【3行要約】
・デジタル変革で「リスキリング」が重要視されるなか、実際に取り組んでいる企業は少数派です。
・政府が5年で1兆円の投資を表明し、国家戦略として位置づけられている背景があります。
・実施企業の7割が成果を実感している今こそ、企業は覚悟を決めて学び直しに取り組むべきです。
リスキリングとは何か?
宮地尚貴氏:本日は大きく4点についてお話しします。近年、必要性が強く叫ばれている「リスキリング」について、まず「なぜ必要と言われているのか」という背景をお伝えします。そのうえで、実際にリスキリングに取り組んだ企業の成果や事例、さらに取り組む際に起こり得る弊害について、要点をまとめてご紹介します。
まず、「リスキリングとは何か」という点から説明します。経済産業省の定義では、「新しい職業に就くため、または現在の職業で求められるスキルの大きな変化に適応するために必要なスキルを獲得すること」、あるいは企業がその獲得を支援することを指します。
現在は時代の変化が非常に速いと言われています。例えばDXを推進する企業では、これまで手作業やアナログで行っていた業務をデジタル化していく必要があります。その変化に従業員が対応できるようにする取り組みとして、「DX研修」などがリスキリングの一例として挙げられます。
また、新規事業の開発に関する取り組みもリスキリングの対象になることが多く、こうした分野は補助金の対象になるケースも少なくありません。
これは日本だけの話ではありません。

2020年に世界経済フォーラムで「リスキリング革命」という取り組みが発表されています。つまり、世界的な潮流としてリスキリングが重要視されているということです。
日本はむしろ少し遅れて取り組みが進んでいます。2022年には、当時の総理大臣だった岸田文雄氏が、「5年間で1兆円を投資する」といった方針を表明しました。その後も、石破茂氏や高市早苗氏など、政府としてリスキリングの強化を打ち出す姿勢が見られています。
つまり、リスキリングは政府としても国家戦略の1つとして位置づけられているテーマだという印象があります。企業としても、今後取り組んでいかなければならない重要な課題になっていくのではないかと思います。2020年の世界経済フォーラムでの提言を起点に、世界全体の流れとして、いわゆる「学び直し」が大きな潮流になっていると言えるのではないでしょうか。
リスキリングが企業にもたらす価値
一般的に「リスキリングがもたらす価値は何か」という点についてですが、基本的には国策として進められていることもあり、企業にとっても従業員にとってもwin-winになると言われています。

企業側にとっては、業務効率化や生産性の向上、新規事業の開発、イノベーションの創出といった効果があります。また、人材確保の観点でも採用コストの削減につながる可能性があります。
現在は採用難の時代ですので、「今いる従業員の中でどう生産性を高めていくか」というテーマを課題としている企業も多いと思います。その中で、リスキリングが1つのきっかけになるわけです。
一方で従業員側にとっても、スキルアップやキャリア開発につながります。仕事の効率が上がることを自分で実感できると、やりがいや成長実感にもつながります。また、能力が高まることで雇用の安定性や市場価値の向上にも結びつきます。こうした点も、リスキリングが持つ価値だと考えられます。
リスキリング実施企業の70パーセント以上が「成果を実感」
では実際に、リスキリングに取り組んでいる企業はどのような成果を感じているのでしょうか。調査によると、リスキリングを実施した企業のうち、70パーセント以上が「成果を実感している」と回答しています。

具体的な成果として多く挙げられるのは、DX化による業務効率の向上、新規事業の創出、新しい領域への挑戦、そして従業員満足度の向上や離職率の低下といった点です。
最近のWebセミナーなどでもよくお話ししていますが、若手を中心に、会社を選ぶ基準として「能力開発ができるか」「自分のキャリアを広げられるか」という点を重視する傾向が強くなっています。
そのため、旧来の働き方のままでは「ここでは成長実感が得られない」「今の時代に合っていない」と感じられてしまう可能性があります。そうなると、離職や定着の問題につながりかねません。その意味でも、リスキリングによって従業員満足度が高まり、離職率の低下につながってきているのではないかと考えています。
ですので、正しく取り組むことができれば、成果は見込める取り組みだと思います。
中小企業の9割以上がまだリスキリングに取り組めていない
教育というのは、なかなか明確な効果や指標が見えにくいものですが、DX関連のリスキリングになると、業務の効率化など成果が比較的わかりやすいという特徴があります。一般的な社会人基礎研修やマネジメント研修と比べると、効果が見えやすいという点は1つの利点ではないかと思います。
ただ残念ながら、「実際にどのくらいの企業が取り組んでいるのか」というと、まだ十分に取り組めていないのが現状です。「中小企業の9割以上がリスキリングに取り組めていない」と言われています。

大企業でも、実際に取り組んでいる割合は15パーセント程度です。「取り組みたい」と考えている段階で止まっている企業が21パーセントあります。
中小企業の場合、一般的に従業員300名以下の企業を指しますが、その中で実際に取り組んでいる割合は7.7パーセントとされています。中には、「リスキリングという言葉自体を知らない」という企業もあります。ですので、今回の機会をきっかけに、まず知っていただくところから始めていただければと思います。
資料には「チャンス」と書いてありますが、「知らない」「取り組んでいない」という中小企業の割合は92.3パーセントとも言われています。逆に言えば、まだ多くの企業が取り組んでいないということです。つまり、今から始めれば先行者メリットを得られる可能性があるということです。早めに社内環境を整備することで、特に採用面でのメリットが出てくるのではないかと思っています。
もちろん、他社の成功事例が増えてから、それを参考に取り組むという方法もあります。ただ、現段階では多くの企業が能力開発や業務効率化への投資に踏み切れていないのが実情です。だからこそ、いち早く取り組むことで差別化ができます。優秀な人材の離職を防ぐことにもつながりますし、採用という点でも有利になる可能性があるのではないかと考えています。
リスキリングが進まない理由
多くの会社で、「なぜリスキリングが実行されていないのか」という点ですが、やはり一番大きいのは「忙しい」という理由だと思います。

「対応する時間が確保できない」「対応できる人材がいない」。結局のところ、「忙しい」というのが最大の理由になっているケースが多いのではないでしょうか。もちろん、「何から始めればいいのかわからない」「成功イメージが湧かない」といった理由もありますが、多くの場合は忙しさが壁になっています。
ただ、よく考えてみると、管理職の仕事も同じではないでしょうか。プレイングマネージャーとして現場で動いている方が多いと思いますが、「忙しいから、落ち着いたら先のことを考えよう」「その時に問題解決をしよう」と思っていても、実際には忙しい状態がずっと続いてしまう。
結局、どこかで覚悟を決めて、「ここでやる」と腹をくくらないと、なかなか着手できないのが現実だと思います。シンプルですが、大切なのは「やると決める」ということではないでしょうか。