【3行要約】
・フィードバックは相手の成長を促す重要な手段ですが、「イベント化」や「正論だけ」などの失敗パターンに陥ってしまうケースも多いとされています。
・株式会社co-take代表の手嶋氏は、特に「盲点の窓」を開くことがフィードバックの真価であると説明します。
・効果的なフィードバックのためには心理的安全性を確保し、ポジティブな側面を小まめに伝え、自然に実践できるよう習慣化することが大切です。
相手を動かし、成長を促す伝え方
手嶋武久氏:今日はフィードバックの話をできればなと思っています。
『みんなのフィードバック大全』っていう本があるんですけど、わりとそれをベースに作っています。
僕自身は読んだのが3、4年前ぐらいで、けっこう2年ぐらいは(その内容を)ずっと意識していたんですけど、ここ2年ぐらいは息を吸うようにできるようになってきた感じなんです。
もちろん本に書いてあることも参考にしているんですけど、「自分なりの、コーチングをやっているからこそ」ということもけっこうあると思っています。そのあたりをちょっとミックスした、手嶋アレンジ感もありながらお話しできればなと思っています。
フィードバックがイベント化している
「フィードバックとは」というところからお話しできればなと思います。よくあるフィードバックの失敗ケースみたいな話でいくと、人によってはフィードバックがイベント化しているところもあるなと思っていて。
「やったほうがいいよね」と思っているけれど、フィードバックのやり方とかルールがよくわかっていない人だと、ネガティブなことをしゃべる場だと考えているんですよね。
なので、「これは駄目だったよね」とか、「もうちょっと、こうしようぜ」みたいなことしか言わないみたいな感じで、メンバーとしては言われた瞬間に「うっ」て身構えることが起きやすかったりします。
あとは、気づかせようとして、くどくど同じようなことを聞いちゃう人はけっこういます。
これは、管理職研修でコーチングを初めて受けた年配の方とかに多いんですけど、メンバーが、「この作業についてゴーかノーかをください」という、最初の決裁が欲しい場合とか、「これにアドバイスをください」みたいなことを言っているのに、「あなたはどう思うの?」みたいなことを聞いちゃったりします。
「それを聞きに来ているんです」みたいな、そういうコミュニケーションがうまくできない人もいたりするので、これはフィードバックがうまくできない人の、けっこうあるあるなケースかなと思います。
「なんで?」の連発は相手を詰める感覚になる
あとは指摘が正論で終わっちゃって、相手に寄り添えないみたいなこととか。資料とかがうまくいっていないなっていう人に対して、「この資料、もうちょっと丁寧に作ったほうがいいよ」みたいなことを言っちゃう、みたいな。
「丁寧とは何なんだっけ?」みたいなことを一緒に考えてあげるべきなのに、フィードバックというオブラートに包んで、なんだか自分の役割を放棄している人もけっこういると思っています。
特にフィードバックでは、正論を言うのはけっこう簡単なんですよね。でも、言われたほうは傷つくことがけっこうあるかなと思っていますと。
あとは、「なんで?」を言い過ぎちゃう人もいたりして、この場合は、なんだか詰めている感じになっちゃうんですね。「なんでこうしたの?」「なんでこっちにしていないの?」みたいなことだけを聞かれると、「もう、しゃべりたくありません」みたいになっちゃったりするので、そういうのがうまくできていないケースも多いかなと思うんです。
こういったところをうまく切り替えていくというか、より相手に刺さる状態にしていくのがフィードバックのあるべき姿という感じです。
伝えることで成長の場を作ることが本質
ちょっと「フィードバックとは?」みたいな話からいくと、(私は)相手の変容を願ってするコミュニケーションだなと思っています。やっていることとして、「伝える」という話ではなくて、成長の場を作るということがトータルとしてのフィードバックかなと思います。
なのである種、言葉ではなくてもリアクションとか雰囲気とか、相手が勝手につかみ取ることもけっこう起きるかなと思っているので、ちょっと大きめに「場を作ること」と捉えてもらえるといいのかな。

フィードバックで取り扱う領域みたいなところなんですけど、先ほどちょっと話しつつもありましたけども、他者の視点から見た自分をインストールする機会。場を作るっていう意味でいくと、自分をインストールする機会かなと思っています。
(スライドを示して)ジョハリの窓というものがあります。ちょっと上と下っていう言い方をしちゃっているのはアレですけど、こんな感じで整理をしてあります。
マネージャーがわかること、わからないこと。メンバー自体がわかる、わからない。この4象限を取っております。
「両方わからない」が「未知の窓」と言われています。メンバーは自分ではわかっているけどマネージャーには手が届かないところ。これが「秘密の窓」という言い方をしています。
「盲点の窓」。これはマネージャーがわかっているけど、メンバーがわかっていない部分ですね。「開放の窓」は両方ともわかっているところ。
結局、フィードバックってマネージャーがわかっているところしか戻せないので、このマネージャーがわかる領域には手がかかってくるんですけど、やはり一番価値が出やすいのは、メンバーがわかっていないけどマネージャーがわかっているところ。これをいかにお伝えできるのかに(フィードバックの)バリューがあるのかなと思っています。
日本は「言わぬが花」の文化だからこそ訓練が必要
フィードバックの難しさなんですけど、これはわりと文化的背景があると考えていて。日本はハイコンテクスト文化と言われています。島国なので、僕らは同じようなバックグラウンドを持っているコミュニティに属していて、お互いの意図を読み合うコミュニケーションが好まれている。
