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世界の先端組織から見る トップダウン以外に うまくいく組織はあるのか(全5記事)

1万2千人の中間管理職に突きつけた「起業家になるか、会社を去るか」 潰れかけの工場から大企業になった「ハイアール」の組織改革 [1/2]

【3行要約】
・組織の硬直化に悩む企業が増える中、中国のハイアール社の「人単合一」モデルが世界的な関心を呼んでいます。
・世界最高峰の経営学者であるゲイリー・ハメル氏らも注目するこのモデルは、40年かけて潰れかけの工場から世界企業へと変貌を遂げた実績があります。
・日本企業も含め組織変革を模索する経営者は、この市場原理を取り入れた新たな組織論から学ぶべき点が多いでしょう。

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従業員全員を「起業家」にする
山田裕嗣氏(以下、山田):じゃあ、(ハイアール社のビジネスモデルが)ざっくりどういうものかっていうと、これも左側の『ヒューマノクラシー「人」が中心の組織をつくる』という本で、ゲイリー・ハメル、ミケーレ・ザニーニという世界最高峰の経営学者たちが整理したものです。

上の3つが、特徴です。1つ目、全従業員は起業家である。2つ目、従業員とユーザーの距離をゼロにする。3つ目、拡大するエコシステムの中核企業となる。ということをずっと言っています。

これとともに一番有名なのが、ここの1つ目ですね。当時8万人いた巨大企業の従業員だったんですが、それをマイクロエンタープライズという10人から15人ぐらいの小さな会社の集合体、当時4,000社ぐらいに分けました。

とにかく冒頭で人単合一と言った、従業員とユーザーのバリューを一緒にして、距離をゼロにして、一人ひとりの従業員が起業家として小さな企業のメンバーとして顧客に価値を届けるっていうこと。これをひたすらやるように組織全部を作り替えました。これが、すごく平たく言うとマイクロエンタープライズおよび人単合一の今のモデルです。

吉田洋介氏(以下、吉田):もうこの時点で、たぶん意味がわからない気がしていて。

山田:そうですよね(笑)。

吉田:例えば、従業員全員を起業家に変えるっていう一言がありますけれども、これ、日本で言う「全員経営者意識を持て」みたいなことではなくて、文字どおり起業家にするっていうことですよね?

山田:はい。起業家というのは一貫していて、後で出せると思うんですが、儲かった分は自分たちで分けていいとか、逆に言うと、会社が失敗して潰れたら3ヶ月でクビになるんですよ……みたいな。なんか本当に起業家なんですよね。

最初は便宜的にバーチャルな組織として会社を作るんですが、実際に法的に会社を立ち上げ、そこに自分で出資もして……むしろ出資が奨励されるんです。そこで本当にオーナーになってハイアールグループの1社の起業家になるみたいなことがすごく奨励される。経営者意識とかではなくて、起業家であれっていうことが一貫しているんですね。

吉田:それを今、グローバルで13万人でやっているのがハイアールの状態。日本企業の大手メーカーの、パナソニックさんだったりトヨタさんだったりとかが「全員起業家だ」って言ってさっきみたいな運営をしているみたいな状態なんですよね?

山田:そうです。この後簡単に言いますが、時間をかけてやっているんですよね。もともと先ほどの写真の張瑞敏という創業会長が1984年から工場を引き継いで40年以上かけてやってきています。

この人単合一っていうのも、2005年に初めてそのコンセプトを出し始めてから、もうちょうど2025年で20年経っているので、それだけの時間をかけてやってきています。

潰れかけの劣悪な工場から13万人の従業員を抱える大企業へ

山田:先ほどの『ヒューマノクラシー 「人」が中心の組織をつくる』の本のコンセプトが、「官僚主義・大企業病をいかになくすか?」っていうことなんですね。

著者のゲイリー・ハメル、ミケーレ・ザニーニからすると、このハイアールという、今は13万人いる会社が、それだけ本当にミドルマネージャーとかいない状態で、みんな起業家で小さな会社にするっていうものの成功事例。中国のある種古い地域の製造業でもできているっていうのですごく評価が高く、この本でもたくさん取り上げているんです。

