【3行要約】・「なぜなぜ分析」を実施しても、部下の分析に上司が適切にフィードバックできなければ、組織としての改善にはつながりません。
・高松康平氏は、人が作った分析は因果関係の誤りや見落としを見抜くのが難しく、多くの上司が「とりあえずOK」と曖昧な評価にとどまってしまうと指摘します。
・原因にテーマを付けて構造を可視化し、“構造の不自然さ”に着目して助言することで、誰でも実務的にフィードバックできるようになります。
前回の記事はこちら 部下の作った「なぜなぜ分析」を見るのはしんどい
高松康平氏:いろいろな企業で「なぜなぜ分析」の研修を実施させていただいていますが、ここで1つ考えていただきたいことがあります。社員一人ひとりが、「なぜなぜ分析」のスキルを身につければ、それだけで成果は出るのでしょうか。果たして本当にそうでしょうか。
典型的には、こういうことが起きます。研修を受けたかどうかに関係なく、なぜなぜ分析を行ったあと、社内で上司のところに行ってこう言うのではないでしょうか。「フィードバックをもらえますか」。つまり、誰かがそれを見る必要が出てくるわけです。
つまり、メンバーが作成したなぜなぜ分析を、確認してフィードバックする人が必要になるということです。メンバーが「なぜなぜ分析」を行い、報告書を作ります。そして上司に「この報告書を見てください」と持っていく。上司はそれを見てフィードバックし、「ここはこうしたほうがいい」と伝え、ネクストアクションを考える。これができるかどうかがポイントになります。
これができれば、「もっとこうしたほうがいい」というかたちで報告書の質も上がります。例えば、こんなケースがあります。ケーススタディです。

あなたはマッサージ店、カラダリラックス(架空)の赤羽店の店長として働いています。2023年6月29日、店舗でダブルブッキングが発生してしまいました。ミスを起こしたスタッフになぜなぜ分析に取り組んでもらいました。あなたならどのようにフィードバックしますか。
実際に「なぜなぜ分析」がスタッフから出てきました。6月29日にダブルブッキングが発生した。タナカさんというスタッフがBさまにSNSでメッセージを送って施術に入ってしまった。それはなぜですか……と、いろいろ書いてある。
まず、人が作った「なぜなぜ分析」を見るのはしんどいですよね。今回の例は比較的シンプルですが、もっと複雑なものになると「ちょっと時間もらって見るわ」という感じになります。これに対してフィードバックできますか。「いや、けっこうきついよね」と感じる方も多いと思います。
つまり、他人が作った「なぜなぜ分析」にフィードバックするのは難しいということです。メンバーが「これでいいですかね?」と上司に聞く。「いや、いいと思うけど」と返す。「とりあえずいいと思うけど」という感じになる。最近は褒めることも求められますから、否定もしづらい。でも自信を持って評価できるわけでもない。この壁は大きいと思います。
なぜ部下の「なぜなぜ分析」は読みづらくなるのか
特に、人が作った「なぜなぜ分析」は、読むこと自体が大変です。理論的には、よくこういうことが言われます。「なぜなぜ分析」が難しい理由として、結果と原因が逆になってしまうことがある。

