【3行要約】・組織内の「見えない問題」は複雑で解決が難しいものですが、フレームワークという思考の道具を活用することで可視化と本質的な課題の特定が可能になります。
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『人事・HRフレームワーク大全』では83の多様なフレームワークを収録し、学術的裏付けのある解決アプローチを提示。
・各フレームワークの強みと弱みを理解した上で活用することで、組織の課題に対してより深い理解と効果的な解決策を導き出すことができます。
離職者が相次ぐ部署、定着しない若手……組織の「見えない問題」とは
伊達洋駆氏:それでは、「組織の『見えない問題』とフレームワークの役割」ということで、さっそく中身に入っていきましょう。みなさんも日々、直面しているところかなと思うんですが。人と組織をめぐる問題というのは、非常に厄介なわけですね。
解決するのがなかなか難しい。そして「なぜ、それが難しいのか?」という理由の1つに、問題が見えにくいことがあるんですね。特に、原因がわかりにくいということです。
例えば、若手の定着率が低いといった事象があったとします。「それが、いったいなぜ起きているのか?」ということをひもといていくと、人間関係や仕事の与え方、評価に対する不満など。あるいは、そもそも採用がミスマッチだったといった具合に、いろんな理由が隠れているわけですね。
このように1つの問題に対して、いろんな要因が互いに影響し合いながら、この事象を作りあげているという状態にあります。ですので、問題の全体像を把握することが、なかなか簡単ではないわけですね。
そこで、多くのマネージャーやリーダーは、その複雑な問題に対して、その場しのぎの解決策を出してしまったり、場合によっては「それは本人の問題なんだ」と、個人の資質に帰属させてしまったりするといったことも起こります。もちろん冷静になればわかる話なんですが、そういった方法は根本的な解決にはつながらないわけですね。

例えば、先ほどの定着率の問題をもう一度持ち出してみましょう。離職者が相次ぐ部署があったとします。その部署において「最近の若者は忍耐力がない」と、個人の資質の問題として位置づけてしまう。あるいは、その部署は非常に仕事が多いとか、そもそもマネジメントが不適切であるとか、そういった問題があるかもしれません。そういった問題が看過されてしまうことにも、なりかねないわけですね。
こうした複雑な問題に対して我々はどうやって挑めばいいのか? ということなんですが、そこで切り口になってくるのがフレームワークなんですね。これはHR領域に限ったことではないんですが、ビジネスの世界では複雑な問題に立ち向かっていくためにフレームワークが使われます。
ここで言うフレームワークとは「思考の枠組み」や「思考の道具」という意味合いになります。ここで強調しておきたいんですが、フレームワークは「答え」ではありません。つまり、解決策そのものではないということです。むしろ解決策を考えていったり、あるいは課題をより深く知っていったりするための、解像度を高めていくような思考の枠組み、レンズのようなものなんだと捉えていただけるといいのではないかと思います。
複雑な問題を解決する「フレームワーク」
フレームワークを使うことができれば、「何が起こっているのか?」といった問題の構造を可視化することができるんですね。そうすると、「どこに、どんな本質的な課題が隠れているのか?」「原因が何にあるのか?」といったことを特定していくためのサポートになります。
複雑な現象は、やはり「そもそもどこから捉えていけばいいのか?」ということが、よくわからないわけですね。ですので、悩んでしまう。そういった時に、フレームワークを用いることができれば、「こういう観点から捉えてみてはどうか?」という、ある種の問いのようなものを設定することができるようになるんですね。
そうすると、「きっと、これは若者の忍耐力の問題なんだ」という、半ば感情論のようなものから脱却することができる。より問題を深く捉え、より本格的な解決策に近づいていくための助けになるのではないかなと思います。
また、フレームワークがあると議論もしやすくなります。共通言語になり得るわけです。例えば、違う部署の人や異なる役職のメンバーが、同じような課題に直面しているケースはありますよね。そういう場合に、例えばそれぞれの持論をぶつけ合っている。もしくは、それぞれの価値観をぶつけ合っているだけだと、物事がなかなか前に進んでいかないわけですね。
ところが、このフレームワークを共通の土台にすることができれば、問題に対して同じ観点からアプローチすることができる。そのフレームワークを媒介にしながら、ディスカッションしていくことができるんですね。このフレームワークを使って「一緒に考えてみましょう」ということになると、解決策を一緒に作り出していくこともできる。そのような機能を持っているのが、フレームワークではないのかなと思っております。
『人事・HRフレームワーク大全』の使い方
今回の『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』という本なんですが、「大全」という名前が入っているとおり、非常に幅広くさまざまなフレームワークを紹介している本になっています。なんとフレームワークを83個も紹介しているんですね。
現代の組織が直面しそうなテーマを、できる限り網羅するかたちでフレームワークを挙げています。その結果、83個のフレームワークになっているんですが、それらのフレームワークは、それぞれ学術的な裏付けがあるものに限定して挙げております。