「言わぬが花」とか、「みなまで言うな」とか、「以心伝心」みたいなことが美徳ですよねっていう状況かなと思っています。
一方で、特にアメリカとかはっていう感じなんですけど、(同じ)コミュニティにも価値観とか考え方が違う人がいたりするので、「そもそも、どう考えているかは言わないとわからないよね」みたいなところがベースにあるんですよね。
なので、我々は直接的に物事を言わないことを美徳とする文化なので、だからこそフィードバックの訓練が必要だなと考えています。
「アメリカ人はうまいよね。日本人は下手だよね」みたいな話ではなくて、そもそも僕らはあまり習ってこなかったというか。ただ単にやる機会が少なかったっていう文化的な背景があるので、「そこはトレーニングしましょうね」という感じかなと思っています。
指摘をポジティブに受け止められる状況を作る
心理的安全性の重要性というところで、コーチングでは、心理的安全性を作ることをラポール形成というふうに呼びます。心理的安全性ができていないと、どんなにいいフィードバックも受け取れないところがあります。
的を射ているものであっても、ちょっと「うっ」てネガティブに思う部分も絶対にあると思うので、それをどれだけ受け取れる環境を作れるかが1つのポイントかなと思います。
僕も金曜日に研修させていただいていたんですけど、研修の終わりに一緒にやっているパートナーの人からフィードバックをいただいたんですね。
その時に、僕が「部下になんとかを『させる』」という言葉尻をけっこう使っていたらしいんですね。「関東だとそんなに違和感がないけど、関西の人からすると、めちゃめちゃやらせている感があって、受け取りにくいよ」って言われたんですね。
「あっ、そうなんだ」みたいな感じで、もちろん僕としてはありがたいフィードバックだなと思いつつも、やはりちょっと駄目出しされている感。「確かに、ちょっと次は気をつけなきゃ」みたいに思う部分があるので、いかにそれを受け取れる状態を作れるかが大事だなと思っています。
「信頼残高」という視点
心理的安全性が高い、低いっていうのがあった時に、心理的安全性が高いことの言い方をちょっと変えると、僕は信頼残高がある状態だなといつも思っていて。「この人だったら、なんだかいろいろと信用できるな」とか、「何を言われても大丈夫だな」っていう状況の中でフィードバックをすると、信頼残高が残る状態になると思うんですね。
ただ、これが低い状態でフィードバックすると、信頼残高の借金がある状態になってしまう。そうすると、フィードバックを受け取れないという事象が発生します。「一生懸命しゃべっているのに、なんだか相手には響いていない」みたいな事象が起きるのは、心理的安全性に借金がある状況になっているケースが多いんじゃないかなというふうに思っています。
ポジとネガの両方をフィードバックできるようにする
ここから、フィードバック(のやり方)の基本、基礎というところのお話を進めていきたいと思っています。
フィードバックは2つの方向性があるというところで、最初にもちょっとお話ししましたけど、ポジとネガ、両方扱うのがフィードバックだなと思っています。
意味としてはなんですけど、ポジティブなほうのフィードバックを戻すのは行動強化の面がけっこうあるかなと。
いつも遅刻してきちゃう子とか期限を守れない子が、ちゃんと期限前に出してきた時に、「あっ、めっちゃありがとう。いつも忙しいと思うけど、こういうふうに(期限の)前に出してもらえるとありがたいんだよね」とか、「超助かるわ」って言ってあげると、たぶんその人は褒められたことがうれしいので、(期限の)前に出すことが癖づいていくんですよね。ポジティブなフィードバックはこういう行動強化の面として使えます。
(あとは)行動の転換ですね。これも先ほどとちょっと近いかもしれないですけど、いつも遅れている子が今日は時間どおりに来たとか、時間の前に来た時にそこを褒めてあげることで、「(自分は)いつもネガなことをやっている」「駄目なんだ」っていうことに気が付きやすいかなと思います。
あとはシンプルに、「この資料、大変だったと思うけど作ってくれてありがとうね」っていう、この「ありがとうね」もポジティブなフィードバックの1つかなと思っていて。「あなたのことを認めているよ」とか、「あなたがいるおかげでできているんだよ」みたいに存在を承認していくという、こんな3つの効果があるかなと。
ポジティブフィードバックは小まめに・その場で・すぐに
ネガティブなほうはシンプルに行動の転換で、先ほどの僕の例じゃないですけど、「その言葉尻だと相手がちょっとネガティブな感情になると思いますよ」って言われると、「あっ、やめよう」って思うので、この転換が起きやすいと思います。
(次に)タイミングなんですけど、ポジティブは「小まめに、どこでも」って言われています。ポジティブなフィードバックは、「覚えておこう」ってなるんですけど、忘れることが起きるかなと思っています。携帯にメモとかをすれば覚えていると思うんですけど、だったらその場で言ったほうがいいよねっていうのがあるので、小まめにやりましょうと。
あとは、本人も覚えていられないっていうのがあります。プレゼンとかで、「あの受け答えのあそこが良かったよね」っていうのは、やはりその場じゃないと本人も覚えていないので、それをちゃんと言ってあげる。「どこでも」っていうのは、その場でちゃんと言ってあげるっていうのがけっこう大事かなと思っています。
ポジティブのほうに関しては、(オンラインミーティングで)「もう次のミーティングにすぐ行きます」みたいな時に、チャットで「あの時の発言、良かったよ」って残すだけでもかなり効果があると考えています。