【3行要約】・セルフマネジメントへの関心が高まる一方、従来のヒエラルキー型組織からの脱却に苦戦する企業が多く存在します。
・世界の先進企業調査から、成功企業は独自の関係モデルで自律型組織を実現していることが判明しました。
・山田裕嗣氏は、組織における親子的な甘えの関係から脱却し、グループで責任を共有する「大人同士の関係」への転換が不可欠だと強調します。
前回の記事はこちら 世界中の「自律型組織」の共通点
山田裕嗣氏(以下、山田):ありがとうございます。最後に残り時間を気にしつつ、みなさんからの質問を受けたいと思いながら、2つ、補助線で見ていただくと、この話をさらに広げて捉えられるかなと思っていて。参考情報はいろいろあるので概略だけお伝えして、詳しいことはリンクとかをぜひご紹介できればなと思っています。
1つが、この力学の話に関して、先ほど出てきたCorporate Rebelsの2人が、今ちょうど新しく本を作っている最中で、来日した時に、フリップチャートに書きながらいろいろ説明をしてくれたんですけど、これが力学の話をしているんですね。

彼らが世界中の先進的な企業をたくさん見てきた上で、ずっと言っているのは、「セルフマネジメントとか自律的な運営をする会社は、決してヒエラルキーでピラミッド型ではないんだけれども、必ずストラクチャーはあるんだ」「ストラクチャーの作り方が違うのである」ということを言っています。
じゃあ、そのストラクチャーの違い、構造をどう分けているのかの説明原理を、彼らは関係性のモデルという力学から持ってきているんです。これは1970年代にアラン・フィスクという文化人類学者が作った関係モデルを引っ張ってきているんです。詳しいことはちょっとアレなんですけど。
何を言っているかというと、人の関係性は4パターンありますと言っているのがこの図で、人が支配的な力学をどうやって感じるかが4つあって、1番左がオーソリティ、要は権威ですね。権威によって力学が働く。これはヒエラルキーなんです。
その他に3つあって、一番左だと権威なのでピラミッドを作るんですよ。それ以外のセルフマネジメント、自律型の組織を作ろうと思うと、右の3つの力学のいずれかによって大規模なフラットな組織はできるよねということを彼らは言っているんですね。
関係性モデルから見る4つの組織モデル
山田:これが3つあって、1つ目がマーケット・メカニズム。2つ目、これは完全にハイアールです。2つ目が、イコーリティ・マッチング。これは等価交換。「私がこれをやったら、あなたも同じことを返してくれるんだよね」と期待している、というのが2つ目。これはちょっと今日時間がなくて言えないんですが、スペインのネル・グループ(NER Group)という会社を彼らはすごく参照して言っています。
3つ目がコミュニティ。要は家族みたいなものですね。家族だと「俺が皿を洗ってやったんだから、お前が明日やれ」ではないじゃないですか。その場合もあるかもしれないですけども(笑)。家族のために何かをするのは等価交換じゃなくて、そのコミュニティのために何かをしたいからということでやりますよね。というのが、コミュニティ・シェアリング。
これでCorporate Rebelsの2人が例として出すのは、オランダのビュートゾルフという会社をよく出します。
ちなみに、彼らが日本に来た時に訪問したいくつかの会社の中でいくと、このイコーリティ・マッチング。等価っぽいのは、後払い決済をしているネットプロテクションズというIT企業。彼らの目から見ると「このマッチングっぽいな」ということを言っていたし。
僕は一緒に行っていないんですが、「チームラボさんとかはけっこう右側っぽい雰囲気を感じた」みたいなことを彼は言っていたし、僕の目で見ると伊那食品さんとかは完全に右ですね。「家族です」みたいなことを言っています。
「それぞれ4パターンありますね」ということを言っていて、今日の冒頭の話に何回も戻ってくると、「どれがいいと言っていないんですよ」と。どれでもあり得る。
ヒエラルキー型でも従業員のエンゲージメントが高い「パタゴニア」
山田:この間、彼と中国のヨースト(・ミナー)という、パタゴニアの上海のトップの方の話を一緒にセミナーで聞いていたんですけど。僕らは「パタゴニアってヒエラルキーだね」と結論を出したんですね。
すごくちゃんと権威があるんですよ。なんだけど、みんなパタゴニアのパーパスにすごく共感する人たちだから、パタゴニアで働くことにすごく喜びを感じられる。というのは、ヒエラルキーだから悪いというのじゃなくてという話で、「パタゴニアがすごく良い例だね」と言ったんですね。
今日はハイアールと、バイエルもわりとマーケットっぽいことをやっているのでここが強調されているんですけど。他のパターンもあるよねということを含めて、この関係モデルみたいなことから読み解くのは、大規模なフラットな組織のいろんな可能性が見えるなと思っています。すごく良い補助線だと思っていて、これの本がそろそろ出るらしいので、それを今楽しみに待っています。
吉田洋介氏(以下、吉田):このあたりの力学の違いによってできる組織が違うのは、すごく体感するとわかるな。というところと、冒頭にも出ていた、体感しないと、この一番左以外がわからない感じになりやすいんだろうなとは、今お聞きしながらもあらためて思ったところですね。
山田:なので、これは伊那食品とか、ネットプロテクションズとか、あと名古屋のHOLISという500人ぐらいの会社がすごくマーケットっぽいんですけど……とか、生でそれを見るとああいう感じなのかがわかる。オランダの彼らは、この事例を僕よりもはるかにたくさん知っているので、これらの中で見えることをすごく紹介してくれています。
ちなみに2年ぐらい前ですが、これに関する彼らの長いブログの記事があって、それを日本語に翻訳したものも弊社のサイトに載っているので、後でなんらかのかたちでご紹介します。今ざっとご紹介した関係モデルは何で、それぞれどういうもので、日本の会社はどういうもので、みたいなこと。いろいろ細かくはバージョンアップしているので変わっているのですが、パターンはあるよねということが紹介されています。
これを読み解きながら、「あの会社はこういうことかな?」みたいなこととかを見ていただくと、雰囲気としてもうちょっとわかっていただけるかなと思うので、このへんがまたさらに深め甲斐があるところかなと思っています。
セルフマネジメントができない組織の特徴
吉田:ありがとうございます。もう少し補助線、あるんでしたっけ?
山田:はい。この話をした時にもう1個、このヨーストというCorporate Rebelsの面々が最近、セルフマネジメントは人と人の関係性をどういう状態で作るかによって前提が違うよねという話をしていて。
彼らが補助線としてよく紹介してくれるのが、「この左側は親子関係じゃなくて、右側の大人同士という関係によって人と人が関わることができて、初めてセルフマネジメントが本当に成り立つよね」ということを言っています。
先ほどの4パターンがあって、「右の3つがフラットな組織を作れるよね」ということを言っているんですが、全部親子的な甘えでやってしまうとうまくいかないんですよ。「あくまで大人同士として自立して関わることができて、初めて自律的な状態は作れるよね」ということを言っているのが、この後ろにもう1個あります。