2つの視点から見る「対話」の定義
ここから3つ目のテーマですね。「対話とコーチングをどう使い分ければ1on1は機能するのか」です。1on1研修では多くのテーマが用いられています。特に「対話をしていきましょうよ」と、もう1つは「コーチング的なアプローチやコミュニケーションを取っていきましょうよ」がけっこう主体で、今はいろんなところで研修プログラムが組まれています。

もちろん私が1on1研修やメンター研修とかをやる時も、特にコーチングの研修のご用命が多いですね。対話とコーチングはすごく重要ですが、この使い方とか、あるいはより機能していくためにどういう考え方を持ったらいいかというお話をしていきたいと思います。
まず対話です。マネジメント論では「対話とは認識を揃えるプロセス」と言われています。つまり組織で頻発する問題というのは、さまざまなズレから生じるんですね。目標理解のズレや優先順位のズレ、役割理解のズレ、状況認識のズレ、その他いろいろなズレがあると思います。
組織の問題の多くはやはり認識のズレから生まれていくんですね。けれども組織やチームは、ある1つの方向へ共に向かっていかなきゃいけないので、認識を揃えるプロセスが必要となっていきます。
つまりマネジメント論上では、「対話とは認識の統一」という考え方が主流なんですね。認識を合わせていく、一緒に統合していくという考え方です。
コミュニケーションの「水面化」で起きること
(スライドを示して)ここに「主流」と書いていますが、対話というのは他にも考え方があります。それは哲学的な定義なんですね。対話の哲学的な定義についてお話をしましょう。「対話とは、対等な立場で双方向に意見を交わし、実利だけでなく価値観や信念も共有しながら、異なる考えを尊重し、視野を広げ合う会話のこと」と定義をしています。
この3行の定義は、日本の哲学者、あるいは哲学を研究している専門家の方のいろいろなお話を統合して私が文章を作りましたが、みなさん概ね同じようなことを言っています。ポイントは、「対等な立場」「双方向」「価値観や信念」「異なる考えを尊重して視野を広げ合う会話」ということです。全部言ってしまいましたけれども、つまり「双方向的である」ということなんですね。
それを表すのが(スライドの)下の絵なんですけれども、これは海に浮かぶ氷山をイメージして描いています。(一般的に)私たちは見える部分でコミュニケーションをしています。

ところが、会話をしていたり、お互いにコミュニケーションを取り合っている時に(水面下で)ゴツゴツとぶつかる瞬間があります。あるいは、のれんに腕押しというか、ぬかにくぎというか、感触や反応がない時がありますよね。つまり、ズレているので、ぶつかってほしいけどぜんぜんぶつからないみたいな時もあります。
この見えにくい部分でゴツゴツぶつかったりお互いがかわし合ったりしちゃうことがあるんですね。そこを言語化してコミュニケーションを取っていくのが対話です。
そして、この見えにくい部分にこそ一人ひとりの違いがあるということですね。(スライドの)下に書いてありますが、その違いというのは、価値観や信念、過去の体験、感覚、感情、直感、ひらめき、立場、役割、境遇など、いろいろあります。
そして、そういったことをなるべく言語化して、お互いに話し合っていくことが対話のプロセスです。つまり、対話の哲学的な定義とは、互いの認識を共有し理解を深めるプロセスのことなんですね。
先ほどのマネジメント論で言う対話とは、認識の統一のことです。でも、哲学的な場面で言うと、これは統一しなくてもいいんですね。違いは違いとして受け止め、理解を深めるプロセスです。私はこちらの哲学的な定義のほうが、より対話の本質を捉えていると思います。
組織における対話のステップ
とはいえ、マネジメント論での(対話の定義である)「認識を揃えるプロセス」「認識の統一」というのも当然大切です。なぜなら、組織にいたら1つの方向へ共に向かっていかないといけないことがあるからです。
なので順番としては、まずはお互いの違いの理解を深めていくプロセスを取る。そこから組織として向かうべき方向性をきっちりと見定めて、認識の統一を図っていく。この2段階の対話がとても必要になってきます。
哲学の世界には、梶谷真司先生という有名な方がいらっしゃいます。その方が
『哲学対話の冒険日記』という本の中でお話をされているのは「別に統合・統一していかなくてもいい。お互いの違いをつれづれなるままに共有することが大切なんだ」とおっしゃっています。
もちろんそれが私も大切だと思いますが、やはり組織の中では寄せていくプロセスがとっても大事になってきます。だから認識を深めて、認識を統一していくという2段階の対話が大切であるということです。これが対話の2つの考え方であって、両方とも大切で、それぞれ順番や優先順位があるというお話でした。
コーチングにおける未来志向を促す「3つの問いかけ」
次に、コーチングのお話に移っていきます。コーチングとは、「対話を通じて、相手の思考・感情・意図を整理し、自ら進む力(主体性・自律性)を引き出す関わり方」です。人事教育をご担当されている方でいらっしゃれば、コーチングはもう、けっこう馴染みの深いものになっているかと思います。
コーチングにはさまざまな流派がありますが、代表的なフレームとして「GROWモデル」というものがありますね。

「Goal(ゴール)」「Reality(リアリティ)」「Options(オプション)」「Will(ウィル)」の頭文字を取ってGROWとしています。Rは(正確には)「Reality」と「Resource(リソース)」の2つを指します。
(まずは)Goal。目指す姿を明確にする。(次に)Reality。現状を理解して、整理する。(そして)Options。可能性・選択肢を広げる。最後にWill。行動を決め、最初の1歩を明確にする。これを支援的な対話や会話で行っていくのがコーチングのやり方であります。
ちょっと会話の例もかっこ書きで書いてありますが、GROWモデルと言うと「けっこう難しいのかな? 複雑だな」って思ってしまうと思います。
私はコーチングの中でもスポーツメンタルコーチングの専門性も持っていて、スポーツ選手やスポーツチームにコーチングを提供しています。その時によく使う問いかけがあります。それが(スライドを示して)この3つなんですね。「常に意識しておきたい未来志向的な3つの問いかけ」です。

1つ目は「今、何が起きている?」。つまり、現状を把握するということですね。2つ目は「本当はどうなりたい?」。理想をイメージしたり、言葉にしたりするということです。そうすると理想と現状のギャップができますよね、その差を埋めていく対応を考えてみたり、言語化してみたりするということですね。3番目は「自分たちにできることは何だろうか?」。
この3つの問いを順番にしていくとコーチングになっているということですね。コーチングの特徴は未来志向的なんですね。今から未来に向かって何ができるかということです。
(セミナー開催当時)今ちょうど、野球の世界大会であるWBC(World Baseball Classic)をやっております。野球やラグビー、サッカーなどの世界大会の場でも日本チームが活躍しています。そういったチーム競技の中でも、審判が時間を止めている最中に、実は選手同士がグラウンドやピッチでこの3つの問いかけをやっているんですね。
なので、コーチングは長い時間をかけるだけではなくて、例えば30秒~1分でもできるんです。これが本当のコーチングの運用の仕方なんですね。
コーチングは難しく考えすぎず、「今から未来に向かって何ができるか」という、この3つの要素を扱う。これは絵に描くとわかりやすいんですよね。三角形になります。理想が右上で、現状が左下です。そうすると三角形の高さが出ますよね。それがギャップです。そのギャップを埋めていくのが対応になっていくということですね。これがコーチングの1つの構造になっていきます。