キャリア観は短距離走の連続へ
となると、私がキーワードになると考えているのはこちらです。時間ですね。高速化するということで、今までは長い時間をかけて成長していればよかったところから、かなり時間が短縮されました。
リクルートワークス研究所の古屋(星斗)さんも「今までのキャリア観がマラソンだったとしたら、短距離走の連続になった」という表現をされていました。
「27歳まで全力で走って、次、27歳から時代が変化するリスクがある」と。「そこからさらに方向を変えて全力で走る必要が出てくるんじゃないか?」ということを言われておりました。
これに関して、じゃあ、今までの27歳までが無駄になるかというとそうではありません。基礎体力や基礎筋力や走る力というのは付いていきますので、やはりそういった行動をすることで変化に適応するベースは培われていきます。
研修をアップデートする「プロティアン×生成AI」は相性がいい
この観点で、私たちはキャリア研修を少しアップデートしています。現代版プロティアン・キャリア理論と生成AIは非常に相性がいいと捉えております。
例えばキャリア資本論。これは田中先生が提唱されている理論です。自己投資に必要な資源、時間を整理して、何に自分は時間を割いていくかを決めていきましょうというキャリアの整理の仕方です。
これはもう7年ほど前から言われていますが、実際にビジネス資本、社会関係資本、経済資本と分類をして、それらをどのように蓄積していきましょうかということで、時間を考えていきます。
2つ目が、アイデンティティ、アダプタビリティで、価値観の棚卸し・思考です。生成AIの活用というのは変化に適応することなので、アダプタビリティを強化することにもつながると考えているのですが、この順序も非常に生成AIと相性がいいと考えております。
懸念されるリスク「思考力の低下」と設計の重要性
今ちまたでは「生成AIをそのまま使うと、思考力や意思決定力が低下するんじゃないか?」「ブレインロット化するのではないか」というリスクが懸念されており、研究で明らかになってきております。
私たちの研修において、やはり大事なポイントは、まずは自分できちんと考える、内省をする。メンバーと共に対話をする。同じような環境のメンバーと一緒に意見交換をする。そこで価値観の境界線を見つけたり、自分自身が大事にしているものは何かをきちんと整理した上で、その後具体的なアクションに活用していく際には、アダプタビリティとして生成AIを活用していく。
例えば例を挙げると、自分の強み弱みはわかっているけれども、それをどう活かしたらいいのかわからないとか、どう回避したらいいかわからないということに関しては、非常に多くの示唆を提供してくれる生成AIを使っていく。
ここで迷う時間を短縮して、何に時間を割くかを考える。つまりキャリア資本論ですね……実際の行動に移していく時間を増やしていけるというのが、現代版プロティアン・キャリア理論と生成AIの相性だと思いますし、先ほど前提でお伝えしてきた、この高速化していく時代においての処方箋になると私たちは捉えております。
このように、生成AIをただただキャリアに使えばいいかというと、私はけっこうリスクがあると思っています。きちんとした理論、体系的な理論をベースにして、「どう活用するか? どこで活用するか?」という設計が重要だと捉えております。
導入事例「行動する新人」が2倍に
実際にこの考えに基づいて、2025年度に大手生命保険会社さまの新入社員向けに研修を実施をしています。
行動する新人が2倍以上になりました。もともと研修前、ありたい姿に向けて行動できていた方は38パーセントでしたが、実際に行動に落とし込んだり、時間の使い方を整理したり、もしくは生成AIを活用して、それを高速で限られた時間の中でアクションまで落とし込むということを設計した結果、実際に、何をすべきかわからない状況から脱却をしたという結果が出てきています。

また、定性的な声としても、ポジティブな声を多数いただいております。ここにも1つヒントがあると思っています。例えば、「計画を立てる際に非常に有益だった」「優先度を立てる参考になった」「生成AI活用の抵抗がなくなった」という声もいただいております。
アダプタビリティにありますとおり、生成AI自体を初めて触ったり使ったりする人がいる中で、みなさんの会社の中で「生成AIをどう使うか?」というところのヒントにもなるのかなと考えております。
一方で、「うまく指示を出さないと途中から先に進まなくなった」という意見もありました。要は問いの設計ですね。問いの設計が重要だと。「発散し過ぎて迷ってしまった」、これは意思決定の問題ですね。先ほどの前提と同じですね。
そして、これは非常におもしろかったご意見なんですが、「そもそもキャリアは自分でもがきながら考えるものなので、生成AIを使いたくない」という素直な声もいただきました(笑)。
これは、私としては非常にうれしいコメントでした。ただ生成AIに染まるんじゃなくて、「やはり自分で考えてやりたいんだ」という人もいるというのが現実社会なのかなと思っています。

ですので、みなさん、キャリア支援者の役割は、ただ一義的に、これをバーッと「使え」とやるのではなくて、やはり個々の考えに寄り添いながらサポートしていくというところがこれからも残ってくるんじゃないかと私たちは考えております。
支援者側の注意点「活用できている前提」で設計しない
ポイントですが、やはり活用に関する生成AIのポイントや注意点、ハルシネーションのリスクなども含めて、進行をすることが大事だと思っています。
今はみなさんの意識が高いので、キャリアで生成AIを活用するということをすでにやられている方も多いかもしれませんが、受講者はほとんど使っていません。キャリア開発に生成AIを使う経験がほとんどなかったというのが私の実感値です。これは、新入社員向けもやっているのですが、実はベテラン社員向けも実施しておりまして、同様の感覚を持っています。
ですので、「受講者のみなさん、対象者のみなさんは、実際にうまく使えているかな? 活用できているかな?」という視点で設計をする必要があると捉えております。
補助線としての名言「人が変わる方法は3つしかない」
1つ参考情報ですが、大前研一さんの言葉で、「人が変わる方法は3つしかない」というものがあります。「1つ目は時間配分を変える。2つ目は住む場所を変える。3番目は付き合う人を変える」。「最も無意味なのは『決意を新たにする』ことだ」という厳しい言葉を残されております。

この「時間配分を変える」と「付き合う人を変える」は、プロティアン・キャリア理論とけっこう接続性があります。
先ほどの時間を変えるっていう話と、社会関係資本ですね。付き合う人を変えるという観点で、キャリアはスキル・能力だけではなくて、どう周囲との関係性を良くしていくか、作っていくかという視点もあります。この理論に基づいて時間の使い方を変えていくという開発が、これからのキャリア開発のポイントになるんじゃないかと考えております。
従来のキャリア研修と今後のキャリア研修、プロティアン研修の違いを表にまとめておりますが、今までお伝えしてきた内容になります。

ということで、データとAIを活用しながらキャリア開発をアップデートしていこうということで、私からのご紹介とさせていただきます。
ここまでご清聴いただきましてありがとうございました。さっそくですが、ここからは田中先生にもご登壇いただきましてご意見をいただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。