【3行要約】・多くの中小企業で管理職の役割が曖昧なまま組織運営が行われ、30人に1人しか自分の職責を明確に説明できないという現状があります。
・PDCAの学校代表の浅井隆志氏は、大企業の社長と中小企業の経営層では教育に対する姿勢が大きく異なると分析。
・管理職を「会社の代弁者」として8つの心得で育成し、社長の思考を組織全体に浸透させる仕組みの構築が急務だと主張します。
前回の記事はこちら 社長の考えを6割再現できる組織は強い
浅井隆志氏:何でもかんでも社長が細かく考え、すべて指示を出している状態ではスピードも出ませんし、社長の考えを超えるものが現場から上がってくることもありません。
順序があります。まずは社長の考えを役員や管理職にしっかり落とし込む。その考えや役割が6割、7割できるようになったら、主体性を持たせていく。
私は、100パーセントのコピーは難しいと思っています。自分の考えを十分に伝えても、6割、7割くらいだと思います。残りの3割、4割は、その人の努力や価値観で埋められる部分です。そこに、社長では思いつかない発想やアイデアが生まれる余地があります。
ですから、まずは分身をつくるつもりで、自分の思いや考えをトップ層がしっかり下ろしていく。ここが非常に大事になってくるのではないかと思います。
ちなみに、他にもデータがあります。社員教育、つまり能力を高めていく取り組みです。今、人的資本経営が盛んに問われていますが、人に対するアプローチが重要です。

役員教育もそうですし、教育といっても研修だけを指しているわけではありません。社長が思いを伝えることも教育だと私は考えます。
外部の教育研修、社内の勉強会、セミナーへの参加、上司が社内で教えることや思いを伝えることも含め、すべてが教育です。こうした取り組みを行っている企業と行っていない企業では、業績に大きな差が出ています。
OJTは社内で行う教育施策、OFF-JTは外部の教育訓練機関を活用する研修です。計画的な研修を実施している企業の売上高増加率は5年間で9.5パーセントとされ、未実施企業の約2.8倍です。

設備投資も重要ですが、人に対する投資も同様に重要です。これは「うちの研修に出してください」という話ではありません。人に対する投資とは、思いや考えを伝えること、「うちの会社の部長のあるべき姿はこうだ」と明確に示すことも含みます。こうした人材投資をぜひ行っていただきたいのです。
係長・課長・部長の違いを説明できる管理職は30人に1人もいない
今の話を整理すると、管理職に対して定期的に会社の方針や思いを伝えられているかどうかが重要です。「うちは年度計画を全社で年1回発表しています」とおっしゃる企業もあります。しかし、年1回伝えただけで、それを毎日意識し続けられるかというと難しい。人は忘れてしまいます。
ですから、定期的に呼び覚ます仕組みが必要です。社長が定期的に伝えるのか、仕組みとして意識できる場をつくるのか。管理職の役割を明確にし、言語化できているかどうかは非常に重要です。
私は研修の受講者の方に、「あなたは課長ですが、課長と部長の違いは何ですか」「課長と係長の違いは何ですか」とお聞きします。明確に答えられる方は、30人に1人いるかいないかくらいです。ほとんどいません。つまり、自分の役割が明確でない管理職がかなり多いのです。
その状態で管理職として、組織として機能できるかというと、やはり難しい。管理職が機能していなければ、当然部下を育成できる状態にもなっていません。採用しても放置状態になってしまいます。
特に最近の若手は、「自分で考えて動く」というよりも、まず教えてもらうのが当然という感覚があります。これは良い悪いの話ではありません。きちんと教えれば優秀なので、ちゃんとやってくれます。
ちなみに、私は2026年で50歳になりますが、昔は上司が介在するのが嫌でした。勝手にやらせてほしいという感覚でした。昭和型のマネジメントは、部下に好きにやらせて、問題があったら上司が後始末をして、飲み食いの面倒を見るというスタイルで機能していた面があります。
しかし、今は逆です。自由にやらせるよりも、きちんと管理してほしい、教えてほしいというのが若手のニーズです。一方で、「飲み食いまで時間を共有したくない」という声もありますが(笑)。
教育を受けてきた社長と、受けずに昇進した経営層の違い
いずれにしても、管理職が部下を育成しなければ組織は成長できません。ここが進まない理由の1つに、大企業の傾向があります。
大企業の社長は、新卒で入社して30年、40年と経験を積み、役員を経て社長になるケースが多い。新入社員研修、主任研修、係長研修と段階的な教育を受け、成果を出して社長になっている。だから教育の重要性を実感しており、教育を行うのです。
一方で、私のように中小企業で歩合制の営業をしてきた場合、会社の研修がなかったため、そのまま管理職や経営層になると、「研修なんて意味がない」と感じてしまうこともあります(笑)。私は営業時代から自分で勉強する習慣があったので、学ぶことの重要性に気づきました。だから、社員にもさまざまな研修や学習の機会を与えています。重要だとわかっているからです。
今の管理職が、教育訓練を受けて管理職になったのか、それとも受けずに昇進したのかによって、育成に対する熱量は変わります。しかし、今の時代、若手は「ちゃんと教育してください」と求めています。それがなければ、「この会社では成長できない」と言って辞めてしまうこともあります。この点を見直す必要があると私は思っています。
管理職が“会社の代弁者”になれない組織は弱い
参考までに、私たちが管理職の方にお伝えしている「管理職の心得」をご紹介します。私が作ったものです。