かつ、例えばリーダーシップとマネジメント、モチベーションと目標設定、キャリア開発(と組織との適合性)、それから組織文化と社会化、組織学習と変革など、いろんなかたちのテーマで83個のフレームワークを収録させていただいています。
これだけの数があると、それぞれのフレームワークについての解説の構造が変わってしまうと読みにくくなってしまいますよね。また、今回の本は前から順番に全部読んでいくのは、なかなか大変だと思うんですね。
1つの使い方として、辞書のような使い方というのも想定しながら作成した本になっています。もちろん最初から最後まで読んでいただいた方もけっこういらっしゃいます。長いんですが、さらっと読むこともできるので、ものすごく読みにくい本ではないと自負しています。
他方で、もう1つの使い方として、課題が生じた時に辞書のように使うことも想定して作らせていただいています。ですので、それぞれのフレームワークの内部で、同じような構造で、そのフレームワークについて解説しているという一貫した構造を採用しています。
83のフレームワークを学術的な裏付けと共に収録
具体的に、この『人事・HRフレームワーク大全』の中で、どういう構造でフレームワークをそれぞれ解説しているのか説明します。
1つ目のセクションは、「どういう場面で、そのフレームワークが有効なのか」ということを説明しています。例えば「このフレームワークは、『若手の主体性が育たない』『部門間の連携が不足している』といった場合に使っていくと有効」というかたちで人と組織をめぐる典型的な悩みを挙げながら、どの思考の道具、つまり(どの)フレームワークが有効なのかがわかるようにしています。
「こんな課題の場合に、このフレームワークを使ってください」という、半ば字引きのようなことができるようにしているのが、1つ目のセクションです。
2つ目のセクションは、フレームワークを解説した本ですので、当然ながらフレームワークそのものを解説したパートがあります。「どんなフレームワークなのか」ということを、言葉で説明しています。それだけではなくて、今回は図解も入れているのが1つの特徴になっています。フレームワークですので、図で表現することができるわけです。
そのフレームワークの骨子をより直感的に理解できるようなかたちで図も付けております。こちらの図と、それから文章を読むことによって、フレームワークを理解することができるということです。
そして3つ目のセクション。そのフレームワークを用いて、どういう行動を取っていくことができるのかを書いた「どう使えばよいか」というセクションになります。具体的な行動のステップや視点を提供しているパートになっております。
これは例えば、日々マネジメントを行っていく中でのアクション、それからコミュニケーションの中で応用できるようなアクションを挙げて、できる限り明日から実践できるようなかたちに落とし込むようにしました。これが、3つ目のセクションです。
そして4つ目のセクションでは、ケーススタディを挙げました。「理解のための例題」と称して、実際のビジネスシーンを想定してケースを挙げています。「それぞれのフレームワークが現場の中でどういうふうに機能するのか?」という具体的なイメージがつかめたほうがわかりやすいと思うんですね。ですのでケースを挙げて、どのように機能し得るフレームワークなのかを、それぞれのパートで説明しております。
フレームワークには「強み」と「弱み」がある
そして、5つ目に「何に注意すべきか」というセクションを設けています。こちらはちょっと変わったセクションかもしれません。フレームワークは物事のいい側面を明らかにしていくという主作用も持っている一方で、万能薬ではないわけですね。
そのフレームワークを使うことによって、かえってマイナスになってしまう可能性もあるわけです。要するに、フレームワークには強みと弱みがあるんです。その限界や弱みをきちんと踏まえた上でフレームワークを使っていくことが非常に重要だと思うんですね。そこで、このセクションでは、そのフレームワークが持っている限界や注意点についても説明するようにしております。少し変わっているパートです。

そして最後のセクションとして、「現場で使うためのストレッチ」と称して、担当者クラス、ミドルクラス、トップレイヤーと、いろんな階層の視点から応用的な課題を読者のみなさんに投げかけています。例えば「こういう課題があった時に、このフレームワークをどう使うか?」というかたちで課題を挙げています。そして、みなさんに少し考えていただく余地を出しています。
みなさんそれぞれいろんな立場があると思いますので「それぞれの立場に合わせて、フレームワークをどういうふうに活用していけばいいのか?」ということを、その課題と課題に対する回答を見ながら、「こういう場合には、こういうふうにフレームワークを使っていけばいいのか」とわかるようにしています。
以上、それぞれのフレームワークにおいて、これら6つのセクションを設けて解説しているのが『人事・HRフレームワーク大全』です。このように、1つのフレームワークの解説だけでも、これだけさまざまな観点から解説していますので、字引きのようにも使いやすいでしょう。かつ、それぞれの解説がものすごく分厚いわけではないんですが、これ(フレームワーク)が83個ありますので(笑)。それなりの分厚さになっているということです。
さらに、このフレームワーク大全の末尾では、「複数のフレームワークを組み合わせて使うとどうなるのか」といったケースも載せています。それから「どのようにフレームワークを選定すればいいのか」ということも載せていますので、そちらも参考になるコンテンツかなと思います。