【3行要約】・心に響く言葉は本質と感情に触れるものであり、リーダーシップにおいて相手の心を動かす重要な要素となっています。
・井上健一郎氏は「言葉は心を動かす力がある」とし、本質を捉える言葉力は日々のトレーニングで磨かれると説きます。
・リーダーは「期待する」から「一緒に何を作れるか」という視点へ転換し、相手が自ら動ける状態を作る言葉を意識すべきです。
前回の記事はこちら 心に響く言葉は「本質」と「感情」に触れている
井上健一郎氏(以下、井上):さぁ、そんなようなお話をしてまいりました。次は、最後ですね。「心に響く言葉」。やはり、リーダーだったらそういう言葉を言いたいですよね(笑)。
(会場笑)
「すてきだなぁ」とか思われたいじゃないですか(笑)。「心に響く言葉って、どんなふうなことで成り立つのかな?」っていうことをちょっとまとめてみました。
まず1つは、やはり「本質に触れている言葉」。「まぁ、それは確かにそうだ」と感じる。普遍性とまで言わなくてもぜんぜんいいです。表面的な会話で交わされていることではなく、深みがあったり、広がっている。
いろんなところから見た言葉で言われると、すごく本質を感じるんですね。特に、その要点、要を突いているもの。「ポイントを突いているな」と思う言葉は、「本質に触れている言葉」と感じるんですね。
そういう言葉って、日々出ませんか? 昔、私が一緒に仕事をしていた先生なんかも、「行動すれば次の現実」とおっしゃっていました。けっこう、「お!」って来るじゃないですか。そういう言葉って大事だなって思います。だから、できれば! みなさんは、これに触れられる言葉を作る訓練をしておいてほしい。
先ほど言ったように、これからは言葉がすごく大事な時代です。ここは、やはり訓練(が必要)なんですね。できるだけ視野を広く、視座を高くという見方をしないと、これは出てきません。センスを磨いてほしいなと思います。
あとはやはりもう1つ、イメージできる言葉ですね。「例えばこういうことだよ」とか。あとは、この共通体験というのもあったら、非常にいいです。「この話、この間行った、あの時の動物園の猿みたいだよね。」みたいなね(笑)。「あ、そうですね」って、イメージが一緒になる。
「なんとなく、こんな感じのことだよね」と、わかるようなふうにしてあげるといいかなと思います。心に響くというのは、「なるほどな」とか、「そうなんだよねぇ」と言ってもらえるような言葉です。
それから、ちょっと違う軸で、やはり聞き手の感情や価値観に触れる言葉。例えば、(スライドを示して)ここにある悔しさとか。その悔しさに対して「わかるよ」と言うだけではなくて「僕なんかの経験でも、悔しいあとに必ず、気づきってあるんだよ」と言ってあげるとか。相手の感情に触れていくということです。
あとはやはり、希望。「こんなのになれるといいね」というようなこと。例えば、非常に論理性の高い部下がいたとします。その彼の良さを認めている時は、「その論理性を使ってやっていくと、こんなふうになれるよね」と、その先の姿を伝えてあげる。「そういうことを使っていくと、こういう世界が広がるね」みたいに、見える世界を表現してあげると、感情が高まるだろうなと思います。
(スライドを示して)あとは、この「あなたは〇〇な人」というのは、価値観ですね。ここに入るのは価値観です。「あなたって、非常に丁寧な仕事をする人だよね」とか。「あなたって本当に、人の気持ちをまず大事にする人だよね」とか。これは、みなさんが感じたものでそのまま言っちゃって大丈夫です。確認する必要はありません。
例えば「あなたって、やはり鋭いよね」と言われて、嫌な思いをする人っていないですよ。「あなたって本当に丁寧な仕事をするよね」って言われたら「そう見えるんだ。うれしいな」と思うと思います。ということで、こういうのもやはり非常に響いてきます。「そうなんだ。自分って丁寧に見えるんだ」ということが、何かのきっかけになっていくわけです。
それからもう1つ。やはり、語り手の人柄が伝わる言葉。真剣さ、誠実さ、心情、愛情なんて言葉もありますね。
実はこの間サロンの中で、「厳しさと優しさ、甘さとは何だ?」みたいな話をしました。「厳しさと甘さの底辺にあるのは愛情ですよね」なんていう話が出ました。それが厳しい表現なのか、優しい表現なのかの差だけであるということです。「それが相手に響くかどうかは、裏側に愛情がないとダメですよね」なんて話を、サロンの中でもしました。
「この人は私に対して、ちゃんと愛を持って接してくれているな」と思えれば、苦言もちゃんと入っていくんですね。なのでこのあたりが、心に響くという意味では、大事な要素なんじゃないかなと思います。
本質を捉える言葉力は日々のトレーニングで磨かれる
井上:これを、チャッピーくんに聞いてみました(笑)。この前段のところをバーンと言って「例えばどんな例である?」と言ったら、ガーッと30個ぐらい出してくれました。

