【3行要約】・ビジネスモデル・キャンバスは強力なツールとして知られているが、多くの企業が表面的な活用に留まっているという問題があります。
・本記事では、外部環境の変化が激しい現在、ビジネスモデルの本質的理解がより重要になっていると指摘。
・経営者やビジネスパーソンは、アウトプットよりもプロセスを重視し、継続的にビジネスモデルを見直すことが求められています。
前回の記事はこちら 「ビジネスモデル・キャンバス」の使い方のコツ
岩泉謙吾氏(以下、岩泉):Q&Aが来ていますね。まず、(ビジネスモデル・キャンバスが)できるだけ使ってほしいツールであるというのは、これは忖度なしに思っていることですと。ただ、やはり先ほどもお話がありましたけど、使い方とかその意味を理解するのは、けっこうしっかりと学んでから使わないと意味がないなとは思っております。
よく散見される光景が、やはりビジネスモデル・キャンバスを検索して、先ほど小山さんからもお話があったような例が出てきて。もう出来上がった例を見ると、「うん、書けそうだぞ」となって。書いてみて「なんか普通だなぁ」みたいなかたちで終わることがあるので。
そういう使い方の本質を理解するところがしっかり行われないと、なかなか意味がないツールになってしまうなというのは実感しています。でも、ツール自体が悪いというよりも、その使い方をちゃんと理解するという、その過程をしっかり踏めばすばらしいものかなとは思っています。
中川遼氏(以下、中川):次の質問ですね。「EYのお二人にとってBMCはどのような評価なのでしょうか。現場でも大いに使える、すべての企業で使ってほしいものなのか、それとも方法の1つとして、たまにはいいのかねというようなものなのか」というご質問ですね。
そのまま僕の意見も申し上げさせていただくと、原則、すべての企業で使ってほしいとは本当に思ってはいます。思ってはいますが、やはり使い方がどうしても難しいなとは思いますね。
すごく簡単そうに見えて、使うのがめちゃくちゃ難しいフレームワークだなと思いますし、埋めていってできたアウトプットに意味があるというよりも、あれをちゃんと頭を使って考えて作り上げていくという、その過程に意味があるものなのかなとも思っています。
やはり自分たちがなんで儲かっているのかをちゃんと言語化する。その共通言語化する過程もそうですし、意外とその中で自分が知らなかった強みが見えてくるみたいな側面もあるので、やはり使っていただきたいです。
ただそのアウトプットを作ることを目的とするのではなくて、その過程をしっかりと踏んでいくところに重きを置いていただくのがいいんじゃなかろうかというのは思っているところですね。
ビジネスモデルの設計は実は簡単
小山龍介氏(以下、小山):よくメーカーであるのは、アフターサービスが利益率も高いので、そこの売上を上げて利益率を高めていきたいという話があります。予防保全とか故障予知とかいったアフターサービス。それを自分たちのところに当てはめようとビジネスモデル・キャンバスの活動のところで「故障予知」みたいに入れている。
ところが、自分たちの製品は、よくよく考えたら20年に1回故障するかどうかで、非常に堅牢だったりする。お客さんのニーズがぜんぜんそこにない。全体調和を取ることの難易度が非常に高い。
これをいくつかの比喩で説明をしています。1つ目の比喩は、ルービックキューブですね。あれは、要素は6色しかない、非常に単純なものです。
中川:はい。
小山:でも、やたら難しいですね。(色を)揃えるのは大変です。何千ピースもあるようなジグソーパズルのほうが難しそうに見えるんですけど、実際にはジグソーパズルは埋めていったら確実に終わるんですよ。でも、ルービックキューブは終わらないんですよ。
だから、ビジネスモデルの設計って実は簡単。9つしかブロックがないにもかかわらず終わらない作業というふうに理解すべきなんです。ルービックキューブだから、いろいろ動かしながら答えを探していく、これが1つの説明です。
9つの要素を見ながらチューニングしていく
小山:もう1つは、これは理系の方に説明がわかりやすいので言っているんですけど、天体の三体問題なんですよと。2つだったら地球と太陽、地球と月、動きの計算はもう完全に普通のコンピューターでできる。ところがそれが、これだけ大きな宇宙の世界の中には、3つの天体が影響し合うという3体で動いている天体があって、3つになると途端に動きがカオスになるんですね。
世の中というのは、そういう意味で、単純な法則だから単純だ、じゃないんです。単純な法則であっても、複数の要素が影響し合うと途端に複雑になる。これがカオス理論とか複雑系の理論になるわけなんです。つまり、典型的な三体問題になるわけですよ。ビジネスモデル・キャンバスの場合、9つですからね。9つのブロックがお互いに影響し合っているオントロジーですから、当然複雑です。
影響し合う要素を構築しようと思ったら、検索ででてきてポン、はいできた! というわけにはいかないのが、やはりこの難しさでもあり、おもしろさでもあると思うんですよね。
中川:やはり時間軸も大事だなと。結局、外部環境と合うかどうかがもう戦略のミソだなというのを、やっていて思うんですよね。ある時が良くても、外部環境が変わる中でずっと同じビジネスをやっていてうまくいくかって、そうじゃないのは言われてみると当たり前なんですが。
今おっしゃっていただいたのも、9つの要素の複雑系プラス外部環境が変わり続ける中でやはり常に9つを見ながらチューニングしていかなきゃいけないという、たぶんそういう使い方も必要なんだろうなというのは現場で見ていてすごく思いますね。
小山:先ほどプレゼンの中にもあった、バックキャストして、いついつまでにこうなるという予測が外れるという話は興味深いです。今日も、EUがガソリン車を結局OKにするというニュースがありましたね。あれは何だったんだとね(笑)。もうなくなると、みんな冷や汗をかいてやっていたのがガラッと変わる。
そういった時代に、いわゆるダイナミックケイパビリティですよね。ケイパビリティそのものが重要じゃなくて、状況に応じてサッとケイパビリティを組み直す能力のほうがすごく重要なんです。実はビジネスモデル・キャンバスを使えるというのは、ある種のダイナミックケイパビリティの1つとして位置付けられるものでもあるかなと思いますよね。
「収益モデル」と「ビジネスモデル」を混同していないか?
