「キャンバスを埋めれば終わる」ものではない
岩泉:もう1問、(質問を)いただいています。「ビジネスモデルはビジネスの要件の根本に過ぎないということで、いろいろビジネスを分析した結果、キャンバスに書いていくのが本筋だと考えます。先にキャンバスを埋めるのであれば、キャンバスの各項目でそれぞれ選択肢を置いて、各要素を結びつける方法はあるように思いますが、いかがでしょうか」ということですが、どうでしょうか。どうですかね?
中川:いや、直感的にそれで済むような話ではないような気がするんですけど、それをうまく言語化するのが難しいですね。それこそ
『ビジネスモデル全史』って昔あったじゃないですか。儲け方とか作り方とか売り方でいくつかのパターンがあってみたいな、ああいう整理もありましたけど。じゃあそれを組み合わせてうまくいくかというと、そのイメージも湧かないですし。
あと昔、
『ビジネスモデル・ナビゲーター』という、55個の要素に分けるという本もありましたが、僕も頼って、参考にはなるんですけど。やはりそこの、なぜどうしての選択の埋め方と、それそのものだけで適用できること、現実はそんなパターンに分かれていないというのがどうしてもあるなと思います。決して、その本をディスるわけではなく、ですね。
小山:そうですね。本当にそのとおりだと思います。私からちょっと加えると、例えばブランドの要素は、もちろん顧客のブランドロイヤリティというところで、顧客との関係にも入るんですが。もともとブランドは広告代理店が作り出した概念で、広告費をコストじゃなくて投資と言おうと。エクイティが溜まるんですみたいなことで、実はリソースに溜まるものとして設計されました。
それをブランドマネジメントという活動と捉えることもできるし、ブランドバリューという価値提案である。同じ「ブランド」と言っても、いろんなところに入るわけです。ビジネスモデル・キャンバスは、我々がそのブランドをどう認識するかという、実は認識の構造を反映しているんですよね。
そうするとそれが、外の選択肢というよりは、やはり我々がこれをどう捉えようかという、かなり主体的な意思決定が入るので。あんまり選ぶだけで構成できるという感じではないんですよね。ということで、ビジネスモデルの9つの要素というのは、実は同じ1つの……先ほどゾウの話をしましたけども。どの側面で見るかという認識構造のフレームワークで考えると、選択肢をつくって穴埋めしていく、ジグソーパズルのようにつなげていくことが、あんまりそぐわない気がします。
中川:さっきのルービックキューブの例えが非常にいいなと思いました。やはりジグソーパズルみたいに埋めていけば終わるものじゃないというのは、本当にそのとおりだなと思います。
小山:他が動いてるからね。
中川:ずっと試行錯誤やって、闇雲にやって、正解が出るかというとそうでもないところも含めて、すごく良い例えかなと思うので、そこは僕も使わせてもらいます。
小山:そうですね。このルービックキューブのメタファー、中土井僚さんが考えたアイデアです。複雑系を扱う時には、やはりビジネスに限らずどこでも同じ問題が起こるということですよね。
戦略は実行されないと意味がない
中川:あと、もう1問(質問が)来ていますね。「生成AIを使ってビジネスモデル・イノベーションの分析や企画、自社のリソースをどう使うか。評価はかなり簡単になっているんじゃないでしょうか」。まぁ、そうですねと思うんですけども、実際簡単になっていますか? というのが、現場で見ていての肌感ですね。
結局出てきたものの目利きに求められる難しさは、やはり今まで使っていた頭とあんまり変わらないんじゃないかなというのがあるので。スピードは上がるんですけど、実はそこにかかる負荷とか難しさというものの本質的な軽減にはなっていないんじゃないか、というのが僕の感覚だったりするんですが、どうです?
岩泉:何て言うんでしょうかね、なんか机上で新しいビジネスモデルはこうだとか、いろんな先端事例を踏まえて、自社の業界内における立ち位置を踏まえて取りうる打ち手はこうだと構想するようなところは生成AIを使ってかなり良いものができるなとは思っているんですけど。
僕は生成AI以降も悩み続けるんだと思っているんですが、結局経営ってどうしても実行なんですよね。戦略は実行されないと意味がない。我々も忸怩たる思いはあるんですけど。いい戦略を作っても結局実行されないことはあって。それは実行できない戦略だったということもあるんですけど、それ以外の要因ですね。やはり合理的に実行されないということがあって。
最近思うのは、やはり戦略の実行や実行の実務って何なのかというと、特に日本企業は、もう会議ですね。末端の人まで会議で戦略を伝えて、その戦略を踏まえてどうすべきかを会議で伝えてこい、というかたちでまた戻ってきて、という。
結局、その戦略の実行の実務である会議が改革されて、実際に戦略どおりに実行されないと……。ビジネスモデル自体を作ることは比較的容易になってくるんですけど、結局その実行が本当にできるのかというところでずっこけるケースが、ビジネスモデルに限らず増えてくるのかなとは思っています。
孫正義氏が202株主総会でソフトバンクのビジネスモデルを大転換
小山:1つ私からコメントしたいのが、ビジネスモデルって実は信念体系、宗教みたいなものだということです。孫(正義)さんが2025年の株式総会で「ソフトバンクはもともとAIのために作られた会社です」と言っていて、1980年代の創業のストーリーに「AIのために創業」と、スライドに書いてあるんですよ。
それはすごいことで、歴史を自分から書き換えて、違う歴史にしてしまう。歴史を書き換えることで、「これが我々のやりたいことだ」と、ソフトバンクという会社のビジネスモデルをガラリと書き換えたんです。実態がどうであるかというよりも先に、こういうモデルであるという、それを社員が信じる。それに突き進んでいく。これが実行される。
私は、トヨタの改善とかトヨタ式生産方式というものも、当然実態を表すものであると同時に、ある種の信念だと思うんです。ビジネスモデルというのも認識構造であって、それをどう共有するかが重要なんです。
そうした時に、AIが出てきて「はい、答えです」では、我々は信じられないですよね。それを社長がどのぐらい信じているかという信念としての強さが必要です。それがないと、ビジネスモデルの画竜点睛を欠く、じゃないですけど。最後の目が入らない。
だからそういったところも考えると、AIは案は出せる。でも最終的にそこに何か命を吹き込むのは人間の役割じゃないとダメ。ここは経営者の、リーダーの役割なのかなと思います。
まずは事業部ぐらいの粒度で把握する
岩泉:最後に、クイックに1つだけ。質問が来ているので。「ビジネスモデルというのは、1社で1つなのか。そうではなくて、チーム単位とか部署単位、どれが最小単位なのか」というご質問も受けていますが、いかがですか。
小山:ケースバイケースということになっちゃうね。人間一人でやる、個人のビジネスモデル・キャンバスを書くパターンもありますし。なんですけども、だいたい事業部ぐらいの粒度でまずは把握するのが多いかなと思いますよね。ただ、先ほど言いましたQC活動としてビジネスモデルをやる時には、もう部署レベルでビジネスモデルを書いて改善することをやりますね。
司会者:ありがとうございます。お時間が過ぎてしまいましたけれども、あらためまして小山先生、岩泉さん、中川さん、どうもありがとうございました。
中川:ありがとうございます。
小山:ありがとうございました。
『ビジネスモデル・ジェネレーション[コンパクト版]』、ぜひ多くの方に手に取っていただけるとうれしいです。あらためまして、今日はお忙しい中ご参加いただきありがとうございました。