【3行要約】・コーチングは単なるテクニックではなく心理的リソース効率を高める方法論ですが、表面的な導入では効果が出にくい問題があります。
・株式会社コーチェット代表取締役の櫻本氏によれば、現代のチーム環境では隠れた心理的消耗が多く、本質的な対策が求められているとのこと。
・櫻本氏はリーダーは「見立て力」と「影響力」を磨き、4ステップの心理的リソース管理を実践することで、チームの成果向上を目指すことを提言します。
前回の記事はこちら 「サイパ」を高める心理的リソースの活用術
櫻本真理氏:そしてステップ3「使い道を見直す」。1つ、大切な概念をお伝えします。チームの「心理的リソース効率」というものを考える必要があるわけですね。これを「サイパ」と呼んでいます。Psychological Resource Perfomanceの略です。

コスパ、タイパのようなかたちでサイパと言っているんですけれども、サイパというのは、何か心理的リソースを使った時に生まれている価値に対して、心理的リソースを消費している量のことです。
例えば、すべてのメールでチーム全員をCCに入れておくのは、ぜんぜんコスパもタイパも悪くないわけですね。ただCCに入れるだけなので楽なんです。
でも、実は受け取っている側では「これ、気にしといたほうがいいのかな」「これ、読んでおいたほうがいいのかな」というかたちで、ちょっと不安やザワザワ感が生まれます。
そうすると、(そのCCに入れられているメールを)見ることによって生まれる価値はそれほどない一方で、心理的リソースをけっこう消費しているわけです。
実は、こういう隠れた心理的リソースの消費がチームの中にはたくさんあります。完全な無駄ではないんだけど、実は価値につながっていない心理的リソースの使い方を止めていく必要がある。
そして、わからなくていいこととか、コントロールできないことを線引きして、とにかく解決しないと前に進めない問題とか、目標達成につながることに心理的リソースを集中的に投下していって、心理的リソース効率、サイパを上げていくというのがステップ3です。
心理的リソースの増減を左右する要素
そしてステップ4。心理的リソースというのは、その変動の背景に「願い」があります。例えば、顧客に喜んでもらいたいと思っていない人にとって、顧客が喜ぶかどうかってあまり心理的リソースに影響がないわけです。

一方で、顧客に喜んでもらいたいという願いがある人にとっては「顧客が喜ぶ/喜びそうだ」という期待が生まれると心理的リソースは増える。一方で「顧客が不満を抱えそうだ/不満を抱えている」という現実・期待が生まれると、心理的リソースは枯渇するということが起こります。
だからこそチームと個人の願いを発見し、その「ずれ」を揃えて、共に(願いを)叶える関係性を生み出していくことが、エネルギーを増やしていくことにつながります。

ステップ1から4で、心理的リソースをどのようにマネジメントしていくのかということをお伝えしてきました。ここで最初のテーマに戻ります(笑)。
コーチングはなぜ「心理的リソースの最大活用」に効くのか。これはステップ1から4、それぞれにコーチングが良い効果を発揮していくことができます。
コーチングが心理的リソースを管理する4つの効果
例えばコーチングは、メンバーとチームの現状把握に役立つわけですね。コーチングは傾聴を中心とした、しっかりと話を聞くコミュニケーションです。相手との信頼関係を築き、相手が何に消耗しているか、どんな価値観を持っているかを把握することができます。

そしてコーチングはステップ2、メンバーの心理的リソースの消耗を止めることにも役立ちます。具体的に何によって消耗しているのかに気づくことができれば、「その消耗を止めるために、一緒に何をしていけるのか」ということを考えることができる。今、チームのメンバーに起こってる「わからない」を減らすとか、正しい消耗要因にアプローチすることができる流ようになります。

そして心理的リソースの消費に限らず、対話を通じて、なぜできないのかということの背景を探ることもできます。例えばプレゼンができないという事実があったとしても、なぜできないのかには多様な理由があるわけですね。それに正しく対処をすることができるようになるためにも、やはり対話が大事です。

そしてステップ3、コーチングはメンバーの心理的リソースの使い方を見直すことに役立ちます。そのことによって思考と行動の質が上がる。

つまり、コーチングの中では「今のゴールはどこだっけ」「今の現状は何だっけ」、そして「何をすべきだっけ」という対話を行いますので、思考と行動の質が上がり、ゴールにひもづいた行動が動機づけられて、そこにリソースを配分できるようになるということです。
そして最後にステップ4、コーチングはメンバーの心理的リソースを増やすことにも役立ちます。コーチングが信頼関係を生み出し、願いを扱うことによって、関係性の中で生まれる心理的リソースは増えるわけです。