中川:そうですよね。「持続的競争優位よりも断続的競争優位」とよく言いますけど、本当にその都度都度でやはり使い続けなきゃいけないなとはすごく思います。それ故に、やはり1回ちゃんと作って使い方を学ぶことの重要性がすごく増しているんだろうなというのは非常に感じますね。自分にできるのかというのはすごくあるんですけどね。あれを十分に使いこなせるのかは日々、自問自答ですよね。
岩泉:あとはビジネスモデル・キャンバスの、良い面での効能はたくさんあるんですけど。一番最初に感じたのが、やはりビジネスモデルとは、そもそも何ぞやというのがあってですね。これがビジネスモデルだとか、これはビジネスモデルじゃないとか。いや、これこそビジネスモデルだとか。これ、けっこうあるんですね。
あと、我々がいろんなコンサルティングワークを通じてビジネスモデルができましたと持っていっても、人によっては「これ、ビジネスモデルじゃない」と言うこともありますし、お客さまが「ビジネスモデルを作ったんだ」というのを見せていただいたら、「これ、ビジネスモデルなのか?」みたいなこともけっこうあったりします。
何が言いたいかというと、ビジネスモデル・キャンバスを埋めること自体は作業でもないし、当然目的でもないんですけど。やはりああいう要素でしっかり考えることがビジネスモデルを考えることなんだということを示唆しているのは、使い方が難しいんですけど、非常に良い効能としてあるなとちょっと思ったので、今申し上げました。
小山:そういう観点で言うと、多くの場合、収益モデルをビジネスモデルと言っているケースが多いわけですよね。
これはリカーリングモデルだとかね、これはサブスクモデルだと、これでビジネスモデル。ところがサブスクにするためのサプライチェーンどうするのか、契約はどう変えるのかとか、そのお客さんとのタッチポイントをどうすべきか、実はその裏に膨大な作業がある。
だから、このビジネスモデル・キャンバスがいいのは、じゃあこれはちょっとサブスクリプションモデルでいこうよと言ったときに、こうした裏の作業をちゃんとカバーできる。
やはりサブスクリプションに使用というアイデアは出るんですけれども、それを実際にモデル化していく、これをちゃんと構築していくところに難しさがあり、そこを解釈の違いなくみんなが共通して使えるところが、ビジネスモデル・キャンバスのよさなんでしょうね。
これからの時代に「ビジネスモデル・キャンバス」はどう変わる?
中川:そうですね。質問が2件来ていますね。「13年経過しましたが、ビジネスモデル・キャンバスに求められる役割は変わりましたでしょうか。外部環境の変化が大きく、ケイパビリティを組み直さなきゃいけない時代という点は1つ大きいと思いました」というところですね。求められる役割そのもの、これはどうなんですかね。
僕の感覚としてはけっこう……正直に言うと、実際に初めて知って使い出してから僕は7年ぐらいなんですけれども。ただ、役割は正直あまり大きくは変わっていないとは思っています。むしろ変わらずに重要性が増しているというところかなと。それはもう外部環境の変化のスピードが増していますし、1回の変化が大きくなっているので。
やはりなぜ、どうして儲かっているのか、それは裏側の仕組みも含めてというところを言語化していく営み、その重要性は変わらず。一方で、やはりビジネスのスコープが広がっているので、1個1個の観点の見方が変わってくるところは多少あるかなとは思っていますね。なので、役割というよりも、その見方を時代に合わせてどう変えていくのかが1つのポイントになってこようかと思いますが、いかがですかね。
小山:私は、ちょっとそういう意味では限界があると言いたいんですよね。何かと言うと、ビジネスモデル・キャンバスはだいたい1社のビジネスモデルを書きます。
ところが、今はやはりエコシステム、いろんな企業の関連の中で自社が位置付けられるということになってきていますので、ビジネスモデル・キャンバスは依然として非常に有効。使えますし、重要度はどんどん増しているんですけれども、実はそのビジネスモデル同士がどう関連し合うかというエコシステムモデルが今後、必要になるだろうとは思います。
とりあえず今は、顧客のところに複数のお客さんを置いて、プラットフォームとしてマルチサイドプラットフォームとして書くことをしています。これも本の中でも紹介されていますが、もうそれがかなり複雑化してきています。
そういった中では今後、エコシステム・キャンバスのようなエコシステム設計手法が出てくることが、時代の要請かなとは思いますね。