【3行要約】
・トップダウン型組織に代わる新たな選択肢が注目される中、多くの人が従来型組織に閉塞感を抱いていることが浮き彫りになっています。
・国内・海外の先端組織を数多くリサーチしてきた令三社の山田裕嗣氏は「ハイアール社」を例に挙げ紹介します。
・大企業でも実践される「フラットな組織」の事例から、組織形態の多様性と可能性について考察します。
「人事のプロ」が各社に1人は必要な時代
吉田洋介氏(以下、吉田):最初は、「なんでこんなタイトルにしたんだ?」みたいなところも含めて、令三社の山田さんとお送りしていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
山田裕嗣氏(以下、山田):はい、よろしくお願いします。始める前に、せっかくなのでそこにあるものをご紹介いただくと……。
吉田:今日発売になりました、『「人事のプロ」はこう動く 事業を伸ばす人事が考えていること』という初書籍が出ました。
山田:おめでとうございます。
吉田:1年ちょっと執筆をしていたし、なんなら何回か書き直してようやく出来上がった本ですね。
山田:ちょっとだけ簡単なご紹介を、ぜひ。
吉田:ありがとうございます。人事のプロが、今後の世の中でめちゃめちゃ必要になると思っているんですね。
人口減少していく中で、どうやったら人から選ばれる組織になっていくか考えていくには、やはり事業のプロである経営者の方には荷が重過ぎる、同時にやっていくには難し過ぎると思っていて。
そうすると、魅力的な組織とか選ばれる組織を作る人事のプロが、各社に1人ぐらい必要だと思っているんです。経営にインパクトを与えるような成果を上げていく人っていうのは、人事のプロの下でよく育つっていうことはわかったんですけども。
良い上司の下で良いメンバーが育つのと同じ感じですね。でも、今の構造でやっていくとたぶん増えないんですよね。
2人、3人ぐらいが育つんだけど、「ずっとその人が人事をやるんですか?」って言うと、そうでもなかったりとか。その人が辞めたりもあるので、なかなか増えないっていう構造にある。「じゃあ、人事のプロの下じゃなくても人事のプロが増えるにはどうしたらいいんだ?」っていうチャレンジの1つですね。
なので、この書籍は、周りに人事のプロっぽい人がいないなとか……それっぽい人はいるんだけど、微妙に違うと思っているみたいな人に読んでほしいです(笑)。人事のプロってこういうことをやっているんだよねっていうのを伝えるというチャレンジですね。
なので、アンケート回答がすべてそろわなかった時にどうするのかみたいなことをやっているのが人事のプロだったりします。
成果を上げるっていうことをどれだけやり切るのかみたいな話がすごく多かったりするので。人事としての知識とか労務系の知識とかは一切ここには書いていないんですけど、とにかく成果を上げていく人事の姿、泥くさいことが書いてあります。
山田:ありがとうございます。
トップダウン以外に「うまくいく組織」はあるのか?
吉田:これ、山田さんが好きなタイプだと思います。
山田:はい。なんかすごく近いものを感じます。自分がベンチャーを経営した身としては、やはり良い理論とか事例があっても、現場でできなきゃ意味ないじゃんっていうのがあって。たぶんこだわりが近いんだろうなという感じがしています。
吉田:いやぁ、まさにそうですね。本当にむちゃくちゃ古典的な理論でもいいから、信じてやり切るみたいなことがないと、うまく回っていかない。最新の知見に切り替えたところでやる気がなければうまくいかないですよね。
山田:そうですね。だから今日のお題もそうですけど、トップダウンが良い、悪いの話じゃないじゃないですか。
吉田:そうですね。「そこからかい!」みたいな感じなんですけど、たぶんみなさんも想像しているとおり、「トップダウン以外にうまくいく組織っていうのもあります」みたいな解ではあります。
ただ、やはり先ほども話が出ていたように、トップダウンとかピラミッド型組織って、「人類最古の組織の形態であるピラミッドこそが最高である」といろんなところで言われていたりする。
山田:このお題「トップダウン以外にうまくいく組織はあるのか」について考えてたんですよ。「何なんだっけ?」って思った時に、トップダウンとピラミッドとヒエラルキーって、なんとなく混ぜて使うじゃないですか。
吉田:確かに。
山田:なんか難しいなって思って。2018年頃からティール組織が日本に出はじめてから、それじゃないものをけっこうみんな追求している気がするんですけど。反対語がけっこう全部ムズいなって思って。
トップダウンの反対はボトムアップって言われるんですけど、なんかティール組織とか自律的な組織の文脈でいくと、「コンセンサスじゃなくてコンセントにしよう」とか。「ソース原理的に決めよう」みたいなこととか、「なんかトップとボトムじゃないいろんなやり方があるじゃん」みたいなことを言いますよね。
吉田:確かに。対義語的に考えるとちょっと難しいですね。なんとなく理想的なイメージみたいなところでいくと、上から降ってくるやつじゃなくて、内発的な何かで回っていくみたいな概念はありますけど。1個1個の対比でいくと、しっくり来ない。
山田:今日も後で時間があればいろいろ言いたいんですけど、トップダウンだから駄目な組織じゃない。吉田さんは別にトップダウンの否定をしたいわけじゃないですよね?
