【3行要約】・AIがキャリア支援の二極化を生む中、個人に合わないキャリアを描くリスクも指摘され、包括的な支援網の必要性が高まっています。
・田中研之輔氏は人的資本経営の本質は「統制」ではなく「グロース」のためのデータ活用であり、個人の成長が企業の成長につながると強調。
・アダプタビリティは日常の小さな変化から伸ばせるとし、AI活用においても個人の状態に寄り添った伴走型支援が重要だと提言しています。
前回の記事はこちら AIが描く「本人に合わないキャリア」のリスクと支援の網の必要性
栗原和也氏(以下、栗原):コメントを拾わせていただくと、「個人のキャリアを考えるヒントにもなり得るけれども、本人に適さないキャリアを描いちゃうような生成AIの作用もあるんじゃないか?」とか、「AIと賢く共存できる人もいれば、ちょっと振り回されちゃったりとか、もしくはたぶん付いていけないという方もいるんじゃないか?」というものがあります。
さっきのゾーン分けで言うと、うまく付いていける人とそうじゃない人の二極化が進んでいく中で、みんなで一緒にキャリア支援を張り巡らせていかないと届かない方が出ちゃうんじゃないかなというのは私も考えているところです。
人的資本経営の本質は「統制」ではなく「グロース」のためのデータ
田中研之輔氏(以下、田中):今の栗原さんのお話にもつながるんだけど、我々のプロジェクト、プロティアン・キャリア(協会)がこれからの新しいキャリア形成を提唱し始めて5年経ったというところで言うと、いみじくもその頃から、動き出してきたのがうちの最高顧問でもある伊藤(邦雄)先生たちの人的資本経営だよね。
これは本当に企業へのインパクトをもたらしました。なぜならば、人的資本経営というのは、人材をコストと見ずに投資の対象であると見るからです。そして情報を開示していきましょうと。企業の中の、人に関するデータがあまりにも不透明だったから、これに関して情報を開示していこうというムーブメントが起きたんですよね。
なので、今、大企業群、あるいは上場企業群は、IRや中計の中に人的資本経営マトリクスを入れて、それのコンディションデータを発信しています。
文化としてものすごく重要なリテラシーという点で言うと、開示されたデータは、人をいわゆるガバナンス、統制するために使うのではなく人をグロースするために使うんだと。
つまり、コンプラ、あるいは、昨対比率の管理のためにデータがあるんじゃなくて、データというのはパフォーマンスデータなんだということを、このキャリア開発領域、あるいは人事領域、経営者の方と一緒にみんなで発信したいんですよね。
そうすると、今、栗原さんがおっしゃったように、データに対する、ある種アレルギーを持つ人にとってもいいと思います。だって、自分の状態が良くなるんだから。
体重の比喩で考える「データを罰にしない」発想
田中:わかりやすいのは、例えば適正体重が60キロで65キロになったとしたら、5キロ増えちゃったってみんな思うわけじゃないですか。
こういうシンプルナイズドなデータをみんなそれぞれ持つ必要がある。そうするとそれは個人においては、60キロから65キロになっちゃったということに関して、自分の生活における行動変容が生まれますよね。
良くない話で言うんだったら、例えば健康経営の中で、5キロも増加してしまっている社員が何パーセントいるからコントロールする。あるいは、そんな企業さんはいないけど、例えば減俸する、あるいは降格人事を起こすみたいなね。これって今、人的資本経営の情報開示の情報に対するメタファーなんですけど、そういうふうには考えちゃいけないということだよね。
むしろ、「なんでそうなったか?」に寄り添ってあげるとか、データに対して適切に向き合っていってあげる。それぞれ家庭やプライベートの時間があるにもかかわらず、週5日、もしくは週4日、けっこうな時間を1つのミッションあるいは会社が求めるプロジェクトに我々は時間を充てていくわけです。そこの心理的幸福感やビジネスパフォーマンス成果も高めておいたほうがいいよねという、本当にやりたいことはすごく本質的でシンプルなことなんですよね。
でも、それは逆説的に言うと、「それができていなかったよね、日本型雇用」っていうことなんです。それができていなかったけれど、「高度経済成長期は成長してきたからよかったじゃん」と蓋をしたんですよね。
経済が成長しなくなって、いわゆる人口減少、縮小経済、縮小社会になった時に、成長していないのにコントロールされているということが露呈したわけ。
だから、人が成長しつつ企業も成長するということにおいてやらなきゃいけないことは、個人と組織の持続的成長であることは間違いないんだけど、単なる営利の成長だけで考えないこと。もちろん私も自分の会社を経営していますし、経営顧問もやっているので、売上が立たないというのは死活問題だよね。
でも、人それぞれの状態を整えていくと、利益も後から付いてくるというのは、もう間違いなく言えるので、そのあたりをベースにしながら考えていくことがデータを活用したキャリア開発においては非常に重要だということですね。
栗原:ありがとうございます。