【3行要約】
・フィードバックは避けたくなるものですが、それを避けることでチームの信頼関係や成果が損なわれるという問題があります。
・マイケル・アシー氏は「SBIメソッド」を紹介し、状況・行動・影響の3ステップで事実と影響を整理することで効果的なフィードバックが可能と説明。
・リーダーは沈黙ではなく、正直さと敬意を持ったフィードバックを通じて健全なチーム文化を構築し、メンバーの成長を促すべきだと提言しています。
きついフィードバックから逃げたくなる気持ち
Michael Ashie(マイケル・アシー)氏:今日は、どのマネージャーにとっても憂うつだけど、絶対に避けて通れないテーマについて話していきます。 「きついフィードバック」を伝える、ということです。
パフォーマンスが落ちてきた時。態度が変わってきた時。誰かがミーティングで一線を越えた振る舞いをした時。そんな瞬間が来ると、胸がぎゅっと締めつけられるような感覚になりますよね。
文章にしてみては消し、頭の中で何度も言い換えてみて、結局「何も言わない」という選択をしてしまう。「もし変な受け取られ方をしたらどうしよう?」「関係が悪くなったらどうしよう?」「余計にこじれたらどうしよう?」
でも、はっきり言います。黙っているほうが、よっぽど状況を悪くします。人を率いる立場にいるなら、きつい話題を避けてばかりではいられません。成果を大事にするならもちろん、信頼関係を大事にするならなおさらです。
だから今日は、「固まらずに」「長々と言い訳せずに」「相手の顔色をうかがいすぎずに」フィードバックを伝える、具体的なやり方をお見せしていきます。
SBIメソッドで「はっきり」と「敬意」を両立させる
ここで紹介したいのが、SBIメソッドと呼ばれるものです。Situation(状況)、Behavior(行動)、Impact(影響)の頭文字を取ったフレームワークです。とてもシンプルですが、言いたいことをはっきり伝えられて、それでいて、きつく聞こえにくい。そんな話し方ができるようになります。
この動画では、僕が空港のターミナル・オペレーションを担当していた頃の、実際のエピソードを一緒に振り返ります。
その時行ったブリーフィングが、まあ言ってしまえば、偉い人たちの目の前で盛大に「やらかした」んです。そこで僕がどうフィードバックしたのか。その結果どうやって「信頼を壊す」のではなく、「信頼を深める」ことができたのかをお話しします。
そしてもしあなたが、「その場になると頭が真っ白になるタイプのマネージャー」でも安心してください。そのまま使えるセリフのスクリプトもお見せします。
士気を下げる本当の原因は「きつさ」ではなく「わかりにくさ」
まずは、問題の正体をきちんと言葉にしておきましょう。士気を下げる原因は、きついフィードバックそのものではありません。一番まずいのは、「わかりにくさ」です。
チームは、「何が問題なのか」がわからない限り、何も直せません。多くのマネージャーがやってしまうのは、「角が立たないように」と思って、ふんわりぼかしてしまうか、 「プロっぽく見せよう」として、冷たく事務的な言い方になってしまうか、たいていは、このどちらかです。
でも、はっきり言います。どちらもうまくいきません。チームが本当に必要としているのは、「はっきりしている」かつ「敬意がある」フィードバックです。そこで役に立つのが、SBIメソッドです。
S・B・Iの3ステップで事実と影響を整理する
SBIは、次の順番で話します。1つ目は、Situation(状況)です。いつ・どんな場面の話なのかをはっきりさせます。2つ目は、Behavior(行動)です。あなたが実際に目にした行動を、具体的に描写します。3つ目は、Impact(影響)です。その行動が何にどう影響したのかを伝えます。
例を出してみましょう。「今朝のターミナル・ブリーフィングで(Situation)、あなたはセーフティオフィサーの報告を途中で2回さえぎりましたよね(Behavior)。そのせいで場が混乱して、話の進み方がかなり遅くなってしまいました(Impact)。」
これで終わりです。ここには「性格の批判」は一切ありません。「決めつけ」もありません。ただ、事実をベースに、起きたことと、その影響を冷静に伝えているだけです。それでいて、人間味もちゃんと残ります。
とはいえ、理屈は簡単でも、実際のリーダーシップはいつもきれいにはいきません。本番は、もっとぐちゃぐちゃです。ここからは、その裏側の話をしていきます。
空港のブリーフィングで起きた「やらかし」の瞬間
数年前のことです。僕は空港のターミナル・オペレーションのブリーフィングをリードしていました。自分としては「これはかなり重要な場面だ」と思っていました。
部屋には空港の上層部が勢ぞろい。プレッシャーは相当なものです。とにかく、すべてをきっちり見せなければいけない場でした。そこで、信頼している優秀なスーパーバイザーを1人連れて行き、一緒にブリーフィングを回してもらうことにしました。
彼女は頭が良くて、頼りになって、いつもは本当に堅実なリーダーです。ところがその時、彼女は役員たちの前でスタッフの配置予測をその場で変えてしまったんです。すでにチェックも済んで、承認も下りていた数字を、その場で「いや、こうじゃなくて……」と訂正してしまった。部屋の空気が、一気にぴんと張りつめるのがわかりました。
