【3行要約】
・従来の「支援者」としてのマネジメントでは、部下の自律性が育たず、上司だけが忙しくなる「マネジメントは罰ゲーム」状態に陥っています。
・終身雇用の後退や価値観の多様化により、生活やキャリアの主導権が会社から個人へと移行しているのが現代の特徴です。
・山田氏はマネージャーには「応援者」として好意的関心を持ち、部下のやる気に火をつけて自律を促す手法「10分間マネジメント」を提唱します。
マネジメントの役割が機能しなくなった理由
山田弘志氏:冒頭でまずお伝えしたいのは、もう従来のかたちではマネジメントの役割は機能しないということです。なぜなのか。最初の20分は、その理由を構造的にお話ししたいと思います。
かつての日本の企業では、年功序列、終身雇用、右肩上がりの経済がセットで機能していました。会社が社員の生活の安定を長期的に支援できた時代です。この環境の中では、上司は支援者であるだけで十分でした。
上司はやり方を教え、タスクを与え、困ったら助ける。これが当たり前であり、これだけで成果が出ました。つまりサポート、支援だけで組織が回った時代なんですね。それが間違っていたというわけでは決してなく、当時の構造では正しかったということなんです。

ところが、今の私たちがいる環境はまるで違います。例えば私が入社した平成元年は、新入社員99人の全員が男性社員でした。当時の女性の働き方は、いわゆる一般職という言い方で、補助業務が多かったりということが、当時としては当たり前でした。
ところが今は、終身雇用は後退し、働き方の多様化、人手不足、価値観の多様化が進みました。企業はかつてのように生活の安定を守ることが難しくなり、個人がキャリアを自分で選ぶ時代に入りました。
ワークライフバランスの本質は、楽をしようということではありません。生活やキャリアの主導権が会社から個人に移ったということです。価値観が多様化し、働き方も多様化し、会社に合わせる時代から個人が選ぶ時代へ大きくシフトをしてきた。明らかに前提が変わってきたということなんですね。
主導権が個人に移った今、上司と部下の関係は支援だけでは成立しなくなりました。支援だけでは指示を判断できないし、自律しない。自分で考えて自分で行動ができない。上司だけが忙しくなる。こうした問題が積み上がっています。こうしたことが結果として、上司や管理者が罰ゲームだと言われるようにもなってきている。こういう現状が起こっています。
正しい情報が集まる存在になれるか
ここで1つ、とても大事な前提をお話ししたいと思います。今の環境は、前例のないことへの対応が特別ではなく日常になっています。毎日が新しいこと、初めましてが続く状況と言っても過言ではないと思います。そういう中で過去の成功体験や「以前はこうだった」という判断基準がそのまま通用しない場面が増えてきています。こういう環境で一番求められるのは何か。それは、正しい現状を正しく理解するということです。
ではその正しい現実は誰が一番よくわかっているでしょう。それは現場にいる部下本人なんですね。上司は経験も判断力も持っています。問題解決のスキルもあります。しかし材料となる情報が間違っていれば、どんなに優れた判断も間違った結論になってしまいます。
つまりマネージャーには問題を解決する力だけではなくて、正しい情報が自然と集まってくる存在であることが求められます。変化が激しいからこそ、今の情報を正しく入手する必要があるんです。
ここで重要なのが、部下が本当のことを話してくれる関係性になっていきます。都合のいい報告、上司の顔色をうかがった情報、表面的に捉えられた、整えられた現状。これでは正しい判断はできません。
だからこそ、部下が信頼して話せる、正直な状況(の話)を出しても大丈夫だと思える関係性が不可欠です。これがなければ、どんなに問題解決力が高い上司でも、実力を発揮する土台そのものが存在しません。正しい情報が入ってこないからです。
そして、この情報が集まる関係性を作る役割こそが、これからのマネージャーに求められる新しい価値になります。これがマネージャーに求められる、情報が集まる存在であることの根拠になります。
部下の内側に火をつける「好意的関心」
では、何が必要なのか。それはマネージャーが支援者だけではなく応援者になることなんですね。まず、支援者というのは目標達成のために外側から整える関わりのことです。やり方、手順、優先順位、課題整理。これは従来の上司の役割としてずっと続いてきた部分です。
応援者とは何か。なかなか聞きなれないかもしれないですけど、これは部下の内側、内面に火をつける役割です。それは価値観の尊重であるとか、強みの承認であるとか、期待の言語化、選択の後押し。これは「あなたはどう生きたい?」「どんな未来を作りたい?」という後押しをする関わりなんですね。
これがとても重要ということです。応援というと「がんばれ」とか、「期待してるよ」という励ましのメッセージのイメージがあるかもしれないですけれども。でも、本当の意味での応援はもっと深く、その核心は好意的関心にあります。
好意的関心というのは、相手の価値観や願望に興味を持って、その人の存在そのものを肯定的に扱う姿勢なんですね。「この人には成長する力がある」「この人には価値がある」。そういう前提で関わること。応援は技術ではなく、相手をどう見ているかという姿勢そのものです。
そしてもう1つ大事なのは、応援は1回の対話では生まれないということです。今日ご紹介する10分間マネジメントは短時間で大きな効果を生みますが、それが機能するためには日頃の好意的関心が土台にある必要があります。日常的な小さな関わり、声のかけ方、表情、相手を尊重する姿勢。こうした日々の積み重ねが10分の対話の受け皿になります。
土台ができているからこそ、10分の会話が刺さり、動きが生まれるということなんですね。10分間だけをより完成度の高いものにしてもなかなか効果は生まれません。しっかりとした信頼のベースを作っていく、その前提であるところはご理解いただければと思います。
次世代マネジメントの3つの要素
(スライドを示して)次世代のマネジメントの要となるのがこの3つです。1つめは応援ですね。Encourageという言い方をしますが、これは相手の内側に火をつける、気持ちのエネルギーを生み出す役割です。
2つめは支援。これは以前からされてきたこと。やるべきことを整理して、構造を整え、成果に向かうための関わりです。
そして3つめが自律・委任。Empowerment、権限委譲という言い方もしますが、部下自身が自分の判断基準で行動を選ぶ力を育てる関わりになります。この3つが揃った時に初めて部下は自分で動き、自分で考える人材になっていきます。
そして、この3つが揃った現場では、非常に大きな変化が起きます。まず、上司の負担が目に見えて減ります。上司が管理しなくても、部下が自律して動くようになるからなんですね。

