【3行要約】 ・株式会社COTEN 代表取締役CEOの深井龍之介氏は、「女性活躍試作で経営のスピードが落ちる」という意見に対し、状況理解と戦略が足りないのではと提言します。
・深井氏は歴史的観点から、新しい技術や人的リソースなどを活用できない勢力は100パーセント負けているとの意見を提示。
・時間とパフォーマンスが比例しない現代、長時間労働という「古いがんばり方」を脱却し、女性の能力を活かせる組織へ変革するカギを探ります。
前回の記事はこちら 「女性活用でスピードが落ちる」という意見は本当か
小室淑恵氏(以下、小室):女性の社会参与のお話は私も仕事で向き合うことが多いんですけれども、「女性が入ってくると今までになかった意見が出てきて、かえってまとまりづらくなる」とか「スピードが落ちるんだよね」っておっしゃる企業経営者の方も、こっそりなんですけれどいらっしゃったりはします。
その点も深井さんにとってみると、ちょっと状況理解と戦略が足りないなっていうところなんですかね?
深井龍之介氏(以下、深井):めちゃくちゃ足りないと思いますね。超短期的な視点だと思います。この瞬間に導入するのが大変だというのって、例えば「DXをしたら一瞬混乱します。だからITを導入しません」って言っているのと一緒ですから。
新しい技術が出るとか、新しい人的リソースを活用しようと思えばそっちに持っていけるにもかかわらず、それを活用しない勢力は歴史上100パーセント負けているので。自分から見ると、どうやって勝つつもりなのかがまったくわからないですね。
女性の意思決定力を活かさない社会で経営していて、どうやって勝つつもりなのか。自分は歴史からも社会科学からも説明が不能なので、逆に大企業の経営者の人たちがみんなどう考えているのかなと思っています(笑)。
(大企業の経営者などと)話した感じだと、状況理解をしていない。辛辣だし偉そうだから別にそんなふうに言いたいわけじゃないけど、そう思うので。そこをちゃんと理解してほしいからこそ、今回は27時間分の音源を出したんです。
やはりエリートに限ってなんですが、ヨーロッパ人とかアメリカ人のこの領域への理解は、我々の数歩先に進んでいます。そこはもうかなりビハインドしているから相当ヤバいですね、マジで。
「がんばり方」のパラダイムシフトが必要
大塚万紀子氏(以下、大塚):まずはそこの自覚を持って、ビハインドを取り戻すというか、もっともっと工夫を重ねないといけないということですよね。
深井:言い方が難しいんですが、僕は日本社会にすごくポテンシャルを感じていて。次の時代、この30年とはぜんぜん違う30年を作れる。まったく新しい価値を世界に提供できるし、そういうポテンシャルが日本のスタートアップや大企業にも、あとは跡継ぎ企業とかにもものすごくあると思っているんですけど。
唯一スタックしそうだし、こけそうだなと思っているのが、女性の意思決定力を活用できなくてフィニッシュするってやつなんですよね。手段として最もそれを阻害しそうなのが、長時間労働なんですよ。
大塚:そこがつながってくる。
深井:だから、がんばり方をめちゃくちゃ変えないと生き残れないですね。がんばり方を変えるって、時代の変遷とともに日本や世界の歴史の中でめちゃくちゃ起こってきたことです。例えば、室町時代の人たちにがんばらせたら普通にすぐ人を殺すんですけど、みなさんは別に人を殺そうとかしないじゃないですか(笑)。
大塚:今のところは殺そうとしていないですね(笑)。
深井:織田信長や明智光秀とか、そこらへんの人たちに僕たちの働き方を見せたら「こいつ、めちゃくちゃぬるいな」って言われると思います。
大塚:速攻で(首を切るジェスチャー)ですね。
深井:「なんで人を殺さないの?」みたいな(笑)。「なんで殺さないのに、そんなにがんばってるとか言えるの? 命もかけてないくせに」ってなると思うんですよね。でも、時代が変わったじゃないですか。それと一緒で、生成AIが来たからなおさらだと思うんですが、時間とパフォーマンスって別に比例しないんですよね。
労働力人口を倍増させる戦略的思考
大塚:今までだったら時間をかけた分成果が上がるという、いわゆる正比例のグラフだったけれども、(今の時代では)そうはならなくなった。
深井:はい。アテンションがどれぐらい注がれているかはすごく大事だと思うし、本気であることは大事だと思うんですが、「本気である」ことと「長時間をそれに費やす」ことが、必ずしも一致しない領域がたくさん出てきますよね。
意思決定をやっていらっしゃる方はわかると思いますけど、時間を使っているわけじゃないじゃないですか。
大塚:確かに。
深井:そういう仕事が増えてくるわけですよね。それを、どうやったら長時間を費やさずにできるか。それが何らかのかたちでできた人たちが勝っちゃうわけですよ。なぜなら、その人たちが女性の意思決定力を活かせる状態に突入するからです。これ、伝わりますかね。そういう構造になっているわけですよね。
そうすると、意思決定力を倍以上使えることになるので、シンプルに意思決定の得意な生産労働人口が倍いる状態になるわけじゃないですか。
大塚:希望が持てるイメージになります。
深井:はい。僕たちはけっこう(意思決定の得意な生産労働人口を)持っているのに、半分を使っていないんです。意思決定層に女性が10パーセントしかいないから、たぶん4割ぐらいは使っていないですかね。
大塚:コンサルの現場に入ると、みなさんがいらっしゃる前ではずっと黙ってニコニコされていた方が、偉い男性の方が退出されると「大塚さん聞いてください。私は今、こんなことやあんなことを考えていて、これが課題で、これはこう戦略的に考えてるんだけれども、なかなか社内ではうまく通らなくて。どう思いますか?」なんて意見を求められたりします。
