【3行要約】・管理職が機能しないという問題は多くの企業で深刻化していますが、その原因は個人の能力不足ではなく組織構造にあります。
・96.9%の部長がプレイング業務を兼務する現実の中、トップマネジメントが適切な育成を行わないことが根本的な課題として浮上。
・経営層は管理職の役割明確化と教育体制構築、そして自らの思いを浸透させることで「社長の分身」を育てるべきです。
前回の記事はこちら “部長でもプレイングマネージャー”は96.9パーセント
浅井隆志氏:(売上規模が拡大するにつれて)いろいろな壁を乗り越えていかないといけません。属人化の解消から仕組み化へ、さらに主体性を持たせて権限委譲していく。このステップを進めるうえでの大きな弊害の1つが、プレイングマネージャー制度です。
ただ、誤解していただきたくないのは、僕は「プレイングマネージャーをやめましょう」と言っているわけではないということです。大企業を含めても、部長クラスのプレイングマネージャーの割合は96.9パーセントです。

ちなみに弊社は今、北陸の1,000名規模の企業さまで教育や制度設計を行っていますが、社長や役員以外で専任のマネージャーが何人いたかというと、3人しかいませんでした。1,000名規模で専任マネージャーは10名足らず、それ以外はほとんどがプレイングマネージャーです。
まずその現実を理解する必要があります。課長や部長になっている方はたいてい優秀ですから、「プレイングの仕事をしなくていい」と簡単には言えない現状があります。切り離せれば理想的ですが、実際にはなかなか難しいのです。
抽象概念を“現場の具体”に翻訳するのが管理職の仕事
ここでいったん、みなさまにご質問です。

管理職をどう変えていくのか、どう成長させていくのか、管理職を機能させるために、みなさまの会社では何かしらアプローチをされていますでしょうか。
また、管理職が発する言葉は、経営者と同じ言葉になっているでしょうか。もう少し言えば、軸が通っていて、管理職なりの解釈やわかりやすさで翻訳できているでしょうか。経営者は、会社の方針や思い、考えなどの重要なことをどちらかというと抽象的に伝えます。経営目的や理念、ビジョンは抽象的につくるものです。
これは抽象的でよいのです。なぜなら、時代が移り変わっても普遍的な価値観として運用できるように、その時々の解釈で活かせるようにするためです。少し抽象的に打ち出すのが会社の理念です。
よく管理職の方から、「うちの会社の理念やビジョンは抽象的でわからない」と言われますが、抽象的な概念を現場に落とし込むのがあなたの仕事ですよね、という話を私はよくします。管理職がその役割を果たせているかどうかが問われます。
少し批判的に聞こえるかもしれませんが、私どものところに「管理職が機能していないので、教育していただけませんか」というご相談が多く寄せられます。もちろん、それを仕事としてお受けしますので「わかりました」と対応しますが(笑)、正直に申し上げると、管理職を育てるのはトップの仕事です。トップマネジメントがミドルマネジメントを育てていないから、管理職が機能していないのです。
「うちの管理職はだらしない」と言われますが、それはだらしない管理職をつくったトップの責任です。ここをどう変えていくのかが、非常に重要になってきます。
管理職が動けない理由は「役割の認識不足」
もう少し具体的に言うと、管理職が動けない理由は何か。これはぜひ、みなさんの会社でも取り入れていただける部分だと思います。
1つは、役割の認識不足です。