吉田:そうです。
多くの人がトップダウンに「閉塞感」を抱いている
山田:トップダウン以外でもうまくいくしトップダウンでもうまくいくこともあるよねっていうところですよね。
吉田:まさにそうですね。いろんな人事の方とか経営者の方とお会いしてきて、それこそティール組織がすごくはやった時期に、「うち、トップダウンだから駄目なんですよ」ってよく聞いていました。
でも、世の中のいろんな組織を見ていくと、トップダウンでめちゃくちゃうまくいっている組織ってたくさんあるし、みなさんが聞いたことがある範疇で言っても、キーエンスなんかもめちゃくちゃトップダウンでやっていてうまくいっている事例です。光通信っていう会社もトップダウンで事業的にはすごくうまくいっている。
トップダウンだから駄目というロジックはないと思うんですけど、一方で、なんか閉塞感をめちゃめちゃ感じるキーワードではあるんだろうなって感じましたね。
山田:全部左側にあるもの、なんとなくそういうものをまとっている空気感があるじゃないですか。決してそれが悪いわけじゃないし、僕、2018年に
『ティール組織 マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』が日本語で出る前に、スタートアップで5年間経営をやって、いろいろ失敗したのがあったので。
どんな新しいのがあるんだろうって思って、ティール組織に出会い、ビュートゾルフ(Buurtzorg)ってあるんだとか、ハイアール(Haier)ってあるんだとか、ニューコア(Nucor)ってあるんだとか、すごく感銘を受けたんです。
左側にあるやつは、もう古くさいものだと。そうじゃないものこそが正義だみたいになったのが、僕は2018年から2020年ぐらいだった気がしています。
吉田:なるほど。
山田:やはりそうじゃないほうがいいって、けっこう決め切っていたんですけど、まさに今のお話で、そうでもないじゃないですか。別に左側であったとしても良い組織ってあるよねと。そこに目を向けることは大事なんだよと。ティール組織が出てからいろんな事例を知った後の自分のフェーズとしては、今そう思います。
吉田:まさにそうで、どの形でもうまくいく可能性はあるっていうのが、ここ最近のいろいろな調査だったり研究が示してくれていると思うんですけど。
ただ一方で、いわゆるピラミッド、ヒエラルキー、トップダウンっていうことを、小さな頃から学校教育だったり自分の部活だったり、サークル、バイト先とか、勤めていた先とかで体験していると思います。
そのことによるすごく溜まりに溜まった閉塞感で、何か新しいものを求めていて。逆に言うと、体験したことがない未知の世界のユートピアみたいな感じになってしまうので。
なんか「ユートピア、やろうぜ」って言ってやってみて、「ユートピア、うまくいかなかったわ」っていう話もいっぱい出てくるし、「結局ピラミッドとかに落ち着いたほうがいいんじゃないの?」みたいなのを感じています。
山田:確かに。
吉田:どっちでもいいはずなんだけども、本当にそうかっていうところは、今日テーマにしたいなと思っているところです。
大手企業でも「フラットな組織」は作れる
山田:確かに。不慣れな新しいやり方をやってみた結果、左側が悪いからじゃなくて、不慣れな新しいゲームをやるのがうまくいかなかった結果、それを否定して戻るっていうのは違うよね。
吉田:そうですね。
山田:その新しいやり方でもうまくできるものはあるはずで、新しいプレースタイルで右側をやることもできるかもね。
吉田:まさに。それが今日のタイトルに引かれたみなさんの感覚なんじゃないかなと思っていて。
山田:「うまくいくのか?」っていう問いですね。
吉田:そうです、そうです。結局新しいものは希望がありそうだし、キラキラしていそうだし、なんか自由にやれそうとか、解放してくれそうみたいなイメージはあるんだけども。でも組織ってそんなに解放ばっかりしたってうまくいかないじゃんとか、キラキラしていたってうまくいかないじゃんみたいな。
ここを乗り越えた経験を、多くの人は持っていない中で、山田さんはそういった組織を見続けてきていると思うので。山田さんが見ている世界とか事実をみんなとシェアしていけるといいなと思います。
