【3行要約】
・「多様性」「ハラスメント」への配慮から部下への指導を躊躇する管理職が増加し、組織運営に支障をきたしています。
・髙桑由樹氏は、部下が「多様性」を盾に反発する背景には未熟さがあり、適切な指導が阻害されていると指摘。
・上司は「違い」ではなく「共通の目的」に焦点を当て、組織としてのまとまりを重視した指導を行うことが重要です
「コンプラ」「ハラスメント」を盾に指導が止まる現場
髙桑由樹氏:「これでイイのか⁈『部下への忖度』」というテーマで進めてまいります。副題としては、「『コンプラ』『ハラスメント』を盾にとり、職責を果たさない社員の働かせ方」です。
今回のセミナーでは、「部下への忖度」と題していますが、まずは「どのような行動や言動を扱うのか」という前提を整理していきたいと思います。対象になるのは、主に管理職のみなさんの日々の言動です。
管理職のみなさんは、日々さまざまな部下の方と向き合っていると思いますが、「こういう方、いませんか?」という例をいくつか挙げてみます。

例えば、職責、つまり職務や責務を十分に果たしていないにもかかわらず、権利主張だけは強い、いわゆるモンスター社員のようなタイプ。あるいはその逆で、できない自分を責めすぎて、今にも辞めてしまいそうな自滅型の社員。こうした方々ですね。
この2タイプには、強く出てくるケースもあれば、弱く出てくるケースもあります。ただ、いずれにしても、上司として指摘や指導をしようとした時、強いタイプの部下に対しては「反撃されてしまうのではないか」という不安が生まれますし、弱いタイプの部下に対しては、その一言がダメ押しになってしまい、本当に辞めてしまう、あるいは病んでしまうのではないかと感じてしまう。
そうすると結果として、「言うべきことがあるのに、なかなか言えない」という心理が働いてしまう。管理職のみなさんの中にも、思い当たる場面があるのではないでしょうか。
部下の顔色をうかがいながら仕事を割り振る上司
今回は、こうした上司側の躊躇やためらいを含んだ言動を、「部下への忖度」と定義して、このテーマを掘り下げていきたいと思います。
例えば、部下の顔色をうかがいながら仕事を割り振ってしまうとか、答えや段取りをすべて上司側で用意してしまうとか。あるいは、不適切な褒めを乱用するケースもありますね。たくさん褒めて、何とか部下を乗せようとする。
他にも、プライベートな話題について、あえて自粛して踏み込まないようにするとか、仕事がうまくいかなかった時に、その原因を深く追及しない。あるいは、会社を悪者にして部下をなだめる。
「うんうん、わかるよ。これは困ったよね」と言いながら、部下の味方に立つような振る舞いをする。さらには、物わかりのいい上司を演じ続けて、とにかく嫌われないようにする。こうした行動を、今回のセミナーでは「部下への忖度行動」と呼んでいます。
この前提を踏まえたうえで、今回のセミナーの狙いについてお伝えしていきます。今挙げたような忖度行動は、上司のみなさんが「やりたくてやっている」というものではないですよね。多くの場合、つい取ってしまう行動であって、その背景には心理的な理由があります。そこを整理してみたいと思います。
なぜ部下に忖度してしまうのか
「忖度をしてしまう心理背景」として、例えば、指摘や指導をしたことで「ハラスメントの加害者だ」と言われたくないという不安があります。また、「部下に辞められたら困る」「人手が足りない」という切実な事情もありますよね。