ちょっと使えないものもけっこうあったので(笑)。割愛して、私が気に入ったやつをここに選んで載せました。「いいこと言うなぁ」というものが、けっこうあります。みなさんもちょっと読んでみてください。こんな言葉が作れるようになったら、うれしいじゃないですか。この中でね、使えるものがあったら使ってもらっていいですし。
ちょっと加工して使っていただいてもかまわないと思います。例えば、先ほど訓練と言いました。本質を捕まえる問い。毎日5分でいいですから、こんなのをやってみたらどうですか? いろんなセミナーや研修の会場でも言うんですけどね。ほとんどの方はやらないんです(笑)。
(会場笑)
でも、本当に本質的なところを突きたいと思ったら、少しやってみるといいと思います。まず、今日あった出来事を1つ選ぶ。それで「なぜ、それが起きたか?」。ここが大事です。ここに例があります。出来事「部下がミスを報告してこなかった」。「なぜだ?」ということですね。それを考える。ここはある種、推測でもいいですよ。
「こういうことでこういう事象が起きたんだ」とまとめて、20字以内の1行で表してみましょう。ここで言うと、部下がミスを報告してこなかったのは、きっと「怒られるとか、ビビったんだろうな」と推測できたので「不安は沈黙を生む」という言葉を生んだ感じです。ここは別に、すてきな言葉にする必要はありません。そういう訓練です。
「これって、こういうことだ」。因果関係を言葉に置き換えるのが、本質のあり方なので。この因果の因を追求していくと本質に迫っていきやすい。この1つの事例も、推測する時にはいろんな要素が考えられるので、その一つひとつをちょっとした言葉にしておくと、訓練できます。
大学の時の1年後輩でコピーライターになった人がいます。彼がコピーライターになったって聞いた時に「噓だろ……」って、思いました(笑)。一緒のクラブだったんですけど。「あいつ、ぜんぜん言葉なんか魅力的な人じゃないじゃん」みたいな。
(会場笑)
あとで聞いたら、コピーライターになったのは27歳の時なんですよね。(コピーライターに)なりたくて、広告代理店に入って、自分で5年間訓練したそうです。そうやって、独立するぐらいになりました。「訓練なんだなぁ」って、思いましたね。意外と言葉って、センスだけかなと思っていたらそうでもなくて、やはり技術なんですよね。というところを、あらためてわかった次第です。
あとは、比喩。例えばこれは遊び感覚でOKと一応しておきましたが、ランダムに2つを毎日比喩化する。例えば、信頼と火。変な話「信頼を火の要素で例えると、どうなるの?」といったら、ここにあるように「信頼は、暗闇を灯す小さな明かりのようだ」みたいな言葉が出てくる、というようなね。

別に誰かに見せるわけじゃないので、やられるといいんじゃないかなと思います。「挑戦と海」とか。はい。じゃあ、みなさんにちょっと今考えてもらいましょうか(笑)。
(会場笑)
何にしようかな? 「成長と水」(笑)。「成長と水」という言葉で、言葉を作ってみましょうか。お二人で検討してもいいですし。みなさんやってみてください。成長を、水のある要素で表現するとどうなりますか? 私も今、突然言ったのでね、自分じゃわからないですよ(笑)。考えよう。
何でもいいですよ。非常にすばらしい言葉にする必要は別にありません。はい、どうぞ。
(ワークショップ開始・終了)
はい、ありがとうございます。今、精度の高い言葉を作らなきゃとか、正解にしなきゃいけないわけではありません。それを考えている時の回っている思考が、訓練なんです。
騙されたと思ってやると、みなさんの言葉力は必ず上がってきます。その本質みたいなものをつかんでいる上司と部下では、ぜんぜん違うんですね。上司がつかんであげていると、先ほどの「心を開く」ということがちょっとでもできて、この言葉が使えた時にバーンって早く入ってくるんです。そうすると、「そうだ!」って前向きにもなれます。高度ではあるんですが、ぜひみなさんには、訓練をしていただきたいなと思います。
この言葉というものが、何を動かしているのかというのは、冒頭に言いました。心を動かすんですね。「心とは何か?」と言ったら、論理的に、理性的にわかる部分と感覚、感情的にわかる部分が両方備わっているので、心というのはそのセットです。言葉はそれを動かすほどの力があります。
「言葉ってどうしたらいいですか?」っていうテーマにおいては、もっともっと他にあります。みなさんも、このセミナーにいらっしゃる時に「言葉について、こんなことを聞きたかったんだけどなぁ」というのがあったら、このあと質問していただいてもかまわないです。あまり情報量が多くなりすぎて混乱してもいけないので。そんなお話をさせていただきました。みなさん、質問はありますか? 何でもいいですよ。
(会場挙手)