こんな感じで、本当に小さい会社の集合体みたいにやっているんですね。わかりやすく言えば、家電とかのメーカーなので地方の販売店とか修理店みたいなものもマイクロエンタープライズだし、オフィススペースとかも、それを担っている会社もあるし。HR支援みたいなものもあるし、メーカーなので製造とか加工とかデザインとかもマイクロエンタープライズだし、もうとにかく全部がそうです。

どうやってできたのかをざっとご紹介をすると、簡単じゃないんだけどできるんだっていうのがわかっていただけるのかなと。

これは右側にあった黒っぽい本から取っているんですが、一番左、1986年に最初、潰れかけの工場を引き継いだところから始まって、そこから40年近くかけてだんだん進化をしてきているのがハイアールの歴史でもあります。

この事例、知れば知るほどおもしろいのは、中国という国がどうやって発展してきたかっていう歴史とともに、やはりすごく青島という、ある種ものづくりの場としてやってきている会社だなと思います。

1986年に引き継いだ当時は、もうとにかく劣悪な状態で、工場の貼り紙まで写真で残っているんですけど。「工場でけんかをするな」とか「時間どおり来い」とか「立ち小便するな」とか、貼り紙で注意書きが書いてあるんですよ。もうとにかく酷い状態だった。

中国の歴史でいくと、当時は社会主義だったところから経済によって国を伸ばすと変わった瞬間だったので、逆に言うとそれまで工場で働いている人って、計画経済的なところで働いているので、生産性を上げようとか良いものを作ろうとかないんですよ。

この状態から引き継いでいるので、もうとにかく品質を良くするんだ、みたいなことから始めましたと。

品質の悪い商品を、従業員自らたたき壊す

山田:これはハイアールでは今でも伝説的な話で、この真ん中のハンマーを持っている人ですね。あまりに品質が悪くて、当時作っていた冷蔵庫の1割ぐらいの76台が、そのままでは出荷……まぁ、出荷したら売れるんですけど。出荷に足りる品質ではないものがそれだけ在庫として残っていた。

それを見つけた張瑞敏は、その76台を工場に並べさせて、従業員にハンマーを渡して自分たちで壊させたんですね。

当時の冷蔵庫って、品質が悪かろうが絶対売れた。今だったら自動車1台分ぐらいあるすごく高級品で、普通の工員換算だと年収2年分ぐらいあるみたいなぜいたく品を、とにかく「それでは駄目だ」という意識付けをするためにハンマーで叩き割らせていったんです。

「ここから品質を上げるんだ」みたいにして、このハイアールの変革が始まったっていうので、象徴的な事件として今でも語られています。

いろいろ割愛しますが、グローバルに進出をしていって、より戦略的に工場を増やしていきました。それからラインナップが増えたことによって組織図が、最初は大きなピラミッドだったところから、製品が増えたことでピラミッド型にだんだん分かれていき、グローバル展開するタイミングでマトリクス型の組織にしました。

いわゆるSBUと当時言われたようなものにして、組織をだんだん分けていったのが、国際化を進めた時代ですね。2000年前後ぐらい。

この直後ぐらいにWTOに加盟をして、世界と貿易ができるようになっていったことによって中国のビジネスは伸びました。

逆三角形型の組織をつくる

山田:ここから今の人単合一、RenDanHeYiにつながる話が始まるんですが、ちょうど2005年ってインターネットが始まった時代。それまで家電メーカーで「品質とブランドが大事だ」って言ってきたところから、「インターネット企業にならねばならぬ」っていうふうに変わったのがこの頃でした。

これを受けて、組織構造を今度逆三角形にしました。人単合一の始まりです。一番上にお客さんがいて、ティア1と呼ぶのが、セールスとかマーケとか、お客さんに直接接する人たち。その下にその支援をするロジスティクスとかR&Dとかの間接支援機能があって、一番下に経営があります。こんな三角形を逆にしたかたちです。

とにかくお客さんに近い営業なりマーケなりがすべて物事を決めていいと、2005年の段階で変えています。

これを変えた2005年9月20日っていう日に、この人単合一というコンセプトも創業会長の名誉会長が話されたことから、このトランスフォームが始まっています。

吉田:なんか概念図としては、こういうふうにしたいんだなっていうのはわかるんですけど、これを組織として実際にやる時ってどんな感じなんだろう。

山田:当時は基本、概念的には一番上のティア1が意思決定を全部していいっていうことにしたらしいんですね。2005年から2012年まで7年ぐらいこれでやっているんです。

