【3行要約】・組織の心理的安全性は重要視されているが、「やりきる文化」がなければ成果は生まれないという問題があります。
・高橋浩一氏は、現代の組織では「やらなければならないとわかっているのに、やりきれない」状況が頻発していると指摘。
・マネージャーは、メンバーが「できなかった」ことを采配の問題と捉え、脳科学の知見を活用してメンバーの行動を促すことが重要です。
前回の記事はこちら 「やらなかった」はメンバーの責任だが、「できなかった」は采配の問題
高橋浩一氏:ただし、対話が生まれやすいマネジメントのモードがありまして。賢者の演出と愚者の演出で言うと、愚者の演出のほうが対話が生まれやすいということです。マネージャーが「自分のほうが正しいんだから、みんな言うことを聞け」とか、「自分のほうが正しい、なんでみんなわかっていないんだ」っていう雰囲気を出していたら、意見を言いにくいですよね。
じゃあ心理的安全性があればうまくいくのかというと、それだけではうまくいかないですよね。心理的安全性が担保されていても、「やらなくてはいけないことは頭でわかっているんだけど、やりきれない」というのがよくでてきます。
やりきる文化にするには前提があります。まず、やることを明確にする。明確になっていないと、やりきるもなにもないですよね。解釈や判断が分かれないように、認識がそろう言葉でルール化する。「ちゃんと報告せよ」ということじゃなくて、(スライドを示して)この5つの項目を毎週金曜日の17時までに報告しましょうと明確化すると。

確認行動、マネージャーが報告を受けるだけではなく、ちゃんと情報を見に行くということです。
そして問題の所在。「やらなかった」という問題と「できなかった」という問題は同じ扱いにしてはいけないということですね。やらなかったっていうのはメンバーの責任なんですけど、できなかったっていうのは、采配の問題です。
要するにマネージャーは、能力的にマッチしないことをやらせてしまっているということですね。そして負担の軽減。マネージャーは、やりきらせようと思ったら、逆説的なんですけど、全体負担のやることを常に減らす努力をする必要があります。
組織って黙っていると、どんどんやることが増えていくじゃないですか。現場のメンバーの一番の不安・不満って、やることがどんどん増えることなんですよね。やりきらせようと思ったら、メンバーのやることを減らす努力をしなくてはいけないです。やりきる組織文化にするための前提があります。
組織は黙っているとどんどんやることが増えていく
そんな中で、いずれのアプローチも前進しない時どうするかという話なんですけど「つべこべ言うな!」「確かにそういうのあるよね」というので、うまくいかない時ってありますよね。
そんな時に、ここでご紹介したいのは、脳科学や心理学のエッセンスです。脳みその仕組みとか、達成動機の話。ハマるメカニズムとか、行動分析の話をしていきたいと思います。この4つは、それぞれ、断片的なんですけど、このエッセンスを知っておくだけで、だいぶマネジメントがやりやすくなります。
例えば、リマインドという場面でみると「いくら言ってもやらないんですよ。やるべきことをやらない。だらしない」みたいにマネージャーがおっしゃるケースがあります。
これを脳みその働きからみていきます。脳みそには、ざっくり、大脳新皮質という言語系を扱う領域と、大脳旧皮質という感覚系を扱う領域があります。

大脳新皮質は、人間独自の領域で進化してきたもの。大脳旧皮質っていうのは、爬虫類や両生類も同じものです。人間の脳みそはどっちが強いかっていうと、大脳旧皮質のほうが力が強いんです。
子どもの宿題を例に挙げますね。親御さんが「宿題やったの?」と聞く場合があります。言語で言うと確認の質問かのように思えますが、子どもは、「どうせやってないんでしょ」っていう攻撃的なニュアンスを感じるわけです。
そうすると子どもは、「宿題やったの?」に対して答えることと、「攻撃的なニュアンス」から身を守ること、どっちを大事にするかっていうと、攻撃的なニュアンスから身を守ることを優先させます。「とにかく今からやるよ」とその場しのぎで言うわけです。でも裏側では、「言われるとやる気がなくなるなぁ」というのがあります。
部下に「あれやった?」と急かすのは逆効果
ビジネスの現場では、上司が「あれやった?(どうせやっていないんでしょ)」という感じだと、攻撃的なニュアンスがあり、部下は身を守ります。「今からやります」。これの繰り返しが起こっている組織が、非常に多いわけですね。

