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【人材研究所 曽和利光氏登壇!】”グレイナーモデル”から学ぶ、組織の成長過程で陥りやすい罠と対策(全4記事)

カリスマ経営者が去っても組織は成長できる リクルートが乗り越えた2つの危機を曽和利光氏が解説 [2/2]

リクルートの歴史に見るグレイナーモデル

曽和:私も今回の機会を得まして、自分の復習みたいな感じなんですけれども、リクルートのモデルがグレイナーモデルに当てはまるのかを検証してみました。もちろんリクルートは多岐にわたる事業を抱える大きな会社であり、すべてがきれいに当てはまるわけではないかもしれません。

大きな流れでいうと、先ほど芳賀さんに説明いただいたグレイナーのモデルに当てはまっていたなというのを見て、あらためて、この理論の威力というか、切れ味に驚きました。そこをみなさんに共有させていただければと思っております。

(スライドを示して)文字ばっかりで申し訳ないんですけども、まずはステップ1の創造性の段階ですね。リクルート事件までの間は、私はまだ高校生だったので実体験はしていません。私がリクルートにいた頃は創業30何年目で、今はもう60年以上経っていますね。

カリスマ経営で「事業開発の爆発」が起きた創業期

曽和:それまでのことを以前から在籍していた古参社員の人から聞いたところでいうと、江副浩正さんという天才経営者が、江副モデルと呼ばれるような、今のマッチングプラットフォームみたいなことを次々と開拓した創業期であり、クリエイティブな企業文化が形成された時期だなと思います。

「事業開発の爆発」と言いますけども。結局、このあたりにぶわーっと作ったものが今でも残っていますよね。『じゃらん』みたいなものだったりとか、『住宅情報』は名前は変わって「SUUMO」。就職情報も今「リクナビ」だったりとか。もうずっと何十年とやっているものが、ここでガンガン生まれています。結局、この事業開発の爆発、創造性はここで出てきたなと思います。

当時は「社員皆経営者主義」「自律、自律」みたいなことを一応言ってはいて、これは当然自律性もあったとは思うんですけど。僕が客観的に見ると、当時はやっぱり江副さんのトップダウンで物事が動いていたところはあるかなと。

事件がもたらしたリーダーシップの危機

曽和:一方で、ダイレクトかつリアルタイムに柔軟に、社員が言ってきたことは「いいね、やってみろ!」みたいな感じでやることによって自律性を促して、「社員皆経営者主義」みたいなことを言っていたとは思うんですけど。基本的には、やっぱりグレイナーさんが言うように、創業者のリーダーシップによって任されていったのかなと。

ところが、これがどこまでグレイナーモデルと関わるかどうかわからないですし、また、どこまで本当かどうかはいったん置いてですが、会社が大きくなっていく過程でリクルート事件があり、リーダーシップを取っていた江副さんが急にいなくなった。

江副さんは天才経営者だと思いますので、すごく大きな組織になっても、基本的にはけっこう一人ひとりを細かく見ていたらしいんです。それがリクルート事件によって急に江副さんがいなくなるかたちで、リーダーシップの危機が生まれた。

先ほどの理論の説明では、要はリーダーの認知限界を超えるということだったと思います。リクルートの場合はちょっと特殊で、もしかしたら江副さんは認知限界を超えていなかったかもしれないんですけども、急にいなくなることが起こって、第2段階に進まざるを得ない状況になったのかなと思います。

指揮の段階で「マネジメントシステムの導入」が進む

曽和:私が入ったのはだいたいこのあたりから、ステップ2の指揮の段階のところですね。江副さんがいなくなってしまったら、一人のカリスマによるトップダウン的なマネジメントによって率いていくことができなくなったわけですね。

それによってマネジメントシステムをきちんと導入することによって、カリスマの人格とかリーダーシップ、個のリーダーシップよりも、仕組み化、ルール化でやっていこうというような流れが生まれた。河野(栄子)さんは3代目の女性の社長なんですけども、その頃に仕組み化をすごく推進されていたなと思います。

例えば、リストラクチャリングとかをすごくやっていました。この頃はよく「BPR、BPR」と言っていたんですけど。ビジネス・プロセス・リエンジニアリングみたいな感じで、本当の意味でのいわゆる事業のリストラみたいなこととか、マニュアル化や効率化、負債もあったので、それを後押ししたこともあるんですけども。

インターネットの勃興が生んだ第2の危機

曽和:まさにグレイナーが言っているようなものをきちんとした仕組みによって作っていく。経営管理体制の整備によって、例えばコスト管理や生産性向上のシステムみたいなことを推進していた時期に該当すると思います。

なので、ステップ1の時はいろいろやってみて、当たったらいくみたいな感じだったのが、もうそんなにいろいろやることはやめようと。少ないリソースだったので、ものすごく利益の高いものに集中することによって効率的にして、そこに集中的に投下することによって伸ばしていき、借金も返そうという状態だったわけです。まさにこのステップ2の状況に入ってきた時期なのではないかと思います。

ただ、これは危なかったなと思うんですけど。実はリクルートはこの時期、「インターネットの勃興」という危機に入っていたわけですね。要はリクルートが紙で実現できていたようなことは、インターネットで誰でもできるじゃないかと。参入障壁が急に下がったわけです。

権限委譲が危機を乗り越える鍵に

曽和:それに対して、この指揮の段階で、いわゆる成長性や創造性よりも効率性、生産性だということをやっていたので、どちらかというとインターネットの伸長への対応ができない恐れがあったわけですね。トップダウンの経営では俊敏に対応できないと。

過去の紙の時代でトップだった人がインターネットのことを知っているかと言ったら、正直ぜんぜん知らない人たちだったわけですね。そうすると、インターネットに詳しい最前線の専門家みたいな人たちがボトムアップでやっていかなきゃいけない時期があった。ここで指揮の段階のもたらした危機感は、「本当に乗り越えられるんだろうか」と私も肌で感じていました。

もしも指揮型の統制が行き過ぎれば、若手の裁量や創意工夫が損なわれる懸念がありました。ただ、位田(尚隆)さんという2代目の社長さんがIBM出身で、ネットの必要性にけっこう理解があり、一方で、既存事業の効率化で利益を最大化させながら、余分なことは避ける。ネットに関しての投資は、わかっている若手に任せるみたいなことを一部でやっていたんですね。それによってこのステップ3にいけたんじゃないかと。

要はステップ2の最後のほう。借金を返し終わるまでステップ2がずっと続いたのは事実だったと思うんですけど、一部の「これを超えとかなきゃいけない」というインターネット対応に関しては委譲の段階が行われたことによって、リクルートはなんとかギリギリセーフでステップ3の状況に入っていったんじゃないかなと思います。

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