さらに、「自分の評価を下げたくない」という思いも大きい。これは、「ハラスメント」というふうに言われたり、「あのマネージャーは高圧的だ」という声が社内に広まったりすることで、上司自身の評価を下げたくないという思いがある、ということですね。
あとは「部下に嫌われたくない」という心理ですね。それから、プレイングマネージャーの管理職の方も多いですから、部下にあえてやらせるよりも、「自分でやったほうが成果も出るし、手っ取り早い」という判断をしてしまう。こういったことから、部下に言うべきことをあまり言わずに、忖度してしまうというケースもあるかなと思っています。
今回のセミナーでは、こうした状況を踏まえて、本来であれば部下の方に言うべきことをきちんと言い、成長を促していくことが管理職のみなさまの大事なミッションである中で、それがなかなかうまくいかない、指示や指導を聞き入れてくれない部下に対して、どう関わっていくのかという点を考えていきたいと思っております。
ということで、今回のプログラムは3本立てです。まず1つ目が「いかに多様性と向き合うか」。2つ目が「いかにハラスメントと向き合うか」です。この1と2に「多様性」と「ハラスメント」という言葉を置いていますが、これは、忖度をしてしまう背景として、本当は耳の痛い言葉を言わなければいけないにもかかわらず、それにブレーキがかかってしまう要因が、この2つにあると感じているからです。
「多様性」や「ハラスメント」という言葉によって、言うべきことを言うことにためらいが生まれてしまう。このあたりがブレーキになっているのではないかと考えています。ですので、1つ目と2つ目の章では、この2つの言葉について、それぞれがどういう問題を孕んでいるのかという点を、しっかり押さえていきたいと思います。
そのうえで見ていくことで、今回の「部下への忖度問題の本質」や、そこに対する向き合い方も見えてくるのではないかと思いますので、この3本立てで進めていきます。
企業が多様性を重視するようになった背景
ではさっそく、1つ目のテーマ、「いかに多様性と向き合うか」ということです。この「多様性」という言葉は、ここ数年、本当にいろいろなところで使われていますよね。多くの会社でも「多様性って大事だよね」と言われています。一方で、この言葉が独り歩きしてしまって、上司として「こうじゃないか?」と意見を言いづらくなっているという現実もあるなと感じています。
そこでまず、この「多様性」が、なぜここまで重要視されているのか。その社会的背景を、あらためて確認したいと思います。世の中や会社の中で「多様性の奨励」が求められている背景は、大きく分けると4つあると考えています。

1つ目は、労働人口の減少です。これを踏まえると、性別や年齢に関係なく、さまざまな人材に働いてもらう必要が出てきます。ここに多様性という考え方が出てきます。また、育児や介護との両立も必要になってきます。そうなると、必ずしも朝から夕方まで働く正社員という働き方だけではなく、さまざまな働き方を認めていく必要がある。これも多様性です。
2つ目が、価値観の多様化です。市場の細分化とも言えますが、SNSの普及などもあって、情報が一気に広がり、いろいろなジャンルや考え方が増えてきました。その結果、お客さまや社会が求めるものが、どんどん細かく分かれてきている。ここにも価値観の多様化があります。
多様性が企業にもたらす効果
続いて3つ目が、イノベーションの促進です。価値観が多様化している中で、組織としてそれに追随していくには、新しいアイデアが必要になります。いつも同じ人たち、同じ考え方の人たちだけで議論していると、どうしても行き詰まってしまう。そこで、まったく新しい知を入れたり、異なる意見を融合させたりすることで、新しいアイデアを生み出していこうとする。その文脈で語られているのが、多様性という考え方です。
最後、4つ目です。「ブランド価値の向上」という観点です。今は「多様性」という言葉そのものが、「良いことだ」という社会になってきていますよね。多様性を重んじている会社は、「先進的でいい会社だ」というブランドイメージを持たれやすくなっています。
そう認識されることで、より優秀な人材が入ってきてくれたり、社会的にも「いい会社なんだ」という評価につながります。採用だけではなくて、本業においても「選ばれやすくなる」という効果がある。こうしたブランドイメージを重視する文脈の中で、「多様性」という言葉が重視されている、という背景があります。
総じて言うと、多様性を奨励することによって、社会や組織がより豊かになる。それが大事なんだ、という考え方が広がってきている、ということですね。