【3行要約】・部下への「指示ゼロ」マネジメントは理想的ですが、実際には指示待ちの部下が多く、マネージャーが悩む課題となっています。
・髙桑由樹氏は『はじめてのおつかい』を例に、目的・ゴール・全体像・情報を伝える指示なしマネジメントの手法を提案。
・部下の「自我の発達プロセス」を理解し、どこでつまずいているかを見定めることで、適切な支援ができると説明します。
前回の記事はこちら 「指示ゼロのマネジメント」のヒントは『はじめてのおつかい』にある
髙桑由樹氏:部下への指示ゼロのマネジメントを考えるうえでの1つの目安として、少し変わった例を紹介したいと思います。それが『はじめてのおつかい』です。「何を言っているんだ?」と思われるかもしれませんが(笑)、これは実は、指示なしマネジメントを考えるうえで、すごく示唆的なんです。

『はじめてのおつかい』って、幼児が1人でおつかいに行って、お母さんやお父さんは家で見守っていますよね。あれって、まさに逐一指示を出さないマネジメントだと思うんです。じゃあ、幼児におつかいをしてもらう時、親は何を伝えているか。そこを考えると、指示なしマネジメントのヒントが見えてきます。
まず必要なのは、「目的」と「必要性」です。例えば、「弟の誕生日パーティーを開くから、一緒に準備しよう」と伝える。そのうえで、「ショートケーキ用のイチゴを20個買ってきてね」と、ゴールを明確にします。
次に、全体像を伝えます。『はじめてのおつかい』でよくあるのは、地図をそのまま渡すことです。全体図を見せる。果物屋さんに行ったら、このメモとお金を渡して、「お釣りはちゃんともらってきてね」と伝える。細かく逐一指示するというより、必要な情報を一式、ちゃんと渡すわけです。
そこまで伝えたうえで、「できそう?」と聞くと、子どもは「うん、できる!」と言って出かけていきます。この「やってみる」という気持ちが、最後に必要になるんですよね。こうして考えると、逐一指示を出さないというのは、本当に『はじめてのおつかい』とよく似ています。だからこそ、この要素を、自分たちの仕事に当てはめて考えてみてほしいんです。
自分の仕事において、目的は何か。ゴールは何か。全体像は共有できているか。必要な情報は渡せているか。そして、「やってみよう」と思える状態をつくれているか。これを考えていくことが、指示なしで動ける部下を生み出すための、1つのきっかけや目印になるんじゃないかなと思っています。
「自我の発達プロセス」が部下の仕事への関心を高めさせる
今、ここに要素を並べましたが、この中で一番準備しづらいものがあります。それが一番下にある「やる気」です。仕事で言えば「仕事への関心」ですね。
幼児だったら「やってみる!」と前向きに言ってくれやすいですが、指示待ちの部下は、どうしても引っ込み思案になりがちです。「やります!」と言うのが、なかなか難しい。だからこそ、この「仕事への関心をいかに高めるか」が、実は一番の勝負どころになってきます。
では、「仕事への関心をどう高めるか」を考えるうえで、1つヒントになるものを紹介します。スライドに表が出ていますが、これは人間の自我、自分の考えが、生まれてからどのように発達していくのか。そのプロセスをまとめたものです。

人は生まれてから、年を重ねる中で発達課題を順に乗り越えていきます。まずは、まわりの人との信頼関係を築けるようになる。次に、自分をコントロールできるようになる。うまくいかない時でも、めげずにいられるようになる。がんばった分だけ成果が出るという喜びを知る。こうした経験を積み重ねながら、人は成長していきます。
その過程で、「自分はこうしたい」という自我が育ってきます。この「自分はこうしたい」という感覚は、仕事に置き換えると、仕事への関心ととてもよく似ています。実は、仕事への関心の深まりと、自我の発達は、かなり強くリンクしているんですね。だから、「どうやって仕事への関心を持たせるか」を考える時、この自我の発達プロセスは、すごく大事な目印になります。
ちなみに、この自我の発達は、上から順番に進んでいくものだとされています。どこかを飛ばして、いきなり次に進む、いわゆる飛び級のようなことは起きにくい。1つ1つの発達課題を乗り越えることで、次のステップに進めると言われています。
例えば、成人期になると「自分の意見を持ちながら、意見の違う人とも関われるようになる」とか。壮年期になると、「仕事を通じて、次世代の育成や継承に関心を持つようになる」とか。そういった状態に至るためにも、それ以前の発達課題を順に経験していく必要がある、という考え方です。
これは、右側に書いてある「職業人としての成長プロセス」と見比べても、かなり重なっています。

次世代を育てるとか、仕事を引き継ぐといった段階も含めて、この自我の発達プロセスは、「仕事への関心をどう高めていくか」を考えるための道しるべとして使えるんですね。こうして成長を段階的に捉えると、「今はこの段階だな」とか、「今の課題はここだな」というのが、見えやすくなってきます。
部下が「指示待ち」を抜け出せるかどうかの分かれ目
ただ、ここで次に出てくる疑問がありますよね。この考え方を職場で使うとして、「じゃあ、上司として具体的に何をすればいいのか?」という話です。ここからは、より具体的な話に入っていきます。
少し見ていこうと思います。今お話ししてきた「自我の発達プロセス」と「職業人としての成長プロセス」を、左側に省略したかたちで並べています。

まず、職業人としての成長プロセスを上から見ていきます。入社して最初にあるのは、上司や先輩との信頼関係づくりです。そこから、ルールや仕事の全体像を知り、それに従って動けるようになる。次に、自分からやってみるようになり、仕事のおもしろさを知るようになります。
さらに進むと、「こうすればできる」という手応えを得られるようになります。その手応えがあるからこそ、自発的・主体的に仕事を研究し始めるようになります。研究し始めると、仕事の良し悪しについて語れるようになってくる。そうなると、次は後輩や次世代を育成する段階に入っていきます。自分が培ってきた技術や知見を、人に伝えられるようになるということですね。
最終的には、オリジナリティを持って、自分なりにさらに追究していく、探究していくという段階に至ります。これが一連のプロセスです。この一番下までいけば、部下という言い方はしないかもしれませんが、人材としてはかなり成長している状態だと思います。他の人に知見を伝えられる状態ですから、指示待ちという段階は、とっくに越えている状態ですね。
おそらく、指示待ちが問題になるのは、この中で言うと3番目、4番目、5番目あたりです。「自発的」「主体的」という状態を越えていけるかどうか。このあたりが、指示待ちを抜け出せるかどうかの分かれ目になると思っています。
部下が「どこでつまずいているのか」をつかむ
では、実際に職場でこの考え方を使うとしたら、どうするか。まず必要なのは、「部下が今、どこで壁に当たっているのか」という現在地を捉えることです。そのうえで、考え方としては2ステップあります。スライドの右側に、上司が持つべき視点として問いが並んでいますが、これは部下の現在地を整理するための問いです。

例えば、一番上にあるのは「新人は、どのように周囲と信頼関係を築いているか」という問いです。これが見えてくると、「あ、この人は今、ここがうまくいっていないな」というのがわかってきます。
このように、それぞれの段階ごとに問いを持って見ていくと、指示待ちになっている部下が、どこでつまずいているのかが見えてくるということです。
整理すると、2ステップになります。1つ目は、「今、どの段階で問題が起きているのか」を見定めること。2つ目は、その段階において「何ができていて、何ができていないのか」を、この問いを使って具体的に捉えることです。
「どこでつまずいているのか」を定めて、「何が足りていないのか」を深掘りする。そうすると、「今、この部下に対して、上司として何をすべきか」が見えてくる、というわけです。