事例②Amazonのビジネスモデル
小山:このビジネスモデルのこうしたつながりの背景には、実はポジショニング派、ケイパビリティ派という経営戦略の2つの流れがあります。ポジショニング派はSTP、4P(マーケティングミックス)。こういったものによってまず、ビジネスモデルの右側にあるポジショニングのストーリーが確定します。

さらに左側は、ケイパビリティを示します。VRIO分析という分析のフレームワークもありますけれども。基本的には模倣困難、希少性というこの2つの軸から価値提案を作っています。ポジショニングとケイパビリティ、この2つをもってビジネスモデルが形成され、ストーリーを構成します。

この中では、専用工場があったら確かにこれはおいしいよねと、チームMDだったら確かにこれはいいものができるよねという、要素間の関係の強さ、蓋然性の高さのあるストーリーが組み立てられています。
こうしたストーリーに加えて、時間をかけてビジネスモデルを強化する、時間軸を伴ったストーリーがあります。Amazonを例に見てみましょう。店に行く手間を省きたい人はセレクションが、宅配が便利、低価格、レビューが充実ということでAmazonを使っている人は多いと思います。この背景には、マーチャンダイジング、システム構築、物流構築などがあって、厚い顧客層がいる。実は、ビジネスモデルとしてはAmazonもヨドバシもそんなに変わりません。
なぜAmazonは強いのか?
小山:ではなぜ強いか。このAmazonのビジネスモデルの強みを説明するのが、「好循環の図」と言われている有名な図があります。カスタマーエクスペリエンスが向上すると、トラフィックが増え、セラーが増え、セレクションが増える。セレクションがどんどんどんどん去年より今年、今年より来年と増えていくわけです。

さらにそれによってコストストラクチャー、要はバイイングパワーがついて、安く提供できる。こういう循環が生まれているというのが説明になるわけです。これは、実はシステム思考というものにちょっと関連するんですけれども。ビジネスモデルの中にこのループを書いていくと、さらにつながりが見えてくる。
セレクションはどんどん増えるし、コストダウンするし、物流は充実するし、レビューも充実していく。だからカスタマーがどんどん増え続けるんだと。こういう時間軸を伴ったストーリー。これを展開することによって、彼らは未来に向けてどんどん発展していく。

最初は本屋さん。でもジェフ・ベゾスは本屋さんで終わるつもりはなく、すぐにおもちゃやCD、家電に展開していきました。ショッピングサイトになり、今やKindleやPrime Videoなどのデジタルコンテンツプラットフォームになっている。これは自己強化ループが組み込まれているからこそ可能になってるというものになります。
Amazonの強みは、楠木建先生のいう「ストーリーの長さ」。時間軸でのストーリーの拡張性、発展性があるというところが説明できます。
「キーエンス」で営業利益率が50パーセントを超える理由
小山:さらにもう1つ、キーエンスという非常にユニークな会社があります。何がユニークか。営業利益率が50パーセントを超える唯一無二のメーカーです。

メーカーというと普通は利益率10パーセントで及第点です。大きなところになると、もう3パーセント、4パーセントでギリギリ利益を出しているようなところがある中で、50パーセントという驚くべき利益を出した。私がビジネスモデルのワークをやる時に、こういう数字を入れて、この数字がなぜ出てくるのかという、上のビジネスモデルを逆に推測するなんていうワークをやったりもします。
彼らの研究開発費は2.5パーセント。これは業界標準で言うと半分以下です。ほとんど研究開発にかけていない。原価も18パーセントとものすごく低い。普通は60パーセントぐらいですからね。営業利益率が出ている。これはなぜだろうか。
彼らの強みは、直販営業をあえてやるところにあります。安いセンサーであれば2,000円ぐらいなんですよね。もちろん電子顕微鏡になれば何百万円とか、システムになれば1,000万円、2,000万円となるんですけれども。直販営業するにはちょっと額が小さいものが多い。
しかも、彼らはバラエティが数千種類もある。在庫リスクを負っている。こういった模倣したくない競争優位を持っている非常にユニークなビジネスモデルで、他社が作れないエッジの効いた商品を持って、それを高く売っているということなんですね。
これで説明できるのは、「ストーリーの太さ」です。直販営業。この1つの要素がいろんなところに効いてきて、情報が取れるからユニークなものができる。直販だからユニークなものを売り切る力がある。直販だから、そこにどれぐらいのニーズがあるかわかるので、だいたいの生産量もわかってくる。
直販営業という1つの要素が、複数の要素間につながりをたくさん持っている。この太さがあると、非常に強い。楠木先生のストーリーとしての競争戦略は、ビジネスモデル・キャンバスの観点で見ても、非常に理にかなっています。
競争優位の階層
楠木先生は、競争優位の種類を5段階に分けています。まずレベル0。「外部環境の追い風」がある時は、誰もが成長する。

そしてレベル1。業界の競争構造がある程度決まってくると、先行性で勝負が決まる世界になります。QRコード決済なんかそうですね。PayPayとLINEPayが合併したら、もうそれで1位だということで、先行して勝てる。
先ほどのケイパビリティ・ポジショニングがレベル2で、実はそれよりもさらに上の、先ほど見ていたAmazonの戦略ストーリーがレベル3にあたります。一貫してそれを愚直に続けていくと勝てる。
それから最後のレベル4。今見たように、他が真似したくない、こういうものを楠木先生は「クリティカルコア」と言っています。他が真似をしたくないようなことをやる、模倣を忌避する。そのことによって、ある種の高い金額を……法外と言ってもいいぐらいの高い金額の値付けをして、利益を50パーセント達成する。キーエンスの競争優位の説明も、この図でできます。
ビジネス上の利益だけを求める時代ではない
小山:さて、今回の『~[コンパクト版]』の最後に活用方法の事例も挙げています。1つは、ビジネスモデル版QC活動。QC活動は製造業とかでよく改善をしていこうということで、グループでやったりしますが。私はいろんな企業でビジネスモデルをどう改良できるか、これを次世代リーダー育成の文脈でビジネスモデル・キャンバスを書き、そこを改善していく。そういう、半年ぐらいのワークをやったりしています。
2つ目が、クライアント理解。これは先日も広告代理店で研修をやりました。クライアントを理解して、ビジネスモデルに沿った提案をする。単に広告分野だけではなく、顧客の事業構造まで捉えてやっていく。そうすると事業構造に必要なKPI、それにひもづいた活動ができる。さらにDXを導入していくこともできます。
あとこれが、ちょっと今回の次のプレゼンの中川さん、岩泉さんの振りみたいになるんですけれども、環境負荷を考慮したビジネスモデル構築。こちらをご紹介します。
実は『~[コンパクト版]』の中にも、こういうキャンバスがあります。ビジネスモデル・キャンバスの下側に、社会的環境上のこういうものを置くんですね。これを置くことによって、単に収益レベルではなくて、ここに社会的環境上のメリット・デメリットをちゃんと考慮していこうというものです。
単なるビジネス上の利益だけじゃなくて、社会的、環境上の負荷まで注意していく、今そういう時代になってきています。そういった観点もカバーしている書籍になっています。ここでバトンタッチをしたいと思います。ありがとうございました。