【3行要約】
・企業成長において売上拡大は注目されがちですが、10億円、30億円、100億円の各段階で組織マネジメントの「壁」が立ちはだかります。
・中小企業では優秀なプレイヤーがそのまま管理職になる「プレイングマネージャー」問題により、マネジメントの仕組み化が進まない現状があります。
・持続的成長には、属人的スキルから脱却し、3階層のマネジメント体制確立と権限委譲による組織の自律化が不可欠です。
売上10億円前後で立ちはだかる“組織化の壁”
浅井隆志氏:では、さっそくですが、なぜ多くの企業が「100億円を目指すぞ」と言いつつ、なかなか障害や壁が多いと感じるのか。みなさんも感じられているのではないかと思います。これは一般論ですが、よく10億円、30億円、50億円、100億円といった売上規模が語られます。社員数も10人、30人、50人、100人というように例えられます。

まず10億円です。これは業種によって当然違います。サービス業なのか、私どものような事業なのかで意味合いが変わります。私どものような事業で10億円というと、やり方によっては経常利益を5億、6億円出せることもあります。一方、製造業で10億円の場合、経常利益率が1パーセントということもありますから、内容はまったく違います。
ですから、「何億円」という区切りがすべて紋切り型で語れるかというと、少し違います。そのうえで一般論として申し上げると、だいたい10億円くらいの規模になると、組織化の壁が出てくるというのが、私が見て感じているところです。
簡単に言うと、一般的な企業さまで10億円くらいまでは、志や情熱があって、「エイエイエオー!」みたいな戦闘力の高い人を数人集めて売上をつくっていく、そういうフェーズなのではないかと思っています。
中小企業の「プレイングマネージャー」問題
その先に進むと人が増えてきますから、やはりマネジメントをしていかないといけません。これは僕自身もそうだったのですが、僕は営業経験がけっこう長いんです。
よくあるケースとして、日本企業全体に言えることですが、プレイヤーとして優秀で成果が出て、社歴を重ねていくと役職に就きます。多くの会社がこのパターンだと思います。マネジメントを任されるようになり、部下を持つようになります。
リーダーシップがありそうだからとか、マネジメントができそうだからマネージャーになるのではなく、プレイヤーとして優秀だからスライドして管理職になっていく。こういうパターンが多いのです。
大企業ですと、管理職になるのにさまざまな試験がありますが、中小企業の場合はだいたいスライドで上がっていきます。いわゆるプレイングマネージャーながら、プレイヤーの仕事に固執してマネジメントができていない。だから組織化が進まず、なかなか次のステージに行けない。これがまず最初の壁にあるのではないかと思います。
マネジメントを“個人の腕”に頼る組織の限界
これは業種や業態によって売上規模や人数規模は変換しながら聴いていただきたいのですが、第2の壁になると、今度はマネジメントをいかに再現性をもって回していくかという段階になります。
つまり、マネージャーや管理職で非常に優秀な方が、その人の属人的な能力やセンス、人格やキャラクターで成果を出しているのか、それとも会社として「マネジメントはこうあるべきだ」という型が確立され、それが仕組みになっているのか。ここが次の壁ではないかと思います。
第3の壁は、いわゆる部門です。セクションや部門と呼ばれる単位で、主体的に判断がなされるかどうかという点です。自分たちの部門として、全社で方針を実現するためには、もっとこうしたほうがいいのではないかという意見が出てくる状態です。トップダウンで全部を下ろさないと動かない組織ではなく、部門自体が自律していくことが求められます。
ここを越えていくには、部門長が部門の切り盛りについて主体的になっていくフェーズに入るのではないかと思います。最終的には、判断のスピードを高めるために権限委譲を進めていく必要があります。これも一般論ですが、100名を超えると分権化していかないといけないと言われます。
ただ、私の知っている非常に成功している企業経営者の中には、300名まではワンマンでいけるとおっしゃる方もいます(笑)。ですから、中央値としてはだいたいこうした流れになるという程度で捉えていただきたいと思います。もちろん、これに当てはまらないケースもあるかと思います。
属人化が武器になるフェーズと仕組み化が必要なフェーズ
現場で何が起こるかというと、成長期に入り、売上がどんどん伸びて、とにかく業績をつくるぞというフェーズになります。黎明期から成長期に上がっていくと、当然人が足りなくなりますから、採用を一生懸命進めていきます。

