【3行要約】
・組織での円滑なコミュニケーションは重視されていますが、実際には表面的なやりとりに留まり、真の理解に至らない職場が増加しています。
・高橋克徳氏は、価値観多様化と社会変化により「違うからわからない」で対話をあきらめる「静かなる分断」が進行していると分析します。
・縦の対話を実現するため、相互理解の土台作りから始め、小さな取り組みでも継続的に対話の機会を創出することが重要です。
「静かなる分断」を感じる職場の増加
高橋克徳(以下、高橋):対話を始めたい、対話を始めましょうという呼びかけがありますよね。でも今のまま対話ができるとは思えない。仕事だけではなく、仲間や会社とのつながりがなかなか感じられない、本音で話すことができない、見えない壁があるから。でも一番気になっているのは、「違うから、もうわからない。だから対話をあきらめる」という状態が、当たり前になりつつあるのではないかという点です。

確かに、いろんな違いがありますし、考え方や価値観もどんどん多様化しています。向き合ってみても、「わかり合えないな」とか、「やっぱり違うのかな」と思う時もあるでしょう。ただ、そこで向き合うこと自体をやめてしまったら、何も前に進まなくなります。そのまま閉じこもって、抱え込んでいく人が増えていくのではないかと感じています。
いろんな気持ちがあると思います。本当に「本音が見えなくて、どう向き合ったらいいのだろう」と悩んでいる人もいれば、「むしろ、そのほうが快適だ」「距離感があったほうがいい」「仕事は仕事で、お金のためと割り切ったほうがいい」と考える人もいます。
最近で言えば、「線引き社員」や「静かな退職」といった言い方もされますし、確かに、そうした考え方が出てきています。ただ、そういう人たちと一緒に働く中で、本当はどういう気持ちなのかわからず、モヤモヤしている人もいる。この状態を、このまま続けていていいのかという問いが残ると思うんです。
これは今に始まったことではなく、もともといろんな壁があったと思います。ただ、その壁を意識できないぐらい忙しかったなと思うんです(笑)。意識する必要がないぐらい、あるいは意識していても、仕事自体は回っていく。とにかく大変だったんだと思うんですよね。
でも、コロナをきっかけに一歩引いて、見渡してみた時に、「この人たちと違うかもしれない」「この人たちが言っていることが、よくわからない」。そういう壁が、どんどん見えるようになってきたのではないかと思います。
その見えない壁が、なんとなく感じられるようになっている。前提や価値観、背景が違う。違うから、よくわからないし、余計なことを言えないし、踏み込めない。そう思って、ふたをしたまま表面的なやりとりだけを続けていくと、お互いに「もうここは関わっても難しい」「距離を置いたほうがいい」と感じるようになり、心が離れていく状態になっていく。これが、「静かなる分断」です。

これが職場だけではなく、社会全体に起きたとしたら、これから起こっていくいろんな課題と、私たちは向き合っていけるのでしょうか。
経営層・管理職・若手層の間で対話が噛み合わなくなる理由
高橋:僕自身、価値観の多様化という問題もあると思っていますが、もう1つ大事なのは、社会そのものが大きく変わろうとしているということです。AIがどんどん入ってきて、仕事の中身が変わっていく。その中で、人口減少社会に向かって、今までやってきたビジネスを本当に継続できるのか、そういうことも問われていくでしょう。
あるいは、社会の中で課題が次々と出てきて、その課題を解決するために何ができるのかを、みんなが考えなければいけない時代に入ってきていると思います。でも、それなのに対話ができない。考え方が違うから一緒にできない。そのままでいいのでしょうか。
本当に一人ひとりが自分らしさを求め、自分の意思で人生を選択できる時代になる。一方で、1人ではどうにもならないことが、たくさんあふれ出していく時代でもあります。その中で、自分たちは何をするのか、どう生きたらいいのか。そういうことを真剣に対話し、その中から何かを踏み出していく。そんな関係づくりが、今まさに必要なんじゃないでしょうか、ということだと僕は思っています。
たぶん、ここに集まっている方は、同じような問題意識を持っているのかなと思います。ただ、実際に対話をしようとすると、簡単じゃない。それが、たぶん今日の悩みでもあるんじゃないでしょうか。みなさん自身が感じていることだと思います。
私たちのほうで考えているのは、対話というのは、近い人同士であれば、まだやりやすいということです。世代が似ている、年齢が近い、同じ性別である。そういう場合は、比較的対話が成り立ちやすい。
一方で、まさに違いを感じている相手。世代、役職、性別の違い、場合によっては国籍の違い。そうなってきた時に、その中で本当に対話ができるでしょうか。特に今、必要なのは縦の対話だと思っています。経営層と中間管理職、そして若手層。その間にある、さまざまな価値観の違いに、ちゃんと向き合えていますか、という問いです。
その時に大事なのは、まず対話の土台をそろえることです。

土台がそろっていないと、対話そのものが始まりません。次に、本音で対話できる関係がなければ、いきなり難しいテーマについて話すことはできない。ここも、とても大事なポイントです。
そして最後に、本質をきちんと探求することです。みんな違う、価値観が違う、考え方が違う。そう思っていること自体に、ちゃんと向き合ってみようということです。
対話の土台をそろえるための5つのカギ
高橋:こうしたことを、実際にどうやったらできるようになるのか。今日はその入り口として、「こんなことが必要かもしれない」とか、「こんなことならできるかもしれない」といったことを、一緒に考えていただきたいなと思います。
最初の「5つのカギ」は、本当はこれ自体をワークにしているんですが、今日はサクッといきます。ただ、実はここがいちばん入り口として大事だと思っています。

世代が違う、役職が違う。そういう中で、いきなり「対話しましょう」と言っても難しい。よくあるのは、社長がキャラバンを組んで現場に行って、「タウンホールミーティングだ」と言いながら、「君たちの意見を聴かせてほしい」と呼びかける。でも、そうやって場をつくっても、誰も何も言えない、という光景です。
そういう状態が当たり前のように広がっている中で、「どうやって対話するんですか」と言われても、確かに難しいと思います。
これは価値観として共有していく必要があることですが、1つ目は、遠くから眺める、客観視してみるということです。自分自身が見ている世界は、自分の目を通して見えている世界です。みんな立ち位置が違うので、見え方も違うし、そこにそれぞれの経験が重なって、自分なりのフィルターを通して物事を見ています。
だから、「今起きていることを語ろう」と言っても、立場の違うところから見ているので、話がかみ合わなくなります。会社の社長や上の立場の人が「イノベーションが大事だ」と言っていても、若い人たちからすると、「現場の今の状況で、どうやってそんなことをやるんですか」と感じる。そこには大きなギャップがあります。
なぜ「イノベーションが大事だ」と言っているのか。現場におけるイノベーションとは何なのか。そこをきちんと話し合っていないから、「イノベーション」という言葉が、みんなの言葉にならない。
だからこそ、それぞれがどんな立場で、何を見ているのかを、同じ俎上に載せることが大事です。これは、とても重要なポイントだと思っています。「みんながそれぞれ、どんな目線で何を見ているのかをまず出し合ってみよう。そこで、今起きていることを客観的に見てみよう」。このスタンスを持つことが大事だ、ということです。