そこで、マネージャー側の有効なアクションは、というと、急かす前にあらかじめ宣言してもらう、前もって聞いておく。
やったらすぐその場で「すごい!」「ありがとう!」と褒める。負のサインが出そうな時はリマインド役は他の人にお願いする。ということです。リマインドについてはこういった知識があるだけで、逆方向にやってしまわないように歯止めが利きやすくなります。
人が「ハマる」ための6要素
そして次、達成動機なんですけど。難易度がどのくらいの難しさだと、達成動機が高い人が反応しやすいかというのがありまして。50パーセントの確率で成功すると思われる難易度が、達成動機が高い人が選びやすいということです。

目標の難易度となった時に、難しすぎても簡単すぎてもよろしくないということですね。これは輪投げの実験でどのくらい遠くから投げるか自分で決めていいよっていうことを子どもたちにやった時に、同時に難易度を申告してもらいます。何パーセントの確率で輪が入ると思うかを答えてもらってから投げてもらう。
そういうことをやった時に、50パーセントぐらいの確率で、うまくいきそうだというゾーンが達成動機と相関があったということです。
難易度の話に紐付けて、(スライドを示して)「ハマる要素」というのをご紹介したいと思います。『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』という書籍がありまして。これは、いろんな人が「ハマる」ということを科学して体系的に解説している本なんですけれども。
目標は、ちょっと手を伸ばせば届きそうな魅力的な目標というのがハマると。そして、抵抗しづらく、また予測できないランダムな頻度で報われる感覚があること。簡単すぎてはおもしろくないわけですよね。難しすぎてもダメなわけです。
段階的に進歩、向上していく感覚があること。徐々に難易度を増していくタスクがあること。解消したいが解消されていない緊張感があること。強い社会的な結び付きがあること。こういうのが、ハマる上で非常に重要であると。難易度の調整ってすごく大事なんですよね。
報酬はスピードが重要
もう1個、ご紹介したいんですが、行動分析の考え方ということなんですけど、行動・きっかけ・報酬というサイクルがありまして。例えば、商談で難しめのリアクションが出てくるというきっかけがあったとします。このきっかけがあった時に行動すると。ロープレで練習した成果を生かして粘ってがんばってみたら、結果として報酬が生まれたと。

そうすると「もっとがんばろう」というふうにインセンティブが上がります。報酬っていうのはスピードが重要であり、このきっかけ・行動・報酬がきれいにつながっていると人はもっとやる気になりますよということですね。
報酬って鮮度がとにかく命ですので、後から褒めてもあんまり意味がないです。そしてきっかけは学習ができるということなんですけど、気づかないメンバーもいるのでこのへんは要注意ですね。
原則的に、罰則とかペナルティってあんまり意味がないんですよね。これは学術的に検証されています。ということで「習慣の力を借りてコミットメントを高めるためには?」ということなんですけど、やりきる組織文化にするためには、脳科学とか心理学のエッセンスを柔軟に取り入れながらやっていくのがいいんじゃないかというところです。
具体的なところで言うと、間際になってから「達成できる?」とか言われるのは、攻撃的なニュアンスを感じさせるわけですよね。攻撃的なニュアンスを感じるとメンバーは防御反応を示すということです。
そして、優しすぎず難しすぎず、絶妙な難易度のところにくるように調整することだったり、きっかけ・行動・報酬がきれいに回るために褒めるとか称賛するっていうのは遅れないようにやりましょうということです。