まず、「企業の理念を常に心得よ」。トップや経営者層が何を考えているのかを常に意識するということです。
次に、「会社側の立場であることを心得よ」。部下に寄り添うことは大切ですが、言いにくいことを「俺も納得できないけど、上が言うからさ」と言ってしまう管理職がいます。それは違います。管理職は会社側の立場であるという自覚が必要です。
「会社の所有者は株主であると心得よ」。経費は株主の財布から出ているという意識を持つということです。「会社の問題は自分の問題であると心得よ」。いわゆる当事者意識を持つことです。「上にも下にも指摘は面談ですべきと心得よ」。最近はハラスメントの問題もありますから、個別にきちんと伝えることが重要です。
「ないからデキナイは、あってもデキナイと心得よ」。条件が整えばやるという姿勢ではなく、やる人はやるという意識を持つことです。「忙しいのは当たり前、忙しいからこそタイミングと心得よ」。暇になったらやる、余裕があったらやるという発想では、結局やりません。
「自責的行動を伴わない意見はただの愚痴であると心得よ」。「こうしたほうがいい」と言うだけで、自分は何をするのかがない意見は、批判や愚痴になります。
こうした心得を、うちの社員にも伝えていますし、ご要望があればクライアント企業の管理職にもお伝えしています。みなさんの会社でも、管理職はどうあるべきか、具体的な業務役割の定義をより細かく設けていただきたい。そして、そのあり方をトップ自らが発信していくことが重要だと思います。
100億円達成企業が重視する“社長の分身づくり”
ここまでまとめますと、売上規模ごとに組織の課題としての壁があります。

パフォーマンスの高い人だけを50人、100人、200人と集められれば理想ですが、現実的にはなかなか難しい。
人を採用すればするほど、いわゆる「262の法則」のように、よくがんばる人、そこそこの人、成績が振るわない人という割合が保たれてしまう傾向があります。上位2割だけで人数を増やせば倍々に伸びるかというと、そうではありません。だからこそ組織化し、倍々に伸ばせる体制をつくる必要があります。
今、私どもがコンサルティングしている企業さまもそうですが、一時的に売上が伸びても、組織化ができていなければ戻ってしまいます。瞬間風速は出せても、継続できないのです。
また、育成に投資している企業ほど売上が増加しているという傾向もあります。外部研修に限らず、人に対するアプローチをしっかり行っている企業は、結果として売上を伸ばしています。
100億円を達成している企業の経営者にお話をうかがうと、「自分の分身をつくることに注力した」という答えが非常に多い。分身となる管理職が組織成長の鍵を握りますが、プレイヤー業務から脱却できていない傾向があります。ここを打破することが重要な施策になります。
今日の話の中で、自社にも思い当たる点があると感じられた部分から着手していただくことが、100億円達成に向けて重要な観点ではないかと思っています。