山田:はい、ありがとうございます。僕なりに、「これ、結局何なんだっけ?」って思った時に、一番上って意思決定の仕方じゃないですか。
吉田:はい。
山田:真ん中って構造の話で、3つ目が「力学はどうなっているんだっけ?」みたいな話。全部混ざっているんですけど、なんとなく整理されているなと思って。
実例として大きく2つお話ができればなと思っています。1つは、ハイアールという中国の会社。もう1つがバイエル(Bayer)というドイツのグローバルな製薬会社が、大企業でもちゃんとトップダウン、ピラミッドじゃないことをやっています。すごくユニークな事例で、この2つを時間の許す限り話せればなと思っています。
特にこのトップダウンじゃないやり方と、ヒエラルキーじゃない力学に関しては、知人の海外の人たちがやっている取り組みとかが、補助線としてすごく参考になると思っているので。そのへんもぜひご紹介をしたいなと思っています。
吉田:「小さい組織だったら、フラットとか、トップダウンじゃないやつができるかも」みたいに言われていますが、今の2つって巨大企業ですよね。
山田:やはり「10人だったらできるじゃん」とかって肌感でもなんとなくわかるじゃないですか。
「いや、特にグローバルで本当にダイナミックにできるんだよ」っていうのを知っていただきたくて、ご紹介をしたいなと思います。
吉田:ぜひ、お願いします。
ベンチャーのCOOを経験して感じた負い目
山田:じゃあ、いったん、しゃべりたいことがいっぱいあるので、簡単に弊社のご紹介だけさせていただきながらハイアールの話を主にしたいと思っています。
あらためて、山田と申します。会社として目指すことは、やはり世界の組織の進化に貢献すること。アプローチと呼んでいるのは、「意図ある一歩の積み重ね」っていう言い方をしています。
もともとベンチャーの立ち上げから5年間、創業メンバーとしてCOOをNo.2でずっとやっていた時に、さっきの話ですね。理論は古かろうが、最新じゃなかろうが、自分たちにとって意味のある、意図のある一歩を作ることでしか組織って良くならないじゃんっていうのを圧倒的に感じました。それがある種できなかったなっていう、自分のすごい後悔というか負い目があって。
今は外からご支援させていただくことも多いんですが、やはり当事者が自分で一歩を作れること。それをいかに支援できるかが、自分たちのやることだなと思っています。
探求と実践と発信みたいなことは一通り全部やっています。ソース原理というものをご存じの方もいるかもしれませんが、2022年にこの本(
『すべては1人から始まる――ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』)の翻訳をさせていただいたり。
2024年にもう1冊違う本(
『ソース原理[入門+探求ガイド]――「エネルギーの源流」から自然な協力関係をつむぎ出す』)が、立ち上げを一緒にやった青野(英明)さんと(嘉村)賢州さんが出してくれています。
世界の先端事例として「ハイアール社」を紹介
山田:後でも出てくる、
『コーポレート・レベルズ: Make Work More Fun』という本は……世界中の組織をたくさん訪問しているというユニークな2人がいまして。
彼らが2016年から、この後紹介するハイアールとかパタゴニア(Patagonia)とかオランダのビュートゾルフとか、いろんな会社を訪ね歩いたのを翻訳した本です。もうとにかく「Make Work More Fun」っていうのが彼らのモットーで、仕事は楽しくできるはずだっていう信念の下、やっています。

こんな感じで、この中でもSpotifyとかハイアールとか、ハンデルスバンケン(Handelsbanken)っていうスウェーデンのNo.3の銀行とか、センティゴ(Centigo)はスウェーデンのコンサルティング会社ですね。いろんな会社を訪問した彼らと、僕は2022年に出会っていて。
世界中の実例を知っている彼らの話がとにかくめちゃくちゃおもしろかったので、まねしました。
