【3行要約】 ・チームの成果最大化には「心理的リソース」という精神的エネルギーの管理がカギとなりますが、多くの組織ではその重要性が見過ごされています。
・株式会社コーチェット代表取締役の櫻本氏は、現代の組織環境は方向性の多様化や変化への適応により、特にリーダーの心理的リソース消費が増大していると指摘します。
・リーダーは消耗サインを見逃さず、無駄遣いを防ぎながら積極的に増やす4ステップを実践することが求められています。
前回の記事はこちら 心理的リソースが好循環するケース
櫻本真理氏:同じ心理的リソース(人が思考・判断・衝動制御するために必要な心のエネルギー)の残高があっても、何に使うかで成果が変わる。そして成果が出ればうれしいから、また心理的リソースが生まれていくんですね。自分の願いが叶うわけです。「成果を出したい」という願いが叶えば、成果が出ることによって心理的リソースが増える。

(スライドを示して)でも、左側のチームは無駄なことに心理的リソースを使っているので成果が出ない。そうすると自己効力感が下がって「どうせ、やっても無駄なんだ」ということで、新たな心理的リソースを生み出すこともできなくなってしまう。そうすると結局のところ、成果が出ない悪循環になっていくことになります。
心理的リソースが枯渇すると、チームの生産性が低下する。考えてみていただきたいんですけれども、心理的リソースが十分にある時。健康的で、体調がとっても良くて心配ごともなくて、とてもエネルギーに満ち溢れている時は「今はこういう状況だけど、もしかしたらこういう事情もあるかもしれない」というような、複雑な現実をそのままとらえられるはずです。
心理的リソースが枯渇していると起こるリスク
でも心理的リソースが枯渇している時は、何か白黒(が両極端な)思考になってしまって「これはもう、絶対にダメだわ」とか。(他人に)ラベル付けをして「あの人はダメな人だから」というふうに、シンプルな思考になってしまうことってないでしょうか。
心理的リソースが十分にあれば、複雑な思考、心理的リソースを多く消耗する思考にエネルギーを使うことができます。戦略的に考えるとか、未来について考えるとか、計画的に未来から逆算するとか。
それから「他者」というのもすごく心理的リソースを使う思考ですね。自分の状態はすぐにわかるけど「あの人は今、どう感じてるのかな」ということを想像するには心理的リソースが必要です。
なので心理的リソースが十分にある組織は、未来のことを考えられて、今そのために大切なことを、今やりたいことの衝動を抑えながら、しっかりと必要なことをやっていくことができる。かつ、他者のことに配慮できるので、関係性も良くなりやすい。
現代の組織は心理的リソースが消耗する構造を持っている
一方で心理的リソースが枯渇している組織は、場当たり的になったり、とにかく今起こっていることに意識が向いてしまったり、人のことに意識が向かずに自分中心になってしまったり。関係性も悪くなれば成果を出すこともできずに、目の前の問題だけを解決し続けて、疲弊する組織になってしまうということです。

そして重要なのは、現代の組織というのは心理的リソースをすごく消耗しやすい構造なんですね。つまり、昔のもう何十年も前の組織は構造・方向性が明確で、価値観や暗黙のルールを共有していた。組織全体で構造を共有していれば、現場で構造作りをする必要ってあんまりなかったんですね。
会社は「この目標に向かっていくんです!」というのがけっこう明確でしたし、それが変化することもなくて、各チームは大きな組織の中で守られて運営していればよかった。
でも、現代の組織は構造や方向性が画一的ではなくなり、変化し続ける組織になっています。変化というのは心理的リソースを奪うことですね。
そして価値観の多様性も、いろいろと想像しなきゃいけなくなったり、対話に心理的リソースを使う必要が生まれたり、想像することに心理的リソースを使う必要があったりする。そして、その相互理解のためのコミュニケーションにも心理的リソースを消費することになります。
リーダーの役割と心理的リソースマネジメントの重要性
昔は組織の構造にすべてを委ねて、リーダーはタスクの管理をすればよかったんですけれども。管理職のやるべきことが明確で、タスクが進んでいるかどうかを管理するのが役割だった。
そうしたところから現代は、現場のリーダーが方向性を定めて変化に適応して、多様なものに対応しなくてはいけなくなっている。つまり、現場のリーダーがものすごく心理的リソースを消費する構造になってしまっています。
だからこそ組織は変わっていかないといけない、ということは数多く言われているわけですけれども、これも心理的リソースという観点から言うと腑に落ちるわけです。
心理的リソースをマネジメントすることは、リーダーにとって非常に大切な仕事になっていることがわかると思います。つまり、リーダーは大きく心理的リソースを消耗しやすい構造の中で、いかに必要なことに心理的リソースを投下し続けるのかをマネジメントの一環としてやらなければいけない(状況にあります)。
お金と同じ視点で心理的リソースを考える
(スライドを示して)では、チームの心理的リソースを最大限活用するというのは、どういうことなのか。これはお金と同じマネジメントをイメージしていただけるといいと思います。

