【3行要約】・管理職は孤立・燃え尽き・離職が増加する構造的問題を抱えており、研修で学んだスキルを活かせる環境が不足しています。
・有山徹氏は「令和時代のマネジメント再定義」が必要だと指摘し、人的資本の考え方に基づく新たな役割分担を提案しています。
・これからの人事は研修実施だけでなく管理職が能力発揮できる環境づくりまで踏み込み、HRBPなど外部との協働で本質的な業務に集中できる支援が求められています。
前回の記事はこちら HRBP・外部支援の限界と管理職の燃え尽き
有山徹氏:最近一部の企業では、HRBPというのも役割として増えてきていますが、外部支援が本当に限定的です。その結果、孤立、燃え尽き、離職が増加していってしまうということが、今、管理職の(課題)構造になっています。
管理職のスキル支援の実態というと、「管理職が研修で学んだスキルを活かせる環境があるのか?」「研修実施することが目的になっていないか?」「環境を作ることも人事の役割ではないか?」ということをやはり感じます。

もちろん人事の方も理解はしています。でも、成果はやはりスキル×環境です。研修やトレーニングでスキルをある程度高めたところで、それを使う環境がなければ、やはり成果は上がりません。
「研修して終わり」から環境づくりへのシフト
管理職研修をやりましたと。傾聴、コーチング、キャリアリテラシー、面談スキル。「そういうふうにやったらいいんだ」と学んで、現場に戻りました。でも、現場でそのスキルを発揮しようと思っても、先ほどの佐藤さんの状況なんですよね。「じゃあ、その状況の中で学んだスキルを活かせばいいんだ?」ということが起きてしまっています。
なので、これからの人事は、研修をやって、ポンと「現場でがんばってね」ではなく、管理職が能力が発揮できる環境をどうやって作ったらいいのかというところまで踏み込んで支援をすることが、求められてきています。

そうしないと、やはり管理職が、罰ゲームと言われるような、「ああはなりたくないよね」という役職になってしまう。できないことを言われて、上司から「成果が出せていない」と言われ、「もっと1on1を」と言われ……「何の武器も渡されず、支援もされていないのに、管理職ってかわいそうだよね」というふうに、やはりメンバーは見てしまっているんですね。
だとしたら、ああいう管理職にはなりたくないよね。女性管理職の比率も上がらないし、管理職希望者が減るというのも、実は当たり前なんじゃないかという状況が、今多くの会社の現場で起きています。
なので、私たちが今やらなければいけないことは、成果を出すために管理職に武器を与えて、その環境をサポートすること。ここまでセットでやらないと、重要なキーポジションである管理職のパフォーマンスが上がらないので、当然業績は上がりません。やはりここを意識した取り組みが重要だと考えています。
令和時代のマネジメントを再定義する
というのが、前段の背景です。「じゃあ、そもそも令和時代の管理職の役割ってどうなんだ?」と。令和時代のマネジメントを再定義しようということですね。育成を、マネージャーだけの責任から、組織としての設計・支援する仕組みに転換しましょう。「業務を回す」ではなく、「人と組織の価値を最大化する」のが令和時代のマネージャーの役割ではないかということです。
従来のマネジメントと、再定義されたマネジメント、人的資本経営型ということで、(スライドを示して)左右に記載をしていますが、やはり何よりも、マネージャーの役割の中心はメンバーを管理することじゃないんですよね。これは人的資源の考え方ですね。資源を配分するということです。

