【3行要約】・組織文化の浸透は多くの企業の課題ですが、Amazonは「リーダーシップ・プリンシプル」を仕組みとして取り入れ、150万人規模の組織に定着させています。
・田中氏と金子氏は「採用・評価・育成のすべてのプロセスに原則を組み込み、日々の会話やミーティングでも自然と参照される環境を作った」と説明。
・企業はAmazonのように、価値観を単なるスローガンではなく具体的な行動事例として示し、すべての業務プロセスに織り込むことで、一貫した文化浸透が可能になります。
前回の記事はこちら リーダーシップ・プリンシプルをどう浸透させているのか
八木徹氏(以下、八木):浸透の話も出てきたので次に移っていきたいと思うんですけど、掲げることはどんな組織でもできると思うんですよね。掲げるけれども、それを浸透させるのが本当に難しくて。
しかもAmazonさんの場合、従業員が150万人以上いますよね。150万人の多国籍の人たちがいて、その中でどうやって掲げたリーダーシップ・プリンシプルを浸透させていったのかについておうかがいしたいなと思っているんですけれども、どう浸透させているんですか?
田中宏明氏(以下、田中):具体的な浸透策はシュンさんに説明していただこうと思いますが、まず根底にあるものをお伝えさせていただくと、仕組みとして取り入れられているということなんです。Amazonでは「メカニズム」という言い方をしますが、いわゆる一般の言い方をすれば仕組み化です。
タレントマネジメントの概念から言うと、採用オンボーディングと、育成、あとは評価などそのすべてにリーダーシップ・プリンシプルが入っています。
リーダーシッププリンシプルの実践可否が採用の条件に入る
田中:例えば、採用の時に16個すべてをできている人はなかなかいません。ですが、例えば「新しい事業部を立ち上げるリーダーの役職であれば、この3つか4つが特に大事であろう」ということを採用の時にまず定義します。
複数の面接官による多面的な面接をたくさんするのですが、その中で深堀りをして、その方が実際にどれぐらいリーダーシップ・プリンシプルの行動を取れているかとか、そういう素質を持っているかどうかをBehavioral Interview(ビヘイビアルインタビュー)という形式でたくさん深堀りをします。そういう素質、性質を持っているかどうか、行動の実績があるかどうかをたくさんほじくるような仕組みがあります。
なので、まず採用の段階でリーダーシップ・プリンシプルに共感できるだけではなく、そういったものを大事にできるかとか実践できるかどうかが1つのゲートになっています。
あとは、新入社員が入ってきていたら、具体的な事例などをリーダーに伝達するような仕組みがあります。
評価やフィードバックはリーダーシップ・プリンシプルに基づいて行われる
田中:あと人事の仕組み的なところで言うと、毎年の評価やフィードバックはリーダーシップ・プリンシプルに基づいて行われます。成長に対するフィードバックや具体的なアイデアを上司と部下の面談の中で対話などをします。
もっと細い事例ですと、昇進やマネージャーになるなど、次のジョブレベルになる時にも、必ずリーダーシップ・プリンシプルに基づいて「この人はどういう行動実績があるか、できているか?」っていうことを表面化して、それを照らし合わせながら評価会議をします。リーダーシップ・プリンシプルを浸透させるための仕組みはさまざまなところに必ず出てきます。
そして、それだけ使われているということは、日々の会話の中、ミーティング、1on1の中でもリーダーシップ・プリンシプルに基づいた会話が必然的になっているので、仕組みの中にしっかりと織り込まれているという感じですね。
八木:ありがとうございます。
カルチャーフィットする人しか採っていない
八木:仕組み化が本当にすごいですね。採用段階からLPに沿うような人たちを採用している。だからその時点でもうカルチャーフィットする人しか採っていないということですよね?
田中:一言で言うとそうですね。考え方やバックグラウンドの多様性はもちろんすごく大事にしているんですけれども、本質的にやはりAmazonのやり方とか考え方とか、特に注力されるべきところをしっかり行動をできるかどうかは、すごくこだわって見ていると思います。
八木:なるほど。日本企業もかなり中途採用の比率が高まってきていて、彼らのカルチャーフィットをどう考えるのか? はけっこう課題だと思うので。
今お話を聞いていて、それをしっかり原則に基づいた行動質問にまで落とし込んで、採用の段階で、感覚ではなくて、しっかりと行動がフィットしているのかを見ている点が非常に参考になるなと思いました。
田中:そうですね。1つおもしろい取り組みとして珍しがられるのは、例えば中途社員として入社するとします。
マネージャーもプレーヤーでもどちらでも、採用されて、直ちにしなくてはならないことの1つとして、採用トレーニングがあります。
つまり、今度は私が面接官になる可能性が非常に高いので、入ったらまず自分がリーダーシップ・プリンシプルで面接をできるかどうかというトレーニングが必須なのです。これも徹底しているメカニズムの1つということです。
八木:ありがとうございます。仕組み化が本当にすごいですね。
Amazonは学びたい意欲がすごく強い人たちの集まり
八木:次は、シュンさんにお聞きしたいんですけれども、リーダーシップ開発の責任者として、このリーダーシップ・プリンシプルを、どうやってシニアマネジメントの人たちに提供していたのかに興味があって。
要は、トレーニングだけでいいのか。仕組み化、明文化がある中で、トレーニング含めて、どうやってリーダーシップを開発していったのかを教えてもらってもいいですか?
金子俊介氏(以下、金子):ありがとうございます。まず僕がAmazonに入ってトレーニングの部分に関わるようになって一番驚いたことは、やはり(Amazonは)学びたいっていう気持ちがものすごく強い人たちの集まりなんですね。
なので「こちらから場を作って伝える、教える。そうじゃないと学ばない」っていうのではなくて、逆に「こういうのはどうやったらいいんでしょうか?」とか「こういう考え方を実現させていくには、リーダーとしてどういうことに気をつけたほうがいいんだろうか?」とかの好奇心がすごく強い人たちが多かった印象です。
「教える」ではなく「引き出す」
金子:僕はAPAC(Asia‐Pacific)の6ヶ国のメンバー、リーダーたち(の担当)ですが、3つ、ものすごく強いものを感じていて。
1つは「Ownership」、そしてもう1つが「Bias for Action」といって、要は思ったことをすぐ行動にしていくっていう部分。最後が「Deliver Results」ですね。なので、こういったところがもともと強い。
あとは(リーダーシップ・プリンシプルの)16個の中に「Learn and Be Curious」、好奇心を高く持っているっていうものがあるので、こちらが何かをしないと学ばないような組織もありましたけれども、(Amazonの場合は)むしろ向こうから声が来る感じでした。
そこが僕は1番驚いていて。なので、トレーニングも教室で教えるっていう立場ではなくて、ファシリテーションが一番しっくり来る進め方。こちらが質問をして、向こうが気づいていないようなことを引き出すような感じですね。
なので、知識だけを与え続けるわけではなくて、引き出す。何か気づいていない部分がないのだろうかと思いながらのトレーニングのデリバリー、デザインとかがすごくユニークだったかなと思います。
八木:トレーニングというか、コーチング的なメソッドっていう感じですかね?
金子:そうだと思いますね。
八木:なるほど、そうですよね。研修とかトレーニングだと一過性のもので終わりかねないですけれども、そこで学んだことをデイ・トゥー・デイの行動まで落とし込むには、やはりコーチングを通じて、繰り返し内省していただくことがすごく大事なのかなと聞いていて思いました。ありがとうございます。