【3行要約】・20代の離職防止や組織パフォーマンス向上が急務となる中、従来の感覚的なマネジメントでは限界が見えています。
・有山徹氏は実際の企業事例を示し、キャリア自律性や環境要因を定量化することで、具体的な課題と対策が明確になると説明。
・データ&対話モデルにより管理職の負荷を軽減しつつ、心理的安全性を保った効果的な組織運営を目指すべきです。
前回の記事はこちら 「組織・関係性・本人」の3レイヤーで見る打ち手
有山徹氏:この診断を活用した組織課題改善への取り組みということで、やはりキャリア開発の状態は一人ひとりで見るもので、8人集まったら、チームとしての課題が浮き彫りになります。
短期的にできることと、中長期で取り組めることが当然あります。組織に対する施策については、風土なども含めて考えると、短期的にできることがやはり少ないです。一方で、上司が短期的にできることはある程度ありますし、本人にできることももちろんあります。
つまり、「組織」「関係性」「本人」という3つのレイヤーで考える必要があります。組織の人事制度や組織風土などは、中長期であればある程度手を打つことができます。関係性については、上司のマネジメント力や、組織として上司を活かすための環境提供といった部分です。そして本人。自己理解力、仕事へのスタンス、プライベートの状態などは、まさに本人自身が取り組める領域です。

60設問に応じた打ち手の提示ができますね。アセスメントをやった上で、「あっ、ここが低いな」とわかると、組織として上司・個人に対して変えていくように働きかけることができます。
エンゲージメントサーベイだと組織別にしか見ないので、誰に何の働きかけをすればいいのかという、組織で打てる打ち手はわかるのですが、個人に働きかける打ち手がなかなか見えにくいと思います。キャリア開発診断は、個に対する打ち手も見えているので非常にやりやすいと思っています。
「データ×対話」で数字の裏側の感情を捉える
データ×対話によって得た情報を管理職に連携するということですね。先ほどの診断を使っても、あくまでデータなんですよね。なので、そのデータの数字の裏側にあるものを対話によってしっかりと確認することが大事になってくると思っています。
事業戦略を実行するための問いを設計して、メンバーの現状の思いや今後のキャリアなどについて設問を設計して、インタビューして、レポートに反映していくことによって、データだけでは見えてこない裏側の感情面が見えてくるので、そこをしっかり傾聴した上で、必要に応じて上司の方と連携していけると、非常に仕組みとしては強固になっていくと考えています。
「データ&対話モデル」で管理職に武器を渡す
管理職を支援し組織パフォーマンスを高めるデータ&対話モデルということで、管理職に武器を与えて支援をする仕組みを構築しましょうということです。
これが本日お伝えしたかった、管理職を支援するためのデータです。この診断を使ってメンバーのパフォーマンス、キャリア開発の状態を可視化します。その変化を見える化します。それとAIを使って、メンバーが内省できるような環境を作ります。もちろんそこで変化で気になる人がいたら対話をします。それは外部の人がきちんとやります。
必要な情報を、ピープルマネジメント支援のプロジェクトマネージャーの人に連携します。組織目標に向かうために、管理職と伴走しながら、今のメンバーの状態の情報をコーチング的なかたちで必要なタイミングで提供していきます。
組織の状態を分析しながら、管理職に「Aさんはこういうふうな働きかけが有効です。Bさんはこういうふうに働きかけてください。Cさんについては、管理職のあなた自身がこういったところをちょっと気をつけたほうがいいですよ」など提言をします。
やはり、管理職自身が変わるべき点と、メンバーへの働きかけ方を変えるべき点があります。その両方をしっかりと連携させていくことが重要であり、その元データが、この「データと対話」になってくるのではないかと思っています。
データ&対話モデルがもたらす負荷軽減と好循環
こういう仕組みを作ると、管理職のピープルマネジメントの負担が非常に減ります。1on1がゼロになるかといったらもちろんそうではありません。メンバーとの日々の関わり合いは減りません。
ただ、こういう深い対話を、第三者もしくはHRBPに委ねて、特徴的な変化に対してピンポイントに対話をすることによって、心理的安全性もある中でマネジメントするための情報のサイクルが非常に効率的に回っていきます。
このサイクルを回す時に、タレントマネジメントシステムにも必要な情報を打ってもらえれば、マネジメントの負荷がグッと下がります。そうすると本来やるべき管理職としての仕事に集中できるようになると思っています。
チーム分析データ事例1 20代離職防止の示唆
(スライドを示して)ビジーですが、今の前の図に実際の働きかけをする補足を記載したので確認をしていただければなと思います。
チーム分析データの事例ということで、2つほどお話しさせてください。20代の離職防止が課題だった会社さんの例です。20代、300名弱の診断データを採りました。グロース層がですね、11.1パーセントで、ポテンシャル層が26.1パーセント。45.7パーセントがフォロワー(シップ)層になっていました。

