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『人事・HRフレームワーク大全』出版記念セミナー:組織の「見えない問題」を言語化する(全4記事)

課題解決のフレームワークを日常業務で使いこなすポイント 理論を「現場で実践」する時の注意点 [2/2]

「対立」を「組織改善のエネルギー」へ転換

例えば、先ほどの競合価値モデルの分析によって、対立の原因が文化的な価値観の違いにあることがあらかじめわかっているのであれば、支配や妥協というコンフリクトマネジメントの仕方はあまり妥当ではないわけですね。

それであれば、お互いのことがわかっているわけですから、両部門の価値観をきちんと尊重しつつも、組織全体の目標達成に対して寄与できるような解決策を探っていく「統合」を目指すというアプローチが有効になってきます。

例えば、営業部門が「顧客満足度を最大化したい」と考えていたとします。他方で、管理部門は「組織的なリスクを最小限に抑えたい」と考えています。「これらの両方を、うまく満たしていくような解決策はないだろうか」ということを、両部門で話し合っていきます。

その結果、例えば「高付加価値の顧客に限って、事前にお互いにすり合わせをした上で、特別に迅速に対応するようなプロセスを新たに設計しましょうか」と、解決策を提案していくことができるわけですね。このように、両方にとって利益があるような方法を生み出すことができるわけです。コンフリクトが生じたとしても破壊的なものにならずに、組織をより良くしていくためのエネルギーに変えていくことができるわけですね。

このようなかたちでフレームワークを使うことで、例えば対立が起こっていたとしても「その構造的な問題は何なのか」ということを明らかにしていくことができるんですね。かつ、当事者同士が問題を議論していくための共通言語にもなり得るわけです。

今回のこのケースの場合ですと、部門間の対立という問題が、組織文化を調整すればなんとかなる。組織文化をきちんと理解した上で、統合的なマネジメントをすればなんとかなると考えることができるわけですね。

フレームワークを日常業務で使いこなすポイント

では、最後のパートに入っていきます。2つのケースを通じて、フレームワークが目に見えにくい、あるいは、複雑な問題をいかに言語化して、解決に対しての道筋を見出していくのかということについて、少しイメージが湧いてきたところではないかなと思います。

ここで私が強調したいのは、あるいは今回の本を通じて、みなさんに伝えたかった点は、フレームワークは知識として知っているだけではなくて、日々の業務の中で使えるものなんですよね。あるいは、。思考の手段として使っていただきたいものでもあります何か適切な思考の道具を使うことで、今までであれば行き止まりになってしまった議論を打破していくことができるかもしれません。

そこで、フレームワークの使い方としてみなさんにぜひおすすめしたいことを紹介します。まず、みなさんの職場の中で、組織の中で慢性的に発生しているような問題を何かしら1つ挙げてみてほしいと思います。そして、その問題がどういう症状として現れているのかをぜひ書き出してみてください。

例えば、「会議で発言が少ない」「部門間の連携が悪い」といったことを挙げてみるわけです。その上で、先ほどのケースの中で行ったようなかたちでフレームワークを選び取って、思考のレンズとしてぜひ使ってみていただきたいんですね。

例えば、「会議で発言が少ない」という問題事象が起きていたとします。それを、先ほど紹介したような基本的欲求理論というフレームワークのレンズを通して見ていくと、「発言しても否定されるのではないか」と思っているのではないかという仮説を立てることができます。つまり「関係性の欲求が脅かされているのではないか」と考えることができるかもしれません。

あるいは、「意見を言っても、どうせ反映されない」と、自律性の欲求が損なわれてしまっているから発言が少ないのかもしれません。このような仮説を立てることができるんですよね。そうすると、ある事象に対して、さまざまな問いと仮説を立てることができるので、より本質的な原因に近づいていけるのではないかということです。

まずは一つ選んで当てはめてみる

フレームワークを使っていくとしても、83個を縦横無尽に使い分けていくことは、なかなか難しいと思うんですね。すべてを完璧に記憶して使いこなすことは現実的ではないわけです。

最初はとりあえず一番気になっている組織の課題に対して、この本をペラペラと見ていただきながら、フレームワークを1つ選んで当てはめてみるというところから始めていただければと思います。例えば、「PM理論」というフレームワークがあるんですが、自分自身のリーダーシップ行動を振り返るフレームワークとして使っていただく。すると「目標達成機能と集団維持機能のどちらかに偏っていないだろうか」を考えてみるという使い方ができます。

あるいは「自己決定理論」というフレームワークを紹介しているんですが、メンバーの自律性を引き出す声掛けを探っていくために、このフレームワークを用いていく使い方もありかもしれません。

とにかく小さく試してみていただけるといいのかなと思います。フレームワークを使っていただくと、思考停止を防ぐことができるんですよね。また、行動のきっかけにもなりますので、ぜひ使っていただきたいなと思います。

他方で、このフレームワークには注意点もありました。まず、フレームワークは「絶対的な正解」ではありません。例えば、みなさんの会社の現場の状況は非常に複雑です。理論のフレームワークのとおりにいくわけではないんですね。フレームワークというのは、あくまで思考の補助的な道具です。最終的な判断は、きちんと現場の実態に即して行われることが重要かなと思っています。

「診断」して終わりにしない

2つ目の留意点なんですが、診断して終わりにならないようにするということですね。「フレームワークでこのような状況だとわかりました。以上です」となると、現状がなにも良くなりません。行動変容や、制度の改善など、なにかしら施策に結びつけていくこと。これが、フレームワークが真に価値を発揮するために重要なことではないかと思います。

場合によっては、チームでフレームワークを使いながら、今後の行動計画について検討していくような対話の機会を設けていくこともおすすめです。共通言語という話もさせていただいたんですが、個人で使うのはもちろんのこと、チームでも使えるものです。チームで使うと、組織学習のサイクルを回していくことにもつながっていきますので、ぜひそのような使い方も行っていただけるとうれしいです。

人と組織の問題は、本当に複雑ですよね。そして、なかなかアプローチもしにくい。だからこそ、さまざまな解決策が提案されてきているわけですね。その中で、人と組織の問題については、やはり考え続けることが重要です。

ところが、考え続けるのは非常に難しい。かねてより「思考を助けるようなツールを提供できれば」と考えていました。今回の『人事・HRフレームワーク大全』という本は、1年半かけて書いたその1つの集大成であるとご理解いただけるとうれしいです。

みなさんが抱えている漠然とした悩みをうまく解決に向けた行動に導いていくために、フレームワークという思考の道具は非常に使えますので、ぜひ使っていただきたいですし、今日もいくつかフレームワークを簡単に紹介させていただいたんですが、それが83個も収められていますので。

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