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離職を止める、今から始められるリテンション強化~離職は“偶然”ではなく“構造”で起きる~ (全4記事)

朝の掃除が勤務時間に含まれない… 少しずつ社員の心が離れる“残念な職場ルール”の例

【3行要約】
・離職率の高さに悩む企業が多い中、離職の判断基準の一つとなるのが従業員の「存在欲求」です。
・株式会社ニューチャーネットワークスの張氏は、離職防止には「変化の実感」が重要で、すぐに改善できる領域から取り組むべきだと指摘。
・企業は給与や労働環境だけでなく、心理的安全性や多様な活躍の場を整え、従業員が「この会社で働き続けて大丈夫」と感じられる環境の整備が求められます。

前回の記事はこちら 

「この会社で働き続けて大丈夫かな」を判断する存在欲求

張凌雲氏:離職防止の定石ですが、これはローコストで、すぐに高められる欲求(の満足度)を短期的な取り組みでどんどん高めて、その先にある制度的な改革などの障壁や、経営課題とも長期的に向き合っていくことだと考えています。

今回のセミナー全3回を通じて、まずはこの個人の3つの欲求に焦点を当てて、どうやって私どもが離職を防止しているのかを紐解いていきます。また、当社の組織開発手法は次回以降に紹介できればと思います。

続いて、実際の個人の退職理由を見てみたいと思います。リクルートさんの、「新人・若手対象の退職理由」のデータです。まず「労働環境・条件が良くない」「給与水準に満足できない」がツートップの影響度となっています。

そして、次に来る分が、「職場の人間関係や上司と合わない」「希望する働き方ができない」「成長できる見通しが持てない」。あと、「仕事にやりがいを感じない」などです。

その下に、「今後のキャリアが描けない」や、「やりたい仕事ができない」「昇進・昇格が見込めない」というふうに影響度別で、上から大きく3つの群が形成できるかと思います。

離職防止は「変化の実感」がポイント

これら3つの欲求を分類してみると、このようになります。存在欲求の欠乏は離職理由に最も大きな影響を与えています。労働環境や給与などの日々の生命活動に直結する領域の存在欲求を満たすことは、まず最低条件であることがわかります。ただ、存在欲求の中でも給与や休日の日数は、やはり会社としてすぐに改善できないと思います。

なので、私どもがご支援している会社でも、まずは存在欲求の中でもすぐ取り組める領域である、例えば残業時間を平準化するとか。ちょっとした組織への貢献に対して報酬を与えるプチインセンティブ制度ですね。そういったもので即効性を求めつつ、1~2年かけてきちっと制度の見直しを進めていくことが必要と思っております。

あと、なかなか変えにくい、また時間がかかる部分に関しては、大切なのは変えたいと思っているが難しい理由をきちんと説明する。会社としてそれでも向き合い続けている姿勢を従業員に示すことも大切です。

全3回を通じたメインメッセージになりますが、もうどんなレベル・状況であろうとも、自分たちは今より良くなってるんだという感覚が重要だと思っています。この変化を従業員が感じることで離職は抑えることができると思っています。

みなさんの組織の従業員は「うちの組織は良くなっている」という変化を感じているか、想像していただければと思います。

存在欲求が低いと入社後すぐの離職が起こりやすい傾向

関係欲求や成長欲求は、それに続くかたちで分布していますが、この2つも非常に重要です。我々の調査ですと、存在欲求は高く、生活の不安はかなり少ないんですけれども、成長欲求や関係欲求が低いが故に転職を検討する人が多い。そういったことで悩んでいる会社もあります。

存在欲求は離職の大きな動機になるんですけど、やはり、それだけ埋めるのではダメで。関係欲求と成長欲求の領域で会社に残る理由、働き続ける理由が必要だと思っています。

ちなみに、同時にわかってきていることとして、存在欲求が低い会社は入社後すぐに離職してしまうことが多いとわかっています。成長欲求は、入社後3~4年を目安に低下していく傾向があります。そして3つの欲求とともに、20代から30代、50代と世代が上がるにつれて、欲求満足度が高まることも当社の調査でわかっております。

本日は時間の関係上、存在欲求の高め方を中心に説明しますが、関係要求と成長要求も同じぐらい大切です。ただ、存在欲求がボロボロだと、やはり、底に穴が空いている船のような状態で、どんどん沈んでいきます。

2週間後にもセミナーを行いますが、その時は関係欲求を中心に、さらに1ヶ月後のセミナーでは成長欲求を中心にお話ししますので、よかったらまたご参加いただければと思います。

「辞めたい」ではなく「辞めないといけない」と感じてしまう

それでは、存在欲求を紐解いていきたいと思います。存在欲求は組織で働くために従業員が最低限求める物理的・経済的安全性に関する欲求です。社員が「この会社で働き続けて大丈夫かな」を判断する、最もベースとなる欲求です。ここで重要なのが、個人の価値観によって判断基準はかなり異なります。

当然、成長欲求や関係欲求も個人の価値観によって異なるんですけども、一般的にこれらの欲求は満たされればどんどん高いレベルを求める傾向が強くなります。

一方で、存在欲求は個々人が最低限許容できるレベルを満たすことで、ある程度は落ち着くものだと思っております。最低限許容できるレベルというのは、例えばお金で生活に困ることはない、精神的に追い詰められることはないとか、これまで働いている職場よりもマシっていうものですね。これが満たされてないと、どんなにやりがいや人との関係性があっても、ずっと働き続けることは難しいです。

