【3行要約】 ・多くの中堅社員は目の前の業務に追われ、チーム全体の成功という視点を持てず、組織の部分最適化や連携不足を引き起こしています。
・関教宏氏は「私の仕事の関わり図」などのツールを活用し、自分も問題に加担していることへの気づきから視座の引き上げが始まると説明。
・中堅社員には考えて行動する機会を与え、他人ごとから自分ごとへ、不安感から効力感へとマインドセットを変化させることで、次代のリーダーを育成できます。
前回の記事はこちら 自分の仕事から組織・チームの成功へ視座を引き上げる
関教宏氏:ここから、じゃあどのようにしてリーダーとして育成していくかというポイントをお話しできればと思います。
ここまでにお伝えしてきたとおり、プレイヤーからリーダーへの転換点は、自分自身で変化のきっかけをつかみ、実際に挑戦することに他なりません。そのためには、自分の仕事から組織・チームの成功へ視座を引き上げるというのが最大のポイントと言えます。
自分だけうまくやれていても周囲は動けていない。お客さんに提供したい価値はあるのに、連携が進まず提供できない。こうした状態において、「本当にこのままでいいのかな」「他のメンバーの状況や気持ちを考えた時に、自分の動きをどう変えれば全体が前に進むかな」という視座で自分の仕事を捉え直すということがなければ……。
例えばこちらですね。プレイヤーの「私はちゃんとやってます」「あとは知りません」という個人発想。「自分とお客さんの関係さえよければよし。組織全体の生産性なんか考えない」という部分最適。「チームに愛着も何もない」というつながりの薄さ。向き合わないでいれば、こういったリスクに陥る可能性が高いと思います。
戦略・方針・重点課題と自分のつながりを明確にする
どうやってこういったリスクを避けて視座を上げていくのかと、そのポイントを4つお話をします。
1つ目です。部署の目指す姿はいろいろな表現がされると思うんです。戦略とか方針とか重点課題とか、今年度計画とか、いろいろなかたちで表現されると思うんですけど、目指す姿ですね。あと、自分とのつながりを明確にすることです。一般的にやりがちなのは、上位の方針は上位の方針、自分の仕事は自分の仕事と切り分けて捉えるというものの見方です。

組織のコミュニケーションにおいて、経営トップが自ら描いた経営方針を各部に通達をして、そこから部門の方針として各部門長の方々が噛み砕いていく。さらにはそれを部署の方針、もっと言えば一人ひとりの役割責任というかたちで連鎖をしていくわけなんですけど、私どもが多くの組織を見て感じるのは、これが自分ごととして落ちてない。
正確には、自分ごとにする努力をしてないなぁって感じます。上から下りてきた言葉をそのまま聞くだけで、自分の行動とは紐付けない。連鎖と言っても、ただ言葉が連鎖していくだけという状態です。
そこで「なぜこの方針なのか。この方針で実現したいことはなんなのか。そのために○○さんにはどんなことを求めているのか」という意図をしっかり伝えることで、意図の連鎖ですね。これで動きに変化は出てきますが、それを伝えて「はい、わかりました」という状態だけでは、まだ組織の問題解決を手伝うというレベルであって、自分ごとと言うには距離があるんですよね。
ものの見方を変えて本気で取り組むには、部署における目指す姿、そこに到達してない現状や問題点に対して、自分自身もその問題に加担してるところはないか。こういう視点が必要です。
私もまた問題を引き起こしている当事者の1人だとすると、自分が何を変えていけば良くなるのか。「『誰々のせいで』『どの部署のせいで』と思っていた。自分はその人たちに向けて何かしたのか。そもそもこの人たちの動きが鈍いのは、自分が何をできてないから(なのか)」。こんなふうにものの見方を変えて、「自分はそもそもこの部署において、どういう存在価値をもっと発揮していきたいのか」といったことを明らかにする。
その上で決めた内容というのが、本当の意味で自分自身で果たすと決めた責任となるんではないでしょうか。このように、上位方針と自分の責任を、責任連鎖のレベルで自分とのつながりを明確にするというのがポイントです。
「私の仕事の関わり図」を活用した整理
それだけ申してもイメージがつきづらいと思いますので、私どもが研修においてどういうアプローチでその責任連鎖を促しているのか、一部ご紹介をします。
(スライドを示して)今、表示させていただいているのが、「私の仕事の関わり図」というツールなんですけれども、これ自体は、自分の仕事を俯瞰して、組織内の関係性を把握したり、問題の本質を捉えやすくしたりするという一般的な手法です。私どもではこの関わり図を、目指す姿と自分とのつながりに自ら気づき、責任連鎖に向き合うためのツールとして用いています。
例えばサンプルで出したこの図ですが、この方は商社の営業部門の中堅社員の方なんですね。事務所の方針に利益達成、重点顧客対応強化、知識継承と書かれてます。隣にはその意図、背景。これを上司にヒアリングして記入していただくんですけど、「業績拡大のため、顧客対応品質低下防止のため」と書かれています。
うーん、間違ったことが書かれてるわけじゃないんですよね。ですが、この方がどのレベルで連鎖できているのかは、いまいち不明瞭です。

