抽象と具体を行き来して「何をすればいいのか」を一緒に整理する
事象が起きて、それに対して(自分は)こう感じたんですね。でも「なんでその事象が起きたのか?」というところに1回、冷静に行く感じです。先ほど工場の「動く前に2秒」というスローガンを紹介しましたが、これは、そういう間を作っている感じです。自分が感じたものを相手に言う前に、いったん相手の状況を知るために言葉を選ぶのが、右側です。
この中で、ちょっとだけ補足の説明を必要とするのは、(スライドを示して)この「具体的にしていく」というところです。抽象的なものを具体的にする。ここは、今はみなさんとお話ししている流れの文脈ではないのですが、「何をしなきゃいけないか?」という時には、やはり極めて具体的にする必要があります。
僕の例をいうと、かつてアーティストのプランニングに携わっていた時に、媒体の方を呼んでイベントをやることになりました。企画を立てて、プレゼンをする機会があって、部下がその内容を考えました。(私は)「このアーティストの魅力が最大限に伝わるようにしてくれよな」って言いました。それで(企画書が)出てきました。「は? (魅力は)そこ?」(笑)。なんですよ。
これ、何が私のミスか。「このアーティストの魅力は何か?」を何も語っていないんです。僕は、そのアーティストの魅力は、曲作りのすばらしさであると伝えたかった。でも部下は、ボーカル力を伝えようとしていたんですよ。
「ソングライティングの力を伝えなきゃいけない」って、私が主体者として本気で思っているんだったら、「伝えたいのはこれだからね」と言わなきゃいけないんです。できればもう一歩手前。「君はどう思う?」なんですよね。「このアーティストの魅力って何だと思う?」という対話をちゃんとしておけば、ズレは出なくなります。
よく週の会議なんかでも「進捗状況は?」「あ、先週お客さんのところに行ってきました」「どうだった?」「ちょっと『上司の決裁を取るために1週間ほど待ってくれ』って言われました」。「お、わかった」で、終わっちゃうんですよ。そうじゃないんですよね。
「どういうふうなことを伝えたの?」とか「『決裁が必要な部分ってどこなのか?』って聞いたの?」とか。具体的に何をしたのか。そして「このあとに何をしなきゃいけないのか?」というところに、会話を落とし込んでいかないといけないんです。
ちょっと違う筋の「具体性が大事だよ」というのは、そういう意味です。部下の行動をちゃんとコントロールするという意味ではありません。やはり本人も、よくはわかっていないですから、そういうところまでたどり着いていく。
ここで注意するのは、非常にベテランな人に対しては失礼になる可能性があります(笑)。ベテランの人には抽象度の高い言葉で投げたほうがいい時もあります。それを翻訳して自分なりに解釈して作ることを大事にしているのがベテランですから。そこは気をつけなきゃいけない。だから抽象・具体が行ったり来たりします。
相手によって度合いを変えなきゃいけません。ここは意外と、大事なポイントなのでちょっと補足をしておきたいと思います。
「一緒に眺める」スタンスで相手の自己防衛を下げる
そして「俯瞰させる」ということを、先ほど言いました。1on1でよく起こることなので、例として出しています。私が最初に書いた本、『部下を育てる「ものの言い方」』の中でも言っています。
例えば「レッツ」なんて書いてありますけど、「何かしてみようよ!」「しよう!」という声掛けですね。ここでの例でいうと、「考えなさい」じゃなくて「まだ他にもやり方があるかもしれないから、もう一度考えてみよう」という言い方。
それから、感想みたいな言い方。「だねー」とか「じゃないかな?」「かもしれないね」「もう少し工夫する必要があるかもしれないね」という言い方です。
「相手と今回の商談でちょっとうまくいっていないんですよね」という報告があった時に「もうちょっと工夫しなさい!」ではなく、「あ、じゃあもうちょっと工夫したほうがいいのかな?」みたいに言うと、直接的に否定されている言葉に聞こえない。
先ほど言った、自己防衛をさせない。客観的な事象を、離れて一緒に見ている感じです。主人公にならずに、ちょっと遠いところから2人で「あれって何だろうね?」って言っている感じですね。そういうふうにしてあげると、意外と相手は落ち着いて話せるようになります。
それからもう1個は、疑問形ですね。感想と同じような意味合い・効果ですけども。「〇〇かなぁ?」っていう(笑)。「なんか他にやり方あるのかなぁ?」とか。上から何かを言うんじゃなくて、「あれかな?」と言っていると、部下も「かもしれないですね」となれる。それを最初から「他のやり方でやんなきゃダメだよ!」「あるだろ! 他に!」って言っちゃうと、(心を)閉ざしちゃうんですね。

もうちょっと違う側面でいうと、思考のほうですね。一緒に考える、状況を整理する時は、目的、ポイント、進捗状況の確認をしましょう。あとは感情の整理みたいなことをしていきましょう。目的は「そもそも何のためにやってるんだっけ?」。これも、疑問ですよね。
末尾は先ほど言った3つになっていると思います。進捗状況とかも、そうですね。「なかなか答えがもらえないんですよ」と部下が言ってきたことに対して「何が起こっているんだろうな?」と聞いてみる。
「いやぁ、よくわからないんですよね」と返答があったら「それがわからないとなぁ。先に進まないしなぁ。どう思う? 何だと思う?」と言ってみる。すると「その前の話の時にちょっと変だったんですよね、もしかしたら……」みたいなことが出てくるんですよね。そういうことが大事になってくる。
あとは視野を広げるというところで言うと、立場を変えるとか、遠くから見るとか。掘り下げるように考えさせる。まぁこのへんは、相手の思考をさらに高めて、考える力を高めるためのサポートの言葉ですね。

ただ、文末だけは、先ほどのような3つのポイントを押さえていただけるといいかなと思います。「心を開く」ということについてお話をしてきましたので、感想をお隣の方と3分間話してみてください。もしくは「このへん、わかんないな」でも、何でもいいです。ちょっとアウトプットしましょう。どうぞ!
(ワークショップ開始・終了)
はい、ありがとうございます。正直、「そんなまどろっこしいこと、してられないよ」みたいな時もあると思います。
(会場笑)
当然ありますよね? ただ、何回も言いますが、相手がその前に鎧を着ちゃったら言葉を聞かないんですよ。怒りにつながるような場面ではグッと堪えて、少しでも相手の扉が開くようにしてあげてほしい。開いたところで言い伝えたいことを言っていかないといけない。
だから先ほど言ったみたいに、一緒に眺めるとか、一緒に考えるというスタンスで近寄ってあげる。そうすると「でもさ、やはり今回はちょっと……。ミスっちゃったね」みたいなのが、だんだん(相手に)入ってくるわけです。そういうところにしていかないと、その部下の行動を直したい時も直せないんですよね。とにかく何回も言いますが、相手がガチンと鎧を着たら、もうアウトだと思ってください。