【3行要約】・1on1の時間確保が難しい現状で、効率的なキャリア支援が課題となっています。
・有山徹氏は「キャリア開発診断」を活用し、データに基づく短時間で効果的な1on1を実現する方法を提案しています。
・全員均等ではなく、コンディションに応じた優先順位付けと役割分担型マネジメントで、管理職の負担軽減とメンバーの成長支援が可能です。
前回の記事はこちら 日揮HDに見る「役割分担型マネジメント」の例
有山徹氏:そんな中で、例えば、日揮ホールディングスさんは、管理職の役割分担をもう始められています。人材育成担当、プロジェクト担当ということで、従来は部長代行という、役割が非常に曖昧だったものを、ちゃんと「人に対するところをやりましょう」と「プロジェクトに対するところをやりましょう」に分けて、運用する取り組みが始まっています。
自社での分業体制と「キャリア開発診断」の活用
(スライドを示して)あと、こちらですね。実は弊社も、分業体制でやっています。(スライドを示して)ここ、私です。うちもベンチャーということでバタバタなので、やはりキャリアの1on1をゆっくりする時間がなかなか取りにくいです。

お客さんのところに行ったり、打ち合わせでスケジュールが埋まってしまうというところで隙間がありません。このような仕事をやっていても、「中長期のキャリアの話をしようか」という時間はなかなか取りにくいというのが実態です。
なので、この後に紹介しますが、我々は「キャリア開発診断」というキャリアのアセスメントを毎月やっています。その結果を踏まえて、「ここの変化が大きいけど、何かあったな」というところを中心に話をすることによって、短い時間で非常に効果的な1on1ができていると思っています。
あとは、私も全員にやるということはやはり難しいので、実は他のメンバーには外部の支援者にキャリア1on1をやっていただいています。私は、外部支援者の人と週次で1on1をやっていて、この人から「Aさんと話していたんですけど、こういう状態ですよ。Bさんと話したんですけど、こういう状態ですよ」ということを聞いています。
必要に応じて、「Aさんはそういう状況なんだね。そう解釈されているんだったら、こういうふうに話をしてみますね」ということができます。
キャリア開発診断ツールの構造と6つの指標
マネジメントをするために必要な情報がちゃんと入ってくる仕組みを作ることで、私としても経営者として本来やるべきことに、より集中できるようになっていけると思っています。
今ご紹介させていただきました、キャリア開発/組織パフォーマンスの状態を可視化するキャリア開発診断は、田中研之輔教授の知見をお借りして、我々が開発したキャリア開発診断ツールです。

(スライドを示して)サンプルイメージはこのようなかたちで、キャリア目標、自己理解力、健康・幸福力、関係構築力、変化適応力、キャリア資本という、6つの項目を点数化したものになっています。この6つを上げることで、自分自身のキャリア開発状態がより良くなるという前提で、60設問を回答いただけると、レポートがすぐに出てきます。
1on1の「質と量」を変えるデータの使い方
先ほど話したように、これを1on1の質、量の改善に使っています。メンバーが何を話せばいいのかわからない。上司もどう支援すればいいのかわからない。人数が多くて時間が足りないという、1on1のよくある課題に対して、この診断を事前に6分ぐらいで受けていただいて、その結果を確認してもらいます。
例えば管理職がこれを見ることで、「ここに変化があるな」とか、「Aさんはここがちょっと低いな」ということがわかると、「そこについて話そうか」とか。逆に「Aさんは、この部分はすごくできているな」「強みだな」というところがあったら、「そこってなんでできているんだろう?」と聞いてみるとか。
どういうことについて話せばいいのかが、同じシートの中で見えてきます。こういうものがないと、必然的に、「あのプロジェクトなんだけどさ、どうなっている?」みたいなことを、聞いちゃったりすると思います。そういう仕事のことは一切入っていません。ある意味、抽象度は少し高いのですが、純粋にキャリアの部分を聞いてみる。
キャリア目標が低いのであれば、「将来的に何がやりたいのかが見えていないのかな?」というところで、キャリア目標10項目の中で低い点数のところを見て、「これってどう捉えているのか?」と解釈を聞いたり、「じゃあ、そこを上げるために、僕ができることはあるかな?」とか、働きかけをする中で、メンバーの自律性や行動変容を促していく。
真っ暗闇の中で、「今日何を話そう?」と始めるよりかは、焦点が絞れて、短時間で効果的な対話ができると、私自身も使う中で思っています。

