【3行要約】
・「素直で真面目な人」を求めて採用した結果、皮肉にもその層がローパフォーマーや早期退職者になってしまうという、恐ろしい「主観の罠」が潜んでいます。
・株式会社人材研究所の曽和利光氏は、人間の「勘と経験」には確証バイアスやハロー効果などの心理的偏見が入り込み、データとの間に致命的なズレを生むと指摘します。
・客観的なデータドリブン人事を導入し、現場の「思い込み」を排除して組織の成果を最大化するために乗り越えるべき論点と具体的な分析手法を解説します。
「勘と経験」に頼らない「データドリブン人事」へのシフト
曽和利光氏:みなさん、こんにちは。「『勘と経験』から『データドリブン』な人事に移行するための乗り越えるべき論点」というテーマでお話しさせていただきます、株式会社人材研究所の曽和と申します。よろしくお願いします。
まず簡単な自己紹介をさせていただきます。私は人材研究所という30人ぐらいの小さな人事コンサルティング会社の代表をしています。今年(2025年)で55歳になるんですけど、30年以上人事の仕事ばっかりやっている人間で、40歳までは事業会社の人事をずっとやっていました。
最初はリクルートに入り、15年ほどリクルート自体の人事をやって、採用とか育成とか、制度設計とかいろんなことをやりました。最後は採用の責任者もやらせていただきました。その後ライフネット生命保険、オープンハウスというベンチャー企業の人事の主担当、トップをやらせていただきました。
2011年からちょうど40歳の時だったんですけど、そこから今のコンサルティングのお仕事をやらせていただいて、こっちのほうがだんだん長くなってきています。
お客さまは、大企業から中小企業、ベンチャー、規模であったり、業界もバラバラで、もういろんなところをやらせていただきます。民間企業だけじゃなくて、市役所とか自衛隊さんとか、学校とか病院とかですね。
そういったところも含めて、人と組織に関するコンサルティングであったり、採用のアウトソーシングであったり、そのようなお手伝いをさせていただいています。
その他、日経さんだったり、労政時報さんで記事を連載させていただいたり、(スライドを示して)こういう、いろんな人事ご担当者向けの、あるいは経営者向けの本をいろいろ書かせていただいています。もしよろしければ、ご覧いただければと思います。
あと毎日、Xですね。私、気が弱くて、あんまり炎上したくないんで、おそるおそるやってるんですけども。人とか組織とか、人事とか採用とかキャリアとか、面接とかいろんなことについてつぶやいていますので、もしよろしければ、フォローいただけますと幸いです。
「データドリブンな人事」の落とし穴
今日のテーマなんですけど、最近、勘と経験でずーっと長年やってこられた人事という世界が、データドリブンと。データドリブンっていうと難しそうですけど、要はデータとか数字とかを統計学であったりそういったものを使って、人事上のさまざまな判断がありますよね。
この人を採用するかどうかとか、この人をどこに配置するかとか、評価をどうするかとかですね。そういうさまざまな人事における判断をデータドリブンでやっていくっていうことは最近、いろんなところで使われています。その成果も、さまざまな企業で、私もお手伝いしているところでも、かなりはっきりとしたものが出てきていると思います。
ただこういう新しいものにはつきものだと思うんですけど、必ず乗り越えなきゃいけない壁、論点というのがあると思うんですね。それを今日は別に水を差すつもりはまったくないんですけど。
私もデータドリブンな人事っていうのはすごく重要で、当社のコンサルティングも基本的にはデータドリブンです。数字がいっぱい出てきます。統計を使いながら、データを使いながらやらせていただくっていうことで、私も推進派ではもちろんあるんです。
ただ、いろんな落とし穴があるということで、みなさんと共に、それを今日はひととおり、一緒に考えていければと思っています。
最初にまずこのデータドリブンな人事というものが出てきた背景をあらためて、確認しておければと思っています。