ただ、この「売上を上げるぞ」というフェーズでは、やり方をマニュアル化しないほうがいい場合もあります。なぜかというと、「こうしたほうがいい」という型がまだ確立していないからです。いろいろな試行錯誤を重ね、それぞれの独自のやり方に任せながら、成功モデルや成功パターンを模索していく段階だからです。
つまり、属人化が武器にもなっているし、一方で将来の成長の足かせにもなり得る。その両面が同時に起きている状態です。次のフェーズに進むには、その時の強みだったものが、今度は弱点になる可能性が高い。そこをひっくり返していくことが重要になります。
好調期には、「人を増やそう」「ある程度採用コストをかけよう」「人件費をかけられるから人を増やそう」という状況になります。しかし、意外と生産性の高い人材を採用できなかったり、離職の問題が出てきたりします。
売れる人10人、売れない人40人の組織が陥る“成長の罠”
さらに低迷してくると、売れる人と売れない人の差がはっきりしてきます。本来であれば、売れる人を30人、50人と増やせればよいのですが、売れる人が10人で、売れない人が40人というようなアンバランスが生じることもあります(笑)。そうなると、やはり停滞していきます。
「おかしいな、成長期の時は、みんなある程度数字をつくっていた。この人数を増やせば売上も倍々になるはずだったのに、人を増やせば増やすほど、売上は一見伸びているけれど、利益率が落ちている」といった状態に入っていきます。
混乱が始まると、再び売上至上主義になりがちですが、結果として主体性の欠落、いわゆる指示待ちの状態が広がっていきます。採用の問題も一因かもしれませんが、「みんなで攻めるぞ」という状態から、いつの間にか「待ち」の人間が増えていきます。
最終的には、社長や経営者層が一人ひとりに細かく指示を出さなければならなくなります。「昔は自由に任せていて、みんなが伸び伸びとやっていたのに、今はなぜいちいち口を出さなければならないのか」という状況になり、トップ層の負担が非常に大きくなります。結局、社長がめちゃめちゃ大変になるということです。
これは、僕自身も正直経験しています。うちの会社は教育する側ではありますが、医者の不養生のようなもので、「いけいけどんどん」で組織が膨れ上がった結果、自分の仕事もそれに伴ってどんどん増えていく、ということを過去に経験しました。
トップ・ミドル・ロワーが機能しない組織の構造
ちなみに、組織の階層について一般論としてご説明しておきます。マネジメントは大きく3階層に分けられます。トップマネジメント、ミドルマネジメント、ロワーマネジメントです。

トップマネジメントとは、経営目的や経営理念を達成するために、戦略を定める役割です。どの市場に進出するのか、景気がこうだからこう攻めるのか、市場の選択やターゲットとなるお客さまの層をどう設定するのか。マーケティングの言葉で言えば、セグメンテーションやターゲティングを行うということです。簡単に言えば、大きな方針を定めていくのがトップマネジメントです。
いわゆる中間管理職が担うのがミドルマネジメントです。会社が打ち出した方針を、それぞれの部署や部門でどう具体的に実現していくのかを考えます。どのような計画で進めるのか、その部門としてどんな戦略が必要かを整理し、行動計画、アクションプランを作っていきます。
ただ、中小企業においては、この部門ごとの計画づくりを、トップが数字だけ下ろして終わらせてしまったり、あるいはトップがミドルマネジメントの仕事まで含めて担ってしまったりするケースが多いのです。
ここをうまく切り分けないと、トップマネジメントは本来、会社としてどう生き残るのか、どう勝っていくのかという戦略を深く考えなければならない立場であるにもかかわらず、部門ごとの事業計画や人材配置まで考えることになり、戦略を考える時間がなくなってしまいます。
部署の成果は管理職の器で決まる
ロワーマネジメントというのは、いわゆる現場で働く方の上長にあたります。主任クラスの方々です。ただ、ミドルマネジメント層の多くがプレイングマネージャーであるため、ロワーマネジメントの仕事も担い、場合によってはプレイヤーとしての業務も行うことになります。
100名未満くらいの企業ですと、トップマネジメントがミドルマネジメントやロワーマネジメントだけでなく、プレイングの仕事まで担っているケースもあります。ちなみに、うちの会社は20名足らずです(笑)。僕は経営者ですが、ミドルマネジメントも行いますし、ロワーマネジメントはある程度任せているものの、どちらかというとプレイングの仕事はまだ僕が担っています。これはよくある話ではないかと思います。
こんな言葉があります。「会社の器は社長の器」。みなさんも聞いたことがあるかもしれません。次の2つは僕の造語ですが、「部署の成果は管理職の器」「社員の能力は管理職の力量」。

社長の考えをどう反映させていくのかを考えると、トップや経営者層と現場で働く方の間には管理職がいます。管理職が機能しなければ、思いや方針、危機感や当事者意識も浸透しません。ここをどうしていくのかが重要です。
100億円達成後の失速事例
実際に、私どものクライアント企業の事例をご紹介します。100億円宣言が出る前から100億円を目指していた企業で、順当に30億円に到達し、少し停滞し、50億円に到達し、また少し停滞し、そして数年前に100億円を達成しました。

しかし、その後どうなったかというと、100億円から売上が下がってしまいました。「下がってしまったので、なんとかしてください」というご相談をいただいたのです。
なぜ下がったのかを分析していくと、先ほどお話ししたように、仕組み化や権限委譲までができていなかったのです。勢いでとにかくドンと伸ばして、停滞して、またドンと伸ばして、「達成した」となった。しかし、仕組み化や再現性のある組織づくりができていなかったため、結局戻ってしまった。今はそこを再構築しているところです。
この企業さまの現在の目標は、100億円に到達することではなく、100億円を継続できる組織にすることです。そのために、さまざまな施策を進めています。