【3行要約】・部下の「考える力」を育てたいが、効果的な関わり方がわからないという悩みを持つ上司は少なくありません。
・髙桑由樹氏は、人員減少と業務多忙により振り返りの時間が削られ、部下が「やりっぱなし」になる状況が増加していると指摘。
・上司は答えを与えず質問で返し、振り返りを習慣化するなど5つの関わり方を実践すべきだと語ります。
前回の記事はこちら 部下の「考える力」を育む関わり方
髙桑由樹氏:ということで、ここまでは「考える力とは何なのか?」という点を見てきました。この理解を踏まえて、2つ目のチャプターである「思考力を高める関わり方」に入ります。ここでは、上司としてどう関わるのかにフォーカスしていきます。
先ほども申しましたが、キーワードは「やり方」です。これを高めるには引き出し、つまり知識を増やすことが必要になります。

ただ、知識をインプットしただけでは、人はなかなか使えるようにはなりません。例えばテスト前に暗記しても、すぐに忘れてしまう経験はみなさんにもあると思います。覚えるだけでは実践で使えないということです。
では、どうすれば使える知識になるのかというと、やはり実際に使ってみること、体験することです。体験し、自分なりに「先生はこう言っていたけれど、本質はこういうことではないか」と解釈したり、状況に合わせてアレンジしたりすることで、使える知識へと変わっていきます。
つまり、知識を入れるだけでなく、体験を足すことで初めて「引き出し」が増えるということです。昔から「部下自身に経験させることが重要だ」と言われるのは、まさにこのためで、インプットした知識を使えるものにするには、自分でやってみる機会が不可欠だからです。これが、思考力を高めるために求められる上司の関わり方の1つ目になります。
仕事の進め方を見直すための3つのチェックポイント
続いて2つ目の「自分のやり方をチェックできる」ようになることを考えます。

ここに「計画・実行・振り返り」と示していますが、これは基本的な仕事の進め方を表しています。計画時の「計画の立て方」をチェックする、実行中に「進め方」をチェックする、振り返り時に「振り返り方」をチェックするということが大事になります。
まず「計画」についてです。「この計画でできそうか、できなさそうか」。難易度や実現性を予測する必要があります。あまりにも無謀な計画を立てても意味がありませんので、ここを見立てる力が必要ですね。
続いて「実行」段階です。「今のところ、自分はできているのか、できていないのか」。さらに「このペースで進むと、この先どうなりそうか」という結果予測も欠かせません。行き当たりばったりの実行にならないためには、このあたりを自然と考えられるかどうかが重要です。
最後に「振り返り」です。終わったあとに「どこまでできたのか」「どこまでできなかったのか」を明確に区分することが必要です。「うまくいった」「いかなかった」という感覚だけではなく、できている部分とできていない部分を整理することが学びになります。
また、うまくいった時も、うまくいかなかった時も「どうしてそうなったのか」という要因を理解しておくことが、再現性や改善のために欠かせません。
こういったことを考えていくのが、先ほどから申している「やり方をチェックする」ということです。
考えられる部下に育てるための上司に必要な“5つの仕事”
では、部下がこれらを自分で考えられるようにするために、上司として何をしていくのか。ここに5つ挙げています。
1つ目は「指示ではなく、背景や目的を共有する」です。「これをやってね」ではなく「こういう目的なんだけど、どうしようか?」と問いかけることですね。「どうしたらいいと思う?」と聞くことで、考えさせるきっかけになります。
2つ目は「答えるのではなく、質問で返す」です。部下から質問された時に、すぐ答えるのではなく「あなたはどうしたらいいと思う?」と返す。自分で考えるプロセスを促すための関わり方です。
3つ目は「思考プロセスを言語化させる」です。考えるという行為は目に見えませんし、上司はその思考過程を把握しづらい。けれど部下の頭の中では「これをこうして」「この問題はこうで……」と考えている。
そこで「声に出して考えてみて」と伝えることで、上司が部下の考えを聞きながら「ここは足りていないな」とか「この発想はいいな」と確認でき、必要に応じて助言ができます。非常に有効なトレーニング方法です。
4つ目は「小さな挑戦を促す」です。先ほど触れたとおり、体験によって知識は使えるものになりますし、成功体験を積むことで意欲も高まります。段階的に挑戦させることが重要です。
5つ目は「振り返りを習慣化する」です。やりっぱなしにせず「どこまでできたのか」「どうしてそうなったのか」を定期的に確認することです。振り返りは、多くの方がやっているようでいて、質が一定水準に達していないケースが意外と多い。ここを丁寧に続けることが、考える力を高めるうえでのポイントだと感じています。
“問題があった時だけ振り返る”ではダメ
ここまでを踏まえて、今回のセミナー参加者のみなさまには「どこまでできているか?」を棚卸ししていただきました。その内容を紹介します。
今ご覧いただいているのがそのシートです。先ほど触れた、仕事の計画・実行・振り返りという各フェーズについて、部下が考えるだけではなく「上司として5つの関わり方を各フェーズで実践できているか」を〇・×・△でチェックし、併せて振り返りを書いていただいたものです。
まずは、機械製造業の会社さまの結果です。

特徴的だったのは「振り返り」の項目に×が多かったことです。コメントには「できなかった時は反省しているけれど、できている時はほとんど振り返っていなかった」という声がありました。振り返りを“問題があった時だけ行うもの”として扱っている会社は、実際に多いと思います。
また、最近強く感じるのは、どの会社も人が減り、業務が忙しくなっているという背景です。その結果、目の前の仕事をこなす時間に追われ、振り返りに時間が割けなくなる。いわゆる“やりっぱなし”になってしまっているケースが増えていると感じます。
ある会社では、人員不足を理由に朝会と夕会を廃止したり、部署のミーティングを削ったという話も聞きました。そうなると、部署全体の「考える力」は確実に落ちていきます。改善という営みがまったく機能しなくなるからです。
やるべき仕事を「とりあえずやればいい」という思考になってしまうと、学びも改善も生まれません。だからこそ振り返りの時間は、忙しさに関係なく必ずキープするという“意思”が必要で、守るべきものだと感じています。
部下からの質問にそのまま「答え」を返さない
続いてもう1社、商社業を営む会社さまのワーク結果を紹介します。

先ほどの企業とはまったく傾向が異なりました。
まず左下のコメントが印象的でした。「上司から部下へ必要な情報は共有しているものの、質問を受けた際に“答え”をそのまま返してしまっている」「質問に対して質問で返せていない」といった振り返りです。本来であれば、問い返すことで部下の思考を促したいところですが、そこが実践できていないという課題が見られました。
また「振り返りの場で、目的や目標を十分に認識させられていないのではないか」という声もありました。いわゆる「やるべきことを、ただ言われた通りにやる」状態になってしまい、自分の頭で考える前提がつくれていないのではないか、という振り返りです。
さらに「目標と実績を照らし合わせる振り返りはできているものの、なぜそうなったのかを言語化できていない」というコメントも挙がっています。原因の言語化は、再現性や改善につながる重要なプロセスですので、ここが抜けると“考える力”の定着にはつながりにくい。そういった点が課題として挙がっていました。
このように、現場でどんな関わり方ができているかを棚卸しすることが、まずは非常に大切です。