【3行要約】
・ビジネスモデル・キャンバスは単なるフレームワークとして知られているが、その本質的な活用法を理解している人は少ないという問題があります。
・小山龍介氏は、現在のビジネス環境では構造的な理解が重要になっており、再現性のある成功パターンの把握が求められていると指摘します。
・ビジネスパーソンは、コンビニやAmazonの事例から学び、自社の競争優位を生み出す構造設計に取り組むべきだと提言します。
ビジネスモデル・キャンバスを徹底活用する方法
司会者:みなさま、本日は
『ビジネスモデル・ジェネレーション[コンパクト版]』の刊行記念セミナー「埋めただけで終わらない! ビジネスモデル・キャンバスを徹底活用する方法」にご参加いただき、誠にありがとうございます。私は翔泳社の坂口と申します。
最初に、本日の登壇者のお三方を簡単にご紹介させていただきます。まずは、この本を翻訳した小山龍介さんです。株式会社ブルームコンセプト代表取締役、名古屋商科大学大学院ビジネススクール教授でいらっしゃいます。また、一般社団法人ビジネスモデルイノベーション協会を設立され、ビジネスモデル思考の普及に取り組んでいらっしゃいます。
次に、EYストラテジー・アンド・コンサルティングのお二人、岩泉謙吾さんと中川遼さんです。お二人は、新規事業立ち上げや事業戦略などの数々の案件に従事され、翔泳社から書籍2点を刊行されています。
1つは『3つのステップで成功させるデータビジネス「データで稼げる」新規事業をつくる』、もう1つは『3つのステップで成功!社会課題で新規事業をつくる「ソーシャル×テクノロジー」で生まれるビッグチャンス』のメイン著者のお二人でいらっしゃいます。それではまずは小山先生にお渡ししたいと思います。どうぞよろしくお願いします。
小山龍介氏(以下、小山):よろしくお願いいたします。この本(『ビジネスモデル・ジェネレーション』)は当初から、「持ち運びにくい」という声もあって、この機会にコンパクト版になりました。コンパクトになっただけではなく、実はコンテンツもかなりブラッシュアップされています。
私も、この10年間の蓄積をみなさんに文章として少しお届けしたいということで、巻末にいろんな企業のビジネスモデルを紹介しています。今日は、そこに書けなかった部分も含めて、ハイスピードでご紹介していきます。ここからかなり早口でいきます。
前回の本を出版後、今ご紹介いただいたビジネスモデルイノベーション協会というものを立ち上げました。アレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニュール先生をシニアアドバイザーに据え、アドバイスを受けながらやっております。8社の企業賛助会員と300名を超える会員で、ビジネスモデルの普及啓発に取り組んでいます。
その際に、こういう話をいつもしているんですね。世の中にはいろんな現象がある。例えば「大谷現象」というのがあって、大谷(翔平)選手はすごいんですよ。すごいんですけども、なぜこんなに流行るのか。その背景には、実はいろんな構造がある。典型的にはドジャースの放送時間が、朝の情報番組で取り上げやすい時間であること。日本全国に大谷の打席が包装される。
あのメディア構造が、実はあの現象を生んでいるとか。さまざまな構造から現象を説明することによって、再現性のある方法を把握をしていこうと。これをビジネスに適用したのが、ビジネスモデルという考え方になります。
ビジネスの構造設計
小山:ロジックというのは3段論法ですね。人は死ぬ、ソクラテスは人である、ソクラテスはだから死ぬんだという。大谷現象というのは、この確実に起こるものではなくて、やはりいろんな要素が組み合わさって起こっているという。構造的なロジック、複数の要素が複雑に絡み合った、いわゆる複雑系を構成するものなんですね。

とはいえ、一言で複雑なものだと言っても、それじゃあ取り扱えないというので、アレックスが博士論文で書いたのがこのオントロジーというものでした。
このオントロジーというのは、ビジネスモデルという対象の最小限で過不足ない要素を、関係性を明示して体系化したもの、これをオントロジーといいます。これがビジネスモデル・キャンバスの元型となっています。

このビジネスモデルなんですけれども、経営戦略とビジネスプロセスの間に位置づけられます。売上をうん千億円にしようとか、営業利益率は何パーセント達成しようとか。日々やっているビジネスプロセスの間にある、このビジネスモデル。別の言い方をすると、一番上のプランニングレベルに対して、一番下の実行のレベルへと橋渡しをするアーキテクチャー、設計レベルの取り組みです。

いきなり営業利益率を「5ポイント改善しろ」と言われても、現場のがんばりではなんともならない。ビジネスモデル自体に手を加えないといけない。こうした設計レベルのスキルは、ミドルマネジメントにも必須となっています。
事例①コンビニのビジネスモデル
小山:使い方についてなんですけれども、コンビニエンスストアのビジネスモデルを書いてみたいと思います。顧客セグメントは、忙しい社会人。価値提案は24時間いつでもどこでも、顧客との関係はセルフサービスで、チャネルは店舗。収益の流れは、商品代金を定価で払う。なんだ、当たり前じゃないかと。

ここまで見るとビジネスモデルは大したことないなと思われるかもしれませんが、実はこの「いつでも」「どこでも」という価値提案を提供するために、主要活動としては「少人数運営」、最悪ワンオペでやる必要があります。しかも「小さな敷地面積」という、非常に厳しいリソース上の条件があるわけです。
なんなら、駅のプラットホームにもコンビニがあります。本当に3畳ぐらいのところでやっている場合もあります。どこでも展開するには、こうした制約条件があるわけです。そしてそれが故に、実はコンビニならではの特徴、業界の人から見ると確実に「あ、これ、コンビニだ」とわかる要素。これが実は「多頻度配送」なんですよね。コンビニだけがこの「高度物流システム」を持っています。
「寡占市場」になるコンビニ業界の構造
小山:今「だけが」と言ったんですね。実はスーパーマーケットは持っていないんです。スーパーは業者、卸が届けてくれます。なので、地方に行くと、ローカルスーパーがいっぱい残っています。ところがコンビニは、もうここの高度物流システムの多大な投資があるので、必然的に寡占市場になります。ほぼセブン、ローソン、ファミリーマート、ミニストップぐらいまでが残るというような業界構造になる。
このあたりのことは、我々消費者には見えないんですね。この仕組みまでを取り扱っていこう。それがビジネスモデルという考え方の根底にあります
ビジネスモデル構築には「3つのレベル」がある
小山:このビジネスモデル構築について、アレックスはよく、「チェックリスト的に使ってほしくない」という話をします。例えばExcelの表に穴埋めするように使ってほしくないんだと。これは必ずその中に関係性があって、ストーリーとして使ってほしいと。さらにそのストーリーが組み合わさっていくことによって、どんどんどんどん進化していく。時にはカニバリを起こしながらも進化していく。こういう発展があるんだ。

ここにはストーリーが必要だ、というのがアレックスの主張です。例えばコンビニの中でもセブンイレブンは、あらゆるお客さまに高品質で定番商品を専用工場で、大手メーカーと一緒になって作っている。これは本の中に詳しく書いてありますので、ぜひお手に取っていただけたらと思うんですけれども、そうしたストーリーがある。
もう少し紹介すると、セブンイレブンは「あれ、なんか他のよりもおいしいな。お弁当は他のコンビニよりもおいしいな」と感じる人も多いと思います。これは実は大手メーカーと一緒になってチームMDで作り、また専用工場を作るという、こういう活動やリソースがあるからこそなんです。原価のコストダウンをしながら、ドミナント出店でどこにでもあるという状況を作っています。