日本では彼らはそれができなかったので、日本企業をたくさん訪ね歩き、今、たぶん50本ぐらいかな、記事があり、それをよく使っていただいています。
吉田:毎週1社ずつ、お昼に味わっております。
山田:ありがとうございます。ということをひたすら聞いてきて、先ほど冒頭言った、「どうやってその一歩を作るんだっけ?」っていうことは実践者の生の声を聞いて、初めてわかると思っているので。それを聞いては書いてみて、出していくっていうことを、この3年、4年ぐらいずっとやってきています。
この活動の延長で、先ほどの「Corporate Rebels」の紹介で、中国のハイアールという会社から、日本で彼らの「RenDanHeYi」...…「人単合一」というモデルを普及・啓蒙する役割をやってくれとお誘いをいただきました。

左側にいらっしゃるのが創業者の名誉会長、張瑞敏(チャン・ルエミン)さんという、中国では大変有名な方です。この間中国に行って紹介したら、この写真を見せた瞬間に中国人の参加者の目が変わるんですよ。「この人と写真を撮っているんだ」みたいな感じで。
2025年の8月に会長も日本に来られた時に一緒にイベントをやらせていただいて、この「(RenDanHeYi Japan )リサーチセンター」と呼んでいる日本での普及・啓蒙の活動をしています。
今日は世界の先端事例からということだったので、僕がよく知っており、非常にインパクトのある事例として、このハイアールという会社を持ってきました。
ハイアールが掲げる「人単合一」というモデル
吉田:ちなみにハイアールの組織的なユニークさについてご存じの方って、どれぐらいいますか?
(会場挙手)
知名度的にはやはりこういう感じ。白物家電だなっていうことはギリギリ知っている……。
山田:ブランドはみんな知っているんですよ。
吉田:はい、知っていても、「なんか安いやつを作っているところでしょう?」みたいな感じの感覚ですよね。
山田:そうなんです。おもしろかったんですけど、中国でもその感覚はだいたい一緒でした(笑)。
吉田:私、中国の上海に住んでいたこともあるので、だいたいの位置付けは、なんとなく、わかります。日本で言うとアイリスオーヤマさんとか。
山田:そう。しかも経営モデルのこととかは特にみなさんご存じなくて。青島(チンタオ)っていう、ビジネス的にはわりと古い感じのところにある安い白物家電を作っている会社だよね、みたいな。
吉田:そういう感じです。
山田:でも、さっきの会長は著名な経営者としてみんなご存じです。
吉田:はい。なんかそれは日本の感覚とちょっと近いなって思いました。
山田:とはいえですね、何度も出てくる、この人単合一、「レンダンヘーイ(RenDanHeYi)」って発音するんですね。ちょっとうまくなりました?
吉田:さすがですね。「レンダンヘーイ(RenDanHeYi)」。
山田:中国語難しい。この型は、最初に言うと、「人」「単」「合一」って、3つに分かれています。「人」っていうのが人、これは従業員のことを指しています。「単」というのが、ユーザーバリュー。「合一」っていうのは、それを合わせる。
というので、従業員、彼らは「起業家」と言うんですが、人とユーザーがとにかく一緒になっている状態をいかに作るかということが、一貫するすべてのコンセプトになっています。それが、この「人単合一」というモデルです。
2冊、参考書籍を引きながらご紹介をします。1冊は左側、『ヒューマノクラシー 「人」が中心の組織をつくる』という、世界で一番影響力のある経営学者とも呼ばれるゲイリー・ハメルとミケーレ・ザニーニという方が出した本です。ここでもハイアールが取り上げられています。
右(『Start-up Factory: Haier's RenDanHeYi model and the end of management as we know it』)は、先ほどのCorporate Rebelsの2人がハイアールの会長を含め現地に何度も足を運びインタビューをし、すごく丁寧に時系列を紹介するという本です。
この本を見ていただくと、どういう歩みかというのがすごく詳しく、1冊に書いてあるので、この2冊を引用しながら簡単にご紹介していきたいと思います。