誰をどのように巻き込み、そのために自分の何を変えるか
このようになすべきことを決めたら、3つ目のポイントです。誰をどのように巻き込んで成し遂げるか。そのために自分自身が何を変えるか。自己革新課題を定義するということですね。
このポイントは特に重要です。他者を巻き込んで成果を上げる。そのために自分自身の中で「ちょっと面倒だな」と思って働きかけてこなかったこととか、自分の仕事の優先順位は本当にこのままでいいのかとか、自分の慣れ親しんできた行動様式、考え方から一歩踏み出すというのは勇気が必要になります。
どうやって巻き込んで成果を上げるか。そのためには、これまでの自分の行動傾向、その奥にある考え方や価値観、ここをどう差し替えて新しい方向に進んでいけばいいのかを探っていくということです。
自分のあるべき責任役割と現状からギャップを可視化する
先ほどのプロセスで明らかにした自分のあるべき責任役割と現状。ここを比べていきながら、その間にあるギャップは何かを整理していきます。
ギャップと言っても、最初は表面的なものしか出てこないと思います。「こんな行動を取れてない」とか、「スキルが不足している」とかですね。そこで、問題を深く掘り下げていきます。その根本原因ですね。
本当はお客さんの声を他部門に共有、相談して一緒に課題解決策を考えたほうが良いとわかっている。だけど、なぜ働きかけないのか。他のメンバーの動きに辟易している。なのに、そこに向き合って変えようとせず、勝手に諦めているのはなぜなのか。
こんなふうに、周りがどう悪い、自分自身がどういう考えを持っているかがこの問題につながってるのか。ぶっちゃけたところ、自分は何を避けているのか。何を恐れているのかと、自分自身の感情に目を向けて深く考えていただきます。
そうすると、「いや、自分から手を挙げて失敗した時に、誰も助けてくれないじゃないかと正直思っていた」「正直こういったことに向き合うほど、チームや全体に対して深いコミットをしていなかった」みたいな、本当に変えるべき根本原因は何なのかが見えてきます。そこでさらに「じゃあその根本原因に向き合わないままでいると、それが周りにどんな影響を及ぼすと思いますか」と考えてもらうんです。
チームの閉塞感は解決しないまま、部門連携の成功例も作れない。何よりそれって自分の「こうしたい」という姿と矛盾してる。そんな思考プロセスを経てこそ、自分自身の何を変えるかに初めて本気で向き合える可能性が出てくるんです。
そこまで見えてきたら、再定義した役割・責任を果たすために、じゃあこれからどう行動しますかと。その際、関係者をどう巻き込みますか。巻き込むために、自分の考え方も含めて行動、自分の出方をどう変えていけばいいですかというふうに、「ここを変えれば、新しいこんな成果が得られるはずだ」という仮説を立てて、リーダーとしての変革を具体的に実践し始めるということです。
最も重要なのは変革行動を実践する過程で体感すること
ここまでは、どう向き合うことでリーダーとしての自己革新を志すかという思考のプロセスをお話ししましたが、第1章でお伝えしたとおり、実際の変革は経験の中でしか生じません。
(スライドを示して)ですから最も重要なのは、最後のこの4番。変革行動を実践する過程で、周囲を巻き込む難しさやおもしろさを体感することです。コンフォートゾーンから一歩踏み出し、試行錯誤しながら行動するからこそ、成功や失敗の経験から視座を高める気づきが生まれる可能性が高まるんです。

実際には、変革行動を定期的に振り返って、都度修正を図る過程で学びを深めていきます。実際に行動したかしなかったか、その結果何が変わったか、なぜそうなったかと振り返っていきます。
「働きかけてみたら、なんか相手も真剣に考えてくれて動きが変わった」という良い変化もあるでしょう。「変えようと思っていたんだけども、正直自分に向き合いきれてなかった」「行動を中途半端にしてしまった」「やろうと思ったら足元の業務で思わぬ足止めを食らった」。うまくいかないこともいろいろ出てきます。
いずれにしても、どうして自分はそうなったのかを振り返っていきます。そして、つかめた手応えから、あるいはできなかったことから何を学んだか。本当にこの出方で良かったのか。思い込みや決めつけによって進まなかったことはなかったか。今思えば、もっと自分のどういったところに向き合って変えるべきだったか。そんなノウハウや教訓を、ただ反省で終わりではなくて、何を変えればいいのかを考えて抽出していきます。
そうやって次の実践につなげていくんですね。成功経験。これをもっと良くしていこう。失敗経験を繰り返さないように、自分の行動のここを変えよう。この繰り返しの中で得られた変化や手応えから、これまでとは異なる人間理解や、関係者と一緒に成果に向かって協働するおもしろさ。これを実際の仕事の中で経験するからこそ、仕事に向き合う際の視座が高まるという可能性が高まるわけです。
4つのポイントを押さえて中堅社員に考えて行動する機会を与える
今回は私どもの研修でどういうアプローチをしているかも含めてお伝えをしましたけども、これは外部機関を活用しようがしまいが、今お伝えした4つのポイントを押さえて中堅社員に考えて行動する機会を与えることが必要だと思っています。
これがあって初めて、マインドは他人ごとから自分ごとへ。「自分には人を巻き込む仕事など難しい」という不安感から、「あ、やってみるとこんなことができるんだ」という効力感。やらないでいるうちはネガティブに捉えていたリーダーへのイメージを実際に体感することで「おもしろい」と捉え直す可能性が飛躍的に高まるということです。
このようなマインドセットを持つ中堅層が組織にストックされていけば、次代のリーダー輩出の土台となっていくはずだと考えております。こうしたポイントを押さえて、中堅社員に関わっていただくことを強くお奨めします。