管理職に求められていることを理解していない方が非常に多い。私は全国で管理職研修を行い、個社対応でもさまざまな研修を実施していますから、管理職の方と接する機会が多いのですが、「あなたの役割は何ですか」と聞くと、「業績をつくることです」と答える方が多いのです(笑)。
もちろん間違いではありません。しかし、チームをうまく回すことや、チームで成果を上げるために育成するといった視点が抜け落ちていることが多いのです。部長の役割、課長の役割、係長の役割、主任の役割が明確に定義され、それが浸透しているかどうかは非常に重要です。
その定義がないまま管理職研修を行っても、意味がないとは言いませんが、「うちの管理職にはこうなってほしい」「あなたは部長なのだから、ここを担ってほしい」といった期待が明確に伝わっていなければ、なかなか動きません。
管理職教育やOJTを実施する企業の少なさ
それから、日本企業のよい面でもあり課題でもあるのが、スライド型で昇進していく仕組みです。プレイヤーからマネージャーになるという流れです。
生え抜きで管理職になることは、会社や商品、サービスを熟知しているという意味では大きなメリットがあります。しかし、プレイヤーの仕事とマネージャーの仕事はまったく別次元です。ですから、マネージャーに対する知識教育やスキル教育が必要になります。
例えば新入社員が入ってきたら、新入社員研修を行い、その後は先輩や上司が横についてOJTをしますよね。ところが、管理職になってOJTを受けるというケースは、ほとんどありません。私は1件も見たことがありません。
管理職教育を外部研修で行っている、あるいは社内で実施している企業は2、3割ほどある印象ですが、OJTまでやっている企業はありません。正直、OJTレベルまで踏み込まないと、本当の意味では身につきません。
現場が忙しい時が「未来をつくる」タイミング
それからマインドの問題です。管理職研修で「御社の経営課題は何ですか」「解決しなければならない組織課題は何ですか」と聞くと、具体的な問題が出てきます。「どうやって解決しますか」と聞けば、解決策も出てきます。そこまではいくのです。
では「なぜやらないのですか」と聞くと、「忙しくて」と返ってきます(笑)。理由はほとんどそれです。

忙しい。私は管理職の方に、忙しい時こそ会社を改革するチャンスだとお伝えしています。社内の文化として、「忙しかったのでできませんでした」という言い訳を許していないか、あらためて確認していただきたいのです。
「暇ならできるのか」という話でもあります。企業が暇になるのは、業績が厳しい時です(笑)。仕事がない時に「未来をつくる仕事をしよう」「教育をしよう」「評価制度をつくろう」とは、なかなかならないものです。結局「業績を上げるぞ」にフォーカスします。
だからこそ、現場を回すのが忙しい時こそ、未来をつくるタイミングです。その自覚を持って優先順位を考え、スケジュールを組み、どれだけ忙しくても未来をつくる仕事をやっていく必要があります。
「忙しい」が言い訳になる組織の根本原因
「忙しい」を言い訳に未来をつくる仕事をしない根本的な原因は何か。会社の方針や経営者の思い、考えが、十二分に伝わっていないことです。ここに尽きます。
簡単に言うと、「やらなきゃな」で終わってしまっているのです。「やらなきゃな。でも忙しいしな」と。この「やらなきゃな」の重要度が、管理職の中で低いのです。重要度を高めなければいけません。
例えば、社員に「明日、会社にハンカチとティッシュを持ってきてください」と言ったとします。みなさんの会社では何パーセントが持ってきて、何パーセントが忘れるでしょうか。100パーセント持ってくる企業はすばらしいですし、今日のセミナーは不要かもしれません(笑)。おそらく何人かは忘れますよね。
では言い方を変えます。「明日、会社にハンカチとティッシュを持ってきてください。持ってこなかったら賞与ゼロ、持ってきたら賞与2倍です」と言ったらどうでしょう。おそらく全員持ってきます。なぜか。ハンカチやティッシュを持ってくることの重要度が、一気に上がるからです。自分にとって重要だからやるのです。
同じことです。「管理職としての仕事をしてね」と言われる。管理職の仕事の定義は企業によって違いますが、一般的にはチームで業績をどうつくるか、チームワークやチームビルディングをどう進めるか、個々の能力をどう指導・育成するか。
さらに労務管理や、ハラスメント、メンタルケアといった保護管理の責任もあります。これらをやらなければならないという重要度が高まっていないから、やらないのです。「忙しい」を言い訳にしてしまうのです。
理由は「だらしないから」ではない
では、どうやって重要度を高めていくのか。やはり、「会社を今後どうしていきたいのか」「なぜこの事業をやっているのか」という経営者層の考えが、管理職に十分浸透していないから、重要度が上がらないのです。だから、いつまでもやらない。

理由はだらしないからではありません。重要度を高められていないのです。管理職にしっかり伝われば、そこから伝播して全社員に浸透していきます。
理念やビジョンは、業績と明確な因果関係があるのではないかと私は思っています。図としては相関関係かもしれませんが、会社の方針や思い、考えが伝わっている組織と、そうでない組織では、明らかに違いが出てくるでしょう。
もちろん、浸透していなくても業績がよい企業もありますし、浸透していても低迷している企業もゼロではありません。ただ、割合で見れば、浸透している企業のほうが順当に進んでいる可能性は高いはずです。

結論として、みなさんにやっていただきたいのは、社長の分身をつくることです。