ただ、先ほど言ったように、AIもうまく活用することが重要です。併用が理想かなと思っています。
キャリア開発診断のようなアセスメントの強みは、同じ構造の中で、それがどう変化するのかが可視化できるところです。一方で、AIキャリア対話ボットのほうは、気軽に相談ができるところが強みです。やはりそれぞれ良さが違うので、両方併用するのが非常にいいんじゃないかなと思います。
「全員に1on1」ではなく優先度で配分する発想
また、そもそも1on1の実施において、全員に1on1の機会を保証することが必要なのかどうなのかという話もあります。「メンバーが8人いて、Aさんに1時間の1on1をやるんだとしたら、全員に1時間、合計8時間やる必要があるんですか?」というと、ないですよね。
時間を取っていない人を軽んじているように見られるところもある中で、上司はやはり平等に1on1をやろうと思いがちです。ですが、それをやっていたらやはり管理職は身が持ちません。であれば、やはり先ほどのように、アセスメントという武器を持たせて効率化するのも1つです。
全員やらずにコンディションが悪い人を優先的にやる。いい人はノリノリで仕事をやっているわけですから、別にそこに対して無理に時間を取る必要性はないですよね。優先度は高くはない。
でも、今すごく困っていて、パフォーマンスが落ちている人に対しては、やはり働きかけてしっかりとそこを支援していくことが大事です。
ハーズバーグ二要因理論で見る「パフォーマンス最大化」
そこが見えると、マネジメントはぜんぜん変わりますよね。Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんがいる中で、「Dさんは今、コンディションが良くないから、今週はDさん。1時間の1on1の時間を取ろう」と決めることができます。意思決定して、そういうアクションが取れます。
「じゃあ、このコンディションをどう見るんだ?」というと、やはり個人のパフォーマンスには大きく2つの軸があると思っています。古いですが、ハーズバーグの二要因理論というものがありますよね。モチベーション要因、衛生要因と言われているように、ここではモチベーションをキャリア自律度と言い換えています。
個人のパフォーマンスが最高に上がっている状態はどういう状態なのかというと、キャリア自律度が高くて、その能力を発揮できる環境にあることです。この状態を作ることがその人のパフォーマンス、コンディションを最大化するものであると思っています。
ですので、この2つを高める。能力を発揮できる環境を整えて、成果に応じた適切な評価をして不満を減らすことでパフォーマンスが上がると思っています。
4象限マップで見る「グロース/チャレンジ/ポテンシャル/グロースサポート」
キャリア開発診断の中には60項目あるとお伝えしましたが、モチベーション的なキャリア自律の軸と、自分自身が能力を発揮できる環境軸がそれぞれ15項目あります。
合計30項目を、ピックアップして人材をプロットしています。(スライドを示して)これは、37.4パーセントとなっていますが、一番いい状態ですね。要は自律性が高くて環境面に不満が少ないということです。関係性もいいし、評価にも納得している。給与などにも大きく不満はないということですね。
このグロースゾーンの人がある意味理想的な状態です。こういう状態の人は、より良いチャレンジをしたい、任せてほしいという状態なので、挑戦する機会や学びの機会をどんどん与えていくといいのかなと思います。
その右上のチャレンジゾーンは、キャリア自律性は高いですが、環境面に高い不満を持っている人なので、この人は離職リスクが高い人であることがわかります。市場平均の41点で切っているのですが、ここより高いということは、比較的マーケットの平均より環境面に不満を持っているということです。
働く中では、人間関係を重視する方もいれば、当然報酬面を最重視するという方もいます。
その人の価値観がどこにあるのかということを、対話の中で聞き出して、環境面の不満を取り除ける働きかけをしていくことが大事になってくると思っています。
右下のポテンシャルゾーンは、自律性も低くて不満も高い層です。ここは、だいぶてこ入れが必要な方です。マーケットでも4割ぐらいいるので、ちょっとこれはこれで問題だなと思いますけれども。優先的に面談をするとしたら、やはりポテンシャルゾーンの人ですね。ポテンシャルはあるけれどぜんぜん発揮されていないゾーンです。
グロースサポートゾーンは、自律性はそんなに高くないんだけれども環境面に不満はないゾーンです。今時の言葉で言うと、静かなる退職と言ってもいいかもしれません。

仕事に対するモチベーションが高いとか、自ら働きかけてより良くしようとするわけではないんだけれども、別に現状に不満はない。「普通に働いて給料をもらっているので今幸せです。でも、別にチャレンジする気はないです」という方が、11.3パーセントですね。
どちらかというと、この方たちは自律性を高めることが重要かなと思いますので、内省の機会やキャリアの研修などをやると非常にいいんじゃないかなと思っています。
管理職コンディションの4象限と支援優先度
もう1つの軸として、管理職のコンディションによる視点があります。これは、どういう人たちに面談するかではなく、もし仮に外部の支援やHRBPの人を入れるんだとしたら、こういう管理職の人に入れたほうがいいですよという視点です。
ピープルマネジメントスキルが高い、低い。そして業務負荷、人数×難易度が高い、低いですね。第2象限は、多忙な実力者。ピープルマネジメントスキルは高いんだけれども業務負荷が高い人。
ピープルマネジメントスキルが低く、かつ業務負荷が高いということで、第4象限はやはり問題です。ここから支援をしていくことがやはり大事になってくるかなと思っています。人というよりかは組織として見た時に、優先的に支援をしていく人という観点でこういう考え方もできます。