「人の目」は重要だが、バイアスがかかる

人の目っていうのは今でも重要だと思います。特にAIとか、さまざまなテクノロジーが、かなり発展してきていますけど、まだ言ってみれば発展途上ですよね。あと1年とか2年経てばどんなふうになっているのか、ぜんぜん予想がつきませんが、今のところはまだまだですね。すべて人の目で見ているものを、AIがカバーできるわけでもないので。
今は、そういうデータだったりAIだったり、統計だったりと。ただ人の目、勘と経験もまだまだ、重要であると思います。
なのになぜ、データドリブンの人事の判断ということになっているかというと、これはよく知られた事実で、釈迦に説法と言いますか、みなさんにとってはよくわかっていると思うんですけど。さまざまな心理的バイアスと呼ばれるものが人の目にはあるということです。
例えばその人物像を評価する際の心理的バイアス、いろんな代表的なものをここに書かせていただいているんですけど、確証バイアスっていうのが、要は物事の固定観念ですね。
例えば、採用の面接の時に「ラグビー部の主将をやっています」みたいな方がいたら、たぶんそれを聞いただけで、みなさんの中に、「ラグビー部の主将はこういう人たちだ」と。
あるいは「前職はソニーです」とか「トヨタです」とか「三菱商事です」みたいな人がいたら、「そこにいたってことはこんな人なんだろうな」みたいな、確証バイアス(コンファメーションバイアス)と言いますけど、何らかの固定観念に縛られたりするわけです。
第一印象で物事を決めちゃう人ってけっこう多いですよね。これを初頭効果と言います。最初の印象に縛られて、最初に持った印象を確かめる質問ばっかりするので、他のものが見えなくなり、結局第一印象のままの評価になってしまう。こういう初頭効果というものもよくあるバイアスの1つです。
有名なところで言うと、ハロー効果っていうのもあります。ハロー効果は「こんにちは」ではなくて、halo、後光効果は後ろの光って書いて、仏さまの後ろにあるオーラみたいな。後光効果と言ったりもします。
その飛び抜けて良いところとか悪いところに引っ張られて、すべての評価が決まってしまうということです。本当だったら、いろんな能力っていうのを小分けにして解像度を高く見ていただかなきゃいけないところを、すごく飛び抜けたところが1個あったら全部良い。飛び抜けて悪いところがあったら全部ダメみたいなことをやってしまうっていうのもよくあります。
つい「自分に似たタイプ」を高く評価してしまう
類似性効果、人事考課ではよく出てくることなんですけど、自分に似た人を好むと。逆に言うと、自分とは違う人っていうのは、本当は良い人なんだけど、そんなに評価を高くしないということですね。
ある会社が、人事評価の上司をA、B、C、D、Eに分け、部下を、A、B、C、D、Eタイプに分けます。その中で人事評価の平均点を取ったら、Aの上司はAの部下、Bの上司はBの部下、Cの上司はCの部下を高く評価するみたいな、こういうのってよく出たりしますね。みなさんの会社でもぜひやってみていただけるとたぶん出てると思います。これが類似性効果ですね。
あと、採用しないといけないというプレッシャーで評価を上げてしまう。これ、採用担当者で見てる人事の役員の方とか、社長の方とかですね。気をつけていただいたほうがいいと思うんですけど、採用担当者にプレッシャーをかけると、「やばい」となって、目の前の人が輝いて見えるわけです。
本当だったらもうちょっと厳しく見なきゃいけないのに「なんかこの人いいんじゃないかな」みたいな感じで、言ってしまうということがあったりですね。
さらに、相対的に候補者のランクづけをするっていうことです。対比効果っていう言い方もしたりするんですけど、例えばものすごい良い人の後で、中途採用でも新卒でも、その後で面接に来た人は、前の人が良かったらダメな人に見えちゃうとか。逆もあります。ものすごいダメな人が前に来たら、次の人はものすごい良い人に見えるとかですね。