次に、会話の質が上がります。作業の話ではなくて、意思決定の話が増えていきます。そして行動が自発化し、スピードが上がって、上司の指示を待たなくなるために、仕事の流れがスムーズになり、最終的には、いい意味で勝手に動くチームと呼べる状態が生まれます。
しかし、現場では多くのマネージャーが支援に偏ってしまうという問題があります。特に、今のマネージャーのみなさんは、かつてそういう支援型のマネジメントを受けてきた。自分が経験したことを実際にマネージャーとしてやっているケースが多いのかなと思います。
しかし、支援ばかりだとどうなるかと言いますと、部下は自分の頭で考えなくなります。判断力が育たなくなります。受け身になります。結果、上司の負担が増えます。もちろん支援は大事ですけれども、支援だけでは動く理由が生まれないんですね。これが現場の停滞の一番の原因になっています。
人が成長する順番は「好意的関心→支援→自律」
人が成長する順番には正解があります。それはまず好意的関心ですね。これは真理。相手の内面としっかり向き合うこと。その上で支援。これが道筋の設計になります。その上で自律・行動という流れにしていく。
支援には3つのことが必要なんですが、これには信頼関係の土台が必要になります。そのために最初に必要なのは好意的関心。つまりその人の価値を認めるということです。これがあって初めて上司は部下のセーフティネットになることができます。
そして最後に本人が自分で選ぶこと。この順番を逆にしてしまうと、人は動かないし続かないです。成長はこの心理、構造、道筋の設計、そして行動。自ら動いていく。この順番で生まれるということです。

ここから、10分間マネジメントの説明に入っていきたいと思います。10分間マネジメントとは、次の時代に向けて信頼で動く組織を作るための仕組みです。ポイントはとてもシンプルです。1日1回、10分の対話で生産性・人の成長の2つを同時に生み出すことを目的にしています。
通常、成果を出そうとすると人が疲弊し、育成を重視すると現場が回らない。そんなジレンマが起きがちです。現状、やはり成果に追われているとなかなか人の育成は進まないと言われることも多いです。
一方で1on1は、人の育成に関わるアプローチではあるんですけれども、そこに仕事の要素が入り込んでしまうこともあります。10分間マネジメントは、そのジレンマを解消するために、短時間で3つの要素を同時に回す構造になっています。それが先ほど申し上げました応援・支援・自律ですね。
この3つを毎回10分の対話の中で自然に回していく。だから無理がないし、続けられるんですね。そして、現場が変わります。この後、なぜ10分でいいのか、なぜ3要素を同時に回す必要があるのか。そしてどうやってそれを実現するのか。仕組みとして順番に説明をしていきます。
10分間マネジメントの本質は対話の型化
まずは10分間マネジメントの考え方の全体像をここで押さえていただきたいと思います。あらためて、10分間マネジメントとは何かを整理します。10分間マネジメントとは、10分間の対話を型にすることです。武道で型と言いますけども、(会話を)型化するということです。これによって、信頼・行動・成果を同時に実現する仕組みなんです。
ポイントは10分ということではないです。対話の中身を毎回同じ構造で回すということです。しっかりと構造を理解して、これを繰り返せるようになることです。トレーニングしていくうちに、10分でできるようになると捉えてもらったほうがいいかもしれないですね。
(スライドを示して)まずは上の段ですけれども、これが成果を生み出すための6つの業務支援ですね。これはもう人事のみなさん十分わかっているところではあると思います。
意思決定をしっかり支援していく、調整をする、問題解決、業務指導、そしてフィードバックをして計画を変更していく。これは、現場でマネージャーが日常的にやっていることになります。
10分間マネジメントは、これを場当たり的に行うのではなくて、10分間の中で整理して扱うようにします。
一方で、下段は人を育てるための5つの成長支援。ここは傾聴する。しっかり話を聞いてあげる、プロセスを評価する、挑戦機会を提供していく。意味づけを共有して支援を提供していく。これらは忙しい現場ほど、後回しにされがちです。実は人が主体的に動くために欠かせない要素なんですね。