あいまいな励ましを「期待値の文章」に翻訳する
さあ、「どう直すか」に入りましょう。ここからが、実際のシフトです。 「努力をやる気で引き出そう」とするのをやめて、「努力を定義する」ことを始めましょう。努力は「もっとがんばって」ではありません。努力は「もっと気持ちを込めて」でもありません。努力は「もっと主体的に」でもありません。それらは全部、ただの雰囲気(vibes)です。
リーダーシップは雰囲気ではありません。努力は目に見えるものです。努力は具体的です。努力は行動です。そして行動は、言葉で説明できます。
「もっとみんな主体的に参加してほしい」と言う代わりに、 「ミーティングには、自分のメモ、数字、それからあなたの提案を持ってきてください。それが最低ラインです」と言うことができます。
「この案件、本当にがんばって終わらせよう」と言う代わりに、「金曜日の正午までに、ドラフトを完成させてレビュー済みの状態で、私に見せてください」と言えるはずです。
「もう少し力を入れてくれる?」と言う代わりに、 「これを引き継ぐ時には、ミスがなく、整っていて、そのままクライアントに出せる状態にしてください。それが期待値です」と伝えられます。
これは厳しいわけではありません。ただ「明確」なだけです。明確さこそが、「お願いする」のをやめて、「リードする」側に立つ方法です。
何が「良い状態」なのかを定義してあげれば、人は当てずっぽうでやらなくて済みます。
当てずっぽうでやらなくてよくなれば、力をセーブする必要もなくなります。狙うべき的がはっきりするからです。
ここから、ちょっとした魔法が起こります。一度期待値を明確にセットすると、コーチングも明確にできるようになります。人そのものや性格を批判する必要はありません。批判するのは、「アウトプット」と「求める基準」のあいだにあるギャップだけです。
こうしてリーダーシップは、感情的で消耗するものではなく、落ち着いていて、一貫したものになっていきます。
「お願いモード」の言葉を手放し、大人同士のシンプルな言葉へ
ここに、もう少しだけ深みを足しましょう。明確さだけでは仕事は終わりません。「どう伝えるか」も大事です。
申し訳なさそうで、ふわっとした言葉遣いのままでは、期待値はセットできません。優しくあることと、きちんと強さを持つことは両立します。でも、あいまいなままで精度を求めることはできません。
できるだけ早く手放したほうがいいフレーズがあります。「もしご負担でなければ……」 「〜していただけるとすごく助かります」「できれば〜できたらいいなと思っていて……」。こうした言葉はすべて、あなたを「お願いモード」にしてしまいます。そして現実には、あなたが不安げに聞こえると、聞いている側も不安になります。
不確実さは、自信よりもずっと速く伝染します。代わりに、大人同士のシンプルな言葉に置き換えましょう。 「明日までにお願いします」 「ここで合意しましょう」 「これが基準です」。どれも攻撃的でもないし、横柄でもありません。ただ、明確でストレートなだけです。
フォローはマイクロマネジメントではなくリーダーシップ
そして一度期待値をセットしたら、それを放置してはいけません。ちゃんとフォローし続ける必要があります。フォローすることは、マイクロマネジメントではありません。フォローすることこそ、リーダーシップです。
それはチームに、 「これは重要なことだ」 「この人は一貫している」 「自分たちのことをちゃんと見てくれている」というメッセージとして伝わります。そして意外かもしれませんが、人は「すごいスピーチをしてその後いなくなる上司」ではなく、「言ったことをきちんと追いかける上司」を尊敬します。
もうひとつのニュアンスとして、期待値は「うまくいかなかった時だけ」セットしてはいけません。それをしてしまうと、チームは「期待値=ミスした時にだけ出てくるもの」と学習してしまいます。必要になる前に、期待値をセットしておく。これが「いつも後始末をする」のではなく、「先回りしてリードする」やり方です。
「基準の振り返り」を日常化すると、会話がラクになり努力が増える
最後のレイヤーとして、「基準の振り返り」を日常化しましょう。壊れたテープレコーダーや先生みたいに繰り返すのではなく、現実に根ざした、落ち着いたリマインドとしてです。
「この部分は基準に達している」 「この部分はまだ詰めが甘い」 「ここだけ調整して、全体を標準ラインまで持っていこう」。期待値が明確になると、会話は驚くほどラクになります。
会話がラクになると、努力は自然と増えていきます。それは、誰かをその気にさせたからではなく、足を引っ張っていたあいまいさを取り除いたからです。
「もっとがんばって」から「これが基準です」へのシフト
では、きっと一度は経験したことがある状況を取り上げてみましょう。チームの中に、態度もいいし感じもいい、でもアウトプットがいつも「軽い」メンバーがいるとします。見れば「急いでやったな」「あまり考えずに出してきたな」とわかるんです。タスクとしては一応終わっているけれど、本当の意味では問題を解決していない。
昔のあなたなら、 「すごくいいんだけど、次はもう少しだけがんばってみようか」 「次はもう一段レベルを上げたいね」と言っていたかもしれません。相手はうなずいて、笑顔で「はい」と言います。
そして翌週、また同じレベルの仕事を持ってきます。だって、「もっとがんばる」とは何なのか、どこを、どう、なぜ押し上げればいいのか、具体的な意味がわからないからです。
でも、期待値でリードする「新しいあなた」は、まったく違うことを言います。「次回からこのレポートを持ってくる時は、数字が正確であること。体裁が整っていること。それから、クライアントが何を判断すべきかを、1パラグラフでまとめたサマリーを必ず入れてください。これが私たちの基準です。作るのに困ったら手伝うけれど、目指すラインはここです」。以上。シンプルで、明確で、目に見える期待値です。
次にそのレポートが出てきた時、あなたは「このセクションはバッチリだね。ここの部分はまだ基準に届いていない。このセクションを引き締めて、全体を標準ラインまで持っていこう」と言うことができます。これで終わりです。
大げさなノリも、イライラも、ペップトークもいりません。必要なのは、明確で、ピンポイントで、ブレないリーダーです。努力は、いつだって「明確さ」のあとについてきます。
それではまた会いましょう。チャオ。