【3行要約】・働くことを「時間と対価の交換」と捉える枠組みでは、企業の持続的成長が難しいという課題があります。
・川西氏と青木氏は「ムーブメント型チーム」や「独自の語彙」を通じて、契約を超えた組織づくりの実践例を示しています。
・これからの経営者は「言語化」と「道具作り」を通じて社員の自律性を高め、ケアと経済合理性を両立する新たな働き方を模索しましょう。
前回の記事はこちら 本当に契約とサービスしかなかったら企業は成長しない
川西康之氏(以下、川西):今、アナロジーとしての家庭みたいな話とかもありましたけど、私がこれをおもしろいと思っているのは、そういうポリシーでやっているのが上場企業だというところがおもしろくて。今の話はどう考えたって、スケールしない話に聞こえるんですよ。
上場企業ってスケールすることを義務付け、宿命付けられている存在で、だから契約とサービスによって再現性を持たせて、属人性を排除して、「誰がこの契約をしても同じサービスが返ってくるから安心して契約できるよね。スケールするじゃん」っていうことが前提にあるはずなんですけど。
市場のルールの中で、このような考え方で経営していらっしゃって、しかもそれでスケールしているっていうのが、私はもう意味不明なんですよね。
青木耕平氏(以下、青木):(笑)。
(会場笑)
川西:「それって、どういうことなんですか?」「バグじゃないですか?」みたいな……。
青木:たぶんどういう語彙で説明をしているかというところに違いがあるだけで、お話とかを聞いていると、実はfreee社さんも一緒なんじゃないかなと思うんですよね。
本当に契約とサービスっていうものしかないんだとしたら、このサービスっていうものの良さって、対価を払えば、関係性と関係なく便益を提供してもらえることなんですよね。
ただ、先ほど言ったケアだと、関係性の内側でしかなかったものが、関係性の内側にいない人にも対価を払うことで提供されるようになるっていう良さがあるじゃないですか。
でも、事前の契約とサービスだけだったら、「事前に約束していること以上のことはやれませんよ」ってなるんですけど、(freee社さんは)成長しまくっているので、実際そんなことないと思うんですよ。
つまり、「いや、給料分しか働けないので」っていう人しかいないんだとしたら、たぶんfreee社さんも今みたいになっていない、あるいは顧客に受け入れられるプロダクトが作れていない気がしていて。
だから、言語化できていないとか、あるいはそこにフォーカスしていないだけで、実はもしかしたらうち以上のケアが循環しているのかもしれないなとも思うんですよね。
川西:なるほどなぁ。
ミッションを実現していく社会変革運動としてビジネスを捉える
川西:書籍にもあるんですけど、たぶん近い考え方で、我々にはムーブメント型チームという概念があって。
青木:へぇ、おもしろい。どういうものですか?
川西:「資本主義的なものだけじゃない仕事の捉え方とかをしたい」としていて、言葉を借りると、契約とサービスとかっていうところなんだと思うんですけど。
働くっていうことは、所定の時間を拘束されて、給料分で何かをやる。その対価としてお金をもらう。それ以上の価値をやはり持ってほしいし、給料を稼ぐだけ以上の存在にしたいというのは、創業者の佐々木(大輔)も言っていて。私もそうなんですけど。
「じゃあ、働くとはどういうことなのか? freee社で働くということをどういうふうに定義するのか?」という時に、1つは「社会を変えていく社会運動、社会変革運動とするムーブメント」として定義していて。
青木:あぁ、なるほど。
川西:我々には「スモールビジネスを、世界の主役に。」っていうミッションがあるんですけど、このミッション並びにfreee社のプロダクトを通じて、ミッションを実現していく社会変革運動としてビジネスを捉えようとしているのは、もちろん経営者も含めてですけど、契約とサービスを超えた従業員のコミットメントの連鎖みたいなものを生んでいるのかなと今聞いていて思いました。
青木:いやぁ、本当にそうですね。
「仕事の意味や意義を実感しながら働く」ことを助けるケア
青木:特に僕がすごく思ったのは、独自の語彙で自分たちが何をやっていて、何をしようとしているかというコミュニケーションを、けっこう丁寧に社員の方にされているんだと思うんですよね。こういうことこそが、たぶん経営が組織に対してできるケアだと思うんですよ。
だって本来、契約とサービスで全部成り立つんだったら、別に給料を払っているんだから、こういうことを言わなくたって「『やって』っつったことをやれよ」で済むはずじゃないですか。
川西:確かに。
青木:でも、人間ってそういうものでもないから、結果的にはどうしたってケアが必要なんですよね。ケアせずに働くなんてことって、まぁ働くかもしれないですけど、少なくとも期待値を超えて働くなんてことはあり得ないわけで。
そうすると、例えば経営者が1人で社員が1,000人だった時に、できる一番のことって、我々は何をしているのかを魅力的に提示することによって、自分の仕事の意味とか意義を実感しながら働くことを助けるっていうケアがあると思うんですよ。
なので、僕は情報を見た時に、ケアフルな会社だなと思って。
川西:ありがとうございます。
青木:そう思っちゃったっていうか、僕らはそういう語彙で語っているから「めちゃくちゃケアし合う、優しい世界なんじゃないか?」みたいに思われるし、実際けっこう優しい世界ではあると思うんですけど。
自在に仕事ができる状況を整えることがすごく重要
青木:ただ、その目的は、ただ優しい世界を作るというよりは、自分たちの目的に対して、より良い成果とか進捗とか生産性を出すことが目的なので。そうじゃなかったら営利企業ってあってはならないと思うんだよね。
