イノベーションにまつわる間違い
岸良:イノベーションにまつわる間違いもあるんです。イノベーションって、最重要課題として経営方針に入れてみたり、イノベーションの部署を作ったり、イノベーションセンターを持ったり、イノベーションの文言を会社のブランドメッセージに入れてみたり、イノベーターと言われる人を外部から連れてきたり、外部と連携してオープンイノベーションってやったり。
いろいろな方法論、TRIZ(発明問題解決理論)とかも一時期はやって、デザインシンキングというものが最近盛り上がったけど、(今は)あまり聞かないですね。どうですか? これも飛び道具トラップだね。誰ももう言わない。びっくりしません?
これ、全部制約に取り組んでいるんじゃない。実はアイデアは制約じゃないんだと。

イノベーションはアイデアを発想し、かたちをまとめて、ビジネス案を作り企画を通し開発し、販売して投資を行うという事業化のプロセスがあるわけです。
アイデアだけでイノベーションを起こせるほど甘くないってことですね。その中で「コストは?」「市場規模は?」「競合は?」ってアイデア潰ししている会社もいませんか? (スライドを示して)これは“確認トリ”って言うんですけどね、どうですかね。
先ほどからずっと「流れ」のことを言ってますけど、ブレーキはついているんですよ。でもアクセルはついていないんです。よかれと思ってやっているんですけどね。
iPS細胞の研究所の事例
岸良:こういう状況の中で、iPS細胞の研究所の事例です。がんの細胞ですね。iPS細胞によって作られたTリンパ球、T細胞ががんをやっつけるやつで、人間の体にはもともとあるものですけど、それをiPSで増殖させてやっつけるということをする。
実はみなさんの細胞のミスコピーが起こるからがんは起きるわけで、そのミスコピーを見つけてやっつけるんですよ。どんどんT細胞がiPSで元気になってやっつけているんですけど、死んだがん細胞は赤くなっています。
(スライドを示して)すごい赤でしょう。びっくりするんですけど、人間の大腸がん細胞なんです。リアルです。

真っ赤になりますね。これが全部死滅するんです。(動画は)早回ししていますけど、現実にはどのくらいでできると思います? 実はたった一晩です。

こんなにすごいのにこう言われるんです。「個別化製品と言って、自分の体からとったものから作らなくちゃいけない」「そんなことやったら品質は安定しないし、工場生産物の規格や工程の精緻化なんかできないだろ」「個別化製品は高いと思うぞ。将来のコスト低減とかできないだろう」「品質を証明するための実験動物データが取れないじゃないか」と。違う細胞が来ると免疫反応が起きちゃうんです。ものすごく微妙なんです。アレルギーってそういうことなんですね。
だから、ものすごく難しいんですよ。こういう中でやらなくちゃいけないので、学会でも「これは無理だ」と。常識的に無理。なぜって言ったら、動物実験をやってからと言う。
ヒトの細胞でやっているので、動物実験でうまくいったってダメじゃん。一人ひとりの自分の薬なんです。臨床試験をやってからって言ったら、臨床試験には10年かかります。(それをやってからとなると、自分は)死んどるやん。
「WOW!」と呼ばせるカタログ作りの話
岸良:でも、本当はこれを議論した(かった)んです。
(動画再生開始)
金子新氏:そこで、本当にいろいろなことを伝授していただいたわけです。「WOW!」と呼ばせるカタログ作りからだということで、2021年になりますが、けっこう幅広いバックグラウンドを持つ関係者が集まって、どういうコンセプトでいくか、それにはどういう価値があるかといっぱい(意見を)出し合いました。
半年ぐらいやって、2021年6月のメールのやり取りのヘッドラインなんですけど、カタログのレビューに至ることができました。こちらが当時のWOW!カタログです。この前の経営科学研究会で横河電機さんから「この写真使っていいですよ」とおっしゃっていただいたので(笑)。
「イメージ」って貼ってあるのは剥がしてもいいのかもしれないですけど、大きさ的には半導体を作る機械、ミニマルファブくらいの大きさ、もっと小さくてもいいかもしれないけれどもそのイメージ。
それでTセルを供給する機械を作りたいということになって、キャッチコピーを私が考えました。「Water? Coffee? No, my T please.」ということで、一応解説します(笑)。紅茶のTeaにかけています。

(動画再生終了)
岸良:実はこのワークショップでは、最初から関係者を呼び寄せているんです。いちいちアイデアを作っていろいろなところに持っていったら、みんな「やれやれ」って言うんだけど、全員でアイデアを作っているんです。全員のアイデアを入れているから「どう?」「俺のアイデアじゃん」とか言える。こんなのWebでできるんだね。
今までは大量量産しないと安くならないって言っていたけど、実はこれが問題なんですね。在庫が増えるんです。しかもある人はうまくいっているんだけど、2割ぐらいの人はうまくいっても、2割ぐらいの人が外れたらうまくいかない。
ところがTPSはどうですか? 大量生産ではなく、1個流しがいいんですよね。ジャストインタイム、35日ぐらいで自分の細胞から作ったT細胞ができて、がんをやっつける。どう?
それはできるじゃないですか。しかも遺伝子工学とインダストリアル・エンジニアリングの融合によって、「オーダーメイドがん治療は高いもの」だったのを安くできる。
よく考えたら細胞って、すごくちっちゃいのを知ってます? パイプの中でいい。だからこういうコンセプトができたんです。
会社のイノベーションプロセスにアクセルはついているか?
岸良:で、このアイデアをパナソニックさんに持って行った時に、ぜひやりたいっていうことになって。万博後に出そうと言っていたのを、6ヶ月前倒しでプレスリリースだけではなく試作機をCEATEC 2024で出しました。

さらにこれが話題になって『致知』2024年9月号に発表されました。本当にこれがすごいことになって、多くの方々に期待いただいています。

どうでしょう。会社のイノベーションプロセスにアクセルはついていますか? それともブレーキだらけですか?
ブレーキしかなくてアクセルがついていなかったら、車だったら不良品です。(会社のイノベーションプロセスに)アクセルがついていないのは問題じゃないかな。

こう考えると、経営幹部によるチェックプロセスを設ければイノベーションの成功確率が高まるというのは間違いです。DR(Design Review)で「コストは?」「市場規模は?」「競合は?」と質問を浴びせかけると、プロセスは関所となり止めるようになって、イノベーションにブレーキがかかる。言われてみりゃ当たり前ですよね。
「イノベーションはイノベーション担当が行うもの」も間違い。「すごい技術・商品がイノベーションをもたらす」も間違いで、「イノベーションは一部の天才しかできないもの」も間違いである。(そういうことを書いているので、)
『なぜあなたはマネジメントを間違えるのか? 会社の常識を打ち破るチェンジリーダーの教科書』をぜひ読んでいただければと思います。