メンバーの価値観・願いをしっかりと聞いてそれを尊重できるようになるとか。「大切にしてもらってるな」という実感を持ってもらったり、自己効力感を高めてもらったり。こういうことを通じてコーチングは成果を生み出します。
表面的なコーチング導入がうまくいかない理由
このように、コーチングは本来、心理的リソースの配分・最適化を通じて成果に直結するはずのものなんですね。でも、コーチングが役に立たないと思っている組織があるとしたら、それはおそらく表面的な関わり方だけを変えて、背景にあるメカニズムを理解していない。
なのでメンバーの心理的リソースが守られていなかったり、逆にコミュニケーションのHowに意識が向きすぎて、期待や評価が曖昧になってうまく伝えられなくなる。
ティーチングや評価ができなくなったり、フィードバックができなくなって、メンバー側からするとわからなさが増す。あるいは、そもそも何のためにやっているかわからないし、効果も出ないのでリーダー自身が消耗していく。
こういうことが起こると、コーチングの組織導入はうまくいきません。冒頭に出てきたような「コーチングなんて、忙しくてやってられませんよ」「成果が見えにくいです」といったことが起こってくるんですね。

ただ、先ほど申し上げたとおり、これは本当にエビデンスとなる論文がいくらでもあるものですけれども。本来、コーチングの効果というのはチームの成果そのものなんですね。コーチングを導入したチームは成果、アウトカムが増えているというメタ研究がたくさんあります。
それが起こるメカニズムというのは、先ほどの心理的リソースのメカニズム、それから自分が与えている影響、課題についての認識。これらを正しく認識することでリーダーの行動が変わり、そしてリーダーの行動が変わるとメンバーの心理的リソースの使い方が変化し、目に見える効果が出るというルートを辿っていきます。
コーチングの効果と成果までの時間軸を理解する
ただし、これが機能するためには、そのメカニズムをしっかり理解して、時間軸のずれを認識する必要もあります。単に正しく理解しただけでは成果は出ません。
正しく理解したことをリーダーの実践につなげていく。具体的に課題を把握したら、その課題に基づいた行動を取る。そして信頼関係を構築していくということも含めて、時間がかかることですね。そしてリーダーの行動が変わってからメンバーの行動が変わるまでにも、やはり時差があるわけです。
たまにコーチング的な関わりをして「この人、良い人っぽいことをしているな」みたいなことがあったとしても、蓄積した信頼関係が一気に変わるわけではありません。そこの信頼関係を構築していくためには時間がかかる。メンバーも「じゃあ、行動を変えようか」となるまでには、やはり少し時間がかかります。
そして行動してから、チームのアウトカム(が生まれるまでに)も、やはり時差がありますね。なので、この時間軸のずれを意識した上で、正しいコーチングがいかに組織に効くのかを知った上で導入していくのがとても大切です。
リーダーに必要な「見立て力」と「影響力」
「では、どうすればいいのか」ということで、私たちは、心理的リソースという観点からチームの状態を把握する「見立て力」。そして心理的リソースを最大活用するための「影響力」を身につけることが大切だと考えています。
傾聴とか質問とか、そういったスキルよりも、まず大切なのは「今は何をすべきか」。今、心理的リソースに何が起こっていて、その消耗を止めるためには何をしたらいいのかということを「見立てる力」がまずは大事です。そうでないと「なんであいつはやる気がないんだ、やる気を出せ」みたいな話になるわけですね。

そして自分の影響力に自覚的になること。「また曖昧な指示だな、動きにくいな」と思っているメンバーの不満や、自分のどんな行動がそれを生んでいるかに気づけていないと修正することはできないので、自己認識を高めてしっかりと振り返っていく。このためにはやはり、マインド面から変えていく必要があります。

リーダーが持つ影響力には3つあります。まず「存在そのものによる影響力」。太陽のように、いるだけで(周囲の)心理的リソースが増える人っていますよね。そして「関わりによる影響力」。それから「構造作りによる影響力」。

これらをしっかりと丁寧に高めていくことで、コーチングという技術以上に、リーダー自身が成果を出すために必要な思考を身につけることができて、チームのメンバーが必要としているサポートを提供する(ことができる)。それから、成果が出ることにリソースを配分し直すことができるようになります。そして、コーチングというのは、正しく用いればその3つの影響力を総合的に発揮することができる技術を集約したようなものです。
コーチェットはこういうプログラムを提供していますので、もしもみなさんの中で興味を持たれた方がいらっしゃったら、ぜひご相談いただければと思っております。もっと心理的リソースマネジメントについて知りたい方は、こちらの本(
『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?職場の「心理的リソース」を回復させるリーダーの思考法』)も出ていますので、よかったらお読みください。ご清聴ありがとうございました。