ただおっしゃるとおりで、やってみた結果、問題が起きて、上が決めていいって言っても、大きな意思決定をするにはエスカレーションをしたりとか、下に相談して、下に相談して、また戻ってくるので、結局逆にしただけじゃんっていうことがいっぱい起こっていたと。

「それだと本当にインターネット時代に、お客さんに一番近いところに価値に出すってできないじゃん」っていうことに直面した結果、さっき言ったマイクロエンタープライズっていうのに変わったのが2012年。

1万2,000人の中間管理職に突きつけた「起業家になるか、会社を去るか」

山田:それまで2,000個あった小規模経営体を、とにかく逆三角形じゃなくて全部が本当にもう小さな組織であると。

この時に変えたのが3つあるって言っていて、それまで一番上のティアが持っていなかった、採用および解雇を自分たちでする人事権。報酬を自分たちで分けていいという権利。あとは戦略的な意思決定も自分たちでしていい。その3つの権利も全部渡すから、とにかく自分たちで決めていいんだ、というふうに変えました。

それと先ほどは、マーケ、セールス、お客さんに接するところだけだったのが、すべてをマイクロエンタープライズという名前に変えて、みんな顧客のために尽くす存在であると変えました。

この時が最も劇的なトランスフォームのタイミングで、この時8万人いた従業員のうち1万2,000人ぐらい中間管理職がいたらしいんですけれども。その人たちにも全員、「ミドルマネージャーという仕事はない」と。「あなたも起業家になるか、会社を去るか、どっちかなんだ」って突きつけて、実際に一定割合の人は辞めているらしい。

それぐらいドラスティックにこのタイミングでやったことで、この図が成立するようになりました。2012年から今13年経って、これをさらに進化させていますっていうのがハイアールさんの中で実際にやっていることですね。ここまで来ると、なかなか見ないですよ。

シリコンバレーの企業との共通点

吉田:そうですね。今日初めて聞く人だと、たぶんこの状態が、「どうなっているの?」っていう感じになるんじゃないかなと思うんですけど、イメージはつきますかね? ちょっと質問タイムにしてみますか。8万人がこの小さいマイクロエンタープライズという企業に分かれて活動をしている、みたいな状況、イメージつきますか?

ちょっと違ったら言っていただきたいんですが、さっき人事の機能があるっていう話があったじゃないですか。

マイクロエンタープライズに声をかけて、「採用とかに手が回らないんだったら私たちが担いますよ。そこに対していくら払ってくれますか?」っていう交渉を人事がするとか。

「労務問題も起こりました。その紛争を解決するために私たち、行きますよ」。で、コンサルティングフィーみたいなものをもらいにいくみたいな人事部がある。

山田:はい。

吉田:その人事部のサービスがイケていなかったとしたら、第2人事部みたいなのが立ち上がって、「俺らのほうがうまくできますけど、どうしますか?」っていう取引が始まりかねない。この関係ですべてがつながっていく状態にまで持っていっている感じですよね?

山田:はい。僕が一番近いと思っているのはシリコンバレーです。結局シリコンバレーのエコシステムの中で、ここにいらっしゃる20人ぐらいが起業家だとして「ここだと、サーバーの何とかを売れそう」って思ったら、その機会を自分で見つけて、資本金を集めて会社を作ってサービス提供する。

それをやっている僕を見て、吉田さんが、「なんかあいつよりうまくできそう」って思ったら、そこに機会を見つけて、自分で起業して、僕を潰すじゃないですか。こういうのって、マーケットだったら普通ですよね。ということが、(ハイアールでは)あらゆる業務で起こっています。

今まさに吉田さんが言っていただいたように、ここの全員が自分の会社を持っている社長だとしたら、「人事サービスをここの会社に届ける」みたいなことをやるし、シリコンバレーの会社だとしたら、シリコンバレー以外でもサービスを提供できたら売りにいくじゃないですか。

というのと一緒で、ハイアールグループじゃないところに仕事を取りにいこうが、逆にハイアールグループじゃないところから、この中の会社がHRサービスを受けようが、どっちでもいいんですよ。だって、みんな起業家なんだから。

本当に、自分の責任を持ってその運営をしてくださいっていう生態系を作っていると、今の会長は言い続けています。

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