ミーティングのあと、正直に言うと、「怒っていた」なんて言葉では足りないくらいイラッとしていました。でも、それはその瞬間の話だけではありません。その一瞬がどんな代償を生むかが怖かったんです。
ああいう場面は、自分たちの自信も、聞いている側の信頼も揺らしてしまいます。そこで僕には、2つの選択肢がありました。反射的にリアクションするか。一呼吸おいて、意図を持って「応じる」か。
その時僕が本当は送りたかったメッセージは、こんな感じでした。「さっきのはいったい何だったんだ? 事前に話が合っていなかったのが丸わかりだったよ。」正直、こう打ち込みたくてうずうずしていました。
でも、幸いなことに、送らないで踏みとどまりました。24時間待って、頭を冷やしてから、SBIメソッドを使うことにしたんです。
SBIで伝えたフィードバックの実際のセリフ
彼女を呼んで、こう切り出しました。「昨日のブリーフィングの時だけど(Situation)、あの場で数字を訂正して、タイムラインまで変えたよね(Behavior)。あれで、役員チームの中に混乱が生まれてしまって、僕たちが1つのチームとして話しているように見えづらくなってしまったんだ(Impact)。」
そして、こう付け加えました。「あなたは、うちのチームの中でも、とびきり思慮深いリーダーの1人だよ。あなたの洞察力や、物事にNOと言えるところを、僕は本当に評価している。だから今度からは、こういう話は事前に部屋の外でしよう。そうすれば、会議の場ではちゃんと足並みを揃えられるから。」
それだけです。彼女は防御的になりませんでした。ふてくされることもありませんでした。むしろ彼女は、「ありがとう。言ってもらえてよかった」と言ってくれました。細かい言葉は違うかもしれませんが、ニュアンスとしてはそんな感じでした。
「攻撃」ではなく「情報」として届ける
なぜこれがうまくいったのか。それは、「攻撃」ではなく「情報」になっていたからです。人格を責めているわけではなく、「何が起こったか」と「今後どうしていくか」に話を集中させていたからです。
「何て言えばいいのか、変な空気にせずに伝える言葉が思いつかない」「きつく聞こえない言い方がわからない」それはあなただけではありません。新米マネージャーにはよくある、ごく普通の感覚です。
だからこそ、僕は「マネージャーズ・プレイブック」を作りました。SBIのようなフレームワークや、コーチングの言い回し、締め切りを守れなかった時の対処の仕方、パフォーマンスが低い時の話し方、衝突の扱い方などが書いてあります。
「こんなの、最初の頃に誰か教えておいてよ」というスクリプトを詰め込んだ1冊です。もしあなたが、「何か言わなきゃいけないのはわかっている。でも、何をどう言えばいいのかわからない」と感じたことがあるなら、この本は、その遠回りをショートカットしてくれるはずです。
沈黙がチームにもたらす最悪のメッセージ
フィードバックを避けると、その沈黙が場を支配します。そして、人は沈黙に対して、都合のいい解釈はしてくれません。
「何も言われないってことは、別に問題ないってことかな」。もしくはもっと悪く、「このマネージャーは、そもそも自分に興味がないんだな」。こんなふうに受け取られてしまいます。
一方で、はっきり、かつ思いやりを持ってフィードバックすると、まったく別のメッセージが伝わります。「状況はちゃんと見えている」 「あえて言葉にするくらい、あなたのことを気にかけている」 そして、「あなたならもっとできると本気で信じている」というメッセージです。これは「批判」ではありません。リーダーシップそのものです。
フィードバックのタイミングとフォロー
あまり教えてもらえない小さなコツもお伝えします。「きつめのフィードバックは、金曜日にしないこと」。なぜかというと、週末のあいだ、相手はぐるぐる考え続けてしまうからです。これは、僕自身がそのタイプだからよくわかります。
代わりに、週の真ん中の午前遅めあたりに話をしましょう。そして、24時間以内に必ずフォローの会話を入れる。信頼が生まれるのは「最初の会話」ではなく、そのあとに続く2回目の会話だからです。
正直さと敬意のフィードバックがつくるチーム文化
もしフィードバックを感情的に、その場のノリで伝えていると、人は口をつぐむようになります。もしフィードバックがばらつきだらけなら、人は不安になり、疑心暗鬼になります。でも、正直さと敬意を持ってフィードバックすることを続けていると、それが広がっていきます。
チームの人たちは、こう学んでいきます。「ここでは、本音をちゃんと言うんだ」「その中で成長していくんだ」 「大人としてきちんと話すんだ」そんなチームになったら、かなり強いですよね。
あなたのチームでSBIメソッドを試してみよう
最後に、あなたへのチャレンジです。あなたのチームの中で、「あの人だな」とすぐ顔が浮かぶ人がいるはずです。
その人を1人、思い浮かべてみてください。その人との間で、どんな状況がありましたか。その時、その人はどんな行動を取りましたか。その行動は、チームや仕事にどんな影響を与えましたか。
一度、紙に書き出してみてください。声に出してリハーサルしてもいいでしょう。その上で、実際にその人と会話をしてみてください。フレームワークは、もう手に入りました。使える言葉も、手元にあります。あとは、それを口にする勇気だけです。その勇気を持って話し始めた時、あなたはもう立派に「リーダー」として動き出しています。
では、また次の動画で会いましょう。チャオ。