきりではなくて、伴走者が必要なくなることが理想なんですね。つまり、相手の自立性や主体性を上げていく。
もう1つは環境を整備していくことですね。例えば障がいのある方を対象にしたら、伴走者がいなくてもその人1人でできるようになっていくということを、社会の環境や制度、関心とかに発展させていくということです。1on1や組織マネジメントでも同じだと思います。

つまり1on1の究極目標は、1on1がなくても組織が健全に回る状態を作ることなんですね。1on1ってやらなくてもいいほうがいいじゃないですか。今、なんで各社が1on1を導入しようとしているかというと、組織が健全に回っていなくて、「1on1という手法が出てきたから、ちょっと取り入れてみようか」ということだと思います。
つまり組織が健全に回っていれば1on1は要らないわけです。そんなことはたぶん日常的なコミュニケーションの中でできるはずなんです。それができないから1on1を制度化して「みなさん、現場でやってね」とお願いをしているわけですよね。
それが今、「うまく回っていない」「違和感がある」「機能していないな」と感じるわけです。でも1on1を取り入れなくてよければ、(それで)いいんですよね。じゃあ、1on1をやっているんだったら、やらなくて済むような位置づけや設計になるように1on1を組み込んでいこうじゃないかということなんですね。