強力な中央管理体制が大きな動きを可能に
曽和:あと、こういう強力な調整の本部みたいなものができて、ホールディングス体制が取れると、リバランスをするためのことがけっこうできるので、この頃に大型の経営判断をめちゃくちゃ行っているわけですね。
特に重要なのが、グローバル展開の加速。最初はCSI社とかを買収して、海外M&Aを本格化していきました。今の主力であるIndeedをこの時期にものすごい額で買収しているわけですね。今から思うとめちゃくちゃ安い買い物だったと思うんですけど。
思いっきり振ろうとしたら中心の強い幹がないといけないので、本格的にHRテックの領域に参入できたのも、こういった背景があるんじゃないかと思います。そうじゃないと、個々で稼いだお金の全部をいきなりIndeedに突っ込むみたいなことはできないですもんね。
持ち株会社制で細分化した組織は、このセクショナリズムとか形式主義を生みかねません。僕は2009年までいたんですけど、出たばっかりで中にもいろいろと知り合いがいたので、社内からは「お役所的になった」とか。よく聞く話ですけどね。その時期はこの頃かなと思います。まさにグレイナーの言っている、第4段階の危機だったんじゃないかと思います。
新規事業からガバナンス重視への変遷
芳賀:リクルートさんでもそうなんですね。
曽和:ありました。その時によく聞こえていた言葉が、まさにグレイナーに合っているんですよね。だから先ほどの第2段階にあたる指揮の段階だったら、「BPR、BPR」とか言っていましたし。第三段階にあたるネットのところだと、「新規事業」と言っていました。統制とかガバナンスとか、全体のリバランスだったりとかみたいなことは、まさにこの順番で言っていた気がします。
現在はどんなふうになっているかということなんですけども。今はグレイナーモデルでいうと、協働の段階だと思います。まさに今、世界各国のグループ企業とか、多様な事業部門があって、ものすごくコングロマリットみたいな感じになっているわけです。それがコラボして、価値を生み出すステージに入っていると言いますか。現在進行形でやっているんだろうなと思います。
分社化から再統合への組織改革
曽和:それをするために、2018年に事業セグメントごとの統括会社を作ったわけですね。僕は権限委譲と中央集権の繰り返しみたいなものがグレイナーモデルにちょっと似ているのかなと思っているんですけど。このSBU(戦略的事業単位)を作ってやっているということは、ぐっと集めたものを、もう1回ちょっと戻してみているわけですね。
HRテクノロジーとメディアアンドソリューション、人材派遣部門という3つで統括会社があって、これらの統轄会社が中心になって、ちょっと権限委譲しているとか。
あと、コラボをするために、もともとリクルートの住まいとかライフスタイルとか、リクルートマーケティングパートナーズは分社化していたのですが、それをもう1回集めて横断的にできるようにした。
同じ会社になれば当然、人事交流も行われますし、1つの意思決定の下にコラボができる。そういう協働を促進する体制を作っているところも、ちょうどグレイナーモデルに符合すると思います。
事業家集団から専門性の高い人材のネットワークへ
曽和:もう1つあるとすれば、もともとリクルートは事業家集団……は、ちょっと言いすぎかもしれませんけども。事業家的人材の集団だったんです。これも協働の時代に合うのかどうかは、あとで芳賀さんに教えていただきたいです。今は専門性人材がネットワーク型にうまいこと連携して価値を出している感じかなと思います。
私が(リクルートに)入った30年前ぐらいになると、専門性が高い人はあまりいませんでした。みんな元気で明るく、コミュニケーション力があって、営業力があるみたいな、似たような感じだったんですけども。
今はもう本当に多様な専門性を持った人材が生まれて、そうした人材がそれぞれチームを組みながら価値を出していっているのかなと思います。その象徴的なものが、Indeedとかそういったところ。もうIndeedの創業者の方とかも、今はリクルートの本体の役員になっていたりしますよね。
そういう多様性の中で共通のバリューを共有する努力が、今まさになされている。協働が実現しているのかどうかはわからないですが、外から見ているだけではあるんですけれども、まさにこのステップ5の協働の段階になっているのかなと。
結論としましては、取って付けた意味じゃないんですけど、リクルートの成長プロセスはグレイナー理論どおりだなとあらためて思いました。
リクルートの成長をグレイナーモデルに当てはめると
曽和:第1期の創業、創造性というのは、江副さんの時代ですね。いろいろとトップダウンで、創業者のクリエイティブによって伸びていった。第2期は、リクルート事件で(江副さんが)いなくなってしまったこともありますし、共同指導体制みたいな感じでシステムを入れて、カリスマのトップダウンじゃなくて、マネジメントシステムやBPRとかによって、効率化を図ってなんとかしのいだみたいな感じですね。
インターネットの危機に対しては、もう権限委譲して、最前線の人がいろんな事業とか開発をする。その頃、事業開発にいた人は、今はもうベンチャー企業の上場している社長がけっこう多いんですよね。ちょうど私が採用したた人たちだったりするんですけど(笑)。その頃がこの第3期だったなと思います。
第4期、これは私が卒業してからです。上場に向けてもう一度、制度とかを作っていったり。あとはIndeedを買収して、思いっきり事業のリバランスを図って中央集権化する。それがようやく、ある程度は落ち着いて、今はこの第5期に入っている。これは、まだまだ途中だと思うんですけど。
ということは、リクルートは理論どおりに成長していたと言えるんじゃないかと、あらためて思った次第です。
1つのケースですし、最初に申し上げましたけれども、リクルートもすべてが全部きっちりモデルどおりになっていない事例もあるとは思うんですけども。私も人事というちょっと俯瞰してみる立場だったので、大まかに見ていた自分としては、すごく当てはまっているのではないかと思いました。以上です。