そこで本人にいろいろと問いかけて聞いていきながら、目指す姿と自分とのつながり、今どういうレベルで本当はどうあるべきなのかを明確にしていただきます。
例えば部署の方針に対して、「現状はどうなっていますか」「何が問題だと思いますか」と聞くわけです。最初はたいてい人ごとのような意見が出てきます。「部品と装置の一体販売をしないといけないと思いますよ。でもみんな現状で手いっぱいで、他の部門の協力なんて得られません」とか「いや、そもそも1人にかかる負荷が高すぎるんですよ。人を採ってくれないと継承なんて難しいと思います」みたいに、自分の身の回りに起こってることは、環境や周囲といった、自分以外の何かが原因と考えているわけなんですね。
そこで聞いてみます。「それはわかりました。(それで)あなたはこの問題にどう関わってるんですか」と。部署で起こっている問題と自分の関係とを問われて、初めて自分の中で「どう関わってるのかな」と考え始めます。
忙しさを言い訳に他部署に働きかけていなかった自分、成功事例や悩みを共有していなかった自分など、自分自身もまたその問題に対して目を背けている、関わろうとしてないことに気づいていきます。
何は意識できていたけど、何から目を背けていたか
そんな中で、未来も考えてもらいます。「この方針を実行しないでいたら、どうなりますか」「ベテランのノウハウは継承されないままなんじゃないか。一体販売なんて言ってもますます難しくなるぞ。お客さんの現場も生産性が上がらずに、弊社を選んでもらえなくなるかもしれない」
「逆にここで達成に向けてみんなが動いたら、今よりも部署内外の共有が進んで協力し合える可能性もある。もしそういうふうに変えることができたんであれば、この職場において自分が大切にしている価値観である、『みんなで達成感を味わう』といったことの実現が初めてできるんじゃないかな」。

こんなやり取りをしながらですね、研修後、上司と部署方針によって何を目指すか、クリアすべきことは何か、「自分自身はもっとこうしていきたいんだ」ってことも含めて議論をしていただいて、実際には上司とのやり取りなんかも含めてつながりを明確にしていく。そんなきっかけを作っています。
こんなふうに立ち止まって考えてみることで初めて、自分には何がわかっていて、何がわかっていなかったか。何は意識できていたけど、何から目を背けていたか。こういったことが見えてくるんです。
仕事の関わり合いの中で、自分の立ち位置を再認識する
目指す姿とのつながりが見えてきたら2つ目です。仕事の関わり合いの中で、自分の立ち位置を再認識する。これは中堅社員がプレイヤーの意識から脱却して、チームや組織への貢献者としての視座、自覚を具体的に確立するというステップです。

自分の立ち位置は「私は誰から何を期待されているか」ということをさまざまな角度から考えることで見えていきます。等級要件にはなんと書いてあるか。組織の方針、計画は何で、何を目指しているのか。そんな中で自部署は経営層、お客さま、他部門、また自部署メンバーから何を期待されてるか。私自身は周囲からどんな立ち回りを期待されているか。
中堅社員層は、目の前の業務が仕事時間のほとんどを占めがちです。本来の自分の存在意義、どう立ち位置を持っていくことがみんなの期待を超えていくことなんだろうかといったことを、自分であまり認識できてないケースが多いんですね。
だからこそ、仕事の関わりから、自分がどう立ち回ることが部署全体にとっての価値を最大化するのか。こうやって俯瞰してみた上で、果たす責任や役割を決めていくことが重要です。

(スライドを示して)こちらの図は、先ほど例示した中堅社員の方ですね。研修を一度終えて仕事の関わり図を持ち帰って、「じゃあそもそも部署の方針はいったい何のために必要なのか」と上司と議論しました。周囲の方々も議論しました。
それを実現しようと思ったら、仕事の上下左右のさまざまな関わりの中から、私はいったいどういったことに注力していくことが、この方針を叶えていくための私の責任や役割なのか。こんな立ち位置を軸に、自分の責任、そして役割、さらには誰を巻き込むのかを再定義した内容です。
部署方針と自分とのつながり、周囲との関係性から自分のなすべきことを考察したからこそ、方針の背景や周囲の期待を踏まえて、自分のなすべき責任・役割を再定義したという内容です。こういったことをやるからこそ、自分が具体的に何を果たすべきなのかが初めて見えてくるということですね。