川西:そうですよね。
青木:そのための一番のケアって、実は「大丈夫?」「手伝えることある?」みたいなことを個別に聞いていくっていうこと以上に、それぞれが判断指針を共有して生産的に動ける道具をちゃんと渡すとか。
川西:まさに「道具」っていうことを言っていましたね。
青木:はい。僕も個人としてやっていることは道具作りっていうか、どういうふうにしたらみんなが迷ったり、例えば部署間でコンフリクトのもとになったりしている曖昧な問題をうまく解決するためのフレームワークとか、語彙とか、あるいはロジックみたいなものをみんなに共有してあげられるのか。
そのことによって優しくされるより、自在に動ける状況を作ってもらうことのほうが社員の人もうれしいはずで。僕が会社の中をグルグル回って、「みんな元気?」「どう? 大丈夫?」とか言っていたら、気持ち悪いおじさんでしかないっていうか。
川西:(笑)。
青木:やはり僕のことなんか気にせずに、自在に仕事ができる状況を整えることがすごく重要で、その中の1つとして僕らだと、例えば残業をあまりしなくてもいいような状況にするとかも、残業しないことが目的というよりは、終わりの時間が決まっていて、全員がそうってなると、例えば「私だけ事情があって先に帰っちゃって申し訳ないわ」とか、そういうのがなくなるじゃないですか。サッカーと一緒で、90分で試合終了。その90分以内に何点取ったかで評価するみたいなほうがシンプルなので。
そういう意味でやっているだけなので、福利厚生にこだわってみんなに優しくしたいみたいな感じではあまりないんですよね。
会社を大きくする過程でのハードシングス
川西:今みたいな考えで会社を作ってスタートしているわけじゃないですか。ハードシングスみたいなこととか、逆に成功体験っていうか。これでめちゃくちゃ会社が伸びたから、そこでつかんだみたいなものとか。大きいイベントというか、きっかけみたいなのは、何かあったりされたんですか?
青木:いやぁ……。
川西:私もいろいろな経営者の方と話す機会があるんですけど、独自の言葉でご自身の経営について言語化される方って、ほとんどいないと思っているんです。
青木:うーん、どうなんですかね。
川西:どんなご経験をしてこういうことにたどり着くのかなって。例えばどんな本を読まれているのかとか、そういうことから気になりました。最近見て良かった映画とか、どんなインプットをしているから、こういうアウトプットになるのかっていう……。
青木:いやぁ、どうなんですかね。でも、本当にハードシングスとかはあまりなくて、1期目から黒字だったんですよ。ずっと黒字で……。
川西:順風満帆ですね(笑)。
青木:そうなんですよね。でも御社ほどグイッて伸びていなくて、淡々とやってきて今20年かかって、今なので、そうかなっていう感じなんですけど。
Day1から産休が発生する想定で事業を進めてきた
青木:ただやはり一番大きな影響があったのは、自分たち(の経験や知識)が乏しかったってことなんですよね。
まず僕自身は、30歳のちょっと手前ぐらいまで、毎日働いたこともなかったぐらい。28歳まで子ども部屋にいたタイプなので。34歳で起業しているんですけど、まず圧倒的に経験とか知識とかがないわけですよ。人脈もない。お金も当然ない。
そういう中で実の妹と(事業を始めて)。何の経験もないような2人で始めることになって。何て言うか、普通の考え方ではうまくいく気がしないじゃないですか?
だから、何かちょっと違うことを考えようっていう感覚はあったかなっていうのと、創業のパートナーが妹だったんですよね。僕は34歳でクラシコムを始めていて、(その時に)妹が30歳か31歳ぐらいだったんですね。僕には子どもがいて、彼女も結婚していて、間もなく子どもが生まれても不思議じゃないタイミングで起業したので、彼女が創業から3年以内ぐらいに産休に入るみたいなことは想定し始めていて。
そうすると、「子どもができたよ」って万が一言ってくれた時に、僕は兄なのに会社の都合で一瞬「おめでとう」って言うのが遅れるみたいな(ことにならないか)心配になっちゃって。「妹がいないと事業が成り立たないかもみたいなことは心配じゃん」みたいな。
そういうのが嫌だったので、そのためにどう備えるかとか、仕組みを作るかとかを、Day1からけっこうやっていたんですよね。
平準化させることで、無理な働き方なく適切に事業を成長させられる
青木:彼女もだいぶ僕のことをケアしてくれたんだと思うんですけど、そのケアがやはりお互いに必要だったっていうことと、家族だったので信頼関係とか互恵関係が強く元からある分、ケアが回りやすい関係から始まったっていうこともあって。
妹が産休に入って子どもを育てながら経営するって考えると、その妹が「一番に帰って申し訳ない」みたいな感じになったらまずいから、「じゃあ、うちは定時でみんな帰ろう」みたいなことを最初からやるとか。
成長し過ぎてボラティリティがある状態だと、業務が逼迫するタイミングとかが出てくるじゃないですか?
川西:当社はそんな感じをずっと繰り返していますよ(笑)。
青木:でも、うまく平準化すると、スパイクがなくなる分、そんなに無理な時間働かなくてもちゃんと適切に事業がやっていけるので、最初の10年ぐらいはむしろ成長率はちょっと抑えていたんですよね。
これ以上成長したら、たぶん組織ケイパビリティとかが追いつかなくて、個々の人に負荷がかかっていってしまう。うちだとそれでは持たないので、どちらかというと「これ以上伸びないようにやろう」みたいなかたちで、上側をちょっと抑えながらやっていたというのもあり。そういう経緯で今みたいになっています。