【3行要約】・データに基づく意思決定は重要とされているが、経験豊富なPMでも認知バイアスの罠に陥ってしまうことがあります。
・プロダクト開発の失敗事例では、最初の意思決定の段階で固着バイアスやIKEA効果などの影響を受けているケースが多発。
・PMは「本当にユーザーに価値があるか」を常に自問し、インパクトサイジングとデータの多角的分析を徹底すべきです。
本記事では、特に反響が多くあった同イベントの2記事目を再掲します。
同じシリーズの記事はこちら よくある失敗事例から学ぶバイアスの危険性
曽根原春樹氏:今日は意思決定にまつわるバイアスを4つお話しします。みなさんにチェック項目をお話ししますので、この話を聞きながら「自分はこれにトラップされていないかな?」ということをぜひ自己問答してほしいんですね。
ということで、「プロダクトに関わる意思決定で陥りがちな、バイアスと対処方法」ということで順番にお話ししていきます。まずは、「間違ったこだわり」というところからいきたいと思います。よくある事例でちょっとお話ししますね。これはちなみに、BtoBのPMだと思ってください。
あるPMの方が「ユーザーヒアリングの結果、今度営業活動を支援する機能をリリースします。1件当たりの営業にかかる時間を大幅に減らせます」と、ばーんとプランをシェアするわけですよ。
そうすると、例えばそれを聞いたお客さんは「待ってました!」「それをすごく使いたかったんですよ」「出たらβテストに絶対に参加します」みたいに、話を聞いてモチベートされたお客さんがいたりするわけです。

いざ勢いそのままにプロダクトをリリースして、よくメトリックを見ていくと、「あんまり跳ねないね。事前の話だとユーザーさんはすごく興奮していたんだけど、いざデータを見てみると、なんかあんまりユーザーはアダプトしてくれないな」と。
「これ、どうなっているの?」ということで、いろんな人と、データサイエンティストとミーティングしたり、お客さん先の営業とミーティングしたり、あるいはマーケチームとミーティングしたり、ああだこうだと議論が続くわけですね。
結果的にどうなったか。「ユーザーアダプションが思ったより低いですね。よくよく考えると、v1(バージョン1)にはユーザーが求める機能がいくつか足りていないのが理由だと思います。なので、XとYとZの機能を作りましょう」とPMは提案をするわけですね。
意思決定レベル以上のインパクトになっていない
例えばCPOの人が「わかりました。分析ありがとうございます。基本的にはデータドリブンでやってくれたので、まずはそれで進んでみましょう。何かあればすぐ言ってくれ」と言って、背中を押してくれるわけですよ。
じゃあ、それを基にX、Y、Zの機能を作りました。メトリックを見てみると、「なんかそれでも跳ねないね。いまいち上振れしないな」という状況が得てして発生するわけです。
「ユーザーアダプションがまだまだ低いですね。ユーザーヒアリングを相当積み重ねて機能提案をしているので、正しいプロダクトを作っているはずなんですよ。なので、ちょっとマーケを強化しましょうよ」という話が今度は出てきたりするんですよ。

今度はCPOサイドは「確かにそうかもな。じゃあPMFまでもう少し粘ってみよう」という話をするわけですね。
その後、どうなったか。みなさんももしかしたら経験があるかもしれないんですけども、時間が経過しても跳ねなくて、結局サンセット(プロダクトや特定の機能を市場から撤退させること)が、得てして起こったりするわけなんですよ。
一応サンセットしたので、「とりあえず施策の学びをまとめて、プロダクトチーム全体に共有しましょう」ということで、PMの人がいろいろ文書を作ってまとめて共有しましたと。それを見た人は、「いろいろ学べたのは良かったね」「これは失敗なので、次に活かさないと」と考えるわけですね。
この一連のシナリオを見ていて、はっとする方もいらっしゃるかもしれないんですけど、「ちょっと待て。これで本当に終わっていいのか?」というところなんですね。特に僕は、ちょっとここは非常に疑問を呈したいわけなんです。
これは完全に意思決定に失敗しています。今までのフローの中で、どこで失敗していたかわかりますか? 実は何ヶ所かあるんですけども、ちょっと時間の関係で一番痛いところからいきます。どこに失敗したかというと、実は最初のところなんですよ。
「ユーザーヒアリングの結果、今度は営業活動を支援する機能をリリースします。1件当たりの営業にかかる時間を大幅に減らせます」という部分です。「この機能を作ろう」と思ったこの意思決定でアウトプットを作って、最後はサンセットしてしまったと。つまり、この意思決定レベル以上のインパクトになっていないんですね。
その問題、本当に解決に値するインパクトがあるか?
これはどういうことかというと、「ちょっと待ってくださいよ。マーティ・ケーガンさん(プロダクト・エグゼクティブ)が、『Fall in love with the problem, Not the solution.(ソリューション(プロダクトそのもの)ではなく、問題を愛せ)』と言うじゃないですか」という話は当然あります。

ですけど、実はここにちょっとトラップがあって、「その問題、『本当に』解決に値するインパクトがありますか?」ということなんですね。もちろんユーザーリサーチをすること、ユーザーヒアリングをすることは間違いなく大事なんですよ。
ここで言っている意思決定に関わるバイアスで、みなさんにぜひ覚えておいてほしいんですけど、問題に集中している。例えば、ある特定の切り口でユーザーヒアリングをしている。あるいは、そこで問題を定義しようとしている。それだけ問題に深入りしている時は、みなさんがフォーカスしている問題が、実際の重要性以上に大きな意味を持っているように感じてしまうんです。
つまり、他の問題と比べて、「俺(私)の問題のほうが絶対に重要だ」と思ってしまいがちなところがあります。これが、PMが陥りやすい「固着バイアス」と呼ばれるものです。英語で言うと「fixation bias」と言うんですけども。自分が担当している問題は、必要以上に重要に思ってしまうというバイアスなんですね。
なので、こういった固着バイアスにとらわれないためにも、「どうしたら、そもそも問題を解決することによるインパクトを大きくできるか?」。この問題の定義自体を、ぜひ試行錯誤しながら決めて、冷静に見極めてほしいんです。

このことをシリコンバレーのPM界隈では、「インパクトサイジング」とよく言うんですけども。例えば同じテーマの問題があったとしますと、定義の仕方自体が変わるかもしれないんですね。じゃあ定義の仕方を変えることによって、出てくるインパクトって変わるかもしれないんですよ。
「どういう定義の仕方をすれば、インパクトが最大になるんだろう?」という角度でぜひ問題を見てほしいんです。あるいはユーザーの声を分析したり、ユーザーヒアリングを進めたりというところですね。ということで、インパクトサイジングというのは、PMにとって非常に重要なスキルになります。