「サボっていると思われないか」を過剰に気にする社員たち
芹澤:なるほど。このあたりでテーマはトピックを変えまして、今理想は「こうあるべきだよね」みたいな話がある中で、高度経済成長期から変化してきているというところで。
やはり理想と現実のギャップがあるのが、今日本の人事が置かれている状況かなと思うんです。じゃあ、この現実側に目を向けた時に、その変化にうまく適応できていないことから、どういう具体的な課題が起きているとお二人の目からは見えますか。日本の人事の現場で実際に起きている課題感みたいなところですかね。
伊藤:大前提の話をすると、最近気づいたんですけど、日本はオペレーショナル・エクセレンスだけど、なんで他のところはめっちゃ不得意なんだろうって思ったんですよ。
これ、話の流れとちょっとずれるところあるかもしれないんですけど、要は、事業を作っていく上ではビジョンを描くわけですよ。まず、こうしたいというビジョン。だから、それは目標でもあるんだけど、それをちゃんとかたちにしていこうというストラテジーが必要です。
ビジョン、ストラテジー、それを実行していくためにはオペレーションなんですよね。日本はここしかできないとよく言われます。「ビジョナリーじゃない」「ストラテジーがない」。これ、なんでかって考えたら最近わかったんです。
日本ではもう、「こういう未来を作りたいよね」って夢みたいな話をすると「そんな夢みたいな話していないで、仕事しろ」とか言われるわけですよ。
芹澤:(笑)。つらい、現実ですね。
伊藤:僕のチームの人間が「江ノ島の海辺沿いでぼーっと考えます」とか言っていたんだけど、他のメンバーが「いや、これをやっているとサボっていると思われるからちょっと」って言っているから「いいんだ。だってビジョン、これを成したいんだって考える仕事じゃん」って言ったんですよ。そしたらチームの人間が「ですよね」みたいな感じで。だから、ある意味日本の社会ではそれはもう禁止されているわけですよ。
芹澤:ちょっとタブー視されていますよね。
仕事とは「作業をすること」ではない
伊藤:で、今度は戦略がどうとか「これさ、こうやって組み立てていくと、これで敵を出し抜いて、ここショートカットしたら最高に成長するんじゃないか」って言った日には、これ親が子どもにも言ってんだけど、会社とかで「そんなズルすること考えないで仕事しろ」とかって言うわけですよ。
いやいや、ビジョンを考えるのも仕事だし、ストラテジーを考えるのも仕事だけど、じゃあ何ですかと。「仕事ってこうやってカチャカチャ作業することですか」みたいなのがはびこっているんですよ。
結果、カチャカチャ作業してオペレーションするというオペレーショナル・エクセレンスの国になってしまうというね。
芹澤:興味深い。
伊藤:これは構造的な問題なんですよ。だから、そこを打破しなきゃいけないんだけど、「だから仕事って何なの」と、「なんか作業するのが仕事ですか」っていうと、作業するのが仕事だったらそれでいいんだけど。でも今、「ビジョンがない」とか「戦略もない」って、みんな言うわけです。
だとしたら、好きなことをやればいいんだ、チャレンジをすればいいんだって。まさにそういうことでやるっていう。これ、話し出すと、文化とか歴史とかそういう話になってくるんでね。でも、やはり大元にあるのはそこだと思いますよ。
芹澤:やはり成果を時間で測ってしまいがちなのが、いまだに抜け切れていないってことですよね。
伊藤:サボらないでやっているとか。
本音を隠して「完璧な組織」に見せようとしていないか?
芹澤:勤勉がゆえのところなんですかね。メイさんはこのあたりどのようにお感じでしょうか。
メイ:今の質問が課題についての話だったので。私は、日本企業は特にそうですけど、本音を言わないところだと。
本音を言わないというのは何かというと、今お話にもありましたように、理想を言うんですよ。うちの商品とかうちのサービスがこんなにいいんだと。それは本当かもしれないけど、どこの企業でも課題がありますよ。Apple社だろうがどこだろうが、課題は必ずあります。
なので「いや、うちは完璧じゃないんだ。まだ学びの一環としてみんなの、新しい社員とかの力が要るんだよ」と言えることによって(新しい社員が)「俺は完璧の組織に入っちゃうんだったら、めげちゃうな」みたいな、「そうじゃないんだ」と。「我々もまだ途中段階なんだ」ということを言う。
例えば私も新日本プロレスの会社説明会を行った時に、普通は「売上がこんなにあるんですよ」とか「こんなにすばらしい商品ですよ」みたいなことから始めるじゃないですか。私は最初に「この会社の良いところ」みたいな感じで、「意外としっかりしている会社です」と出しました。
「意外と」っていうと「イメージと違いますよね」と(言われます)。「そうなんです。私もそう思いました」と。意外としっかりしているということは、完璧じゃないということです。
芹澤:良い言葉ですね。
メイ:「課題もいっぱいあります。だからあなたの力を借りたいんだ。仲間になってくれ」みたいな、そういう本音の話をもう少しすればいいのになと思います。
芹澤:本音はそうですね。でも、さっきの羊一さんの「夢を語れない」のと同じな気がしています。やはり課題というのは理想と現実のギャップから作られてくるわけなので、課題がない時は理想が低い可能性もありますから。そういう時に本音で夢を語って、理想を引き上げていくのはある種、課題の定義につながるのかなって、さっきのゴール設定にもつながっていくように思いました。