意見も持っているし、意思決定に十分すぎるスキルやご経験もおありなのに、なかなかそれがうまく社内で活用されていらっしゃらない。そういうところは、もう枚挙に暇がないぐらいに例があるななんて思ったりしていますね。
深井:そうですね。
深井氏が提唱するプロジェクトコスト理論
大塚:ちなみに深井さん、私も当然、27時間の音源を何回転も聞かせていただいているんですけれども。
深井:ありがとうございます。
大塚:その中で印象的だったのが、例の「鋤(すき)・鍬(くわ)」理論。鋤と鍬のところで、どんなふうにCOTENの中で整理をなさったか。
深井:僕たちが「プロジェクトコスト理論」って呼んでいるやつですね。
大塚:ぜひ、ちょっとそこをみなさんに(お話ししてください)。
深井:そうですね。鋤・鍬が出てくる前の段階から説明しますが、「女性が働いてもそんなに活躍しないだろう」と思っているおじいちゃんとかおじさんがいるじゃないですか。
たぶん世代によっては女性でもいらっしゃると思うんですが、そういう人たちの持っている社会規範がありますよね。特に、性別に関する社会規範を「性別社会規範」って言うんです。そのままなんですが(笑)。
大塚:例えば「男性が働くべきで、女性は家庭を守るべき」みたいなものですよね。
深井:そうそう。「(女性は)家庭を守るべき」とか「女の人はあんまりたくさん食べないべき」とか。社会記範にも大きく2つあって、どういうBeingであるべきかというやつと、どういうふうに分業すべきかというやつです。
さっきの「家事は女性がやったほうがいい」というものが性別分業規範ってやつで、それと似て非なるものとして「性別規範」というものがあるんです。例えば『かわいいだけじゃだめですか?』みたいなアイドルがいるじゃないですか。あのように、女の子はなんにもできずにかわいくあるべきだ、みたいな考え方を性別規範って言うんですよね。
ちなみに2020何年とかであんなことを言っているの、マジでスーパーヤバいですからね。本当にめちゃくちゃヤバいですよね。たぶん企業が死にますよ。研究したり調査した結果そう思っているんですが、それを好きな人がいたらすみません(笑)。
大塚:(笑)。
社会規範は「生産体制」から生まれる
深井:そういうものを社会規範って呼ぶんですよね。それで、その社会規範が何によって形成されるのかを歴史をずっとバーッと調べたんです。
歴史だけじゃなくて、人類学や生物科学や動物行動学とかいろんなものを調べた結果、すべてにおいて「これで言ったら矛盾がないよね」というものがわかったんです。一番最初の出発点が何だったかというと、「どういう働き方をしているか」なんですよね。
大塚:働き方からくる。
深井:僕たちは音源の中で「生産体制」と呼んでいるんですが、どういう主要な生産体制であるとか、主要なプロジェクトをしているか。いわゆる「何で働いているか」ってことですよね。例えば古代の日本の弥生時代以降であれば、水耕栽培とかが主要な働き方ですよね。
大塚:それもプロジェクトってことなんですね。
深井:そうです。あとはビジネスが勃興する前までの社会だと、基本的に社会とか国家においての主要なプロジェクトって全部戦争なんですよ。
大塚:さっき織田信長の話が出てきましたけれど、ああいうやつですね。国を取りにいくというか。
深井:そうです。どのような生産体制を取っていて、どのようなチームワーク体制を取っているのか、どういうスキルセットを必要とするかとか。そういうことが規範の形成の一番最初の出発点だったんですね。これは、家族だったり宗教が出発点だと思っている人がほとんどだと思うんです。
男女の地位を分けた農業における労働
大塚:よく言われます。欧米と違うのは文化的な家族観の違いだとか、宗教観の違いだって言われますね。
深井:そうですよね。だけどぜんぜん違いまして、家族観と宗教観は再生産装置といって、規範を教育する場所になってはいるんです。だけど規範自体は、どういう生産体制を取っていて、どういうプロジェクトを主に該当社会がやっているかによって全部決まっており、その逆は絶対になかったというのが全部の歴史を調べてわかったんです。
大塚:絶対になかったんですね。
深井:これは本当に、わかりうるすべての歴史を調べました。女性の地位を全部のエリアの全部の時代で調べたらそれがわかったんですが、女性に限らずマイノリティの立場は全部そういうことで決まっているのがわかった。
鋤・鍬の話はその中の一例として出したんですが、例えば鋤を使っている文明と、牛とかに鋤を引かせている文明があるじゃないですか。水耕栽培じゃなくてもあるんですけど。
大塚:土地を耕すための鋤ですね。
深井:あれはものすごく力がいるんですね。ああいうふうにものすごく力がいる農業をしている社会と、同じ農業でも比較的力を必要としない、筋力を必要としない農業で言うと、例えば焼畑農業があるんですよ。
大塚:全部焼きますもんね。力は必要なさそう。
深井:(森林や草原を)焼いて、その上に種をまくだけなんですね。これらの文明だとジェンダーギャップにぜんぜん違いがありまして、焼畑農業は筋力を必要としないのでジェンダーのギャップが小さいんですね。つまり、相対的に女性の地位が高いんです。
大塚:女性が農作業に関わり続けられるから、男女差がなくなる。
深井:そういうことです。主要な生産体制に女性が重要なメンバーとして参与できているからですね。逆に牛に鋤を引かせている文明は何が起こるかというと、まずはすごく力がいるのと、牛を引くのも力がいるので危ないんですよね。
生物的にも筋力差があるのは自明なので、筋力がある男性が牛を引くことになるんですね。そうすると、家で子どもの面倒を見る人がいなくなる。焼畑と違って、子どもを牛の近くに置くこともできないんですよ。