【3行要約】・管理職の高齢化と次世代リーダー不足という課題に、多くの企業が直面しています。
・関教宏氏は、中堅社員の視座を引き上げ、実践的な経験を通じた質的転換を促進した3つの事例を紹介。
・企業が次世代リーダーを効果的に育成するには、戦略と連動した人材育成システムの構築と、プレマネジメント経験の意図的な付与が重要です。
前回の記事はこちら 管理職の世代交代に伴う人材育成の事例
関教宏氏:ここからは今のポイントを踏まえて、私どもが実際に中堅社員の育成に関わらせていただいた事例を3つご紹介いたします。
まず1社目です。技術商社のA社さまですね。中堅社員育成の背景として、管理職の世代交代が迫っていて、次代を担う人材の育成が急務でした。

(スライドを示して)というのも、この左上これがA社さまの年齢別人員構成で、ご覧のとおり30代が少なく、50代が多い。
多くの管理職層がこの50代の層にいるだけに、10年経つとですね、大きく組織の様相が変わる。A社さまと一緒に「じゃあ10年後ってどうなるんだろうか」と未来組織図を一緒に描いてみたんですけども、正直、その時にどこにどういう人を配置できるのか、現時点では先が見えない状況でした。

また、A社さまは「商社は人がすべてだ」ということで、人材育成に非常に力を入れていらっしゃいました。ですが、それはどちらかというと業務に役立つスキル中心だったんですね。結果、優秀なプレイヤーがたくさん育ったものの、マネジメントを担える人材が育っていない。
リーダーシップ・パイプラインを意図した研修体系に変更
そこで、そうした人材を育てるために、目標管理制度をリニューアルしました。それに伴って研修体系も刷新したわけなんですけども、どんなふうに刷新したかというと、リーダーシップ・パイプラインというものを意図した研修体系に変えました。
この意味は次世代リーダーを安定供給できる仕組みということなんですけれども、この新たな研修体系の中で、中堅社員には視野拡張、そして部門を越えた連携、関係者を巻き込んで今までよりもワンサイズ大きな仕事を成し遂げる経験をしてほしいという考えの下、サブリーダー研修という名前をつけて、半年間にわたる現場実践を組み込んだアクションラーニングということで実施しました。
研修による習得ポイントは、全体俯瞰的なものの見方、先読みして周囲を巻き込んでいくための自己革新の課題を設定、その方針実現の方向で率先行動を取るということです。この研修ですが、会社の目標管理とも連動させて、より実務に直結した内容にしました。

(スライドを示して)こちら、第2章で一部ご紹介をした自己革新課題という内容なんですが、自己革新課題を設定するためのシートなんですね。これはA社さまのMBOのシートなんですけれども、ここで出した課題の設定を、そのままチャレンジ項目に記入するというふうにリンクさせました。
さらにはその取り組みによって、予期せぬものも含めて得られた成果を加点評価の対象とする運用にすることで、研修ご受講者の実務に直結しているんだっていう感覚。さらには「やってよかった」という報われ感を高める仕掛けにしたんですね。
サブリーダー研修の具体的な内容
サブリーダー研修は、第2章でお伝えをした4つのポイントを組み込んで、半年、1日×4回のアクションラーニングと(しました)。1回目で部署方針とのつながり・立ち位置を「あぁそうか」と自分で再考します。「自分の部署の方針から考えた時、本来やるべきことはここなんじゃないかな」と。これを持ち帰って現場と上司で議論して、その上で2回目の自己革新の課題、じゃあ本当に何を変えていく必要があるのかということを徹底議論。
その上で、何を変えていくかという計画の下に、3ヶ月間の実践期間に入ります。やってみると、うまくいくもいかないも、向き合いきれたことも、向き合いきれていないこともいろいろ出てきます。それを問題解決編として振り返り、「今思えばもっとどうするべきだったか」「そうは言ってもなかなか進まない個別事情の中でどうやって乗り越えていけばいいのか」。そんな壁を乗り越える知恵を出し合って、計画を修正していきます。
そして最後の総括検証においては、学んだことや人と協働する難しさ・おもしろみを整理し、今後は自分の動きをどうしていけばいいのかということで整理をします。この研修のポイントは、現場の仕事を題材に経験学習すること、そして受講者の上司にも必ず関わってもらう展開にしたことです。
いつか役立つお勉強、机上の空欄ではなくて、実際に部署の計画や方針を自分ごととして捉え直してみる。周囲を巻き込む場を自分から作って挑戦してもらう。その中で学んでいただくことで初めて、自分のものの見方が変わる可能性があるんです。研修はあくまでもそういった経験を積んでいくための補助という位置づけですね。
実際にオブザーバーの方々からは「やはり自分で問題意識を持たないと行動につながらないですね。だからこそ中堅社員本人だけではなく、こちらの関わり方も重要だと気づいた」という感想もいただきました。
こんなふうに、現場での自己革新を狙って、管理職になれる人材をストックしていく。こういう仕組みをA社さまと当社で一緒に作っていったという事例でございます。
プロジェクトは回せるが、組織をマネジメントできる人材が育っていない事例
2つ目にB社さまですね。こちらは社員数500名のITベンダーです。かねてよりマネジメント人材の数、そして質、両面の不足を非常に課題に感じてたんですね。プロジェクトは回せても、組織をマネジメントできる人材が育っていない。そんな中で、リーダーになる前から視座を高める必要性があるなとお考えになられていました。