安心がない状態の時、人の行動は「これ以上傷つきたくない」とか、言われたことだけをやるとか、本音を言わなくなるなどの防御モードになるかと思います。

そして最終的には辞めることが自分にとって最も安全だと感じた時、離職を決意します。「辞めたい」ではなくて、「辞めないといけない」と感じるパターンになります。

社員の安心感を高める7つの要素

そして、存在欲求には7つの要素があります。まず大前提となるのは、安全に仕事ができる環境での身体的な安全性と、自分の意見や感情を安心して表現できる心理的安全性を確保することです。心身の安全が脅かされると人は「今すぐ辞めたい」と感じて、離職の強い動機になるかと思います。次に経済的安定の領域になりますが、具体的には適正な給与と福利厚生の2つになると思っています。

先ほどの転職理由のデータも示していますが、この2つは離職行動への影響が大きいです。ただ離職や福利厚生に関しては「この仕事が好きだから、給与が他よりも安くてもいい」とか「将来の自分にとって役立つので、今は給与が低くてもいい」とか。あと「自分の力を試せる」こと。「ここで働く人たちが好き」という関係欲求や成長欲求でカバーできることも少なくありません。

ただ注意してほしいのは、従業員のモチベーションにつけこんで、「低賃金のままで大丈夫」という考えの会社は一瞬で崩れてしまうと言えます。

多くの従業員が「この会社は10年後が不安」と感じている

次が雇用の安定です。実際に、多くの従業員が「うちの会社は10年後に終わってるだろう」とか「ここにいても将来が危ない」と感じていると言われています。転職先の選定理由にも、例えば「東証プライム上場のグループ会社だから安心」という方も。実際には(そういった声を)多く聞いています。

あとは、「制度や文化的に使えないやつは追い出す」ではなくて、会社内に複数、活躍できる領域を作ることが大切です。例えば営業で成果が出なくても生産部門で活躍できるとか、経理部門で細かい仕事に対応できなくても企画部門で挑戦できるなどです。

これは制度的ではなく文化的なものも必要です。「営業でダメだったやつ」ではなくて「営業には合わなかったけど、他の部門なら活躍できるだろう」という認知が組織に流れている状態も必要です。

そして職場環境になります。まず職場の衛生環境ですね。これが不快適な環境だと、会社に行くモチベーションも下がってしまいます。職場環境は身体的安全性にも大きく影響します。

後ほど紹介しますが、多くの会社でオフィス環境の改善やプチリフォームに取り組まれています。アクティビティ・ベースド・ワーキングと呼ばれますが、仕事の内容や目的に合わせて、オフィス内外の働く場所を自由に選択できる働き方も増えていると思います。仕事に合わせて空間を変えることで、生産性や従業員満足度を高めて、そこでリフォームしたコストを回収するやり方になります。

ライフステージに合わせた柔軟な制度設計が必須

最後がワークライフバランスになります。やはり自分の生活が成り立たない状態は、生存欲求を直接脅かすことになります。欲求レベルは家庭(環境)やライフスタイルの変化によって変わってくるため、最終的には個々人のライフステージに合わせたチューニングが必要になるかと思います。

例えば家族が入院したら、1ヶ月間は在宅勤務にしたいとか、少し勤務時間を短くしたいなどの要望をマネージャーが察知した時、きちんと対応できるように時間単位で休暇を取れるなど、柔軟な制度を整えておくことが必要です。その際も、気軽に活用できるとか、面倒な申請がないなど、そういった環境を作っておくことが必要です。

この7項目の切り口で、従業員が変化を感じとれるような整備を進めていくことが、従業員の存在欲求を底上げしていきます。

給与制度のマイナス要因は特定できる

ここまで説明してきた存在欲求は、大きく2つの報酬として分類できます。存在欲求を刺激する、企業が提供する価値としては、まず金銭報酬と非金銭報酬に分けることができます。

まず金銭報酬ですが、すでにお伝えしたように、給与は離職の大きなファクターとなりますが、ただ高く充実させれば必ずしも離職を防げるというものではありません。

また、多くの場合、この領域は人事制度やさまざまな評価制度の変更、総人件費の上昇など、経営的な判断が必要になり、変更に時間がかかります。さらに組合が強い組織ですと、組合との調整も必要になり、ハードルがさらに高くなるかと思います。適正給与の概念を定義するのは難しくて、全員が納得できる制度設計はほぼ不可能とも言ってもいいかと思います。

正解のない適正給与なので「こうしたらOKです」っていうのは我々もお伝えできません。ですが、注意しなければいけないのは、従業員の欲求にマイナスの影響を与えてしまうよくあるパターンです。例えば無休の業務時間とか不透明な固定残業代、見えない交通費・出張費の社員の負担ですね。

些細な「あり得ない」が帰属意識を薄める原因に

よく聞くのは、朝礼や掃除の時間が始業時間前であったり。シフトには30分休憩と書いているんですけど、実際は店番をしなくてはいけず、実質的に休憩が取れないとかですね。

あと、会社全体の平均残業時間が40時間なのに20時間分の固定残業代になっているとかですね。また、電車の特急の利用が認められない。客先に行くのに始発に乗らないと間に合わないし、遅延のリスクがあるから結局は自費で特急を使っているとかですね。高速道路代が支給されないなども、実際によく聞きます。

些細なことですけれども、こういったことに関して、若手が集まった飲み会とかで「うちの会社、あり得ないよな~」みたいな愚痴り合いをして、会社内で帰属意識を薄めているということはあります。

もう1つが非金銭報酬になります。金銭報酬とは違って、非金銭報酬は現場の創意工夫で取り組めることが多くあります。私たちが組織風土改革や働き方改革を行う場合には、まずは現行の人事制度、評価制度を変えないところからアプローチしていきます。

非金銭報酬にある労働時間とか休暇取得ですね。こちらについても制度の変更が伴うアプローチもありますが、現行の制度を変えなくてもできることがあります。

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