そうではなく、「人と組織の生産性を最大化する」という発想に切り替える。人は人的資本、つまり資本そのものだと考えるわけです。モチベーションが上がる環境を整えれば、当然ながら成果は出るし、パフォーマンスも上がる。その前提に立つ、ということです。
その前提に立つと、時間の使い方も変わります。これまでのように時間の80パーセントを業務管理に費やすのではなく、そのうちの50パーセントは人への投資に振り向けるくらいの意識を持つ、というイメージです。
具体的には、意図的な育成計画づくり、スキルの可視化、1on1の仕組み化などです。キャリア支援についても、(従来のマネジメントのように)評価面談の中で少し触れるだけではなく、メンバーのWillをきちんと把握し、それに合わせてミッションを調整し、キャリア機会を設計していく。つまり、仕事の意味付けを変えていく。
「あなたが今取り組んでいる仕事は、将来あなたがありたいと考えているキャリアに対して、こういう意味を持っていますよ」と。メンバーが今やっている仕事の意味付けを、きちんと言語化して伝えてあげる、ということですね。
AI時代に求められるマネジメントスキル
マネジメントスキルですね。1on1、傾聴、心理的安全性、コーチングが必須スキルになってきている、ということで、やはりメンバーと向き合うことが重要です。ある程度、AIの登場によって「業務として何をやるべきか」ということは、だいたいもう見えています。
ただ、その「やるべきこと」を、人と人とのコミュニケーションや連携、プロジェクトを通じて相互理解につなげ、その人のモチベーションを高め、動いてもらうことが、マネージャーとして非常に大事な要素になってきています。やはりこのマネジメントスキルが、今後非常に求められてきます。
HRBP・外部との分業と「任せるマネジメント」
マネジメントの前提としては、外部のHRBPなどと分業・協働し、上司は本質的な業務に集中するということです。もちろんマネジメントは重要ですが、任せるところ、任せられるところは任せていく、というふうにしないとパフォーマンスは上がりません。
あとは、得意・不得意もあります。やはり傾聴や1on1など、人の話を聴くことが得意な方とそうじゃない方が当然います。得意じゃないからやらなくていいというわけではありません。得意じゃない人にもマネジメントを回す中では必要なことはちゃんとやってもらいます。そこが得意でないのであれば、最終的なプロセスの中で必要な情報を受け取り、その情報を踏まえてマネジメントをすることが必要になります。
「1対100」ではなく役割分担で支えるマネジメント
具体的に言うと、例えば部下が10人いて、毎月30分の1on1を……300分、つまり毎月5時間そこに使っていくことが、本当にリソースの使い方として正しいのかどうか、というところです。やはり、そういった点も考えていく必要があるのかなと思っています。
そこでいうと、令和時代のマネジメントの新たな役割分担ということで、マネジメントで管理職がやるべきこと、外部化できるもの、したほうがいいものがあります。やはり管理職がやったほうがいい領域がある一方で、「これはHRBPの方にやってもらってもいいよね」「もしくは外部支援でもいいよね」という領域もあります。
(スライドを示して)1から100まであるとしたら、この黄色で塗ってあるところは、「管理職が100やる必要性がある?」とか「いや、それって逆に管理職だと検知しにくいよね」といった部分かなと思っています。

パフォーマンスを上げるというところでいうと、やはりメンバーに対する期待を明確化する。これはもう管理職にしかできません。でも、実は対話の部分などは、実は外部のほうがメンバーが話しやすかったりすることもあります。
私も経験がありますが、例えばメンバーと上司の相性が良くないケースがあると思います。
そういった場合、やはり第三者が翻訳として入ったほうがうまく回ったりすることがあると思うんです。あとはタレントマネジメントの情報も、本当に管理職が打つべきなのか。他の人がある程度の情報を確認して聞いて打ってあげることもやはり必要なのかなとは思っています。
上司にキャリアを相談しにくい構造的な理由
先ほど、今お伝えしたように、やはり管理職はメンバーの評価者であることが大前提です。
評価する人に自分自身の弱いところやできていないところを見られると、「評価に差し障りがあるんじゃないか」とか、「自分自身のプライベートの状況を話すと、それが自分の異動など、自分のキャリアにどういう影響を及ぼすんだろう、ちょっと怖いな」と思って、話しにくいということは当然あると思っています。
(スライドを示して)ここにあるとおり、「キャリアについて相談している(できる)相手や方法は何ですか?」というデータでも上司は低いんですよね。信頼して話せる関係性までになっていればいいのですが、そういう関係性にある人はやはり多くはありません。それだったらAIに相談するよねといったところがあったりします。
「キャリア支援スキルがない管理職」のリアル
あと、やはり実行面の課題としては、管理職にそもそもスキルがないというところで、先ほどお話ししたとおり、管理職自身、キャリア相談をしたこともないし、自分自身がされてきたこともないんですよね。
だから、何をやればいいのかがイメージができていないというところがあります。「キャリア面談って何? 何でどうやってすればいいの?」というのがよくわからない。やはりそういう状況ではなかなか難しいんじゃないかなと思います。