まず「お金を増やしたいな」と思ったら、残高と収支を把握しますよね。今はいくらあって、どれぐらい増えて、どれぐらい減るのか。
その中で、明らかな無駄遣いを止める。また、無駄遣いではないんだけども「あまり自分にとって必要なものじゃないな」というようなことを見直して、もっと大切なものに向ける。
投資をするとか、それからもっと喜びが生まれることに使い方を見直すとか。そして最後に収入を増やす。このそれぞれにおいて、ぜんぜん違う頭の使い方をしているわけです。
心理的リソースも同じで「今はどれぐらいなんだっけ」「何に使っていて、何から生まれているんだっけ」ということを把握することが第一歩です。そして明らかな無駄遣いを止め、使い方を見直し、エネルギーを増やしていくという4ステップで考えていくことができます。
心理的リソースの消耗サインを見逃さない
まずはステップ1ですね。「現状を把握する」。

今の心理的リソースがどんな状態になっているのかは、チームがエネルギッシュにフルパワーでやっている時にはあまり問題にならないわけですけれども。問題になるのはチームの誰かが消耗しているとか、チーム全体がうまく機能していない時ですね。
そういう時には、まずは(心理的リソースの)消耗のサインに気づく。行動やコミュニケーションや外見。例えばミスや手戻りが増えるとか、雑談や笑顔が減るとか。
「表情が硬いな」「急に痩せたな」とか、こうしたサインに気づいて「もしかしたら、心理的リソースが消耗しているのかもしれない。じゃあ、何に消耗しているんだろうか」ということを把握していく必要があります。

そして心理的リソースは関係性の中で消耗したり増えたりするものなので、誰がどんなふうに影響を与えているのかを把握することが重要です。
例えば「自分はAさんからすごく良い影響をもらって、心理的リソースが増えてるな。Aさんと関わると心理的リソースが増えるんだけど、Bさんと関わると、ちょっと消耗する感じがするな」みたいなこと、みなさんあると思うんですけども(笑)。
こういうのをチームで俯瞰して、どこで心理的リソースの無駄遣いが起こっているのかを見ていきます。
アタマ・ココロ・カラダの3領域で消耗が起こる
次に ステップ2「消耗を止める」ということ。問題になるのは消耗が起こる時であると申し上げましたけれども、消耗が起こったら止めてあげたい。じゃあ、消耗ってどんなふうに起こるのかというと、アタマ・ココロ・カラダの領域で起こるわけですね。

例えば曖昧な指示。「これ、適当にやっといて」と不機嫌に言われる。こういう時に何が起こっているかというと、アタマでまず受け止めますね。「え、これ、いつまでに仕上げるんだっけ? うまくまとめるって、どんな感じなんだっけ」という問いがアタマで生まれます。

そしてココロで「あの人は不機嫌な態度だったけど、期待と違ったらどうしよう。怒られるんじゃないか」という不安、感情ですね。思考とセットで感情が生まれます。そうすると自律神経が乱れて睡眠不足が起こって、心理的リソースがさらに消耗するというサイクルが起こります。

逆にカラダ起点もありますね。自律神経が乱れて睡眠不足になっているから、ネガティブ思考がアタマで強くなって、それによってネガティブな感情が生まれる。カラダ起点になったりアタマ起点になったりして、ココロを媒介にして消耗が加速することが起こってきます。

具体的にはチームで起こっている消耗というのは、アタマの領域・ココロの領域・カラダの領域とあるわけですが、アタマの領域では「わからなさ」。例えば、複雑な状況、矛盾や衝突など、目標や方針が不明確で、どこに行けばいいのかわからない時に消耗します。
そしてココロの領域では不安や恐れ、怒り、不満、無力感なども消耗要因になります。カラダの領域では生活習慣とか身体的負荷、緊張状態の継続も消耗要因になりますね。リーダーはこのような消耗を止めるために、どんな施策をするのかを考えていく必要があります。