マーケット水準で言うと、グロース層が37.4パーセントということで、やはりマーケット水準よりちょっと低いんですよね。

全体平均、市場平均との比較で言うと、グロース、スタンバイ状態が少ないのも特徴で、フォロワーシップ系が非常に多い会社さんです。要は、自律性は高くないけれども環境面に不満はなくて、フォロワーシップはあるという特徴があります。

こういう世代別のデータで見ても、やはりキャリア自律軸の高さや環境要因の高さに差が出ています。この環境要因については「高いほうが良い指標」として見てください。
つまり、この会社さんの場合、環境要因には満足している一方で、自律性が低い、ということです。市場平均の20代は自律性が高いのですが、この会社さんの20代は実は低かった、という結果が出ています。

それはなぜなのかというところで、自律軸の項目を見てみると、やはり「社会や市場の変化を把握し、今後必要とされるスキルの習得に積極的である」という項目がちょっと低いことがわかります。
この低かった項目を踏まえて、先ほどの「組織の視点」「上司の視点」「本人への働きかけ」という3つの観点から、マネジャーが取るべきアクションによって変容を促していくことが重要だと考えています。また、組織としても制度などを見直し、必要に応じて変えていくことが当然求められてくると思います。
チーム分析データ事例2 スコア低下から見えるもの
チーム分析データの事例2です。キャリア開発診断を2回採ったところ、実は2回目が落ちました。78.4パーセントから73.3パーセントに5.1パーセント減りました。

6つの指標、いずれも減りました。ウェルビーイングはそこまでではないですが、実はエンゲージメントとキャリア資本が大きく減っています。

この部門は8名だったのですが、パフォーマンスデータが63パーセントから50パーセントになり、減りました。状態としては、悪くなったということが言えます。「何が悪かった?」といったところを設問別に見ると、「職場の文化や価値観に共感している」というところが、平均と比べてマイナス1ポイントです。

さらに、この中でも誰のスコアが低かったのかが把握できます。ただ、これはチーム分析なので、平均で見るとエンゲージメントが一番落ちており、特に「職場の文化や価値観に共感している」という項目が低い結果でした。
データから対話へ 予算方針への納得感を話し合う
「なぜこうなったんですか?」とお聞きしたところ、「仮説ですが、10月なので来期の予算の方針が下りてきました。その方針におそらく納得していないんじゃないか。だからこういう結果になっているんじゃないか」という回答があったんですね。
だとすると、もう1回きちんと対話の場を持って、なぜそこに納得できていないのかといったところを含めて話し合いの機会を持ったほうがいいですねということで、話し合いの機会を持っていただくように促すという結果になりました。
つまり、このようなかたちで結果が見えてくると、「ああ、やっぱりそうだよね」となります。そして、この中身を把握しているので、「Aさんのスコアがかなり大きく落ちている」といったこともわかるんですね。
そうだとしたら、必ずしも全員と対話する必要はなくて、例えばAさんだけでいいのかもしれない、というところまでわかるわけです。そのレベルまで見えてくることが、マネジメントとして非常に効果的にアクションできるポイントだと思っています。