相関関係を因果関係と誤解してしまうこともあります。

さらに第3の因子が存在する可能性がある。

これは教科書的な説明としてよく出てくるものです。もちろん重要な指摘です。ただ、それを上司がチェックするとなると大変です。

結果と原因が逆になっていないかを見抜く。「雰囲気が悪いから業績が悪いのか。それとも業績が悪いから雰囲気が悪いのか」。人のなぜなぜ分析を見て「この矢印は逆ではないか」と判断する。それを上司に求めるのは、なかなか難しい作業です。
また、相関関係と因果関係の問題もあります。例えば読書量と学力。因果関係だとすれば、読書量が増えれば学力が上がるということになります。しかし相関関係というのは、学力が高い子どもは本が好きで、結果として読書量が多いという関係かもしれません。つまり、本を読めば必ず学力が上がるとは限らないわけです。
部下の「なぜなぜ分析」を見て、そこまで判断するのは簡単ではありません。さらに第3の因子、つまり別の要因がないかを見抜くことも必要になります。他人が書いた分析を見て、その背後にある別の要因まで見極めるのはかなり難しい作業です。
しかし、そこまでできないと、人の「なぜなぜ分析」を適切に評価することができません。そうなると、実際の指導が難しくなります。
部下の作った「なぜなぜ分析」を簡単に確認する方法
そこで私たちは、もう少しシンプルに考える方法がいいのではないかと思っています。「なぜなぜ分析」には、いろいろな例があります。例えば「ケーキが売れないのはなぜか」という例です。回数も必ずしも5回とは限りません。この例では、1、2、3、4、5、6、7、8、9と、かなり多くの「なぜ」が並んでいます。
そこで「このなぜなぜ分析でいいですか?」と聞かれた時に、先ほどのような理論を全部当てはめて確認するのは現実的ではありません。因果関係が逆になっていないか、相関関係ではないか、第3の因子はないか……。実務の場面でそれをすべて確認するのはかなり大変です。ですから、もっと簡易的な方法で確認していこうとなります。
ではどうすればよいか。一つひとつの原因にテーマを書くという方法があります。

例えば、顧客が欲しくなくなったという原因があったとします。そこには顧客の話があり、商品の話があり、味の話があり、原材料の話がある。つまり、それぞれに括弧書きでテーマを付けていくのです。
そうすると、原因同士のつながりが見えやすくなります。テーマを記入し、その並び順を確認し、どこまで深掘りしているのかを見る。このように整理すると、分析をチェックしやすくなります。
先ほどのインシデントの例でも同じです。なぜ、なぜ、なぜと並んだ文章をそのまま読むと疲れてしまいます。そこで、それぞれにテーマを付けていきます。

一番上には行動のことが書かれている。その次も行動、その次も行動。そのあとにルールの話が出てきている。こうして見ていくと、「このなぜなぜ分析は少し偏っているのではないか」と気づくことができます。
行動が3つ続いているのに、他の観点が出ていない。スキル、知識、マインドはどうなっているのか。そして一番下にあるはずの体調、人間関係、環境、制度といった要因は考えられているのか。もちろん中身の議論も大切ですが、このように括弧書きでテーマを付けることで、順番が適切かどうか、また他の原因がないかを探しやすくなります。このかたちでアドバイスをすることが大切です。
できる上司は答えではなく部下の案の“構造の不自然さ”を指摘する
「なぜなぜ分析」に対してフィードバックする際、「こうすればいい」と結論を示したくなることがあります。しかし、実際に求められているのは一緒に考えることです。

「なぜなぜ分析」を見て「こう直せばいい」と言うのではなく、「今の分析はどういう構造になっているのか」を一緒に確認する。そのために括弧書きでテーマを付けるわけです。そうすることで、本人が「自分はこういう考え方をしていたのか」と気づくことができます。そこから「こういう観点もあるのではないか」と助言することができます。このような進め方です。
つまり何が言いたいかというと、個人学習だけでは半分しか進まないということです。「なぜなぜ分析」ができたかどうかは、上司が確認する必要があります。しかし上司側も、何をどう伝えればよいのかがわからないことが多い。部下が作った資料にアドリブでフィードバックするのは、実際には難しい作業です。
そこで私たちの研修では、「なぜなぜ分析」そのものの研修だけを行う場合もありますが、本当に組織に浸透させるのであれば、フィードバックできるようになるところまで取り組むことを重視しています。
「見られるようになる」とはどういうことか。

まず図解です。上司が、部下が今何を考えているのかを可視化できるようにする。そして評価です。上司が客観的に評価を行い、グッドアンドモア、つまり良い点と改善点を伝える。そして助言です。「こういう考え方もあるのではないか」と上司が提案する。
つまり、組織に浸透させるための鍵は3つあります。気持ちの話、技術の話、そして上司がきちんと見られるようになること。その型を身につけることです。