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井上陽子氏:(デンマークでは)例えば新入社員であったとしても、「この業務量だと37時間(週の法定労働時間)に入らない。じゃあ、今持っている中でどれを減らしますか?」ということが言いやすいわけですよね。だって上司も、部下は37時間労働じゃないとダメだと思っているので。
日本の場合、そのしわ寄せが中間管理職とかに行きそうなんですが、中間管理職だって37時間労働であるべきなんですよ。短時間労働が合理的で、37時間に入らないものはどこかで調整すべきだとみんなが思っているから、はっきり言って「How」は簡単なんですよ。
同じ会社でも、ポジションが違えばみんなそれぞれやり方は違いますよね。そういう意識を持っていると、例えば「決まらない会議に関係ない人を呼ぶ」なんてことを自然としなくなります。
(デンマークでは)そんなにたくさんの会議に呼んできたら、「それだけ重要なことを決める気なんでしょうね?」という暗黙のプレッシャーがあります。みんなの時間が大事だと思っていますから、Howはけっこう簡単にできるという話ですね。
デンマーク的な働き方で特徴を1つ言うとすると、会社も小さいしチームも小さいんですよ。そうすると、若手とかもどんどん使っていかなきゃいけないんですよね。
日本の方をもし変えるとしたら、例えば大卒院卒の若手の方が入ってきたとしますよね。デンマーク人に「そういう人たちをどう見ているか?」って聞くと、彼らは「大学院から出てきたばかりということは、最新の理論を知っているはずだ」と。だから、それを使いたいと思っているし、上の人が聞く耳を持っているんですよね。
やはりそれは若い人のやる気にもなるし、チーム全体のパフォーマンスも上がると思うんですね。だって経験がすべてじゃないので、若いからできないわけじゃないでしょう。
もう1つの視点です。「変化を起こす力の大切さ」というふうに書きましたが、これは競争力ランキングの取材をしている時も思ったんです。
ジェンダーギャップ指数で日本のランキングってどんどん落ちてますよね。それをどう見るかなんですが、別に日本が悪いことをしているというよりは、たぶん他の国がどんどん進んでいるんですよ。だから、日本が相対的に順位が落ちているという話だと思うんですよね。
なんでそうなるのかというと、本当は正しいと思っていることや、やらなきゃいけないと思っていることができていないから。変化を起こす力の弱さを顕著に感じるんですよね。
うちの夫はちょっと日本に住んだことがあるんですが、夫が日本人を見ていて、「大多数の人にとって都合が悪いルールがあった時に、日本人って都合が悪いルールに自分を合わせようとするよね。だけどこれがデンマーク人だったら、たぶんみんなでルールのほうを変えると思うよ」ということを言ってたんです。
なので、やはり(日本は)みんなで何かを変えていく力が弱いように思うんですよ。これって、成功体験の少なさというのもあると思います。「校則で髪の色って関係あるのかな?」とか思ったとしても、「こういうものです」って言われたら、それに従うものだというふうに、小さい頃からずっと来ているのもあると思うんですよ。
うちの子とかも先生をファーストネームで呼んでいます。アン先生なので「アン」と呼んでいるんですが、うちの子が日本の学校に行った時に、田中先生を「田中」と呼んでいて。「いや、田中は下の名前じゃないからね」と言ったんですが(笑)、そういう感じなんですよ。それと、何かおかしいと思ったらちゃんと言いなさいって言われているんですよね。
うちの子には日本語を教えているので、日本語補習授業校に行くと、1年生の1学期の最初からドリルみたいなやつで「この話のクマさんの気持ちは、次の3つのうちのどれでしょうか? A、B、C」という選択問題をドリルみたいなものでやらせる。
(デンマークでは)そういうのがなくて、チームで成績が付きますし、正解が1つじゃないものをチームみんなで課題を解決する。なので、その(デンマークと日本の教育方針の)違いもあると思います。
その結果がけっこう現れているのが、社会資本ですよね。デンマークは社会資本が世界1位の評価ですけれども、日本は141位。かつて私は読売新聞でめちゃくちゃな長時間労働をしていましたが、コミュニティの話とかに時間を費やしている余裕なんかまったくなかった。もう本当に、自分が生き延びるだけで精いっぱいだったので。
でも、確かこれ(スライドの写真)はうちの子どもが通っている幼稚園で「オーガニック給食を何パーセントにするか?」という話し合いの時だったと思うんですが、時間があるからこういうことを本当によくやっているんですよ。
うちの娘が小学校3年生だった時に、携帯電話を持ち始める子どもが出てきて、親の1人が音頭を取ったんです。「いじめの問題が起きる前に、みんなで携帯のルールを決めよう」と言って、その1人が声をかけますよね。それで、もちろん名簿があるからみんなが来る。
スタート時間はだいたい17時ぐらいなんですが、おもむろに誰かが司会役をやって、おもむろに誰かが書記を始めて、誰かが必ずコーヒーを持ってきている(笑)。そういう話し合いにすごく慣れているんです。
やはり、そういう話し合いの中でも変な意見とかを言う人がいるんですよ。「そういうことは聞いてないよね」みたいなことも言うんですが、そういう意見を取り込むのもうまい。でも、やはりみんなで何かを決めなきゃいけないから、結局その人の意見は入ってないんだけど、ちゃんと聞いてはいる。
それで何か結論を決めて、「じゃあ、わかった。デジタルいじめ問題についてNPOに頼んで、学校で1時間取ってもらおう」ということになりました。この一連のことには、先生とか学校はまったく関係ないです。親だけでやっています。
そういうふうに、人とつながって何かを変える力みたいなものが、日本と(デンマークを)行ったり来たりしているとかなり違うように見えて、それがすごく心配なんですよね。
「時間が大事だよ」ということで、私は『第3の時間』というものを書いたんですけれども、私がいかに16時に帰るようになったのか。私はデンマークという16時にとても帰りやすい国に行きながら、「私だけは違う」と、ずっと抵抗をしてたんですよ(笑)。でも結局、今は16時に帰っているんです。
何に気がついたのかを簡単に言うと、「時間とエネルギーは有限だな」と思ったんです。あたかも自分の時間とエネルギーが無限であるかのように、何でもかんでも仕事をやろうとしていた。でも、それによって失うものってあるんですよね。なんだって、その時間を使うことによって、何かを選択していないことになるんですよ。
私の場合はそれが夫とちょっとトラブルになって、その後の顛末はぜひ本を読んでください(笑)。そういうことで痛い目にあって思い知るんですが、実際に自分が16時に帰ってみたら、ものすごく集中して(仕事を)やるんですね。
「90分集中、15分休憩」ってやると、それを3セットしたら「もう無理!」という感じになってくるんですよ(笑)。言われてみれば、私だって知識労働者だよなと思って。そういう人は、頭を使う仕事ってそんなに長くできないんですよね。
そういうことをデンマーク人の友だちに言ったら、「そんな(笑)。ロボットじゃあるまいし」と言われて、ひと言で終わりましたが(笑)。「そうだよな。私、自分をまるでロボットみたいに扱ってたよなぁ」という気づきがあったりしました。
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