というのも、その背景にはITベンダーならではの業務特性があるんですね。それは、目の前のお客さまのご要望に応えることが仕事。部分最適、担当プロジェクト最適、こういう視座です。
目の前のお客さんのご要望に従って、決められた仕様どおりにシステム開発する。これが仕事のほとんど100パーセントです。それ自体は間違ってないんですけれども、そういう仕事に没頭するあまり、「そもそも自分はどこに所属していて、どういう貢献が求められるのか」っていう視点がどっかへいってしまって、結果、視座が低く、視野が狭いというところで固まってしまうんです。

もしもそういった環境の中で「そうは言っても中堅なんだから、人を巻き込むコミュニケーション力を学びなさい。プレマネ(プレマネジメント)研修やって計画の立て方、リーダーシップを学びなさい」と、視座が上がっていない人に無理やりスキル習得を図ろうとするとどうなるかというと、今の自分の業務に役立つ部分だけつまむっていう、第1章でお伝えしたような個人主義的な軸足が変わらないんですよね。
そこが変わらないまま学んでしまうために、スキルはあるけれど組織をマネジメントする人物としては物足りないという、ちぐはぐな状態が起こってしまいがちなんです。
プレマネジメント経験を重要視した育成の方向性に変更
ただB社さま、はっきりと統計取ってるわけではないものの、若手中堅が管理職になることに後ろ向きだっていう話が、目標管理などの場面でちらほら出ていたようです。そこで育成の方向性として、プレマネジメント経験というものを重要視しました。
このプレマネジメント経験というのは、管理職の準備となるようなマネジメントの疑似体験です。そもそもマネジメントの意味は、困難なことを成し遂げる、しかも時間も明確な解決策もないものをなんとかやるということをやるならば、権限があろうがなかろうが、他人を通じて物事を成し遂げるより他にありませんね。
他人を通じてということは相手を巻き込むことなんですけれども、相手が動いてくれるためには、こちらが相手の立場、気持ちになって、どうすればその人の心に火がつくか、どうすれば「やってみよう」っていうふうに重い腰を上げられるかを考えることです。
また、事を成す、物事を成し遂げるためには何をするか。自分の思いも含めて、まず課題を設定して、それに伴って生じる問題を解決する。そのためにも、自分はこのチームのために何を成し遂げるか。立ち位置を認識するということが不可欠です。
第2章でお伝えしたような、相手の立場に立つ、自分の立ち位置を認識することをきっかけに、中堅社員のうちだからこそマネジメントの疑似経験を積んで、その大変さや乗り越える過程でのおもしろさを味わえるように、意図的に周囲を巻き込まざるを得ない仕事を割り当てていく。
その割り当てられた仕事、やり切る経験、この経験を乗り越えられるように研修を企画するといった工夫をしたんです。つまり、プレマネジメント経験を意図的に積ませることに重点を置きました。